2月下旬号 / 3月中旬号 / 最新号

こだまの世界

2001年3月上旬号

`He [Harrison Ford] wants $40m for turning out in the forthcoming Indiana Jones and the Lost Continent.'

`I don't blame him. That kind of thing can be very sensitive for a man of his age. I'd want $40m to star in a movie wearing a nappy.'

`No, I said Lost...oh, never mind.'

from `Pass notes' in the Guardian (G2) (28/Feb/2001)


01/Mar/2001 (Thursday/jeudi/Donnerstag)

ベンタム・セミナー

Gerald Postemaによる、Universal Interestについてのお話。 今いち主張がわからず。

スクワッシュ

「調子にのって、スクワッシュのラケットまで買ってしまいました」

「きみ、ちょっと最近無駄使いが多いんじゃないの」

「ええ、しばらく節約します。 それでまあ聞いてくださいよ。 今日の昼下がりに、一人で45分間休憩せずにスクワッシュをしたんですよね」

「休憩しないと体に悪いんじゃないのか」

「いやそれが、「休憩休憩」とか言いながら軽く壁打ちをはじめると、 いつのまにか休憩でなくなっちゃうんですよね。 一度はじめたら止められない恐ろしいスポーツです」

「なるほど、カルビーのあれだな」

「……」

「…げほげほごほ。それで?」

「それで、あとで部屋に戻って体重を計ってみると、 なんと昨夜に計ったときから2キロも減ってたんですよ」

「なんできみ自分の部屋に体重計があるんだ」

「友人からもらったんですよ。まあそれはおいといてください。 45分の運動で2キロも減ったんですよ。どう思いますか。 この調子だと、あと30回もやると体重がなくなることに…」

「……」

「……」

「げほげほごほ」

「ごほごほごほ」

「…そんなくだらないこと言ってないで勉強したら」

「そうですね」


04/Mar/2001 (Sunday/dimanche/Sonntag)

週末にしたこと

勉強(ベンタム、ドゥオーキン)。スクワッシュ。ギター。 サウス・ケンジントンのアングリカンチャーチでクラシック音楽。 コヴェント・ガーデンでパブ。 日記の整理


05/Mar/2001 (Monday/lundi/Montag)

買ったCD

「先日、リンダ・ロンシュタットが聴きたくなって、 ついアマゾンに注文してしまいました。 このベストに入っているのは、ほとんどカヴァー曲なんですけど、 その選び方がぼくの好みとよく一致しているんですよね。 バディ・ホリーやスモーキー・ロビンソンだけでなく、 ホリーズなんかをコピーするところがにくいです。 ホリーズのコピーはあんまり上手じゃないですが…。 ぼくがもう25年早く生まれていたら、 アメリカに行って彼女に交際を申し込んでいたかもしれません。 交際がだめなら、文通でも…」

「あほかきみは。たんに新しい音楽が理解できないだけだろう。 もうちょっと視野を広げなさい。む、視野ではなく聴野かな?」

Charlie's Angels

Bloomsbury TheatreというUCLが運営している劇場でCharlie's Angels が安い値段で上映されていたので、友人たちと観に行く。

Scary Movieと同様、わざとらしいジョークが多くてへき易する。 マトリクス風のアクションはそれほど悪くなかった。 しかし、テレビ番組ならともかく、 この手の映画を映画館にまで観に行くのは時間と金の無駄だ。C-。


06/Mar/2001 (Tuesday/mardi/Dienstag)

法哲学の授業

「今日もドゥオーキン教授の授業でした。 民主主義は記述的概念ではなく、規範的(価値)概念だ、 という話と、どういう意味で民主主義は「人民による統治」と言えるか、 という話でした。授業の大半は生徒による質問でしたが」

「きみも質問したのか」

「それが、めずらしいことに質問したんですよ。 「人民による統治」を説明するために、ドゥオーキン教授が、 個人的行為と対比される集団的行為collective agencyという概念を用いたので、 彼のSovereign Virtueを読んで気になった、 『戦争責任』について思い切って質問してみたんです」

