ORCID |
1998年3月 | 私立北嶺高等学校 卒業 |
2004年3月 | 東京大学 医学部医学科 卒業 |
2004年4月 | 公立昭和病院(東大Bプログラム、1年目協力病院) 臨床研修医 |
2005年4月 | 東京大学 医学部附属病院 臨床研修医 |
2006年4月 | 東京大学 医学部附属病院 専門研修医(血液・腫瘍内科) |
2011年3月 | 東京大学 大学院医学系研究科 病因・病理学専攻 博士課程修了 |
2011年4月 | 東京大学 大学院医学系研究科 病因・病理学専攻分子病理学 特任助教 |
2012年4月 | スウェーデン王国 ウプサラ大学 ルートヴィヒ癌研究所 博士研究員 |
2016年1月 | 東京大学 大学院医学系研究科 病因・病理学専攻分子病理学 助教 |
2022年4月 | 帝京大学 先端総合研究機構 健康科学研究部門 准教授 |
2011年 | 平成 22 年度東京大学大学院医学系研究科 博士課程総代 |
2011年 | Award for the best oral presentation by a young investigator, 9th Hereditary Hemorrhagic Telangiectasia (HHT) Scientific Conference 賞状 |
2011年 | かなえ医薬振興財団 第40回 海外留学助成 |
2012年 | Best Poster Award, TGF-β meeting in Leiden 2012 賞状 |
2013年 | 佐賀県「伊東玄朴・相良知安顕彰奨励賞」留学奨励金 |
2014年 | Best Poster Award, TGF-β meeting in Leiden 2014 賞状 |
2021年 | Award for the Best Short Talk, virtual FASEB Science Research Conference, The TGF-β Superfamily Conference: Signaling in Development and Disease 賞状 |
2023年 | 持田記念医学薬学振興財団 2023年度研究助成金 |
2023年 | 武田科学振興財団 2023年度医学系研究助成 |
トランスフォーミング増殖因子(TGF-β)ファミリーは、哺乳類において30種以上の構造的に似た蛋白質から成り立っており、その代表的なものにはTGF-β、アクチビン、増殖分化因子(GDF)、骨形成因子(BMP)が含まれます。TGF-βファミリーの分子は、生体内で多彩な役割を果たし、発生と分化において主要な役割を担うだけでなく、心血管系の異常、骨形成の異常、腫瘍形成など多くの病態に関与していることが知られています。これらファミリー分子の機能は、細胞が置かれた状況(コンテクスト)に依存して、時には相反する役割を果たす「二面性」を持つことがあり、長年注目されてきました。例えば、代表的な因子であるTGF-βは、初期のがん発生段階では腫瘍の成長を抑制する因子として作用しますが、がんが進行すると腫瘍の進展を促進する役割も果たします。また、BMP4はマウス胚性幹細胞(ESC)が未分化の状態を保つのに寄与する一方で、少し分化が進んだマウスエピブラスト幹細胞(EpiSC)やヒトESCでは分化を促進します。私はコンテクストに応じた分子機構を明らかにすることを目指して、30種以上のファミリー分子の相互作用や代償作用の再評価してきました。こうした研究を通して、TGF-βファミリー分子が関与する病態の解明およびこのシグナルを標的とした治療法の開発を目標としてきました。
特に、次世代シークエンサー(NGS)を利用した包括的・網羅的な解析を通じて、BMPシグナルが細胞種に依存して発揮する多様な機能の分子機構を解明することに焦点を当てています。クロマチン免疫沈降・シークエンス(ChIP-seq)法を使用することで、主要な細胞内シグナル伝達因子であるSMADがゲノム上で結合する領域を同定し、これらの領域が細胞種やコンテクストに応じてどのように変化するかを調査しています。さらに、SMADを介さない経路(非SMAD経路)や、他の重要な因子であるRas、p53、p63、AP-1、Notch、Wntとの相互作用についても幅広く研究を行っています。
また、TGF-βファミリーの因子であるアクチビンとBMPとの相互関係を調査する過程で、アクチビン・ミオスタチン阻害剤の開発に成功しました。この阻害剤はアクチビン、ミオスタチン(GDF8)、GDF11など特定の因子に高い選択性を持ち、骨格筋の肥大や筋力の増強を目指す「アクチビン・ミオスタチン阻害薬」として期待されています。
BMPシグナルが関連する2つの遺伝性血管疾患について、2つの異なる細胞(ヒト臍帯静脈内皮細胞HUVECsとヒト肺動脈平滑筋細胞PASMCs)におけるBMPシグナルを詳細に解析しました。まず、生細胞においてSMAD1/5のDNA結合配列/モチーフを特定し、生化学的に証明しました。さらに、2つの細胞におけるBMPの標的遺伝子を分析し、血管内皮細胞ではNotchシグナルとのクロストークが認められることを明らかにしました。これにより、この分子機構の異常がHHTの発症に関連している可能性を指摘しました(Morikawa et al., Nucleic Acids Res, 2011)。この報告の後、ベルギーの研究グループから、血管内皮特異的にSmad1/5をノックアウトしたマウスモデルの表現型が報告され、生体内in vivoでもBMPとNotchの関係が重要であることが示されました。
