先日阪急電車に乗っていると、隣りに座っているぼくと同い年ぐらいの若い男の二人連れが、恐ろしく不謹慎な話をしているのを聴いてしまった。
倫理学を学ぶ人間として注意する義務があるのではないか、と思ったが、小心者のゆえに結局何もできずにただ聴いていた。他山の石として役に立つこともあるかも知れないので、ここにその会話の一部を記しておく。
ぼくの隣りの席の男(以下茶髪):「すごいなあ。あのペルーのやつ。どないなんねやろ」
ぼくの隣りのその隣りの席の男(以下長髪):「アメリカが特殊部隊送んねんやろ。大丈夫やって、アメリカに任せとけば」
茶髪:「グリーンベレーとか、そんなんやろか」
長髪:「ちゃうって。絶対ハリウッドの映画俳優集めて特殊戦隊作んねやって。ゴレンジャーみたいなんを」
茶髪:「ハリウッド特殊戦隊か。そらええわ。あいつらの出番ってわけやな」
長髪:「やっぱ五人組やろ」
茶髪:「そらそやろ。特殊戦隊いうたら昔から五人組に決まってんがな。だれがええかな」
長髪:「そらやっぱり、シュワルツェネッガーとスタローンは外せへんやろ」
茶髪:「そーやなやっぱり。で、どっちがリーダーや」
長髪:「ぜったいシュワルツェネッガーやって。いっぺん死んでも非常用の予備エネルギーで動きよるからな、あいつは。怖いでほんま」
茶髪:「そーやな。そしたら他に誰がおる?」
長髪:「スティーブン・セガールもちょっと外されへんな」
茶髪:「クリント・イーストウッドはどないやろ」
長髪:「あれはちょっと年くいすぎやろ。もう恋愛ものしか出れへんわ。ペルー行って三人も殺したらすぐ息切れて殺されよるわ」
茶髪:「そうやな。そしたらあと二人誰がいる?」
長髪:「やっぱ紅一点、女が要るな」
茶髪:「女かー。そやな、ブリジット・フォンダはどやろ。ゲリラのボスを暗殺してくれるかも知れへんで」
長髪:「あかんてあいつは。殺人の命令出したら逃げ出しおるかも知れへん」
茶髪:「そしたら誰がええねん」
長髪:「やっぱりシガニー・ウィーバーやろ。また頭丸めさせて武器持たせたったら喜んで戦いに行きよるわ」
茶髪:「シガニー・ウィーバーか。ま、やっぱりあいつがええかな」
長髪:「それで四人や。あと一人はブルース・ウィルスあたりが適任ちゃうかな」
茶髪:「いやそれはあまりに意外性がないで。最後はやっぱりコメディアンを入れんと」
長髪:「あ、そやな。コメディアンは何かと役に立つかも知れへんな」
茶髪:「ジム・キャリーはどうやろ。いざとなったら緑の仮面かぶって、頼りになんでぇ」
長髪:「いや、白人ばっかりやとアメリカでは文句来るやろから、ここはやっぱりエディー・マーフィーやろ」
茶髪:「そーやな。あいつは刑事もやってたし。これで五人決まりやな」
長髪:「あと助太刀で香港からジャッキー・チェン来るやろな」
茶髪:「そら来るやろ。んでフランスからはジャン・レノが助太刀に来るで。あいつ来たらめっちゃ心強いで。ちょっと頭弱いけど」
長髪:「これで最強やな。ゲリラ全滅や」
茶髪:「人質もぎょうさん死ぬんとちゃうか」
長髪:「残ってる人質は男ばっかりらしいしな。やっぱ美人の女じゃないと生き残れへんやろ」
茶髪:「しゃーないな」
長髪:「しゃーないな」
といって彼らはニヤニヤ笑いながら電車を降りて行ったのである。
最近の若者は人の不幸でもなんでも笑い話にして、それを聞いて怒るやつがいると逆に「ユーモアが分からないやつ」と言って非難する。いやはや、ひどい世の中になったものである。