患者・市民参画を広げるために患者・市民を対象とした研修は、6つのテーマを掲げています。これは、6つすべてを受講することを目指すものではなく、一人一人が自分にとって必要と思うものを選択し、がん研究等にひとりでも多く参画することができるように支援することを目的に作成されています。
- カリキュラムは、必修ではなく、個々のニーズに合わせ選択
- 研修企画者が講習会を開催し、それを受ければ修了とするものではなく、様々ながん研究などのがん医療に参画するときに、受講者が必要と感じたものを選択し、個々が受講管理することとします。
- 医学教育で用いられるタキソノミーは、市民にはなじみがなく、難しい印象を先行させてしまうことがフォーカスインタビューから明らかになったため、受け入れやすい動詞(知る、学ぶ等)を用い、本手引きで解説していくようにしました。
- 学習目標は、コード化するために、2文字-名詞とします。
- 視点:基礎医学、臨床医学、社会医学の研究の3本柱に対応できることを目指します。
目次
育成を目指す人物像
育成をめざす人物像: 興味があるがん研究の参画募集に手をあげてみようと思うことができる人 |
「参画することができる人」から「興味があるがん研究の参画募集に手をあげてみようと思うことができる人」へ平易化し、修正した。
0.「PPIことはじめ」
(目標)
患者・市民参画についてまずはその意義や考え方を知っていただき、そしてなぜ今、患者・市民参画が必要なのか?求められている患者・市民の力や協働について理解することを目的とします。 |
患者・市民参画という言葉は聞いたことがあるけど、どんなことをするのか知らないし、自分には縁遠いと感じる方もいるかもしれません。そこで本手引きでは、患者・市民参画についてまずは興味を持っていただけるよう、そして研修を企画したいけれど、できるだろうか?と不安をお持ちの方、患者活動未経験者の方々に向けて手引きの一番はじめに「患者・市民参画ことはじめ」を作りました。患者・市民の各々ががん研究への参画を通じてその目的や目標を持つことができるとより学ぶことの意義が深まります。またどのような形で患者・市民参画を実現するのかは人それぞれで、実例の一部を紹介します。
Webラーニングやテキストで学ぶ例
以下のような要素を易しい言葉を用いて解説したものを用いてください。
このサイトでは、参画-1のWebラーニングがことはじめとして準備されています。
- なぜ研究が社会に必要なの?
- 患者・市民が研究に参加するとどんな変化が期待できるのだろう?
- 患者・市民参画ってどんな風に進められるのだろう?
患者・市民参画を学ぶ目的(実践)の例
以下のようなテーマで、対面研修として意見交換を行いながら進行してみましょう。
- 臨床研究の研究段階から参画し、よりよい医学研究に患者の立場で協力したい。
- 創薬に関わり、・・・
- 研究の倫理審査委員となり、患者市民の声を届けたい。
- がん診療連携拠点病院の連絡協議会委員として・・・
- 自分自身の治療に関するガイドライン作成に関する会議体に参画し・・・
- 都道府県がん対策推進審議会の委員になったけど、患者市民としてどのように発言したらいいかわからない。
*ことはじめは平易な学びの入り口で、横断的なものです。カリキュラム・コードはどのコードを適応させても構いません。
ことはじめから一歩進んで、患者・市民参画って、何なのだろう、もう少し知りたいというレベルを想定しています。ここからカリキュラム・コード別に解説を行っていきます。 |
1.患者・市民参画しよう
領域:参画 モジュール:患者・市民参画実践的概論
(目標)
患者・市民参画に取り組んでみたいという思いを高め、入り口に立つことができる。研究チームや会議体に参画し、建設的な意見交換ができる。 |
患者・市民参画において求められている役割を、コミュニケーション・スキルを活用して研究チームや会議体と良好な関係を築き、チームの一員として協力し役割を果たす。
ここでは、患者・市民参画のモチベーションを高め、患者・市民参画にチャレンジしてみたいと思ってもらえる働きかけを行います。そして、効果的な参画のためのコツについて実践的な体験をします。
<参画‐1> モチベーション
患者・市民参画のモチベーションを高める。(Webラーニング・対面研修)
