道徳

(どうとく morality, morals)

`I'm not making any moral judgements, of course' (sniff).

---R.M. Hare

「周知のように、モラリティという語は一般的に道徳を指すよりも、 むしろ特殊的に性的関係の道徳を指すものである。モラリティの問題は 恋愛や結婚の道徳に関する問題であるということが出来る」

---清水幾太郎、『人生と思想』、河出新書、1953年、37頁

--倫理と道徳の違いは。
「エシックス(倫理)の語源はギリシャ語、モラル(道徳)はラテン語で、内 容的には同じだ。西洋は法治主義だが、法律は取り締まるべきことの全部では なく、やや狭い範囲を対象とするに過ぎない。法律の許す範囲でどう自分の行 為を決定するか、余地が残っている。その余地をどう生かすかが道徳の範囲だ」

---加藤尚武


日本語の「道徳」という字面から説明すると、 道徳とは、人の生きるべき道や人の持つべき徳のことだ、 と言える。

英語のmoralは、ラテン語のmores(単数形はmos)から由来しており、 「習慣」という意味である。 ついでに、「倫理(学)」 の原語であるethicsは、 ギリシア語のethikeから来ており、これまた習慣といった意味である。

倫理学は道徳哲学moral philosophyとも呼ばれるように、 倫理という語と道徳という語はほとんど交換可能に使われる場合が多い。 しかし、倫理学を知らない人がわたしの専門を訊いてきたときに、 「倫理学をやってます」と言うと、 「あらまあ、難しい学問をおやりなのねえ」 と言ってそれきり話が先にすすまないのだが、 「ええと、まあ道徳の勉強です」などと言うと、 「あら、あなたおかたい方なのねえ」と言われて、 それ以降まともな付き合いをしてくれないことになる。 ここから察せられるように、 道徳という言葉は一般的に悪い印象を持っており、 倫理という言葉は、あまり意味がわからないがゆえに、 中立的な印象か、あるいはときには良い印象を持っていると言える。

それはともかく、「道徳」も「倫理」も、一般には、 基本的には社会で流通している規範一般を指す。(05/09/99)


上の引用は以下の著作から。


KODAMA Satoshi <kodama@ethics.bun.kyoto-u.ac.jp>
Last modified: Mon May 28 14:37:44 JST 2012