ここでは、 スフィア基準 と 新型コロナウイルス 対応 について考えていきます。このページの内容は、 Sphere公式ページで公開された、「The Sphere standards and the Coronavirus response」を日本語訳したものです。
まず、結論から。新型コロナウイルスに対応するときは、以下の3つの重要な事項を忘れないようにしてください。
1. 人びとは症例ではなく人間としてみなされるべきであること。人としての尊厳は、ハンドブック全体を通して強調されています。
2. コミュニティの参画が非常に重要です。
3. 新型コロナウイルスの拡散防止に集中しすぎるがあまり、影響を受けた人びとのその他のニーズや、長期的な医療ニーズをないがしろにすることがあってはいけません。
以下、全文を日本語訳した内容です。pdfでダウンロードしたい方は、こちらからダウンロードしてください。
スフィア基準と新型コロナウイルス対応
新型コロナウイルスが世界中で広がってきています。私たち個人、地域、そして人道支援者はどのようにこの新型コロナウイルス・COVID19に対して、最善を尽くせるのでしょう?スフィアハンドブックは私たちの対応にどのようなアドバイスをしてくれるのでしょうか?
経験の共有のお願い
スフィア基準は新型コロナウイルス対応についての、実戦と経験を、収集し周知していきます。この資料にコメントがある場合、もしくは共有されるべきグットプラクティス(良い実践例)をお持ちの方は、handbook@spherestandards.org までお知らせください。
この資料の構成
この資料は以下の2つの章から構成されています。
A. 第1章は、包括的かつ有効な介入にとって重要な、基本的原則について述べています。
B. 第2章は、ハンドブックの水と衛生・衛生促進の章と医療保健の章に掛かれている基準とアドバイスを述べています。
A.包括的なアプローチ
スフィア基準は、包括的で人々を中心にした人道支援を提唱しています。これらは人道憲章、権利保護の原則、必須基準の3つの基本的な事柄が書かれている章と4つの技術的な章から成り立っています。新型コロナウイルスに対する対応には3つの事実が存在します。1つ目は、人びとは症例ではなく人間としてみなされるべきであること。人としての尊厳は、ハンドブック全体を通して強調されています。2点目は、コミュニティの参画が非常に重要であること。3点目は、新型コロナウイルスの拡散防止に集中しすぎるがあまり、影響を受けた人びとのその他のニーズや、長期的な医療ニーズをないがしろにすることがあってはならないことです。
1.人としての尊厳
ハンドブックを使う時には、人道憲章に基づいて活用してください。人びとは尊厳のある生活への権利があります。権利保護の原則と必須基準に書かれている、基本的な事柄を考慮し、対応策を練るときから当事者である人びとに参画してもらってください。
新型コロナウイルス対応は、全ての対象者がスクリーニングされ、検査を受け、もし罹患していたら治療を受けられて初めて効果があると言えます。(訳者注:日本においては、2020年3月5日時点では、症状がある場合はまずは、保健所にある帰国者・接触者相談センターに相談してください。)だからこそ、治療を受けることを躊躇しているかもしれない人びとを見つけることが大切なのです。もともと社会的なスティグマを受けている人々や、新型コロナウイルスに感染していることでスティグマを受けるかもしれないと不安を持っている人々は、差別を避けるために病気であることを隠すかもしれません。スティグマは人びとが迅速に医療サービスを求めることを阻害し、健康を保つための保健行動を行うことを阻害するかもしれません。ですから、サポーティブなメッセージとケアを提供することが重要なのです。権利保護の原則の1と2は、尊厳ある生活への権利、保護と安全を受ける権利、そして人道支援を受ける権利を明記しています。
→ 権利保護の原則1:
「人びとの安全、尊厳、権利の保障を高め、人びとを危険にさらさないこと」という原則は、保護に関するリスク、コンテクストを分析する重要性、取り扱いに注意を要する情報、(公衆衛生と不一致がない限りの)コミュニティにおける保護の体制について言及しています。
→ 権利保護の原則2:
「人びとがニーズに応じた支援を、差別なく受けられるようにすること。」2つめの原則は、人道憲章にも表記されているスフィア基準の3つの権利の1つ、人道支援を受ける権利です。
2.コミュニティの参画