〇知識を自己学習で身に着けていく(以下、知識):Webラーニング
・語りのWebラーニングの視聴
〇実践的な意見交換を含めた講義や模擬的に体験する(以下、実践):対面研修
・患者・市民の視点の必要性や役割について意見交換を行う。
(解説)
患者・市民参画が取り上げられるきっかけとなった出来事や社会背景を知ること、参画の体験者の語りなどによって、参画の必要性を感じ、取り組んでみたいという意識を高めることができる。繰り返し視聴できること、わかりやすい内容で基礎研修(Webラーニング)に掲載し、適宜、専門研修(対面研修)にも含める。
<参画‐2> 参画チャレンジと意見交換
患者・市民の参画にチャレンジし、建設的な意見交換ができる。
〇知識:Webラーニング
- 患者・市民の参画にチャレンジし、 建設的な意見交換ができる。
(発言マナー、時間を守る、適切なメンバーに報告・相談を行うなど)
- コミュニケーション・スキルについて
(解説)
患者・市民参画とは何か、参画、参加、協力はどのように違うのか、簡潔に説明します。また、チームワークの基本を確認し、コミュニケーションについて(反復、要約、アサーションなど)をスキルとして伝えてください。
〇実践:対面研修 研修会の様々なテーマにおけるグループワークを通して、以下のことが実践できる。 なお、列挙していることは、患者・市民に限ることではなく、会議体全員が取り組むことであることを企画者も理解すること。
- 公益的役割
- 守る事柄(発言マナー、時間を守る等前述のとおり)
- 会議の検討課題を理解し、時間内に議論が終えるよう共働できる
- 事前に資料を読み、意見を準備しておくことができる
- 他者を尊重し、自らの意見をわかりやすく積極的に述べることができる
(解説)
このテーマの講義やグループワークを企画しなくても、他のテーマの様々な集合研修の場面(例えば、医療倫理)において、私たちは~、地域では~、患者は~といった複数の人々の目線で意見を述べることを促す(ファシリテートする)ことで、研修を行うことができます。また、そうした場面で、患者の視点の必要性について意見交換を促すことで研修を深めていくこともできます。
個人の体験に基づいた意見が多く出た時は、その大切さと共に、公益的な(代表性のある)発言を対比させてみるような声掛けをしてもよいでしょう。
また、事前準備として資料を読み、意見をまとめておいてもらう、書かれた論述を要約しておいてもらうといった課題を出してもよいでしょう。一人2分の時間で自己紹介や前述の要約したものを発表してもらうなどの体験をしてもらうことも一つの方法です。
2.がんを知ろう
領域:がん モジュール:腫瘍学・社会医学
(目標)
がんについて、自分のペースで知識を深めていくことができる。 |
腫瘍学や社会医学について受講者がそのニーズに合わせて学習計画を立てて学び、その知識を研究事例に適応させることができる。
受講者の興味やそれまでの経験、具体的に取り組もうと考えているがん医療の参画内容など、それぞれの受講者のニーズに合わせた領域、広さ、深さでがん(腫瘍学)やがんに関する社会医学について、選択し学びます。
<がん‐1> 腫瘍学・社会医学
がん(腫瘍学)やがんに関する社会医学について、自らのペースで知識を深めていくことができる。
〇知識:自己学習レベル、対面研修例、さらに上級者向け対面研修例をそれぞれ解説します。
1)自己学習が可能なレベルで取り組む。
・わからない言葉を用語集で調べてみましょう。
・Webラーニングを活用して、学んでみましょう
・外部サイトのがん(腫瘍学)では、以下が大変平易です。
日本癌治療学会「大人のがん講座」
(解説)
腫瘍学や社会医学は経時的な変化が速いことやがん研究で想定される知識を参画前に学んでおくことは不可能であるため、基本的なことに留め、参画開始の中で学んでいくことができるよう、学ぶ手段の紹介や学ぶ方法を学べるよう支援することが大切です。
2)対面研修で学ぶ例
(1)多くの人々が興味を持つ領域の例
腫瘍学やがんに関する社会医学の領域において、自己学習では理解するのに難しいと感じる内容について、対面で講義を行い、質疑応答などを通して知識を深める。
講義例
・がん予防と検診
・(肺・乳・前立腺 他)がん:癌腫別の講義
・3大がん治療について
・希少がんって何?
