成長ホルモン産生下垂体腺腫とは?
下垂体腫瘍にはホルモンを過剰分泌して様々な症状を呈するものがあります。下垂体腫瘍のうち、成長ホルモンを過剰産生するものを成長ホルモン産生下垂体腺腫といいます。症状の特徴から先端巨大症やアクロメガリーとも言われます。
手足の先、あご、額などが突出するなどの外見上の変化が見られますが、ゆっくり変化してくるので家族にも気づかれないことがあります(いわれてみれば・・・と外来で言われることが多いです。)久しぶりに会う方に指摘されることもあります。ただ外見の変化はなかなか指摘されにくいため周りの方に教えてもらえないことも多いです。
指輪が外れなくなった、靴のサイズが大きくなった、汗をよくかくようになった、いびきがひどくなったなどの症状があるようなら、一度昔の写真と今を比べてみるのもよいかもしれません。
また手をグーにして人差し指〜小指までの爪が隠れるかどうかを見てください。先端巨大症の患者さんですと手がむくんだりすることで、爪が隠れにくくなっています。
成長ホルモン産生下垂体腺腫(先端巨大症、アクロメガリー)の主な症状
先端巨大症では前述のような症状が出ますが、主なものを列挙いたします。
1.手、足などが大きくなる。骨自体も大きくなりますし、軟部組織も大きくむくみますので手がこわばる感じが出ます。グーを作った時に人差し指〜小指までの爪が隠れなくなります(ためしにやってみてください)。
2.願望の変化。顎や額などが突出し、鼻が大きくなります。
3.いびき。舌が大きくなり、喉の奥の成分が大きくなるためいびきや睡眠時無呼吸などの症状が出ます。
4.手のしびれ。手の感覚をみる神経の通り道が細くなることでしびれ、痛みが出ます。特に朝に症状が強いことが多いです。(手根管症候群)
このような変化が現れますが、全体的にむくむためシワが少なく、髪の毛の量も多く、筋肉もつきやすいなど同年代に比べて若い印象が持たれます。ただ、成長ホルモンはドーピングにも使われるようなホルモンであり、大きな負担が体にかかっていることを忘れては行けません。
これらの外見上の変化に加えて見えない部分の変化もあります。
1.高血圧
2.糖尿病
3.がん
4.心臓弁膜症、心不全
成長ホルモン産生下垂体腺腫自体は良性の腫瘍ですが、これらの合併症を起こした結果として寿命が10年縮むとも言われています。
成長ホルモン産生下垂体腺腫(先端巨大症、アクロメガリー)の治療
成長ホルモン産生下垂体腺腫の治療方法として手術治療、薬物療法、放射線治療がありますが、根治性、治療の有効性、費用を含めた副作用などの観点から第一選択は手術治療(鼻からの経鼻手術)とされています。
主な治療の流れは下記の図の通りです。診断されたらまずは指定難病77の申請を行います(←ここがスタートライン)。
手術治療
経鼻内視鏡手術が主に利用されます。腫瘍のサイズによっては開頭術やコンバイド手術(経鼻内視鏡手術と開頭術を合わせて行う)が必要になることもありますが稀です。
状態によっては手術前に薬物治療(ソマトスタチンアナログ)の投与を行います。先端巨大症の諸症状が改善し手術リスクの低減につながります。
手術治療では腫瘍を残さない工夫が必要です。非機能性下垂体腺腫(ホルモンを分泌していない下垂体腺腫)と違い、細胞レベルでの全摘出が望まれます。腫瘍の周りには偽性被膜という膜があることが多く、これを残さないように摘出を行う被膜外摘出という方法を行っています。成長ホルモン産生腫瘍などの機能性下垂体腺腫に対する手術における我々の取り組みを論文化し学術誌に報告し評価を頂いております(トピックスに記事を載せました。こちらもご参照ください。)。
手術目的の入院では、おおむね10日~2週間程度の入院が必要です。手術を行った後定期的に採血検査、尿検査、CTやMRIなどの画像検査を行います。術後にホルモン異常が改善したかどうか、他のホルモンの異常がないかどうか負荷試験を行います。
・薬物治療
成長ホルモン産生下垂体腺腫に有効な薬物がいくつかあります。腫瘍の性状によって効果には大きく違いがあります。
ソマトスタチンアナログ・・・注射薬です。月に一回程度おしりに注射をすることでGH値を下げることができます。
ドーパミン作動薬・・・飲み薬です。カベルゴリンという薬の内服を行います。効果はありますが他の薬物治療に比較して弱く、作用発現まで時間がかかります。
成長ホルモン受容体拮抗薬・・・注射のお薬です。自己注射にて毎日投与していただきます。効果は強いですが、腫瘍の増殖抑制効果はありません。
医療費助成制度について
成長ホルモン産生下垂体腺腫(アクロメガリー)の治療は医療費助成制度の対象となっています。術前に検査を行い条件を満たす場合、申請することで医療助成が受けられます。成長ホルモン産生下垂体腺腫に対する薬物治療は非常に高価なものです。治療にかかる費用も重要な副作用の一つと考えられます。術前に申請を行いましょう。あらかじめ主治医にご相談ください。
情報のあるページはこちらです。
成長ホルモン産生下垂体腫瘍 治療後の経過
