原題は、 Robert A. Heinlein, Citizen of the Galaxy (1957) で、ハヤカワ文庫の初版は1972年(野田昌宏訳)。訳はそこそこ。
太陽系を遠く離れた惑星サーゴンでは、
今およそ時代離れした奴隷市場が開かれていた。
物件97号--薄汚れ、痩せこけた、
生傷だらけの少年ソービーを買い取ったのは、
老乞食《いざりのバスリム》である。
彼の庇護の下ソービーの新たな生活が始った。
だが、ただの乞食とは思えぬ人格と知性を持ち、
時おり奇怪な行動を見せるバスリムとは何者?
そして死の直前彼が催眠記憶法によってソービーに託した、
宇宙軍X部隊への伝言とは?
自己の身許を確認すべく、
大銀河文明の陰にうごめく奴隷売買の黒い手を追って、
やがてソービーは人類発生のふるさと地球へと向った……!
SF界の王者遂に本文庫初登場!
(扉から引用)
子供のころに誘拐されて奴隷になった主人公が、 苦難の末に故郷の地球に帰ってみると、 実は彼は大金持の一族の長となるべき人間だった。 家督を継ぐのを邪魔しようとする人々に辛くも打ち勝ち、 ようやく大企業の社長の席についてみると、 自分の傘下の企業が奴隷貿易に関わっていることを知る。 そこで彼は奴隷制を撲滅すべく立ち上がる…。
という感じの話で、前半は西洋中世にもありそうな誘拐物。 後半は米国の奴隷制を念頭に入れた展開になっているようだ。
この物語でも、ハインラインは「市民の責任」を主題にしているようだ。 本編を読むと、 「責任感のある銀河の市民は、 宇宙の辺境で行なわれている奴隷制を許すべきではない。 あくまでも正義を完徹すべきだ」という主張が見てとれると思う。 これを地球レベルにすると、 「アメリカは、たとえ不正義が地球の片隅で行なわれていたとしても、 いかなる不正義も許してはいけない」 という主張になると思われる。 良くも悪くもハインラインらしい。
登場人物は今回も生彩に欠ける。 特に女性は典型的すぎ。印象に残らない。 物語自体も、あまり新鮮味がない (ただし、自由商人の生活に関する人類学的考察は少し興味深い)。 というわけで、残念ながら今回はそれほどお勧めではない。
マーガレット・メーダー博士
「慣習というものはその人がだれで、どこに属していて、
何をすべきかをちゃんと教えてくれるものなのよ。
非論理的な慣習でも、ないよりはましよ。
人間は慣習なしに共同生活はいとなめないわ。
人類学者としての立場からすれば、"正義"とは役に立つ慣習をさがすことだ--
っていえるんじゃないかしら」(161頁)
マーガレット・メーダー博士
「物事が正しいとか正しくないとかという判断は、
たいていの場合、判断する人の環境がもとになるのよ。
もともと、
それ自身が正しかったり、悪かったりするものなんてほとんどないわ。
物事の正邪というものはその社会の文化に左右されるのよ」(213頁)
ガーシュ
「もちろんきみには責任がある」「市民たるもの、だれでも責任を背負っている。
市民というのは--責任を背負っている人間のことをいうんだよ。
しかもその市民というやつが
泥ンこでつくった壁にとりかこまれている村の住民じゃなくて、
銀河の市民ともなれば--きみみたいにだぜ--
その責任はきみ一人を殺してしまいかねないほどの重さになるだろうよ」(437頁)
09/17/98-09/20/98
B-