・高齢者とがん1
・AYA世代とがん
・サバイバーシップ
・医療とお金(医療の質と経済性の検討は社会的課題解決に重要であることの解説)
・治療と仕事、学校の両立支援はなぜ大切?
(2)さらに上級者向けの例
腫瘍学やがんに関する社会医学のその時の最新または専門的な知見を得て、議論や提案に生かすことができる。
講義例
・がんとゲノム
・遺伝子異常とバイオマーカー
・腫瘍免疫と免疫関連薬剤
・放射線治療・粒子線治療の作用メカニズム
・プレシジョンメディスン
・ドラッグラグ・デバイスラグ
3.がん研究ってどんなこと?
領域:研究 モジュール:がん研究
(目標)
がん研究に興味を持つことができる。自分のペースで知識を深めていくことができる。 |
がん研究の目的から成果の活用まで基本的な一連の過程を把握しその一部に参画できる。
以下のことについて学びます。
なぜ、社会に研究は必要なのか、がん研究に参画したときに次の知識を確認することができるよう 1)研究という営みについて理解する
2)研究を遂行するための研究構造(アウトライン)を理解し、研究計画がどのように立案されるのかを理解する。
3)研究の方法、デザインについて質問できる。
4)研究データ安全管理と研究成果の公表と活用
<研究‐1> なぜ研究が必要なのか
なぜ研究が必要なのか?研究という営みについて理解する。
〇知識:Webラーニング
・なぜ研究が必要なのかを学び、がん研究の意義を理解する。
・優れた研究に必要なFINERについて理解する。(FINER とはF:実施可能性、 I:科学的興味深さ、N:新規性、E:倫理性、R:必要性)
〇実践:対面研修
・なぜ研究が必要なのかを踏まえ、社会の役にたっている様々な研究について理解し、最新研究を事例に議論に参加できる。
<研究‐2> アウトラインと計画
研究を遂行するための研究構造(アウトライン)を理解し、研究計画がどのように立案されるのかを理解する。
〇知識:Webラーニング
・研究のアウトラインを理解できる。
・PICO/PECOについて理解できる。
・研究計画書、研究倫理委員会審査、研究費獲得文書、文献reviewにでてくる用語を調べることができる。
〇実践:対面研修
・研究の構造(アウトライン)、研究計画書を踏まえて、研究目的を抽出し、その研究のゴールについて議論できる。
・研究チームの構成について説明できる。
・模擬的な研究計画書を用いて議論ができる。
<研究‐3> 研究方法とデザイン
研究の方法、デザインについて質問できる。
〇知識:Webラーニング
・基礎研究、臨床研究(治験・臨床試験)、観察研究の違いを理解する。
・研究の方法(量的・質的・混合研究)について理解する。
・研究デザインの代表的なものを列挙できる。
〇実践:対面研修
・研究論文や研究事例がどのような研究方法、デザインを用いているか、抽出し、疑問に感じたことを質問できる。
<研究‐4> データ管理と公表
研究データ安全管理と研究成果の公表と活用について理解する。
〇知識:Webラーニング
・研究結果に関連する用語について調べ、結果を理解することができる。
・研究で使ったデータをどう保管するのか(保管しなければならないのか)を学び、安全管理という仕組みを理解する。
〇実践:対面研修
・研究は何等かの形で社会へ還元される必要があり、学会発表から論文化までの成果物の公表方法について学び、どのようなルールがあるのかを習得する。
・模擬または実際にいずれかの方法を実践する。(例 学会の患者支援プログラムでポスター発表する)
・啓発時に留意すべき法規等を列挙できる。
(解説)
そもそも研究とはどのような営みなのか?新規性、実証性と反証可能性などについて学び、医療の質の向上になぜ研究が必要なのか、研究の基本を学ぶことで研究への理解を深めます。そして研究計画はどのように立案されるのか、研究計画書を作成するには、研究の方法やデザイン、統計解析を理解している必要があることを知り、実際に研究計画を立案していく過程を学び、理解できるようになります。 研究計画の立案段階から患者・市民が参画した具体的事例を知ることも重要で、その時に患者・市民がどのような役割を担ったのかを理解し、PPIの実例を学びます。
そして研究結果の取り扱いと定期的な監査が必要であることを理解します。また研究結果は社会へ還元される必要がありますが、公表・発表するときに必要なルールやデータの保管安全管理についても学びます。
4.医療統計に触れてみよう。なぜ、必要?