「ん、どういう文脈かよくわからんぞ」

「ええと、とにかく、個人的行為や責任だけではなく、 オーケストラやサッカーチームのように集団的行為および責任というものもあり、 こうした責任は民主主義的な条件下(equal say; equal stake; moral independence) において成り立つんだ、 という話をしていたんです」

「なるほど」

「そこで、クラスにはドイツ人や中国人の学生がいたものの、 勇気を出して『自分の場合は教授の挙げた条件に当てはまっていないように思うが、 それでも過去の戦争に対して(賠償)責任はあるのか』という質問をしたんです」

「そしたら?」

「そしたらえらく同情的に答えてくれて --やっぱりsensitiveな問題だからでしょう-- まず、当時の日本やドイツは民主主義とは言えないので、 上の条件はあてはまっていないと述べ、 しかしそれでも戦後に生まれた若者に責任があるとすれば、 それは、(1)戦争の犠牲者ではなく、 (2)戦争の結果によって利益をこうむっているという理由によるだろう、 と言っていました」

「ん、そしたら米国は日本に対して賠償責任があることになるんじゃないのか。 (3)不正な侵略だった、という条件を加える必要があるんじゃないか」

「そうですね。教授は集団的行為に関して再検討する必要があると述べていたので、 確固たる意見ではないのでしょう」

「それできみはなにか反論したのか」

「いえ、しかし他の学生たち、とくにドイツ人や中国人の学生が いろいろ発言していました」

「きみの意見はどうなんだ」

「いや、互いに衝突する直観がいくつかあって、 まだはっきりとした意見が作れないんです。 もう少し考えて、そのうち述べたいと思います」

「そうやってすぐに逃げる。 ちゃんと自分の意見を持つように心掛けたまえ」

「わかりました」


07/Mar/2001 (Wednesday/mercredi/Mittwoch)

ベンタムの授業

ベンタムの憲法理論について。identification of interestsと Public Opinion Tribunal (POT)を中心に議論。 POTについて発表。ハンドアウトを作っていったので、 まずまずのできだったと思う。このテーマでエッセイを書こう。

メモ: Universal Interests, Publicityあたりが ベンタムの民主主義論のキーワードのようだ。

ベンタムの授業に出席されていた北大の某先生と昼食をご一緒する。 いろいろ参考になることを教えていただいたうえ、ごちそうになってしまう。 多謝。


08/Mar/2001 (Thursday/jeudi/Donnerstag)

現代政治哲学の授業

ロールズのPolitical Liberalismについて。 今日の授業は歯切れが悪かった。

本購入

お金がないがどうしてもセンの本が必要な気がしたので、 つい買ってしまう。

スーツ購入

お金がないが、来週に晩餐会があり、どうしてもスーツが必要な気がしたので、 つい買ってしまった。今月はこれ以上お金を使わないこと。


09/Mar/2001 (Friday/vendredi/Freitag)

Porn Tsar

「あいかわらず世界中でいろいろなことが起こっていますね。 サンディエゴの高校での乱射事件とか、ポルトガルで橋が落ちたりとか」

「うむ。ブリュッセルでムガベ大統領を市民逮捕しようとした英国の国会議院が、 ムガベのガードマンに殴り倒されたりとか、 マイケル・ジャクソンがオクスフォード・レクチャーに2時間半遅れて来たので、 そのあいだに親友のユリ・ゲラーがスプーンを曲げてオクスフォードの学生を 喜ばせたりとか」

「そういえば、モルモン教の州、ユタで、ポルノ規制の動きが強まっているそうです。 なんでも、40代のモルモン教信者の女性が、 新しくできたポルノ規制委員会か何かの長になったらしくて」
(注: 正式にはObscenity and Pornography Complaints Ombudsman)

「ああ、聞いた聞いた。処女なんでしょ、その女性」

「というウワサです。『ハスラー』の経営者のラリー・フリントが 『セックスしたことのない人間が、他人にああだこうだ言うのはおかしい』 と息巻いているそうです」(`State where morals matter picks first porn tsar' The Independent, 07/Mar/2001)