また、血管内皮細胞HUVECsにおけるBMPシグナルの標的遺伝子の中で、機能が明らかにされていなかった転写因子ATOH8に焦点を当てた解析を行いました。ATOH8の機能を喪失させた動物モデル(ゼブラフィッシュ、マウス)の研究により、2つの遺伝性血管疾患のうち、ATOH8がPAHの病態に関与している可能性を示唆するデータを得ました。実際、PAH患者の肺から得られたサンプルではATOH8の発現が低下していることが確認され、BMPシグナルがATOH8を介してPAHの発症に寄与している可能性が考えられました。さらに、詳細な解析により、肺動脈内皮細胞のBMPからATOH8へのシグナル伝達経路が、低酸素応答において中心的な役割を果たすHIF-2αの蛋白質量を低下させることで、低酸素状態に対する保護的な役割を果たし、肺高血圧症の発症と進行に関与している可能性が示唆されました(Morikawa et al., Sci Signal, 2019)。また、鹿児島大学の前田先生との共同研究において、この新規なBMP標的遺伝子であるATOH8が骨代謝にも関与していることが明らかにされました(Yahiro, Maeda, Morikawa et al., Bone Res, 2020)。
スウェーデン留学時代の主な研究テーマでした。BMP(骨形成因子)に対する異なる応答性を示す2つの種類の幹細胞(マウスES細胞と、マウスES細胞をヒトES細胞に類似したプライム状態まで分化させた細胞)の比較を通じて、BMPが未分化性を維持する役割を再評価しました。この研究では、次世代シークエンサーを活用した網羅的解析や、ゲノム編集法を用いてSmadをノックアウトしたES細胞の作成など、BMPシグナルの役割を明らかにするための手法を駆使しました。その結果、「BMP-SMAD経路は未分化状態の維持に必ずしも必要ではなく、初期状態のマウスES細胞におけるBMPの機能は非SMAD経路を介したものである」という結論に至りました(Morikawa et al., Stem Cell Reports, 2016)。同様の結果を得たオランダの研究チームもSmad1fl/fl;Smad5fl/flマウス由来のES細胞でSmad1/5ダブルノックアウトES細胞を作成し、それに関連する論文を同時に発表しました。
2016年の帰国後も、引き続きBMP-SMAD経路に注目しながら、1細胞RNAシーケンス法(scRNA-seq)の手法を用いてマウスES細胞の細胞分化・運命決定と可塑性の制御に関して解析を行っています。
マウスES細胞でシグナル伝達経路の研究を行う際に、BMPと同じTGF-βファミリーの因子であるアクチビンの関与を検討する必要が出てきました。しかし、アクチビンに選択性の高い阻害剤がこれまで報告されていなかったため、リガンドトラップの阻害剤であるFSTL3-Fcを開発しました。この阻害剤は、アクチビンの他にミオスタチン(GDF8とも呼ばれる)やGDF11を阻害しますが、TGF-βやBMPといった他のファミリー分子には結合しない特性を持っています。
FSTL3-Fcがミオスタチンを阻害することから、骨格筋の筋量の増加と筋力の増強を目指すミオスタチン阻害薬として応用することを目指しました。ミオスタチンは主に骨格筋から分泌され、骨格筋を負に制御するブレーキ役として機能します。これまで複数のミオスタチン阻害薬が開発されてきましたが、治療効果が不十分であったり、副作用が明らかになったため開発が中断され、現時点で臨床応用された製剤はありません。FSTL3-Fcが新たな製剤候補になり得ると考えましたが、通常の作成法で作ったFSTL3-Fc(または2価FSTL3-Fc)は血中から速やかに排除されるためマウスに全身投与することができませんでした。そこで、スウェーデン王立工科大学のNygren教授との共同研究で、全身投与可能な1本腕のFSTL3-Fc(1価FSTL3-Fc)を開発しました。マウスの実験では、1価FSTL3-Fcは先行製剤と同等の筋量増加と筋力増強効果を示しました(Ozawa, Morikawa et al., iScience, 2021;Ozawa et al., STAR Protoc, 2021)。今後、骨格筋萎縮症をはじめとして、アクチビン・ミオスタチン阻害薬が治療効果を発揮する疾患での検討を進め、臨床への応用を目指しています。
TGF-βは細胞増殖を抑制するサイトカインとして知られていますが、進行したがんにおいてTGF-βはがんの増悪因子として知られています。この二面性について、膵臓がんや大腸がんではSMAD4遺伝子の欠失が高頻度に見られることから、SMAD経路の有無で二面性が説明できます。しかし、乳がんにおいてはSMAD4の欠失は稀であり、二面性を説明する分子機構は不明でした。我々は、TGF-βの悪い面(運動能や転移能の増加)が認められる場合、TGF-β自身によるAP-1因子JUNBの誘導やWNTシグナル経路活性化が重要であり、フィードフォーワード機構を作っていることを示しました(Sundqvist, Morikawa et al., Nucleic Acids Res, 2018)。この経路を遮断することで、TGF-βの良い面である細胞増殖抑制作用や腫瘍抑制効果を前面に立たせることができる可能性が示唆されます。
また、がん抑制遺伝子p53のファミリーであるp63に関する解析も行いました。p63には大きく分けて2つのアイソフォーム(TAp63、ΔNp63)がありますが、p53同様がん抑制遺伝子として働く場合だけではありません。特にΔNp63がある種の癌で高発現し、予後不良因子となることがありますが、その役割は未解明の点が多かったです。そこで我々はΔNp63の機能を解析するためにChIP-seq法を活用し、TGF-βやRasといったoncogenic signal(がん原シグナル:がんの原因となるシグナル)がΔNp63を活性化することで、がんの悪性化に寄与していることを示しました(Vasilaki, Morikawa et al., Sci Signal, 2016)。