領域:統計 モジュール:医療統計・疫学
(目標)
身近な文章(ニュースや報告書)やがん研究の論文で、医療統計や疫学が、どのように用いられているか体験する。 |
疫学・医療統計がどのようにがん研究などに適応されているか述べることができる。
医療統計の言葉に触れる体験をします。受講者のニーズに合わせて、どのように用いられているか理解を深めます。
〇知識:Webラーニング
・医療統計の言葉に触れる体験をしよう。(医療統計や疫学に関する用語を調べることができる)
〇実践:対面研修
・医療統計を用いた箇所がどこか示すことができる。
・医療統計を用いた文章の例を挙げることができる。
〇上級者向け
・データ解析や統計手法がどのように結果を導き出していくかを体験し、結果を理解することができる。
・研究論文や行政報告書などにおいて、データ解析の手法や統計的な用語を理解し、結果や考察について議論できる。
(解説)
統計用語や疫学用語について、手引きや辞書などを用いて調べ、用語の意味を理解することから始めます。そして実際の研究論文や報告書に記載されている統計的な表現や用語を理解することができるようになれば、さらに研究が導き出した結果について議論することができるようになります。
5.科学的根拠が社会で活用されるまで
領域:EB モジュール:科学的根拠と医療情報
(目標)
がん研究が医療や社会の中の意思決定にどのように活用されているか知る。 |
研究によって得られたEBMやガイドラインがどのように意思決定に活用されているか述べることができる。
ここでは、「科学的根拠(EBM)」、「ガイドライン」、「情報リテラシー」のいずれかを取り上げて、以下のことについて学びます。
<EB-1> 科学的根拠(EBM)とガイドライン
がん研究で得られた科学的根拠がガイドライン等を通してどのように意思決定に用いられるか知ろう。
〇知識:Webラーニング
・科学的根拠(EBM)とは何か言葉の説明。
・ガイドラインの目的、臨床疑問、推奨などの構造を知る。
・臨床現場でのガイドラインの活用例を知る。
〇実践~上級者向け
対面研修例
・事例を用いて、推奨のレベルが決まっていくプロセスを体験する。
・事例を用いて、EBMが意思決定に用いられるプロセスを体験する。
・意思決定や社会的決断にEBMが用いられた事例を通して議論する。
(解説)
臨床疑問は患者らの困りごととそれを解決したいという気持ちから生み出されていきます。例えば、痛みはあるけれどモルヒネは本当に体に大丈夫なのだろうかという心配があった場合、「がん疼痛のある患者に対して、モルヒネの投与は推奨されるのか?」という臨床疑問を立てることができます。それに対する答えは「推奨」と言われ、推奨の強弱、根拠の強弱などで勧められる程度が研究結果を基に記述され、ガイドラインで確認することができます。同時に有害事象についても記載されています。実際の臨床現場では、医療機関にモルヒネの取り扱いがあるのか、患者の気持ちなどが加味され、最終的に治療は選択されていきます。
つまり、医療や社会の意思決定は、それまでの慣習や医師の嗜好で決めていくのではなく、科学的根拠を基に選択されていきます。科学的根拠のみで決定していくわけではなく、さらに、患者・家族の希望や医療環境条件などを含めて最終的に決定していくことになります。このようなプロセスを体験することで、がん研究が論文となり、ガイドラインに活用され、患者や医療者の元でどのように役に立つのかを知ることができます。これは、がん研究へ患者・市民が参画することの大切さを共有してもらうことができる研修の企画につながります。
<EB-2> 情報リテラシー
確かな情報を見分けよう。情報リテラシーの重要性を知ろう。
〇知識:Webラーニング
・情報の確からしさを高める方法を知る。
出典の有無 出典の質をみる(商業誌、学術誌、査読があるとは? いつの情報?)
