TSH産生下垂体腫瘍とは?
TSH産生下垂体腺腫とは文字通りTSH(甲状腺刺激ホルモン)を産生するタイプの下垂体腺腫です。
甲状腺の機能が亢進し甲状腺機能亢進症を呈することがありますが、甲状腺が原因となって発生する甲状腺機能亢進症に比較すると症状が比較的軽く、気づかれないことも多いです。腫瘍が大きくなり非機能性下垂体腫瘍のように視野障害を呈して発見されることが多いです。
TSH産生下垂体腫瘍の特徴
TSH産生下垂体腺腫は初期には症状をあまり呈さず、また甲状腺の問題で甲状腺機能が上昇していると診断されることが多く、発見されるまでに時間が係ることが多いです。これは検査上でTSHは正常範囲内であることが多く、TSH産生下垂体腫瘍ではTSHが上がるもの!という先入観があるためと思われます。このため他の機能性下垂体腺腫では小さなもの(microadenoma)で見つかることが多いですが、TSH産生下垂体腺腫は大きくなってから(macroadenoma)見つかることが多いです。
TSH産生下垂体腫瘍の症状
TSHは甲状腺を刺激して甲状腺ホルモンを分泌させます。このため甲状腺機能亢進症と同様の症状を呈することがあります。
甲状腺機能亢進に伴う症状は動悸や発汗過多、体重減少、手の震えなどですが、症状の軽い方も多く、分かりづらいことも多いです。
腫瘍が大きくなって視神経を圧迫することで目が見にくくなることで発症する方もいます。
TSH産生下垂体腺腫の治療
TSH産生下垂体腺腫の治療の第一選択は手術で腫瘍を摘出することです。手術によって全摘出されれば根治が得られます。手術方法は他の下垂体腺腫と同様に内視鏡下経鼻的経蝶形骨手術を行います。
TSH産生下垂体腺腫は他の下垂体腺腫に比較して硬いという特徴があります。中から減圧するような従来の摘出方法では”硬くて取れなかった”となってしまうことも多いです。被膜外摘出を行う必要がありますので、本疾患が疑われた場合には経験のある術者に依頼すのが望ましいと思われます。
腫瘍が大きくなって発見された場合も多くは全摘出可能ですが、外側方向(海綿静脈洞)に腫瘍が浸潤している場合には全摘出が困難な可能性があり、この場合には術後に放射線治療を追加することがあります。TSH産生下垂体腺腫は他の機能性腺腫と比較して、少量の残存があったとしても内分泌機能が正常化することが多いため、無理な摘出を選択するよりは可及的摘出+放射線治療が良いかもしれません。
薬物療法としてはドーパミン作動薬(飲み薬)やソマトスタチンアナログ(注射剤)がありますが、根治は難しく長期に渡る治療が必要となります。術前に甲状腺機能が高度に亢進している場合にはソマトスタチンアナログの投与を行います。
TSH産生下垂体腺腫に対する術前投薬
TSH産生下垂体腺腫は発見される際に大型であることが多く、甲状腺機能が過度に亢進していることがあります。
手術の安全性、有効性を高めるために手術前に薬物投与を行うことがあります。
具体的にはソマチュリン®(ランレオチド)の投与を月一回、3回程度行います。TSH産生腫瘍に非常に有効な薬剤で、甲状腺機能の安定化、腫瘍の縮小効果が得られ、手術治療がより安全に行える可能性があります。