成長ホルモン産生腫瘍はしっかりとした治療を行うことで、通常の方と同じ生活に近づけることが目標です。それまでに生じた合併症(糖尿病や高血圧など)も改善に転じることも多いです。
軟部組織(触って柔らかいところ)の腫大やむくみは改善しますので、見た目に痩せた感じがすると思います。しかし、すでに変化してしまった骨などは変化せずそのままです。
また合併症も完全には良くならないため、早めの発見治療が重要となります。
術後早期の変化として脱毛があります。成長ホルモン産生腫瘍の方は髪の量が多い方が多いですが、これは成長ホルモンが過剰であったことによるものです。成長ホルモンが正常化することにより髪が抜け、ご兄弟と同じような髪の量になります。治療がうまくいった証でもあるのですが、ちょっと知っておいていただきたい点です。
手術治療後に完全に寛解している状態であっても半年〜年に一回程度の定期的な受診が必要です。
成長ホルモン産生下垂体腫瘍 実際の症例について
高血圧の診療の際に顔貌の異常(いわゆる、アクロメガリックフェイスというもので、おでこや鼻が大きくなっている状態です)でかかりつけ医に指摘してもらい発見された方です。手足の腫大によって指輪が外れないという症状も伴っていました。
外来紹介後に各種の下垂体ホルモン値の検査(採血検査)とMRI検査を行いました。
GH(成長ホルモン値)、IGF-1(ソマトメジンC)が高い状態でした。
75gOGTT負荷試験(糖分(サイダーのようなもの)を摂取して30分おきに採血を行います)を行い成長ホルモンが正常値とならなかったため成長ホルモン産生下垂体腺腫と診断しました。この段階でまず医療費助成を受けるため特定疾患申請を行いました。
その後、内分泌内科と連携し、入院の上検査を行いました。
具体的には
・心臓超音波検査(心臓弁膜症、心臓肥大などが合併するからです)
・消化管内視鏡検査(大腸がんの合併する可能性があるからです。)
・睡眠時無呼吸症候群検査(舌が肥大することで無呼吸症候群を合併することがあります。いびきがひどくなります)
・各種負荷試験(下垂体を刺激するホルモンや成長ホルモンを抑制する薬剤への反応性を確認します。)
などを行いました。
これらの検査は、手術による合併症を低減するために必要と考えられます。
この方は経鼻的に手術を行い、下垂体腫瘍は全摘され、成長ホルモン値の正常化が得られました。
名古屋大学神経内視鏡・下垂体グループの取り組み
成長ホルモン産生下垂体腺腫(先端巨大症、アクロメガリー)の治療では特に診療体制が重要であると考えています。脳腫瘍という脳外科的側面、ホルモン異常という内科的側面があり、脳神経外科と内分泌内科との連携が非常に重要です。腫瘍が大きくなると視野障害の原因になりますので眼科との連携が必要となります。病気が進むと心臓弁膜症などの可能性もあり循環器内科・心臓外科との連携や、睡眠時無呼吸などの可能性のため耳鼻科との連携も重要です。このように複数の科との連携を取りより適切な治療が目指せるように体制を整えています。
手術についても内視鏡の広角な視野を活かして残存腫瘍なく、正常下垂体を傷つけない工夫を行いつつ摘出を行っています。経鼻的な内視鏡手術の一般的な内容は経鼻内視鏡手術をご参照ください。
非機能性下垂体腺腫と違い、成長ホルモン産生下垂体腺腫などの機能性腺腫(ホルモンを分泌する下垂体腫瘍)では特に腫瘍細胞を残さず摘出することが求められます。細胞を残すと内分泌的な異常を改善できないためです。下垂体腺腫の多くは被膜(本当は潰された正常下垂体)を有しています。この被膜ごと摘出することで細胞を残さないように摘出をします。また、下垂体腺腫はしばしば下垂体の近くにある海綿静脈洞という部位に浸潤します。一見正常でも腫瘍が静脈洞の壁に浸潤していることも多く、海綿静脈洞の内側壁ごとの摘出を行います。止血を行いながら摘出を行う必要があり技術が必要ですが、近年の止血材料の進化、内視鏡画像の進化によって実現可能となりました。このような工夫を行うことで手術のみでの完全寛解率は90%前後と、標準的な寛解率を大きく上回っています。これらの手術法については学術誌に投稿し掲載されております(1)。
最後に
成長ホルモン産生下垂体腺腫(先端巨大症、アクロメガリー)の治療は内分泌内科と脳神経外科との連携が非常に重要です。術前、術後に脳外科だけでなく内分泌内科にも受診をししっかりとした治療を行います。脳神経外科のみ、内分泌内科のみの診療で治療が完結するわけではありませんので、しっかりと連携をとって治療してもらうようにしましょう。複数科の受診が必要のため受診の回数が若干増えますが、しっかりとした治療ができないと命に係わる問題に発展する可能性がありますので自身の未来のためと思ってがんばって治療を行いましょう。手術治療や薬物治療が安定すれば受診回数も自然と減っていきますので(例えば手術で治癒状態となれば年1~2回受診です)それまでの辛抱です。
名古屋大学では内分泌内科と連携し、脳外科受診日と内分泌内科受診日を同一にできるように工夫をし受診日数を極力減らせるように工夫をしています。
成長ホルモン産生下垂体腺腫(先端巨大症、アクロメガリー)のご相談についてはこちらへ。