衛生が保たれないことが感染症の拡大につながります。新型コロナウイルスは飛沫によって広がるため、手洗いが拡大を防ぐ最も重要な手段です。ですから、手洗いによる衛生促進は非常に重要なのですが、コミュニティ全体が実践して初めて効果があるのです。コミュニケーションと意思決定の点で、コミュニティと信頼関係を築き、相互で理解することが求められます。
衛生促進では、定期的な手洗いの強調と、自分と相手の距離を保つといったような新型コロナウイルスに特化した安全策が含まれるべきです。
→手洗いについては、衛生促進基準1.1(衛生促進)と1.2(衛生用品)を参照
コミュニティにおける新型コロナウイルスの受け止め方や価値観は、対策を支持することも阻害することもあり得ます。そのため、コミュニティの受け止め方や価値観を理解することが重要です。例えば、対応者・支援者として、あいさつの握手を別の手段にすることや、市場での肉類や動物の扱いを今までとは違うやり方を見つけなければいけないコミュニティに働きかけることが求められるかもしれません。また、新型コロナウイルスに影響を受けているコミュニティに特化した疾病対策や治療手段を特定し、推進することが求められるかもしれません。もしコミュニティにアウトリーチをするのであれば、アウトリーチを行う人は上記のような参画について、訓練を受けていなくてはなりません。(下記の保健医療基準2.1.4参照)
同様に、効果的なコミュニティーの参画はうわさや間違った情報を特定し対応することにつながります。うわさや間違った情報の広まりは、特に都市部で早いものです。よって、都市においては、コミュニティとグループ、例えば学校、地域の集まり、女性グループ、またはタクシー運転手などの特定のグループ、を特定し関わることが重要です。保健医療に関する情報とサービスについて、テクノロジーを活用し迅速かつ正確な情報を届けることが重要です。2次医療、3次医療といった高度医療に携わる医療関係者は、特に都市部に集中しています。そのため、彼らにプライマリケアレベルの医療に関する能力を高めてもらうことも大切です。高度医療関係者が、感染症に関する早期覚知と対応システムに関与し、彼らが普段提供している医療サービスのキャパシティを高めておくことが必要です。
→コミュニティの参画について:給水、衛生および衛生促進の本質的概念の導入部分、アウトブレイク(集団感染)と保健医療におけるWASHの導入部分を参照。
→都市部に関する記載:スフィアとは?内の都市部における危機の項、給水、衛生および衛生促進の本質的概念の導入部分、保健医療における基本的概念を参照。
3.影響を受けたコミュニティの基本的人権にかかわるニーズと、広い意味での医療ニーズ
→影響を受けた人びとに対する、心理社会的ケアと緩和ケアは、彼らの存在意義と帰属意識、そして感情にとって非常に有用である。保健医療基準2.6と2.7を参照
スフィアハンドブックに記載されているすべての保健医療に関する基準も、新型コロナウイルスへの対応に関連性を持っています。母性およびリプロダクティブヘルス、非感染症、外傷、子どもの健康とその他の項目が含まれています。これらの項目へのケアは、影響を受けた人びとと、より多くの人びとに継続されなくてはなりません。2014年西アフリカのエボラ熱アウトブレイクに際しては、多くの医療保険従事者が派遣されたため、その他の保健医療分野のケアが手薄になる状況が生じました。出産時の母体死亡、不十分な子どもへの予防接種とその結果としての後年の疾病アウトブレイク、非感染症(生活習慣病)を持つ両親への継続的なケアの欠落がその結果例です。後回しにされた保健医療施設と地域での死亡者数は見過ごすことのできない数が報告されています。
B. 保健医療対応
新型コロナウイルスに関連する保健医療対応については、水と衛生衛生促進の章と、保健医療の章に関連するアドバイスの記載があります。
1.給水、衛生および衛生促進の章
基本行動、基本指標、ガイダンスノートを含めた、全ての衛生促進の項を参考にしてください。
→基準1.1(衛生促進)は、人びとは水、衛生、衛生促進に関する公衆衛生リスクを認識し、個人、世帯および地域社会のそれぞれのレベルでリスク軽減の対策を講じることができることを求めています。
→基準1.2(衛生用品)は、影響を受けた人びとが、衛生、健康、尊厳、ウェルビーイングを保障するために適切な衛生用品を入手および使用することができることを求めています。
→給水、衛生および衛生促進基準6(アウトブレイクと保健医療におけるWASH)は、すべての保健医療施設が、アウトブレイク(集団感染)を含めたWASHが関わる疾病予防と対応の最低基準を維持していることを求めています。この基準は新型コロナウイルス対策に、そのまま当てはまることは間違いありません。衛生促進とコミュニティとの協働が、ここでも再度、強調されています。このページの図は、アウトブレイク発生時の地域に根差したWASH活動の概要を示しています。新型コロナウイルスに特化した介入は、例えば手指衛生に関する介入が行われる必要があります。
