FINEニューズレター編集委員会用記事

31/Aug/2002

  1. 英国、自動車よりも自転車を優先する欧州委員会の提案に断固反対
  2. ニューヨーク市長、レストランやバーの全面禁煙化を検討中
  3. BBCのレポーター、ハーグの戦犯法廷で証言する意向

新聞記事の要約です。 固有名詞の訳はあんまり調べてません。 間違ってるのがあれば教えてください。

This is a summary of recent news articles relating (directly or indirectly) to applied ethics.


英国、自動車よりも自転車を優先する欧州委員会の提案に断固反対

(from `Road rage as EU aims to make drivers liable for all accidents with cyclists' in The Guardian Weekly, August 8-14 2002, p. 3)

英国政府は、自転車と自動車の間の事故においては自動車が自動的に賠償責任 を負うとする欧州委員会の提案に断固反対している。

現在英国では、自動車と自転車が事故を起こした場合、自転車側が自動車運転 手の過失を証明しないかぎり、自動車運転手は無罪と想定され、保険が適用さ れない。英国では交通規則を無視する無法のサイクリスト(guerrilla cyclists, bicycle guerrillas)) に対する反感が強いため、欧州委員会の 今回の提案に対する反発も強い。

第五自動車保険EU指令(the fifth motor insurance directive)によれば、 自動車と自転車が事故を起こした場合、どのような場合でも自動車側が 損害に対する賠償責任を負うことになる。 これが法として各国で適用されるためには欧州議会と加盟国15ヶ国の政府が是認 する必要があるが、全会一致でなくてもよいので、英国が反対しても英国で 法として適用される可能性がある。

欧州委員会によれば、今回の提案はEU内の自動車保険を統一するという目的と、 歩行者とサイクリストを保護するという目的がある。委員会によれば、フラン ス、ベルギー、北欧諸国、オランダ、ドイツでは、交通事故においては常に自 動車の運転手に賠償責任があり、他のEU諸国もこの線で統一することが望まし い。

英国ロイヤル自動車クラブ(RAC)は次のように言って今回の提案に反対している。 「自動車運転手は、サイクリストが自分の誤ちのために補償が受けれるように、 より高い保険金を払わないといけなくなる。 多くのサイクリストはまるで何の法的規制もないかのように自転車を乗りまわし、 信号を無視し、交通標識を無視し、一方通行の道を無視し、横断歩道を無視し、 ライトもベルもなしで全速力で運転している。彼らは自転車ゲリラ(bicycle guerrillas)だ」。

他方、サイクリスト団体や交通安全団体 (たとえばロードピース(Roadpeace)、 フレンズ・オブ・ジ・アース(Friends of the Earth))は、 立証責任がサイクリストから自動車運転手に移る今回の提案は、 交通弱者であるサイクリストを守るものだとして歓迎している。

一口コメント

無過失でも自動車が責任を負うという話。 サイクリストをどう見るか(交通弱者か、自転車ゲリラか)によって、 賛成反対が変わってくる。自動車側が今回の提案に納得するためには、 自転車側が交通規則の遵守を徹底しないといけないだろう。

関連ニュース

EU motor insurance directive (PDF file)
問題のEU指令のPDFファイル。
Blame it on the driver
BBC Newsのほぼ同じ内容の記事(プラス読者の意見)。 無過失責任はno fault liabilityとも言うようだ。
Drivers may be blamed for all bicycle accidents
Independentのほぼ同じ内容の記事。サイクリストのモラルハザードの可能性も 危惧されているようだ。RACは自動車保険が50ポンド値上がりするんじゃないか と懸念している。

ニューヨーク市長、レストランやバーの全面禁煙化を検討中

(from `Mayor's proposed law has New York smokers fuming' in The Guardian Weekly, August 15-21 2002, p. 28)

ニューヨーク市長はレストランやバーでの喫煙を完全に禁止する条例を検討中 であるが、飲食店の経営者は売上げが下がることを懸念している。

1995年の条例では、座席が35以上あるレストランでの喫煙が禁止されているが、 バーや、レストランのバー・エリアでは喫煙は許されている。 今年7月にタバコ一箱が7ドル以上になるタバコ税に署名をしたのに引き続き、 マイケル・ブルームバーグ市長はすべてのレストランやバーでの喫煙を完全に禁止することを検討中である。 カリフォルニア州とデラウェア州ではすでにそのような法律が施行されており (メイン、ユタ、ヴァーモント州ではレストランだけ全面禁煙である)、 ニューヨーク市が条例を制定するならば、 全国的なレストランやバーの全面禁煙化の動きに拍車がかかると予想されている。

「タバコを吸う人は頭がおかしいとしか思えない。自分の首を絞めるようなものだ (You really have to be out of your mind to smoke. It's killing you.)」 と市長は言う。条例はレストランやバーで働く人々にスモークフリーの職場を 提供するという目的がある。飲食店の経営者は全面禁煙化すると 喫煙者が来なくなり商売が成り立たなくなると主張するが、 ブルームバーグはカリフォルニア州の例を挙げて反論している。 カリフォルニアでは1998年にバーやレストランで全面禁煙化する法を施行したが、 カリフォルニア州の保健サービス課の調査では、 飲食店の全体的な売上げは9.3パーセント上昇したという。

