テキストは、 (Hans Reichenbach, The Philosophy of Space and Time, Dover, 1958.) 今回のレポートは第27章「空間-時間計量体系の構築」を2000字以内でまとめる。
今回の話は理解できてないところが多いので、大ピンチ。
(評価)
(段落毎のまとめ)
これまでに、時間の順序および時間の比較に関して、因果性の概念を用い た位相的対応付け定義を行なった。本節では、これらの定義に測量的定義を加 えることにより、因果性の概念に全面的に基づくような時空の計量体系が完全 に構築されうることを示す。その際、経験的言明(公理)と恣意的な定義とを注 意深く区別する。
時空の順序を確立するために、まず、何もない空間にでたらめに飛び回っ ている無数の質点を想像する。そして、以下の手続きに従って、いくつかの点 を組合せてある固定した系――系内の質点が互いと相対的に静止状態にあるよ うな系――を選び出し、その系における時空の計量体系を定義することを試み る。測定には第一信号すなわち光信号を用いる。
最初に、質点Aにおける時間間隔を暫定的に定める。次に質点Aから質点B, C, ...,に送った光信号が質点Aに戻ってくる時間間隔ABA, ACAなどが常に一定 であるような諸点を選びだし、これをAに関係づけられた系と呼ぶ。しかし、A に関係づけられた系は必ずしもB, C, ...,に関係づけられた系ではない。すな わち、時間間隔ABA, ACAが一定であっても、質点Aの時間の尺度を受けとった 質点Bや質点Cなどから光信号を質点Aに送り戻ってくる時間間隔BAB, CACなど は一定とは限らない。そこで、任意に選んだ質点を組合せ、系内の各々の点に 対して、関係づけられた系であるような系Sを定義する。このような系が存在 することは経験的事実である(公理IV, 1)。
さらに、複数の系Sの中から、質点Aから送った光信号が質点Bと質点Cを通 過して再び質点Aに戻ってくるまでの時間間隔ABCAと、その逆回りの時間間隔 ACBAとが等しくなるような系を選びだし、そのような系をS'と呼ぶ。系S'が存 在するかどうかは、経験的な事柄である(公理IV, 2)。
次に、系S'における同時性の定義を行なう。(162頁の)式(1)のeを1/2に定めると、系S'における各々の質点に関して、(1)同期化が対称的、(2)同期化が推移的になるという利点がある。ただし、e=1/2に設定することは記述的に単純であるからに過ぎない。
さらに、この系S'においては、空間の測定は時間の測定に還元されうると いう重要な特性がある。すなわち、時間の概念のみを用いて、〜の間、直線、 空間的合同の対応付け定義を行なうことができ(定義e、定義f、定義10)、そし てこれらの定義によって系S'における幾何学が決定可能である。ただし、その 場合、系S'のすべてについてユークリッド幾何学が成り立つわけではない。そ こで、系S'のうち、ユークリッド幾何学が成り立つ系を任意に選びだし、系 S''とする。このような系が存在することは、経験的事実である(公理V)。
ここまでで、剛体や自然時計を用いずに光信号のみによって、集合S''の各々 について完全で一義的な計量体系を定義するという重要な目的が果たされた。 このような仕方で構築された幾何学を光幾何学と呼び、これまでに用いられて きた、光信号と質点のみに言及する公理を光公理と呼ぶことができる。
他方、系の集合S''を絞りこんで、互いに一様に運動する系の集合である ニュートン慣性系の集合Iを得るという作業が残っている。しかし系の運動状 態をニュートン慣性系のそれにまで絞り込むことは、光の運動を用いるだけで はできない。そのため集合S''はローレンツ変換によって結びつけられるよう な慣性系の集合Iを真部分集合として持つだけでなく、それ以外の変換(172頁 の(4))によって結びつけられるような系の集合Tをも含んでいる。
そこで剛体あるいは自然時計という物質的物体を用いてこの絞り込みを行 なう。系Kを(4)によって変換したK'の軸は、Kに相対的に常に膨張するので、 系内の質点を剛体によって常に結びつけておくことができない。また、集合I の時間は自然時計と合致するが、集合Tはそうでない。こうした違いを利用し て、集合S''から集合Tを除外し、慣性系の集合Iを限定することが可能である。
以上で慣性系の集合とその計量体系を決定することができた。これまで光 公理を用いて光幾何学を構築してきたが、最後に、光を同時性の定義のみに用 い、他はもっぱら物差しや自然時計という測定道具を用いて構築した幾何学が、 この光幾何学とどのような関係にあるかを考察する。この関係についての言明 は物質公理と呼ぶことができる。