〇実践:対面研修
・インターネット(PC, スマホ等)や図書を用いた医療情報の検索を体験する。
(解説)
科学的根拠やガイドラインが医療に適応され、それらはインターネットや書籍や新聞などによって社会に広がっていきます。大きく広がった情報の中から、確からしさのある情報を探すことができるのか(出典の有無、出典が私的なページなのか公的機関のページなのか、誰が書いているか確認できるか、何年に書かれたものなのかなど)見るポイントを整理し、実際のネット上の情報を確認し、確からしさが高い情報を集めてみる実践的な研修会を企画することを提案します。
6.がん医療・研究に関わる人が守らなければいけないこと・知っておきたいこと
領域:EL モジュール:がん医療に関する倫理・法規・制度
(目標)
医療や研究に関わる人が守らなければいけない倫理、利益相反、法規、制度について学ぶ。 |
医療倫理と利益相反、法規、制度の基本的な事項について活用できる。
ここでは、倫理(医療倫理・研究倫理)、利益相反、個人情報の取り扱い、医療を取り巻く法規や制度について学びます。
<EL-1> がん医療の倫理
医療倫理・研究倫理、利益相反、個人情報保護について学ぶ。
〇知識(対面講義一部Webラーニングを推奨)
・医療倫理・研究倫理・インフォームドコンセントの説明(要点を列挙できる)
・被検者(臨床研究)や動物(基礎研究)の保護、被検者の利益、不利益について説明(要点を列挙できる)
・医療安全や意見の衝突への対応が重要であることを概説できる。
・利益相反、個人情報保護の基本的な事項について要点を列挙できる。
(解説)
認知のずれからぶつかり合い(コンフリクト)は生じます。研究の説明や同意を得るための対話において、被検者と研究者の認識を近づけるにはどのような工夫が必要かという視点で意見交換を行うことは、患者が研究チームに参画する役割の一つといえます。このことが、わかりやすい研究計画書や同意書に繋がっていきます。
〇実践(対面研修)
・がん研究の過去事例、模擬事例を通して、どのように適応されているか、問題(研究不正含む)にはどのようなことがあるか、列挙することができる
・基本的な事項を踏まえて議論できる
(解説)
倫理について
研究者は、研究資金を適切に用いる事、データ改ざんを行ってはいけないことといった研究不正に関わること、被検者の利益がリスクを上回ること、逆の場合は研究の中止が必要であること、被検者の利益は社会の利益より優先されること、このようなことに注意を払いながら自らを律し研究に取り組んでいます。患者・市民の皆さんも同じような視点で、時に、研究者に注意を払い、適正な研究が遂行されるよう研究チームの一員として参画できるよう事例を通して体験してほしいと思います。
利益相反、個人情報保護について
研究の対象となる薬剤を発売している企業から研究者が研究資金の援助を受けていたらどうでしょうか。お金は流れていないけれど、人手を借りていたらどうでしょうか。ある学会の症例報告に、患者の個人が特定される情報が含まれていたらどうでしょうか。研究で守るべきことはどのようなことがあるのか、研究に参画した時に、どのような点に注意をすればよいか、事例を通して意見交換ができると実践的です。
<EL-2> その時代の最新の関連法規・制度等について学ぶ。
がん対策基本法、薬機法、がん登録推進法、健康保険法(診療報酬、保険適応内外)、介護保険法、臨床研究法、倫理指針、健康増進法、労働安全衛生法、公的医療保険制度、高額医療費制度、患者申出医療制度等
〇知識:Webラーニング
・法規・制度について、自分で調べる方法を述べることができる。
・法規・制度について、策定に至った簡単な背景や要点を学び、要約できる。
〇実践:対面研修
・がん医療を取り巻く事例を通してどのように適応されているか例を挙げること、問題点を挙げ、議論できる。
(解説)
研究に参画した時、その研究に関する法規について、研究者と共に調べることができることを目指します。対面研修では、本課題の時間を設けなくても、他のテーマの事例の中で、適応される法規を挙げるなどすることで、研修は進めていくことができます。
