全脳照射後の脳壊死と白質脳症

brain necrosis and leukoencephalopathy after whole brain irradiation (craniospinal irradiation)
  • 広範囲の脳に放射線治療が行なわれた後に生じます
  • 高線量の局所照射 local / focal radiation therapyや放射線外科治療による局所の脳壊死とは異なるものです
  • 脳脊髄あるいは全脳に放射線治療を行なうと,脳全体が萎縮したりすることがあります,一部の脳組織が壊死(脳軟化)することもあります
  • 同じ放射線量でも,小さな子どもほど起こりやすくて,成人では少なくて,高齢者ではまた頻度が高くなります
  • 亜急性といって照射3から6ヶ月後くらいに生じることもありますが,遅発性で5年後とか10年かかって起こることもあります
  • 特殊な事情によってかなりの高線量が脊髄に入らない限り,実際には脊髄症状が出ることはほとんどありません
  • 思春期以降,成人では,30グレイ(15分割)くらいから認知機能低下が生じる可能性がでてきます
  • 30グレイ(10分割)全脳照射ではかなり目立った認知機能低下を生じます
  • 認知機能低下が目立ってくると脳全般の萎縮像がみられます
  • 子どもの場合にはこれ以下の線量でも生じます
  • 年齢と照射線量は個人差が大きいです
  • 例えば,10歳児で全脳照射23.4グレイ(13分割)くらいですと多くの子どもたちが耐えますし,学習障害(高次脳機能障害,認知機能障害)を生じないことが多いです
  • でも,7歳児くらいで全脳照射23.4グレイ(13分割)を受けると学校の勉強についていけなくなる子が多いでしょう
  • 4歳児くらいで全脳照射23.4グレイ(13分割)を受けると多くの子どもが普通のクラスで勉強できなくなります
  • 2歳児ですと重い精神発達遅滞となります
  • MRI検査では,脳の萎縮(隙間が多くなる),T2強調画像やフレア画像で白質が高信号になる(白く写る)という所見が見られます
  • 壊死(脳軟化)すると脳の中に穴が開いたような所見になります,のう胞性軟化 cystic malaciaといいます
  • このタイプの放射線脳障害では脳浮腫は生じません

3歳の子どもの髄芽腫の放射線治療後に生じた脳萎縮

medullonm3medullonm4medullonm10

3歳の髄芽腫です。発症時から小脳表面や小脳橋角部を含めて転移がありました stage M2。化学療法で腫瘍はかなり縮小して,3歳7ヶ月まで頑張ってから,後頭窩照射 25.2グレイ14分割と脳脊髄照射 CSI 28.8グレイ16分割の放射線治療をしました。当時このような例では,脳脊髄照射 36グレイが標準治療でしたから,これでもかなり線量を落としました。

medullonm11medullonm12

左側の画像は照射後4ヶ月目です。延髄の左側に放射線壊死が生じました。これは数ヶ月かかってゆっくり消褪しました。右側の画像は照射後1年くらいのものです。大脳白質にびまん性に萎縮性変化がみられます。典型的な放射線治療による白質萎縮です。この程度の線量でも脳壊死や全脳萎縮を生じない子どももいます。

放射線の副作用は同じ線量でも個人差がとても大きいです idiosyncrasy

 

局所照射後の白質変性,脳質壁の白質変性

全脳照射でなくても局所照射でも放射線治療後には白質変性が生じます。無症状のことが多いですが,照射野内の脳萎縮などを伴うと高次脳機能障害などの症状をだすことはあります。

この患者さんは右前頭葉のびまん性星細胞腫に46グレイ23分割という低い線量の局所照射をしました。放射線治療8年後のMRI FLAIR画像です。腫瘍の再燃はなく,脳室周囲の白質が高信号になっています。脳梁や透明中隔の白質組織も高信号になり,非常に軽度の白質変性を示しています。でも,何の症状もありません。注意しなければならないのは,この所見を星細胞腫の再発あるいは進行と捉えて余分な治療をしないようにすることです。とくにグレード2の星細胞腫と乏突起膠腫の時に問題となります。

病理

放射線により脳の髄鞘を形成する乏突起膠細胞 オリゴデンドロサイトoligodendrocyte (乏突起膠細胞)が障害を受け,脱髄 demyelinaiton が生じて白質脳症となります。上記の例はその病理像を反映するMRI所見です。

  

脳微小血管内皮細胞の放射線障害によって白質が小さな虚血性梗塞となり,白質壊死 white matter necrosisという重い白質脳症もあります。この場合は画像で脳の内部に穴の開いたような像(軟化巣)がみられます。上の画像は,35グレイの全脳照射を受けた5歳の子どものものです。左側が鞍上部ジャーミノーマの治療前のもの,右側は放射線治療2年後のものです。脳の中にたくさんの穴が開いています。これをのう胞性軟化巣 cystic malacia といいます。白質脳症の最も重いかたちのものです。

 

Copyright (C) 2006-2019 澤村 豊 All Rights Reserved.