支援者支援 のために必要こと

災害医療 支援者支援 のために 必要こと supporter-support

災害医療に携わる人々「災害医療支援者」を「支援」する、いわゆる「 支援者支援 」について、必要なこと、大事なこととは何でしょうか。

2017年に発表された、東日本大震災でのインタビュー調査をもとに、災害医療従事者の 支援者支援 についてまとめていきます。

結論から:大事なこと

個人として

  1. 災害支援に興味を持ったらば、支援にまつわる研修やトレーニングに関心を持ち、事前に学習を深める。
  2. 受益者を 傷つけない原則 を守るため、支援における自身のスタンスを考え、支援者自身が心身健康である必要性を理解して、意識して食事・睡眠・休息時間を確保する。
  3. 支援者は 自己犠牲の精神 で働きづめになる傾向があること、それでは バーンアウト するなど、心身がいずれ保たれなくなることは、災害支援に当たるすべての人間が理解する必要がある。
  4. 経験を無理に話す必要はないことを知る。身体の回復を待ち、安全な環境で信頼できる相手に話すことが好ましい。
  5. 主に自己の持つ権利を理解するため、国際スタンダードである人道支援の必須基準(CHS)とそのコンパニオンガイドブックを活用する。(例、People in Aid、HAP基準)

組織として

  1. 支援中~後の精神的・身体的影響の可能性を踏まえて派遣計画を立てる。
  2. 支援者の身体の安全確保を最優先 させる組織文化を醸成する。
  3. 派遣前、もしくは派遣初日に団体としての活動の方針、業務内容、生活環境などのオリエンテーションを行う。
  4. 組織や後方支援をする者は、出来る限り支援者が心身ともに健康を守りながら支援にあたれるよう活動を運用する。時に話を聞き、必要な体制を作り、休憩を取らせるなどの管理が求められる。このような支援を専門とするロジスティシャンの設置が望ましい。
  5. 多岐に渡る支援活動を行う組織においては、各分野に携わる派遣支援者の知識や技術を組織横断的にまとめる機能や人材の育成、もしくはプロボノ受け入れ体制を整える。
  6. 日本国内支援の際は、行政との連携が必須であるため現地活動を開始する際は関連の行政機関と関係を作り、協働を常に心がける。
  7. より効果的・持続性のある支援を行うためにコンサルテーション会社・CSRを活用する。
  8. 派遣後、ストレスを経験した支援者に対する フォローアップシステム を構築する。
  9. 主に派遣者の保護について理解し、必要な環境を整えるため、国際スタンダードである 人道支援の必須基準(CHS) とそのコンパニオンガイドブックを活用する

災害医療支援者のストレスの特徴

災害医療従事者が受けるストレスは 「 惨事(さんじ)ストレス 」と呼ばれています。また、患者さんと接しているうちに、 共感や思いやりゆえに、患者さんの苦しい体験を自分ごとのように感じてしまい(共感疲労)、燃え尽きや離職につながることが知られています。 東日本大震災においても、惨事ストレスなど支援に関するトレーニングを受けているDMAT隊員や消防士らが心的外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder; PTSD)症状、うつ病症状をはじめ、食欲低下や睡眠障害を経験したことが指摘されていました。

更に、今回のインタビュー調査からは以下のようなストレスが明らかとなりました。

支援者たちの語りから、支援活動を通じて 代理受傷 燃え尽き が生じていることが伺われた。元来の「代理受傷」は性的被害者や近親相姦被害者に関わるセラピストに顕著だった現象である ( Jenkins & Baird, 2002 )。加藤(2013) は、災害支援者における「代理受傷」とは被災体験者に接することで、間接的にトラウマ反応を引き起こしてしまうことと定義している。支援者が余裕のない状態で長時間被災者と接し続けることにより、被災者の語る恐怖体験や悲嘆に共感し、自分自身の状況や体験と重ねて同一化することで、被災者と同じような心理的反応が生じてしまうことがある。一方で、援助業務における環境 や 低い達成感 は、強い疲労感 や 感情の枯渇、意欲の低下、自己否定といった「燃え尽き」に寄与することが明らかになっている ( Maslach, 1982 )。本研究の対象者は、避難所で受益者からニーズを聞き出し、活動を行っていたという点で受益者との接点は非常に大きかったと言えるであろう。又、活動中の自身の寝食や休息が後回しになりがちであった傾向や、長期支援者の生活環境が必ずしも最適ではなかったことが伺えた。このような感情や経験は代理受傷と燃え尽きに関係し、帰任後の疲労感に繋がったのではないかと考察する。支援者の代理受傷や燃え尽きといった起こりうる心理的な反応に関する予備知識を支援活動前に修得し、心身のエネルギーを保存しながら活動することが望ましい。