→関連する保健医療活動については、感染症基準2.1.1と2.1.4を参照
2.保健医療の章
保健医療の章は、1)保健医療システムと2)必須保健医療ケアから構成されています。
1)保健医療システム
円滑に機能する保健医療システムは、大規模な健康危機の発生時であっても、あらゆる保健医療ニーズに対応が可能です。保健医療システムには、国から地方、小行政区、コミュニティ、家庭のケア提供者までのあらゆるレベルを包含し、かつ軍や民間企業も含まれます。人道支援のための優先順位を決めるためには、保健医療システムに対する危機の影響度を理解することが重要です。
5つの基準含む保健医療の項はすべて、新型コロナウイルス対策に関係があります。特に以下の項目は深く関係しています。
→ 保健医療システム基準1.1(保健医療サービスの提供)は、利用可能性、受容可能性、購買可能性、コミュニティレベルのケア、適切で安全な施設、感染の制御と予防に関するガイダンスノートが含まれています。
→ 保健医療システム基準1.2(保健医療従事者)は、保健医療サービスの質、特定の対応に関わる人材の適切な研修の重要性を強調している項目が含まれています。
→ 保健医療システム基準1.3(必須医薬品と医療機器へのアクセス)。
→ 保健医療システム基準1.5(保健医療情報)には、疾病サーベイランスに関する項が含まれています。感染症基準2.1.2(サーベイランス、アウトブレイクの検出および早期対応)も言及しています。
2)感染症に関する必須保健医療サービス
感染症に関する項に記載されている、全4つの基準は特に新型コロナウイルスに関連性があります(保健医療基準2.1.1-2.1.4)。予防(2.1.1)、サーベイランス、アウトブレイクの検出および早期対応(2.1.2)、診断とケースマネジメント(2.1.3)、アウトブレイクの対策および対応(2.1.4)が含まれています。特に以下の項目は深く関係しています。
→ 基準2.1.1(予防):「人びとは、感染症を予防するための保健医療と情報へのアクセスを有しています。」この基準は、コミュニティの参画につながっていきます。2つめの基本行動は恐怖やうわさについて言及しており、コミュニティの理解と参画へとつながるのです。基本行動の4つめと5つめは、感染拡大の予防と制御に対して等しく重要な行動です。リスクアセスメント、分野を超えた予防対策健康増進、(現在認可されているワクチンはありませんが、開発された際は)ワクチン接種のガイダンスノートを読んでください。
→ 基準2.1.2 サーベイランス、アウトブレイクの検出および早期対応:「サーベイランス、報告システムはアウトブレイク(集団感染)の早期検出と早期対応につながる。」
この基準は書いてあるままに適応されるべきものです。この基準は、保健医療システム基準1.5(上記の保健医療情報参照)と関連しています。
→ 基準2.1.3 診断とケースマネジメント:基本行動に記載されていることが重要です。明確なリスクコミュニケーションとメッセージの策定(基本行動1)、標準化されたケースマネジメントプロトコルの使用(基本行動2)、十分な臨床検査と診断機器(基本行動3)、が含まれます。長期的な感染症治療を受ける人びとの治療の継続を確保する(基本行動4)重要性も述べられています。この基準に関する重要なガイダンスノート内の事項は、治療プロトコル、急性呼吸器感染(続発性バクテリア感染症以外のウイルス感染症に対する抗生剤の使用禁止)、臨床検査について言及しています。
→ 基準2.1.4アウトブレイクの対策および対応: 基本行動には、準備と対応計画(基本行動1)、感染予防対策(基本行動2)、ロジスティクスと対応能力(基本行動3)、コーディネーション(基本行動4)が含まれています。ガイダンスノート(新型コロナウイルスは2%と暫定予測されています)、子どもへの保護を含んだケアが含まれます。
スフィア
Route de Ferney, 150 ジュネーブ、スイス
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日本語訳
原田奈穂子
miyazakikokoronokamae@gmail.com
http://kokoronokamae.umin.jp/
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