(あめりかんりありずむ American realism)
The prophecies of what the courts will do in fact, and nothing more pretentious, are what I mean by the law.
---OW Holmes
法哲学における一理論。 19世紀末から20世紀前半に盛ん。 裁判過程に注目する点と、懐疑主義が特徴。
裁判所の判決過程をよくよく研究すると、 三段論法を用いて規則を適用しているなんていうのは真っ赤なウソで、 規則としての法だけでなく、 裁判官の性格や社会の風潮などいろいろな要素が判決に大きく影響している。 そこで、判決を正確に予想するためには「紙上の規則paper rules」(いわゆる法) だけでなく、「本当の規則real rules」を研究する必要がある (たとえば裁判官や陪審員の行動の分析、 コンピュータによる判例のアーカイブ作成など)。 これが規則懐疑主義の立場。 ホームズ(Holmes)、グレイ、ルーエリン(Llewellyn)などがその代表。
事実懐疑主義はさらに進んで、 判決は事実がどう出るかによって大きく左右されるから、 確実な予想をすることはほとんどできない、裁判なんて水物だとする。 ダグラス、フランクなどがその代表。
このような懐疑主義に対し、ハートは 規則が明確に当てはまるケースと、 そうでない不確実なケースを区別すべきだと主張する。 たとえば、「公園では乗り物禁止」という規則がある場合、 三輪車やローラースケートがこの規則によって禁止されるかどうかは 議論の余地があり裁判官の判断に委ねられると言えるが、 しかし、たとえば自動車がこの規則に適用されることは明らかである。 このように、 アメリカン・リアリズムは規則の適用があいまいな場合を強調しすぎており、 規則が明確に適用される (したがって三段論法あるいは演繹が適用される)場合を考慮に入れる必要がある。
また、「法は、つまるところ、裁判官がどのような判決を下すかの予想に過ぎない」 という主張に対しては、ハートは法の規範的側面を強調し、 法は「犯罪をなすと刑務所に入れられる」という予想の役割をはたすだけでなく、 法を行動指針として受けいれている人にとっては、「犯罪をなすべきではない」 という規範としての役割をはたすと述べている。 (ハートは前者の役割を「法の外的視点」、 後者を「法の内的視点」と区別する。 詳しくは『法の概念』を参照せよ)
スカンジナビア・リアリズムも参照せよ。
03/Aug/2001