こだまの(新)世界 / 文学のお話

ロバート・A・ハインライン『夏への扉』


原題は Robert A. Heinlein, The Door into Summer, (1957) で、早川の初版は1979年。SFマガジンの初代編集長、福島正実訳。

内容

・時代は1970年の冬、場所はロサンジェルス。核爆弾が使用された東側西 側間の六週間戦争というのが少し前にあったらしい。冷凍睡眠がすでに商業化 されている。

・主人公はダニエル(ダン)・B・デイヴィス。30代になる手前の、--少し頭 の禿げた--、有能な発明家兼技術者である。護民官ペテロニウス(ピート)とい う壮年の牡猫を飼っている。

・ダンは六週間戦争に参加した後、親友の実業家マイルズ・ジェントリィ と共に、家庭の雑用をするロボットを作成する会社を設立する。ダンは自動掃 除器(ハイヤード・ガール「雇われっ娘」という感じか。翻訳では「文化女中 器」という粋な訳になっている)をはじめ、窓拭きウィリイや子守りのナンや 下男ハリイなどといった発明品を、次々に作り出していき、それらはどれも大 ヒットとなる。

・しかし、会社の有能な秘書でもありダンの婚約者でもあった絶世の美女 ベル・ダーキンとマイルズの共謀によって、ダンは会社を追い出され、挙げ句 の果てに冷凍睡眠によって30年後の世界に送られてしまう。

・西暦2000年のグレイト・ロサンジェルスにやってきたダンは、しばらく は新しい環境を楽しむが、そのうち不思議なことに気づく。1970年当時自分の 頭の中にしかなかった発明品が、まったく彼の考えたままの姿で市場に出回っ ているのだ。しかも、それらの発明品の発明者はD・B・デイヴィスとなってい る!

・またダンは、マイルズが既に死亡しており、ベルも虚栄心だけは相変わ らずの、ひどいデブになっていることを知る。そして、マイルズの義理の娘で あったリッキイの消息を--もしかしたら彼女と結婚できるのではないかという 淡い希望を胸に--調べるが、調べが付く数日前に彼女は冷凍睡眠から出て、既 に誰かと結婚してしまっていた…。

・この世界で生きる希望をなくしたダンは、一大決心をしてノーベル賞級 の天才物理学者トウィッチェル博士が作成した未完成のタイムマシンを使って 30年前に戻り、歴史を変えようと試みるが…。

感想

・50年代のアメリカの時代精神を反映した元気の良い作品。軽快かつよく 練られたストーリーで、最後まで一気に読ませる。主人公ダンの御人好しでド ジだが憎めない人柄が非常に良い。映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』 が好きな人は絶対に気に入る内容だ。

・ただし、残念ながらそれほど知的興奮しない。ちょうどハリウッドの良 い映画を観て、「ああ、楽しかった」という感じ。しかし、娯楽性はとにかく 高く、読後の高揚感はSFならではと言える(かも知れない)。


メモ

・ロバート・A・ハインライン(1907-1988)。軍隊生活、大学生活を経て、 職を点々としたのちに、アウタウンディング誌の編集長ジョン・W・キャンベ ル・ジュニアに認められて1939年にデビュー。以後、晩年まで多くの作品を発 表し続ける。ヒューゴー賞四回受賞。他に『メトセラの子ら』、『人形つかい』、 『太陽系帝国の危機』、『宇宙の戦士』など。

12/03/97-12/04/97

B+


Satoshi Kodama
kodama@socio.kyoto-u.ac.jp
Last modified on 12/04/97
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