第一章  第3節 インタビューで明らかになったストレス

一方で、本研究の対象者はストレスだけではなく、 活動からの学び を語っており活動自体はポジティブな側面も持つものであったことも伺える。支援者は支援期間中にストレスを感じたとしても その経験を肯定的に捉えることができると、心的外傷後成長 (post traumatic growth:PTG) を遂げることが先行研究で明らかになっている ( Liao, 2002. 宅, 2010 )。「受益者のたくましさ」を知ることは深谷ら(2013) も、その後の成長につながることを報告している。本研究では他者との協働により相互に「広がり」を持つことが見いだされた。

第一章  第3節 インタビューで明らかになったストレス

人道支援の必須基準(CHS)

人道支援の必須基準(CHS) は、人道支援組織や個人が行う支援の質と効果の向上のために利用可能な「9つのコミットメント」を提示しています。

人道支援の「質の保障」および「説明責任」に不可欠な工程と組織的責任を示す 9 つのコミットメントから構成されています。 9つのコミットメントはそれぞれ特定の支援の側面を示すものであり、全体が 1 つの基準となっています。

CHS 人道支援の必須基準 supporter-support

これらのコミットメントを、個人レベル、組織レベルで遵守することで、効果的で席になる人道支援活動を行うことができます。このような共通の取り組みがなければ、成果には一貫性がなくなり、予測を立てるのが難しくなります。そうすると、援助業務の環境の劣悪化や支援者の不全感となり、「燃え尽き:バーンアウト」につながることが懸念されます。

より良い 国際標準の 支援に向けた個人・組織の取り組みが支援者のストレスを軽減する

基準を遵守する人道支援組織は、効果的で責任ある人道支援活動を行うことができ、より良い説明責任の履行につながるため、受援側からの信頼を得やすくなることが期待されます。 支援期間中にストレスを感じたとしても その経験を肯定的に捉えることができると、心的外傷後成長 (post traumatic growth: PTG) を遂げる ことが知られています。受援側との良い関係は、支援者側の達成感や自己肯定感を高め、心的外傷後成長につながると考えられます。

CHSは、スフィアハンドブック 2018 年版の改訂から、2011年版までのコア基準に置き換えられました。スフィア基準については、下記のリンクをご参照ください。

http://kokoronokamae.umin.jp/%e3%82%b9%e3%83%95%e3%82%a3%e3%82%a2%e5%9f%ba%e6%ba%96/

環境改善や、同僚や家族とのコミュニティの強化が心身の安定に役立つことは、「こころのケアのピラミッド(MHPSSの介入ピラミッド)」でも明示されています。

MHPSS の 介入ピラミッド supporter-support

こころのケア(MHPSS)は、災害などにより引き起こされる PTSD といった病理的な側面にのみではなく、公衆衛生的なアプローチにも注目し、心理社会的な支援も含まれています。心理社会的支援 により、多くの被災者のレジリエンスに効果をもたらすと考えられています。 詳細はこちらの記事をご参照ください。

http://kokoronokamae.umin.jp/archives/%e3%81%93%e3%81%93%e3%82%8d%e3%81%ae%e3%82%b1%e3%82%a2/
http://kokoronokamae.umin.jp/mhpss/

関連資料

「災害医療支援者」を支援するための災害医療支援者支援白書

「災害医療支援者」を支援するための災害医療支援者支援白書 supporter-support

上部へスクロール