こだまの(新)世界 / 文学のお話

レイ・カミングス『宇宙の果てを超えて』


原題はBeyond the Stars。1928年という、恐ろしく古い時代に発 表された作品。ハヤカワSF文庫では9番目に発刊されている。

(不勉強で頼りないが、この本の解説によると、どうも「いわゆるSF」とい うのは1940年代以降に生まれたらしいから、この本は「いわゆるSF」以前の作 品ということになる)

この作品のあらすじはこうである。

20世紀の終わりに「地球は、より大きな物体の原子のようなものに過ぎな い」ことにある老いた天才科学者が気付いた。

彼はその二人の娘と知合いの二人の若者を連れて「より大きな世界」へ出 るために宇宙旅行をし、ついに地球人によく似た生物の住む惑星に到着する。 (彼らの乗った宇宙船は、その惑星の科学者たちの使っていた電子顕微鏡の上 のプレパラートから出現する--結局われわれの宇宙は、彼らの世界のとある小 さな物質の一原子に過ぎなかったのだ)

その惑星の唯一の国であるカリマでは、女性の出生率が2対1で男性の出生 率に上回っているため、一夫多妻制が認められている。また、美しい女性だけ が重宝されるため、醜い幼児と年老いた女性は殺されることになっている。つ まり、ポリガミーと幼児遺棄とおば捨てが認められている社会なのだ。

これに反発した女性達は、<処女の島>に集まって、政府の転覆を図って いる。これはアマゾネスからの着想か。

しかし一方で、他の惑星から来た生物(力の強い獣人に、非常に高度な頭脳 を持った生き物が寄生している--「身体」と「精神」の分離可能な生き物と考 えられる)がこの惑星を支配しようと、カリマの王子を捕えて、着々と戦闘準 備を進めている。

要するにこの国は危機的状況にあるのだ。

そこで優れた知性と力を持った地球人の若者が活躍し(老人の科学者は旅の 疲れで死んでしまう)、分裂しかけていた国を一まとめにして、別の惑星から 来た生物に戦闘を挑み、苦戦の末に見事に勝利する。

闘いのあと、王子は国王になり、地球人の若者の提案で一夫一婦制が採用 され、幼児遺棄もおば捨てもなくなり(つまりキリスト教的文明国家となり)、 地球人の男女4人はそれぞれ結婚してこの惑星に残ってめでたしめでたし、と なる。


この作品は、二つの大戦期の間に発表された作品であり、20年代と言えば アメリカでは大恐慌を控えているとはいえ、黄金の20年代と謳われた時代であ る。また、ぼくの記憶が正しければ、ウーマン・リブの時期でもあったはずだ。 このSF小説はそのような時代背景を想起させて興味深い。

しかし、作品の出来はいまいちだった。特にマッチョな男性が活躍する、 という設定にはヘキエキさせられる。それに最後の方の展開があまりに安易す ぎる。また、登場人物の性格付けもいい加減である。楽天的な終わり方もいか にもアメリカ的でいただけない。


レイ・カミングスは20年代から50年代にかけてアメリカで活躍したSF作家。 「大宇宙冒険活劇」を得意とするらしい。この作品のようなマクロ・コスモス ものや、逆に原子の中の世界を描くミクロ・コスモスものや、時間もの、未来 もの、宇宙戦闘もの、海底もの、といろいろ手掛けているそうだ。相当多産な 小説家といえる。

09/01/97-09/07/97

76/100


Satoshi Kodama
kodama@socio.kyoto-u.ac.jp
Last modified on 10/13/97
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