(参考) カリキュラム・コードを適応させた研修例
基礎研修
講義テーマ | 講義の目標(カリキュラム・コ―ド) | 講義で得られる能力・資質(カリキュラム・コード) |
---|---|---|
基礎研究入門 | 基礎研究の総論的全体像を述べることができる | ・基礎研究の目的と意義を説明できる(研究‐1) ・基礎研究の代表的な例を挙げ、流れを概説できる(研究‐2) ・実験室の結果がどのように社会に届くか例を挙げることができる(研究‐4またはEB-1またはEB-2) ・基礎研究の法規、倫理がどのように適応されるか例を挙げることができる(EL-1~2) |
基礎研究の実際 (以下から選択) | その時代のがん基礎研究のトピックスを取り上げ、要点を述べることができる | ・専門的講義を受講し、疑問を質問することができる ・課題に対し、議論できる(以下いずれも がん‐1) |
がんとゲノムの基礎知識 | ゲノムとは何かを学習し、がんにおける遺伝子異常の種類や発がんのプロセスを理解する | ・がんは遺伝子の病気であることを理解し、がん研究における遺伝子の解析の重要性を説明できる |
遺伝子異常とがんのバイオマーカー | がんにおける遺伝子異常の意義と検出方法を理解する バイオマーカーとは何かを理解する | ・がんにおける遺伝子異常の意義や種類、バイオマーカー研究ががん研究の将来に果たす役割を説明できる |
腫瘍免疫応答の基礎 | ヒトの免疫システムについて理解し、腫瘍に対する免疫の役割、免疫関連の薬剤(免疫チェックポイント阻害剤を含む)の原理について理解する | ・がんに関わる免疫システムについて説明できる ・免疫チェックポイント阻害剤ががん治療にもたらした影響について説明できる |
抗がん剤の作用メカニズム | 抗がん剤によるがん細胞障害の原理や、抗がん剤の分類について理解する | ・抗がん剤の作用と副作用を列挙できる ・抗がん剤の耐性機序について概説できる |
放射線治療・粒子線治療の作用メカニズム | 抗がん治療に使われている放射線や粒子線の原理および効果について理解する | ・放射線治療・粒子線治療の作用と副作用を説明できる |
がん基礎医学研究の最新の知見 | (タイトル講義の目標を設定すること) | (タイトル講義で得られる能力・資質を設定すること) |
基礎研究におけるPPIへの期待 | 基礎研究に患者が参画することの意義と役割について議論することができる (参画‐1) | 基礎研究に要する人的・時間的・経済的労力の大きさについて理解し、未来のがん医療を創るための基礎医学研究の発展の重要性を知る(基礎研究における患者・市民参画の特徴を理解し、研究の一部に参画できる) |
講義テーマ | 講義の目標(カリキュラム・コ―ド) | 講義で得られる能力・資質(カリキュラム・コード) |
---|---|---|
基礎研究入門 | 基礎研究の総論的全体像を述べることができる | ・基礎研究の目的と意義を説明できる(研究‐1) ・基礎研究の代表的な例を挙げ、流れを概説できる(研究‐2) ・実験室の結果がどのように社会に届くか例を挙げることができる(研究‐4またはEB-1またはEB-2) ・基礎研究の法規、倫理がどのように適応されるか例を挙げることができる(EL-1~2) |
基礎研究の実際 (以下から選択) | その時代のがん基礎研究のトピックスを取り上げ、要点を述べることができる | ・専門的講義を受講し、疑問を質問することができる ・課題に対し、議論できる(以下いずれも がん‐1) |
がんとゲノムの基礎知識 | ゲノムとは何かを学習し、がんにおける遺伝子異常の種類や発がんのプロセスを理解する | ・がんは遺伝子の病気であることを理解し、がん研究における遺伝子の解析の重要性を説明できる |