これまでに構築してきた光幾何学は、ガリレオ変換ではなく、ローレンツ 変換を定義の一つとして用いてきたために、相対論的光幾何学となっているが、 物質公理の要点は、物質的事物は、(古典的光幾何学ではなく)この相対論的光 幾何学に従がうということである(公理VI-X)。この主張は、相対論の物理学的 側面における核心を形成しているが、これは経験によってのみ確かめられる。
以上の考察によって、時間と空間に関する相対論の物理学的主張と認識論的基礎とを区別する作業は成功したと言える。
まとめるさいに、重要な情報が抜け落ちていることが多いとのこと。 とくに今回は数式をすべて省略してしまっていたが、 それは良くなかったようだ。 要点をきちんと押さえるセンスをもっと鍛えなければならない。
評価: 76点
(段落毎のまとめ)
1. (これまでに、時間順序および時間比較に関して、因果性の概念を用い
た位相的対応付け定義を行なったが、本節では、これにさらに測量的定義を加
えることで、時空の計量体系の完全な構築が可能であることを示す。その際、
経験的言明と定義とを用心深く区別する)
同時性と空間の測量に対するこうした予備的な考察の後に、これからわれわれ
は空間と時間の物理学的理論の中心問題、すなわち時空の計量体系の完全な構
築にうつる。われわれはこの構築を、先に時間順序の定義および時間比較の定
義を与えた時間の因果論と関係づけ、そして、因果連鎖の概念に完全に基づい
た物理的時空幾何学が生じるような仕方で、測量的定義がこれらの位相的対応
付け定義に加えることができるということを示す。われわれは経験的言明と定
義とを用心深く区別し、時間と空間の相対論のどの言明に対してこれらの二つ
のカテゴリーが当てはまるのかを示す。前と同様に、経験的言明は「公理」と
よばれる。というのも、それらは時空論の体系において論理的な前提の役割を
果すからである。
2. 何もない空間に、無数の質点がでたらめに飛び回っていると過程する。 これらの点の各々に、観察者がおり、これらの観察者たちは信号によってお互 いに通信できる。これらの信号の助けを借りて、今彼らは時空順序を確立した いと考える。
3. (時空順序の確立には、第一信号、すなわち光の信号が用いられる。ま
ず、「相対的に静止している系」における時空の計量体系を確立する。この系
の選択、すなわちどの系が相対的な静止状態にあると言えるかは、定義の問題
である。ニュートンの慣性系をもたらすような定義が存在するかどうかは経験
によってのみ知られる)
測定measurementsのために、観察者は第一信号、すなわち、
光の信号を用いる。なぜなら、この仕方で構築される時間の順序は、それが他
の信号に対してより先のとより後のとい
う関係を、他の信号の方が遅いために侵害しえない、という長所を持つからで
ある。今、観察者たちは「互いに相対的に静止している」と呼ばれうる質点の
系を選ぶという作業をする必要がある。それは、この「固定した系」における
時空の計量体系を定義するためである。そのような固定した系を選択すること
は、これまた任意のことがらであり、相対的な静止状態は対応付け定義の問題
である。しかし、一つの定義がその単純さの故に区別され、またそれはニュー
トンの慣性系をもたらす。そのような定義が存在するということは事実問題で
あり、真でも偽でもありえない。それゆえわれわれは基本的な経験的事実を公
理の形式で述べなくてはならない。これらの公理が成り立つのは、あらゆる条
件においてというわけではなく、無重力場においてのみである。他方、これら
の公理が適用できるという事実は、無重力場かどうかの基準を与える。そこで、
われわれの考察が無重力場に限定されていることを強調する必要はないと言え
る。この限定は、公理の妥当性が仮定されるときに、含意されている。
4. 固定した系の構築、すなわち相対的な静止状態にある質点の系の構築 は、さまざまな質点における観察者によって行なわれる一定の作業によってわ れわれが記述するような手順を踏んで遂行される。Aにおける観察者は、「Aに おける時間順序」が何を意味するかを知っている。しかし彼はまだ、「二つの 等しい継起的な時間間隔」が何を意味するかを知らない。暫定的に、彼は完全 に任意の規則を立てる。すなわち、彼は単調増加関数によって、後に定義され る「一様な時間」とは異なる時間の尺度を選ぶ。
5. (「質点Aに相対的な系」の確立)
Aにおける観察者は、信号によって点Bに--点BはBで反射する光の信号の時間間
隔ABAが、任意に選ばれた計量体系においてAで繰り返し測量された場合、常に
同一の長さになるという特性を持つ--到達しようとする。ABAはそれゆえ一定
である。これが可能であるためには、質点BはAに相対的に特定の運動状態--そ
