こだまの(新)世界 /
文学のお話
A・E・ヴァン・ヴォークト『スラン』
原題は
A. E. Van Vogt, Slan, (1940)
で、ハヤカワの初版は1977年(浅倉久志訳)。
翻訳はかなり読みやすい。
内容
スランだ!
殺せ!
一瞬にして街路は阿鼻叫喚の坩堝と化した。
敵意に満ちた人々の執拗な追跡のなかを、
まだあどけない顔立ちの少年は逃げる。
黒髪にまじる一房の金色の巻き毛を風になびかせながら。
追いかけてくるのは死、
待ちうけるのは恐怖!
だがその幼い少年こそ、秘密の鍵--
並みはずれた知能と能力を持つがゆえに虐げられ、
迫害される新人類スランの未来を開く鍵を握るただ一人の人間だった!
壮大なスケールと錯綜するプロット、
迫力ある筆致によって濃密なSFムードを醸しだす達人--
ヴァン・ヴォクトがみごとに描きだしたミュータント・テーマの不滅の名作!
(裏表紙の要約から)
感想
今回は感想が断片的なので(いつもだが)、列挙しておく。
- 1940年の時点でここまで書けるとはすごい。
一日で読んでしまった。
- 読んでいて筒井康隆の『七瀬再び』を連想した。
特にテレパシーを用いた会話の部分や、
超能力者のいわれなき迫害という設定。
- 非常に「これぞSF」という感じの作品。
どよどよとした雰囲気が:-)
- 個性あるキャラクター。脇役もみなそれぞれに特徴を持っている。
- 構成が非常に巧みである。ただし結末は納得がいかない。
やはりいくらSFとはいえ(そしてまた、伏線があったにせよ)、
死んだ人間が生き返るというのには抵抗を感じる。
- ヴァン・ヴォクトは夢の内容を記録していたそうだが、
確かに彼の作品は幻想的であり、潜在意識に訴えるものがある(気がする)。
- 解説にあるが、この小説がアメリカで発表された当時、
迫害される超人類スランをSFファンになぞらえるのが流行ったんだそうだ。
笑える。というか、当時のSFファンのおたく性がしのばれる。
05/13/98
B+
Satoshi Kodama
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Last modified: Sun Apr 19 15:23:18 JST 1998