脳外科医 澤村豊のホームページ

様々な脳腫瘍や脳神経の病気について説明しています。

5-ALA アミノレブリン酸可視化 (PDD) と光線力学治療 (PDT)

手術中に赤外線レザーを用いて行う治療補助手段です

光線力学的診断法 PDD photodynamic diagnosis
術中蛍光診断 (アミノレブリン酸 5-ALA による可視化)

  • 40年くらい前から臨床応用がされていて新しいものではありません
  • グリオーマをできるだけ多く摘出するために開発された方法です
  • グリオーマを治す力はありません
  • アミノレブリン酸 5-ALA はグリオーマ腫瘍細胞に取り込まれて,正常の脳の細胞には取り込まれないという性質を利用します
  • アミノレブリン酸は体内でプロトポルフィリンIX (PPIX) に変化して,増殖の旺盛な腫瘍細胞に蓄積します
  • PPIXのたまっている腫瘍細胞に,青色光線 400-410nm をあてると赤色蛍光を発します(見えにくい悪性腫瘍の可視化といいます)
  • ですから,手術前に患者さんにアミノレブリン酸を投与して,手術中に赤く光っている部分(グリオーマ細胞)を摘出すれば腫瘍が確実にとれるというもくろみです
  • 悪性度の高いものでは,燃えている木炭のように赤く蛍光発色します
  • でも,そのような部分は手術顕微鏡で見ても明らかに悪性グリオーマと判別できます
  • 実際は,淡く赤く光るだけで,正常組織との境界がはっきり見えるわけではありません
  • また,もともとグリオーマ細胞は正常脳組織の中にしみ込む様に入り込むので,実際には赤く光っていたとしても,どこまで摘出してよいものか区別がつかないことが多いです
  • 手術中に蛍光でぼんやり光るとことを摘出するかどうか迷います
  • 結論的に,すごく役に立つとは言えませんが,澤村も実際には常に使用しています
  • 経験の浅い術者ほどグリオーマの境界がわからないという不安もあり,赤く光ると腫瘍だけがはっきり見えるようで術者はなんとなく安心します,これが使用される最大の理由かも
使いかた
  • 日本でも保険診療で使用できます
  • アラベルアラグリオというお薬 (20mg/kg) を,摘出手術の2-4時間前に服用してから手術室に行きます
  • 体重50kgの患者さんで1gです
  • 光に対しての皮膚炎,日焼けが副作用ですから,患者さんのいる部屋の電気を消して暗くします
  • 手術中に特殊な光を当てなければならないのですが,この装置を持っている脳外科病院は少ないです
  • 手術後も患者さんの周囲を遮光します
  • 他の副作用は悪寒,悪心,嘔吐,発熱,肝機能異常などですが,重篤なものはほとんどありません

文献

Millesi M: Is intraoperative pathology needed if 5-aminolevulinic-acid-induced tissue fluorescence is found in stereotactic brain tumor biopsy? Neurosurgery 2020
定位脳手術で組織生検を行うとき,腫瘍部分を確実にとるために多くのサンプルを採取したり,手術中に病理組織を確認すると手術時間が長くなります。そこで,5-ALAを応用して腫瘍組織を確実に採取する方法が試されました。蛍光で赤く発色する組織が採取できたらそこで生検術を中止するということです。はっきり発色する組織がとれないときは,生検を継続してさらに何箇所からの組織採取を続けます。要は,5-ALAを利用することで80%くらいのケースで腫瘍組織が確実に採取できたということが手術中にわかるという意味です。

PDD グリオーマの可視化に関する大規模研究

2017年のFDAの公式ページに書かれています。手術前にグレード3あるいはグレード4のグリオーマと予測診断された,349人の患者さんが対象の無作為試験です。Percentage of patients who had “completeness” of resection was 64% in the ALA arm and 38% in the control arm, with the difference of 26% (95% CI: 16%, 36%).と記載されいてます。ALAを投与すれば64%の患者さんで十分な摘出ができるけれど,ALAを投与しない顕微鏡下手術では38%でした。
「解説」このcompletenessというのは耳慣れない用語です。使用した方がより多くの悪性グリオーマが摘出できるという結論なのですが,それが患者さん全体の生命予後の改善と機能予後の保持に有用なのかどうかはまた別問題です。グリオーマの手術にとても慣れている脳外科医が執刀すると,ALAを使用しても使用しなくてもあまり大きな差が出ないとも言えます。日本ではALAを使用していない施設のほうが多いのですが,慣れていない術者は使用した方がいいのでしょう。

ALAの臨床研究

Pichlmeier U, et al. ALA Glioma Study Group: Resection and survival in glioblastoma multiforme: an RTOG recursive partitioning analysis of ALA study patients. Neuro Oncol. 10:1025-1034, 2008
ヨーロッパで243人の膠芽腫の患者さんにこの治療方法が試されました。結果的に,アミノレブリン酸で可視化を行なって手術しても,そうしなくても生存割合に差はありませんでした。この研究の後で臨床応用は下火になりました。

大規模臨床研究 第3相試験

Stummer W, et al. Fluorescence-guided surgery with 5-aminolevulinic acid for re-section of malignant glioma: a randomized controlled multicentre phase III trial. Lancet Oncol. 2006
悪性神経膠腫の手術で,ALAを用いるとガドリニウム増強される腫瘍部分の完全摘出が65%で可能となり,使用しない36%より摘出割合が上がりました。しかし,患者さんの生存期間には変わりはありませんでした。



こんな風景のように光ります

光線力学療法によるグリオーマの治療 PDT photodynamic therapy

  • 原理はALAによる可視化とおなじです
  • 日本では,タラポルフィンナトリウム(レザフィリン)という薬剤が原発性悪性脳腫瘍の保険診療で使用できます
  • 光感受性物質がグリオーマ細胞に取り込まれたところで,レーザ光を当てると腫瘍細胞が死滅するという原理を応用しています
  • レザフィリンを22から26時間前に静脈内投与 (40mgm2) しておいて,手術中に腫瘍摘出をした部位にレーザ光 (波長664nm,照射パワー密度150mW/cm2,照射エネルギー密度27J/cm2) を当てます
  • 限られた施設の少数例報告で有効とされるのみです,研究段階の治療法です
  • これで延命効果(全生存期間の延長)が得られるという確実な証拠となる臨床研究(科学的根拠)はありません
  • 理論上の有効性にとどまる治療法ですから,標準治療では用いません
  • 最大の障害は,1980年代後半(25年くらい前)になされた研究にけりがついていないことです
  • 「脳腫瘍の細胞だけに光感受性物質が治療に有効な十分量が取り込まれているか」ということで,これがそもそも解っていませんから,理論的根拠の根幹がないのです
  • またグリオーマは脳の深い所に浸潤しますが,そこまでレーザがとどかないという致命的な欠点があります

 

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