また、禁煙権を主張する人々は、毎年53000人の人が副流煙で死んでいることを 指摘し、オフィスで働く人々はスモークフリーの環境を与えられているのに、 飲食店で働く人はそうでないのはおかしいと主張している。

ある年寄りのヘビースモーカーは 「ブルームバーグが再選されることはないね」と述べている。 また、ある若い女性スモーカーはこう言っている。 「みな好きなことをする権利があるわ。酒を飲む。タバコを吸う。 踊る。タバコを吸う…。結局のところ、すべての楽しいことは悪いことなのよ」

一口コメント

もちろん、他者危害にならない限りは好きなことをしてもいいけど、 他者危害になるならダメだろう。ではもし、店の従業員が全員スモーカーで あったり、副流煙を吸うことに同意した上で働いているとしたらどうだろうか。 この場合は全面禁煙化はパターナリスティックな正当化しかできないだろうか。 (ちなみに市長によれば、今回の条例は、 private membership clubsには適用されないとしている)

関連ニュース

New York considers smoking ban
BBCの同内容の記事。ブルームバーグは「雇用者は社員をアスベストスの天井があるオフィスで働かせないだろう。煙草の煙も同じだ」とも言っているようだ。 条例ができるとニューヨーク市の13000の飲食店が影響を受けるとのこと。

BBCのレポーター、ハーグの戦犯法廷で証言する意向

(from `BBC reporter to testify against Milosevic' in The Guardian Weekly, August 22-28 2002, p. 9)

元ベルグラードのBBC通信員が、ハーグの戦犯法廷において、セルビアの元指 導者のミロシュビッチの犯罪に対する証言を行なうことに同意した。

スロボダン・ミロシュビッチは現在、 彼が1990年代のバルカン戦争において行なったとされる大量虐殺と戦争犯罪の罪に 問われており、 1998年10月から2001年9月まで元ベルグラード通信員だったジャッキー・ローランドは、 近く、法廷に出頭し、 1999年のコソボのドゥブラバ刑務所における囚人たちの死に関して、 ミロシュビッチによる反対尋問を受けることになる。

彼女のこの決断に対して、ジャーナリストの意見は分かれている。 元ワシントン・ポストのジャーナリストのジョナサン・ランダルは、 同じ戦犯法廷に出頭を求められたが、自分が出頭すると今後戦争報道に行く ジャーナリストの生命が危なくなるとして、出頭を拒否した。

彼女は自分は市民と同じ義務を持つのだから、出頭して当然だと述べている。 元BBCの戦争通信員であるマーチン・ベル--彼もボスニアに関する戦犯法廷で 証言を行なった--は、彼女の決断を支持し、 「市民としての義務はジャーナリストの義務に優先すると思う。 もし人が犯罪やその結果についての証人であったら、何をすべきだろうか。 何もしなくてよいのだろうか」と述べた。

一口コメント

原寿雄の『ジャーナリズムの思想』(岩波新書、1997年)によれば、 ジャーナリストは表現の自由を守るために「捜査への非協力原則」 と「非当事者原則」を有する(10-19頁)。捜査への非協力というのは、 たとえば情報源を秘匿することである。そうしないと、 今後市民からの協力が得られなくなる。非当事者原則とは、 ジャーナリストは犯罪を防ぐ義務よりも報道をする義務が優先する という考え方で、これは極限状態においてはジャーナリストを 人命救助か報道かのディレンマに置くことになる。 有名なのは「ハゲワシと少女」で94年にピューリッツアー賞を受けた カメラマン、ケビン・カーターの事例で、彼は受賞後、 世界各地からの「カメラマンはなぜ少女を助けなかったのか」 という批判にさらされ(それ以外にも原因があるという説もあるが)、 同年七月に自殺した(同、17頁)。 原寿雄の主張からすると、 今後の戦争報道にかかわるジャーナリストのことを考えるならば、 法的に強制されないかぎり、 ジャーナリストは法廷に出頭すべきではないことになると考えられる。

関連ニュース

Rowland: Why I testified against Milosevic
上のジャッキー・ローランドによる記事(BBC News)。 8月28日に法廷でミロシェヴィッチとやりあったあと、 なぜ出廷したかについて語っている。彼女によれば、 一般にアメリカ人のジャーナリストの方が裁判に参加したがらないらしい。
Rowland v Milosevic
BBC Newsの記事。コソボにいたときのローランドの報道や ハーグ裁判所でのやりとりなど、10分ほどのクリップが見れる。
Milosevic attacks BBC 'bias'
BBC Newsの記事。ミロシュヴィッチがローランドと対決したさいの戦略は、 BBCニューズの報道の偏向を主張することだったようだ。
Robert Fisk: It is not my job to provide the evidence for a war crimes trial
Independentの論説。ジャーナリストは裁判に参加すべきでないという論。

Satoshi KODAMA <kodama@ethics.bun.kyoto-u.ac.jp>
Last modified: Fri Sep 06 01:10:59 LMT 2002