頭蓋咽頭腫 (ずがいいんとうしゅ、クラニオ)のまとめ
頭蓋咽頭腫は下垂体近傍から発生する良性腫瘍です。
子供から大人まで幅広く発生します。
良性腫瘍ですが再発率が高いことが問題です。
頭の中心にできるため非常に厄介です。
腫瘍細胞の塊ができる乳頭型と嚢胞を形成しやすいエナメル上皮腫型の2種類があります。
ホルモンを分泌する下垂体部分にできるため、術前後にホルモン補充療法が必要になることが多いです。
症状は視力視野障害や下垂体機能の低下(尿が増える、脱力、発育障害など)が多いですが、腫瘍が大きくなると記憶障害が起きたり、水頭症をきたし、最悪の場合死に至ります。
治療は手術による摘出がもっとも有効です。術後に残存する場合などには放射線治療を組み合わせる必要があります。治療にはいる前に治療戦略をあらかじめ組み立てる必要があります。
頭蓋咽頭腫 (ずがいいんとうしゅ、くらにおふぁりんぎおーま)
頭蓋咽頭管という通常胎児期に消失する組織が消えずに残存しその部位から発生する腫瘍です。原発性脳腫瘍の3%を占めます。小児から老人まで幅広く発生します。
頭蓋咽頭腫 の発生部位
下垂体付近から発生し、通常は鞍上部腫瘍(トルコ鞍という器の上の部分に発生する腫瘍)として認識されます(下垂体の正常についてはこちらへ)。この部位は脳の中心に近い部分で上に視神経や視床下部、左右に内頚動脈や動眼神経、下方に下垂体組織、後方に脳底動脈が存在します。これらはどれも重要な組織であり、腫瘍の伸展方向によって出現する症状が違います
頭蓋咽頭腫 の主な症状
発生部位や腫瘍の伸びた方向、年齢によって症状が変わりますが主な症状は視野障害や頭痛などです。
上方に伸びた時には上にある視神経を圧迫し視野障害(両耳側半盲など)が発生します。また更に大きくなると頭の中の水の流れを障害し水頭症を発症、頭痛・嘔吐・意識障害などの症状を発症します。水頭症に至らなくとも、視床下部という組織に伸展すると物忘れ、知能低下などの症状を発症することもあります。
若年者では下垂体からのホルモン分泌が障害され二次性徴がなくなることがあります。この場合、低身長や無月経、陰毛の脱落などが起こります。
成人でもホルモン分泌が障害されると体のだるさ、尿量の増加などがみられ、検査所見では電解質異常、肝機能異常などを呈することがあります。(下垂体からの主なホルモン分泌についてはこちらへ)
頭蓋咽頭腫 の治療方法
病理学的には良性腫瘍とされており、全摘出することにより治癒が期待できます。しかしながら、その発生部位が頭の中心部であり周辺に重要構造物が存在することや、これらの構造物に強く癒着することから摘出が難しいことも多いです。周辺の組織を傷つけることで重大な神経症状を残すことが知られており、全摘出すべきか、その後の症状のために一部残存させるべきかを判断する必要があります。その後の人生に大きく影響を与えますので、複数の治療法を組み合わせるなど治療戦略を十分に練っておく必要があります。
主な治療法は以下のとおりです。
手術治療(主な2つの手術方法)
この病気の第一選択の治療法です。治癒の可能性が期待できる治療法ですが、前述のとおり有意への癒着の程度によって摘出できる限界が決まってしまいます。
手術方法は開頭術と経鼻術の二通りがあります。
開頭術
開頭術は古くから行われ歴史のある手術法です。前頭部を開ける方法(両側前頭開頭)、やや側方を開頭する方法(前頭側頭開頭)、やや上の方から脳室を経由して手術する方法(経脳室、経脳梁アプローチ)がよく利用されます。どちらもそれぞれ優れている点があり、不得意とする点があります。このため、頭蓋咽頭腫の伸展方向から、どの方法がもっとも適切か検討し手術を行う必要があります。
経鼻内視鏡手術
最近は経鼻内視鏡手術が発展してきており、この手術方法で摘出出来るものが増えてきています。もともと腫瘍の発生する部位が視神経の下側がメインであり、視神経を守る、脳を守るという意味では有利な手術方法であると思います。しかしながら上方への伸展が大きい例(現在の限界はモンロー孔という髄液の通り道のあたり)や、側方伸展が強い例(現在の限界は内頚動脈の外側縁を超えたあたり)が限界であると考えられ、この場合には開頭術を選択するか、経鼻術を行った後に開頭術を行う二期的な手術、あるいは経鼻手術と開頭手術を同時に行い(コンバインド手術)お互いの死角を補う手術が選択されます。