遺伝子異常とがんのバイオマーカー | がんにおける遺伝子異常の意義と検出方法を理解する バイオマーカーとは何かを理解する | ・がんにおける遺伝子異常の意義や種類、バイオマーカー研究ががん研究の将来に果たす役割を説明できる |
腫瘍免疫応答の基礎 | ヒトの免疫システムについて理解し、腫瘍に対する免疫の役割、免疫関連の薬剤(免疫チェックポイント阻害剤を含む)の原理について理解する | ・がんに関わる免疫システムについて説明できる ・免疫チェックポイント阻害剤ががん治療にもたらした影響について説明できる |
抗がん剤の作用メカニズム | 抗がん剤によるがん細胞障害の原理や、抗がん剤の分類について理解する | ・抗がん剤の作用と副作用を列挙できる ・抗がん剤の耐性機序について概説できる |
放射線治療・粒子線治療の作用メカニズム | 抗がん治療に使われている放射線や粒子線の原理および効果について理解する | ・放射線治療・粒子線治療の作用と副作用を説明できる |
がん基礎医学研究の最新の知見 | (タイトル講義の目標を設定すること) | (タイトル講義で得られる能力・資質を設定すること) |
基礎研究におけるPPIへの期待 | 基礎研究に患者が参画することの意義と役割について議論することができる (参画‐1) | 基礎研究に要する人的・時間的・経済的労力の大きさについて理解し、未来のがん医療を創るための基礎医学研究の発展の重要性を知る(基礎研究における患者・市民参画の特徴を理解し、研究の一部に参画できる) |
臨床研修
講義テーマ | 講義の目標(カリキュラム・コ―ド) | 講義で得られる能力・資質(カリキュラム・コード) |
臨床研究入門 | 臨床研究の総論的全体像を述べることができる | 臨床研究の目的と意義を説明できる(研究‐1) 臨床研究の代表的な例を挙げ、流れを概説できる(研究‐2) 研究の結果がどのように社会で活用されるか例を挙げることができる (研究‐4またはEB-1またはEB-2) 臨床研究の法規、倫理がどのように適応されるか例を挙げることができる(EL-1~2) |
臨床研究の実際 (以下から選択) | その時代のがん臨床研究のトピックスを取り上げ、要点を述べることができる | ・専門的講義を受講し、疑問を質問することができる ・課題に対し、議論できる |
臨床研究の倫理 | 臨床研究の倫理について要点を述べることができる | ヘルシンキ宣言の要点、リスクベネフィットバランス、インフォームドコンセント、個人情報保護、知的財産権などについて説明できる(EL-1) |
臨床研究・臨床試験のデザインと解析 | 臨床試験のデザインについて述べることができる。各相の目的、得られた結果の解釈などを述べることができる | 観察研究、前向き研究、臨床第Ⅰ相試験、第Ⅱ相試験、第Ⅲ相試験、非劣性試験などについて、それぞれの目的、利点、欠点などを説明できる(研究‐1~4) |
効果・安全性の評価方法 | 国際標準的な効果、安全性の評価方法について述べることができる | RECIST(Response Evaluation Criteria in Sokid Tumors)、CTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events:有害事象共通用語基準)について説明できる(研究‐4) |
臨床試験に関わる制度 | 臨床試験にかかわる制度・臨床試験登録などについて述べることができる | 臨床研究法、公的医療保険制度、高額医療費制度、患者申出医療制度などについて説明できる(EL-2) |
がん臨床研究における最新の知見 -(副題)- (研修開催者による追加講義) | (活用タイトル講義の目標を設定すること) | (タイトル講義で得られる能力・資質を設定すること) |
臨床研究におけるPPIへの期待 | 臨床研究に患者が参画することの意義と役割について議論することができる(参画‐1) | 臨床研究における人的・時間的・経済的労力の大きさについて理解し,臨床研究が現在や未来のがん医療の改善や発展に必要かつ重要であることを知る。(臨床研究における患者・市民参画が、研究対象者としての参加だけで無く、研究の企画、研究計画、倫理審査など多岐にわたることを知る) |