「ユタは変な州で、 州のアルコール規制局とかなんとかいう部局の人間のほとんどが、 酒をまったく飲まないteetotalerだっていう話だから」

「しかし、『セックスを経験したことない人間は、 セックスについてああだこうだいう資格はない』という議論はどうなんでしょうね」

「ミルの経験議論だな。一理あるんじゃないの。トロを食べたことのない人間が、 トロよりもイクラの方がずっとおいしいと言うのは変だろう。 クラシックコンサートに行ったことのない人間が、クラシックコンサートよりも ロックコンサートの方がずっと興奮するとか言うのもおかしいし」

「たしかに味覚とか聴覚とかについてはそうなんですが、 それを道徳の議論にまで敷衍することができるでしょうか。 万引をしたことのない人間が、万引の正不正についてとやかく言う資格はないとか、 買春をしたことのない人間が云々とか、麻薬をしたことのない人間が云々とか、 ボクシングをしたことのない人間が云々とか、 殺人をしたことのない人間が云々とか、戦争をしたことのない人間が云々とか」

「一理あるんじゃないの、そういう意見にも」

「そうなんでしょうか。たしかに、酒もバクチもやらない人間が、 酒とバクチのどちらが楽しいかについて云々言うのはおかしいですが、 戦争に参加したことのない人間でも、 拳銃とミサイルとどちらが危険かについて議論できないわけではないでしょう」

「まあそれでも『経験者は語る』というのはつねに説得力があるからな。 経験者が未経験者を軽蔑するのは古今東西を通じて普遍的な現象じゃないの。 『青二才が知った口をきくんじゃない』タイプの論法はどこでもあるわけで。 医者じゃないのに生命倫理を語るのはけしからんとか、 会社で働いたこともない人間が企業倫理を語るのはけしからんとか。 きみもそういうことをよく言われるんじゃないの」

「倫理を語るのは60才を過ぎてからと言いますもんね。 たしかに経験が一種の権威となりうることは認めますが、だからといって、 ドン・ファンのような人間がポルノ規制委員会の長になるのも問題なわけで。 ムガベやヒトラーが国連総長になるのもおかしいでしょう。 麻薬をしたことのない人間が麻薬の不正を語るのがおかしいというのなら、 麻薬中毒者が麻薬規制は不正だというのも同じくらいおかしいのではないでしょうか。 武器産業に深くかかわっている人がかならずしも戦争の是非について 正しい判断ができるとはかぎらないわけで。 道徳の場合はかならずしも酸いも甘いも噛みわけたことが正しい判断につながるとは 言えないでしょう」

「その意見にも一理ある気がするな。 陪審員は客観的な事実をもとに公平な判断をするわけで、 かならずしも膨大な経験を積んでいることは要求されないし。 でもまあ、道徳においては共感能力とか、 相手の立場に立つという能力も必要とされるので、そういう点では、 いろいろ経験を積んでおいた方がよろしいんじゃないの」

「ええまあその通りなんですけど。しかし、 経験をふりかざす連中が世の中には多くて…」

「…経験コンプレックス」

「え、何て言いました今?」

「いや、なんでもない、なんでもない…」

今日したこと

授業がない日なので、半日新聞を読んで過ごす。 お昼すぎに、散歩がてら大英博物館に行く。

本屋に立寄ったときに、ウィンドウに飾られていた本をつい購入してしまう。


10/Mar/2001 (Saturday/samedi/Sonnabend)

Chocolat

Lasse Hallstrom監督、 Juliette Binoche主演のChocolatを観た。 フランスの小村に移り住んできたシングル・マザーの開いたチョコレート屋が、 敬虔深い村人の禁欲的な生活に大きな影響を与えるという話。

新聞の批評はかなり辛いものが多かったので、 あまり期待していなかったのだが、 思ったよりもよくできた映画だった。

アンデルセン童話にすこし性的ユーモアを混ぜたような作品で、 よくできた童話のようにきちんと起承転結があるのがよい。 悪く言えば、展開がありきたりで、あまり深みがないとも言える。 登場人物も典型的にすぎるかもしれない。 ま、しかし、全体的にみれば、笑いはあるし、終わり方も感じが良く、 佳作だと思う。B。


何か一言

your name:

subject:

body:

/


KODAMA Satoshi <kodama@ethics.bun.kyoto-u.ac.jp>
Last modified: Fri Jul 28 07:37:42 2000