放射線治療
放射線治療…ガンマナイフという放射線治療で一定の腫瘍制御が出来るとされています。
ガンマナイフ治療には限界もありサイズが大きいと出来ませんし、小さいものであれば手術による摘出により治癒が期待できるということもあり、第一選択とはなりにくいです。
放射線治療のデメリットとして、再発時に手術が難しくなる点、照射後時間が経ってから内分泌異常や視野障害(これらは当て方にもよりますが)などがあげられます。再発する可能性の高い腫瘍であることから適応は慎重に考えた方がよいかもしれません。
現在は手術を行い、摘出が非常に難しい部分に対する補助治療として行うことが多いです。頭蓋咽頭腫のうち重要な神経、脳組織に強く癒着している場合には、単に腫瘍の量を減らす手術を行うのではなく、できる限り腫瘍が無く放射線を行わなくても良い場所、行わなくてはならない場所を明確にします。難治な頭蓋咽頭腫では放射線治療を行いやすい形に摘出を行うことが重要であると考えています。
その他の治療法
嚢胞内薬物投与…インターフェロンなどを嚢胞内に注入する治療法です。嚢胞拡大を抑えられる可能性が示唆されておりますが、必ず再発します。急場を凌ぐ治療として可能性があると思われます。
BLAF/MEK阻害剤...乳頭型頭蓋咽頭腫に対して有効性が確認されています。第二相試験試験の結果が報告されています。
引用:
Brastianos PK, Twohy E, Geyer S, et al. BRAF-MEK Inhibition in Newly Diagnosed Papillary Craniopharyngiomas. N Engl J Med. 2023;389(2):118-126.
頭蓋咽頭腫 の術後管理
頭蓋咽頭腫の術後はホルモンの異常などが起きやすいです。
術後短期的には尿崩症というおしっこの量が増えてしまう状態になったり、ステロイドホルモンの分泌が抑えられてしまうなどの内分泌系の異常が起きやすいです。これらは注射剤、内服薬を使用してしっかりと手術後の管理を行わないと手術がうまく言ったとしても術後管理で状態を悪くしてしまう可能性があります。
長期的には上記のホルモン異常に加えて甲状腺ホルモン、成長ホルモン、性腺ホルモンなどの補充が必要となることがあります。成人例でも補充は重要ですが、特に小児症例ではこれらのホルモン補充がその後の人生に関わってきますので適切な補充が行える施設での治療が望ましいと考えます。
発見ー検査ー治療ーその後の大まかな流れ
よく質問されますので追記していきます。今しばらくお待ち下さい。
名古屋大学での治療方針
頭蓋咽頭腫は最初の治療が非常に重要な病気です。
我々は神経内視鏡グループとして鼻からの手術や脳室内からの手術を担当しております。頭蓋咽頭腫は発生元が下垂体茎という頭蓋の中心に位置する組織であり、開頭術での到達が難しい部位とされてきました。経鼻術が発展した今、この部位は鼻から見ますと脳を触ることなく到達可能な部位になっています。このため内視鏡を用いた経鼻手術は頭蓋咽頭腫に対して欠かすことのできない治療法となっています。
病気の広がり方によってはやはり開頭術が必要な場合もありますが、よほど大きく外側に伸展していない限りは鼻からの手術が有効です。発生源から治療を行うことが可能であり、有効な治療法と言えます。
頭蓋咽頭腫は視神経の下側から発生するため、視神経へのダメージも最小限に抑えることが可能です。下垂体や下垂体茎といった内分泌器官も鼻からですと観察しやすく、温存に寄与します。
再発の可能性が高い腫瘍ですので可能な限り全摘出を目指しますが、頭蓋咽頭腫の伸展具合や周りの組織への癒着の程度によっては機能を温存するために腫瘍をあえて残し、放射線治療を行うなどの一つの治療に固執することなく最善の治療を選択するようにしています。
また手術前後で内分泌の異常が起こることも多いため、内分泌内科との連携しながら治療をさせていただきます。
頭蓋咽頭腫を再発のないように治療することはもちろん重要ですが、術後の生活に与える影響を最小限にすることも同じぐらい重要です。最適な治療をご提供できるように様々な工夫を行っています。
頭蓋咽頭腫治療は最初の一手が肝心です。セカンドオピニオン、症例のご相談はこちらへ。