れはAにおいて選ばれた時間測量に依存する--でなくてはならない。この方法
を用いた場合、Aにおける観察者は質点B, C, …, といったいくつかの点を探
し、これによって「Aに関係づけられた系」が形成される。
6. Aにおける観察者は、いまや、彼の時間測量を、たとえば時間の信号を 毎「秒」送ることによって、他の点B, C, …,に移すことができる。B, C, …, における観察者は、Aからの時間信号の到着によって区切られる時間間隔を等 しいものとして単純にみなす。(この手続きはまだ同時性の定義を必要としな い。)これらの時間間隔はAにおける時間間隔と通常の意味で等しくある必要は ない。というのも、Aに相対的なB, C, …,の運動状態については、まだ何も特 定されていないからである。われわれは単に暫定的な定義を与えているのみで ある。
7. (「質点Aに関係づけられた系」は、必ずしも「質点Bに関係づけられた
系」ではない)
質点B, C, …,における観察者たちは、今、次の実験をする。彼らは、彼らが
自分たちの時間の測量に、Aによってすでに与えられた時間の尺度を用いると
き、光の信号BAB, BCB, CAC, などが、(時間間隔)BAB=一定、BCB=一定、CAC=
一定などをも与えるかどうかを測量する。一般的に言って、彼らはそうでない
ことを見出すであろう。たとえ彼らがAによって与えられた計量を用いなかっ
たとしても、Bにおいては、すべての質点に関してBAB=一定、BCB=一定、等を
生み出す計量はないであろう。言い換えると、「Aに関係づけられた系」は、
「Bに関係づけられた系」ではない。
8. (系Sの選択。系Sは、系内の各点にとって「関係づけられた系」である。
このような系が存在することは経験的に知られることであり、われわれがこの
ような系を選択するのは恣意的な定義による)
この考えを、選択された諸点を組合せて特別な系にするために用いよう。この
目的のために、われわれは「諸点の系Sは、この系がその諸点の各々
にとって、関係づけられた系であるという仕方で選ばれる」ことを
要求する。そのような系が存在するということは、経験的な事実(公理IV, 1)で
ある; われわれが(他の)すべての系の中でこの系を選ぶということは、任意の
定義を表わしている。
9. (系S'の選択。系S'は、系Sに、光信号がABCAを通過する時間間隔と
ACBAを通過する時間間隔とが等しい、という制限を加えたものである)
この仕方で得られた系Sの諸点を用いて、われわれはこれから次のよう
な実験を行なう。われわれは一つの光の信号を、三角形の道のりABCAに沿って
送り、別の光の信号を、ACBAに沿って反対の方向に送る。そして、時間間隔
ABCAが時間間隔ACBAと等しいかどうかを試験する。ここでも、まだわれわれは
離れた諸点に対して同時性の概念を用いない。われわれは二つの信号をAから
同時に発信し、それらがAに同時刻に戻るかどうかを観察する。一般的に言っ
て、この条件は任意の系Sに対しては満たされないであろう。それゆえ、諸系S
の中で、一周旅行の公理を満たす系S'が選ばれること要求するならば、われわ
れは、さらなる制限を加えることになる。そのような系S'が存在するというこ
とは、またしても経験の問題(公理IV, 2)である。
10. (質点Aと質点Bとの時間比較)
ここまでのところ、われわれは運動する質点と質点との時間の比較を行なって
こなかった。しかし、定義(2, sec. 19)によってそうすることは可能であった
であろう。というのもこの定義はこれらの質点の相対的な運動状態に関しては、
いかなる仮定も含んでいないからである。われわれは単に、Bにおける時計が
継続してAにおける時計と相対的に合わされているということを想像しさえす
ればよい。というのもわれわれは、Aにおける計量体系が恣意的であり、またA
とBの相対的な運動状態が恣意的であるがために、Bにおいて一度確立された同
時性を恒久的に維持する装置を作ることができないからである。この考えには
いかなる困難も含まれず、そしてその結果生じる同時性は「それが時間の順序
に関して不確定であるような出来事のみを関係づける」という基本的な位相的
要件を満たしている。
11. (系S'における特別な同時性の定義)
質点において選択をなし、これらの点の系S'を空間的な座標系へと組合せたの
で、われわれは次に、特別な同時性がこの系に対して定義されうるかどうかを
問うことができる。この同時性の定義は、eを1/2に設定することによって与え
られる。その利点は、次の性質に存する:
12. (e=1/2にするのは、記述的な簡潔性のためにすぎず、この定義がより
真であるということではない)