社会医学研究
講義テーマ | 講義の目標(カリキュラム・コ―ド) | 講義で得られる能力・資質(カリキュラム・コード) |
社会医学研究入門 | 社会医学研究の全体像を理解する。(研究‐1~4)(EB-1~2) | 社会医学研究の対象をCancer Continuumの流れで説明できる。 社会医学研究の具体的な例を挙げることができる。 社会医学研究がどのように社会で活用されているか例を挙げることができる。 |
社会医学研究の実際 (以下から選択) | その時代のがん臨床研究のトピックスを取り上げ、要点を述べることができる。 | ・専門的講義を受講し、疑問を質問することができる ・課題に対し、議論できる |
がんの予防(一次予防) | 科学的根拠に基づくがんの予防危険因子とその評価方法について述べることができる。(がん‐1)(EB-1)他 | がんの予防危険因子の科学的根拠の探し方を説明できる(「日本人のためのがん予防法」)。 主要ながんの予防危険因子と対策の概要を説明できる。 がんの予防危険因子の評価方法について説明できる。 |
がん検診(二次予防) | 科学的根拠に基づくがん検診とその評価方法について述べることができる。(がん‐1)(EB-1)他 | がん検診ガイドラインの探し方を説明できる(「がん検診ガイドライン」)。 日本で推奨されているがん検診の種類を説明できる。 がん検診の目的と評価方法について説明できる。 |
研究デザインと証拠レベル | 各研究デザインの特徴と証拠レベルについて述べることができる。(研究‐3)(EB-1)他 | 研究デザインの種類と特徴、証拠レベルの高低について説明できる。 国内外の予防、検診、治療のガイドラインの例を挙げることができる。 |
統計学 | 社会医学研究で用いられる統計学の基礎を理解する。 (がん‐1)(統計‐1)他 | 変数の種類と集計方法を理解している(連続変数、カテゴリ変数、代表値、分割表)。 分布と統計学的検定の概念を理解している。 サンプルサイズと検出力の考え方を理解している。 バイアスの種類を挙げることができる。 交絡の例を説明することができる。 多変量分析の目的と概念を理解している。 |
サバイバーシップ | サバイバーシップ研究の背景、対象となる身体的・社会的・精神的課題、研究手法の概要を理解する。(がん‐1)(研究‐1~4) | がんサバイバーシップ研究の背景を知っている。 がんサバイバーシップ研究が対象とする課題とアウトカムを挙げることができる(身体的・社会的・精神的課題)。 がんサバイバーシップ研究の概要を理解している。 がんサバイバーシップに関わる患者、医療者・専門職、患者団体等の役割を知っている。 |
質的研究、混合研究法 | 質的研究、混合研究法の概要を理解する。(研究‐3) | 質的研究の種類と方法の概要を理解している。 混合研究法の概要を理解している。 |
情報リテラシー | がんに関わる情報リテラシーと研究の概要を理解する。(がん-1)(EB-2) | 医療情報の適切な収集方法と注意点を説明することができる。 誤った医療情報の例と見分け方を説明できる。 誤った医療情報が広がる背景と対処の方法を知っている。 |
がん対策 | がん対策の構成要素と策定過程を理解する(EL-2) | がん対策の流れをCancer Continuumで説明することができる。 日本のがん対策の内容と作成過程を説明することができる(がん対策推進基本計画、がん対策推進協議会)。諸外国のがん対策の事例を知る。 |
社会医学研究におけるPPIの期待 | 社会医学研究の発展のために求められる役割について議論することができる。(参画-1) | 社会医学研究における患者・家族・市民参加の重要性を理解する。患者・家族・市民の社会医学研究における役割について議論ができる。 |