これらの特性は、決して自明ではない; それらは先に言及された光の公理--そ
れはS'においてあてはまる--が前提されていることを必要とする。これらの特
性によってS'の時間の順序はとりわけ単純になり、そしてこれらの特性はアイ
ンシュタインが特殊相対性理論において用いた、e=1/2であるような同時性の
定義を正当化する。このことによってわれわれは、この定義がその単純さにた
めに「より真」である、などと信じないようにすべきである。ここでもまた、
われわれは記述的な単純さ以外のなにものとも関係していない。同時性のより
複雑な定義を選ぶことは、われわれの想像力にとってなんの困難ももたらさな
い。ここで「同時性の推移性」と「同期化の同じ規則に従っ
た同時性の推移性」とを混同すべきでない。最初のものは、いったん同時性が
(1)に従って、一つの時計に対して一義的に定義されたなら、
常に当てはまる。ある所与のいくつかの時計の比較のためには、時間とともに
変わるかもしれないような、eの特別な値が選ばれなくてはならないだろう。
推移性の第二の種類は、一定の物理学的な条件に依存している。もしこれらが
満たされたとしても、われわれはこの単純な種類の同時性を用いるよう強制さ
れるわけではない。
13. (時間の順序をこのように定義することにより、空間の測量が時間の
測量に還元されうる)
諸系S'は、時間の順序の単純さに加えて、別の重要な特性を持つ: それらの系
は、われわれが空間的な測量をすることを可能にする。こ
の事実はものすごく重要である。というのは、それは空間の測量が時間の測量
に還元されうることを示しているからである。それゆえ時間は論理的
に空間に先行する。
14. (「〜の間」という空間的順序の位相的概念の対応付け定義。
この定義は時間的概念のみによって与えることが可能である)
最初にわれわれは、空間的順序のある重要な位相的概念を定義する。それは
〜の間betweenという概念である。われわれは同一の概念を
第14節で扱い、そこでの概念の論理的意義が暗黙的定義によって決定しうるこ
とを示した。ここではわれわれはより多くのことを達成しなければならない:
われわれは、〜の間という概念に対応しうる物理的関係を
発見しなくてはならず、またそれにより、この論理的概念を物理的現
実に適用することが可能になるようにせねばならない。われわれが
第14-15節で説明したように、論理的概念はいかなる特定の適用も規定しない。
われわれはここで、物理的幾何学をもたらすような適用を考察する。したがっ
てわれわれは今、〜の間という概念の対応付け定義を与え
なくてはならない。驚くべきことに、この定義は時間的概念のみによって与え
ることができるのである。空間の位相的隣接関係は、それゆえ、時間的関係に
還元され、したがって因果関係に還元されるのである。
15. (時間の概念を用いた「〜の間」の定義)
定義e。点BがAとCと
の間にあるのは、第一信号ABCが、第一信号ACと
同時刻にCに到達する場合である。(つまり、(時間間隔)ABC=ACの場
合)
16. もしこの定義が、〜の間という概念の純粋な数学-論理学的意義に矛
盾してはならないとすれば、次の経験的規則が付け足されなくてはならない:
公理G。もし、2点B1とB2に対して、
(時間間隔)AB1C=ACであると共に、(時間間隔) AB2C=ACであることが真であれ
ば、(時間間隔)AB2B1=AB1か、(時間間隔) B1B2C=B1Cかのいずれかである。
17. (直線という計量的概念の対応付け定義)
〜の間という概念を決定したので、われわれは今や、空間的測量に向けてさら
なる一歩を踏み出すことができ、計量的概念である直線と
いう概念を定義することができる。この場合、われわれは第14節で用いられた
暗黙的定義という方法を用いず、論理的に許容されうる別の方法を用いて、直
線という概念を、〜の間という概念と集合
という基本的な論理的概念から導きだす。
18. 定義f。AとCを通過する直線は、 次のような点の集合である。それらの点は互いに〜の間と いう関係を満たし、かつ、AとCの2点を含む。
19. (対応付け定義による直線の概念と、幾何学における直線の概念は一
致するか)
この対応付け定義によって決定される直線が幾何学における直線の概念と一致
することが示されなくてはならない。すなわちAからBへの
直線はBからAへの直線と同一である、などが示されなくて
はならない。この証明はここまでで与えられた諸公理に基づいて与えることが
可能である。
20. (空間的合同の対応付け定義)
今やわれわれは、空間的合同の対応付け定義を与えることによって、
物理学的意味における計量体系を定義することができる:
定義10。もし、時間間隔ABA=ACAならば、空間的距離
ABは空間的距離ACに等しい。(図29参照)
21. (これらの定義によって、空間の幾何学のあらゆる問いが十分に説明
されうる)
これらが、空間の幾何学のために必要とされる定義のすべてである。われわれ
は幾何学的性質のいかなる問いをも、時間測量を全面的に用いることによって
答えることができる。われわれは過剰決定を与えてさえいるのであり、今やわ
れわれの体系の無矛盾性を証明せねばならないが、それは容易になされうる。
定義fの直線が定義10の測量の意味において最短の線でもあることは、容易に
示されうる。
22. (合同の定義をした後、系S'における幾何学は経験的に知られる)
諸系S'のうち、われわれが測定を行なうつもりである系の一つに、わ
れわれがいると想定しよう。とりわけ、われわれはS'における幾何学を決定す
ることに関心を持っている。合同の定義がいったん与えられれば、幾何学の選
択はもはやわれわれの手にはない; むしろ、幾何学はいまや経験的事実である。
23. (諸系S'のうち、ユークリッド幾何学が成り立つものを諸系S''とする。
その選択は定義であるが、そのような諸系S''が存在することは経験的に知られる)
もしわれわれが、ある円の円周と直径を測定すると、その比はπに等しくなる
だろうか? 一般的に言えば、幾何学はユークリッドのそれにはならない。しか
し、もしわれわれが選択された諸系が「定義された幾何学はユークリッドのそ
れになる」という条件を満たすことを要求するなら、われわれは諸系S'から、
ある諸系S''を選ぶことができる。それらの選択は定義に基づくが、そのよう
な諸系S''があるということはこれまた経験的事実である(公理V)。
24. (光信号だけで四次元時空連続体の計量構造が与えられる)
今やわれわれは重要な目的地に到達した: われわれは集合S''の各系において、
剛体や自然時計を使うことなく、完全で一義的な計量体系を定義し終えた。光
信号だけで四次元時空連続体の計量構造が与えられるのである。この構築を
光-幾何学と呼んでもよかろう。それが適用可能であるかど
うかは、先に言及した、光信号と質点にのみ言及し、それゆえ光-公
理と呼ばれる公理の真偽に依存する。
25. (第二の目的はニュートン慣性系を得ることであるが、集合S''はまだ
十分限定されておらず、ニュートン慣性系以外の系も含む。)
他方、第二の目的はまだ達成されていない。われわれはまだ諸系のS''の集合
が、ニュートンの慣性系Iの集合と同一になるほど十分には制限して
いない。集合S''はまだ相当一般的で、I以外の他の諸系を含んでい
る。さらなる説明が要求される。われわれは自由に運動する個々の質点から出
発し、それらから質点の系Kを、光信号によって行なわれた測定の結果に基づ
くいくつかの制限を加えることによって、構築した。今や、これらの制限を満
たす系は一つではなく、多数あることが示されうる; それ
らは集合S''を形成する。われわれの目的は、正確にただ一つの系を含む集合
を定義することではない。というのも、ニュートン慣性系は互いに相対的に一
様に運動する諸系の集合Iを形成するからである。われわれの構築の
目的は、この特定の集合Iに到達することであり、すなわちそれは、
光信号の助けを借りて、諸点のある一定の系の内部における
幾何学を決定するばかりではなく、同時に多くの質点の系から選択
を確立し、その選択の結果、特定の運動状態にある諸系の
みがわれわれの条件を満たすというようにするためである。そこでわれわれは、
光の運動を諸系を「結び」つける物理的「枠組み」と考えて、空間における運
動状態を特定したいと考える。しかしながら、光の運動は枠組みとしてはあま
りにも緩いため、運動状態を慣性系のそれと同一にするほどには限定すること
ができない。われわれが得るのはより一般的な集合S''であり、それは慣性系
を真部分集合として含んでいる。しかし、すでに相当の制限が可能な運動状態
の全体に加えられているのであり、また、測定の手続きとは独立に、利用され
うる物理的過程が存在するとすれば、運動状態を自由空間において定義しうる
ような方法がすでに示されたのである。
26. 何が集合S''の過度の一般性を構成するのか?この集合は数学的には以 下のように理解されうる。集合S''のうちのなんらかの系Kが与えられた場合、 その系を次の座標変換によって同じ集合に属する系K'に変換することが可能で ある。(座標変換の図)集合S''は今や、この変換が前提する必要のある正確な 形式を特定することによって特徴づけられなくてはならないであろう。以下の 考察はこの目標を果すであろう。
27. 光-幾何学が諸系S''の各々に対してこれまでに構築され、そして距離 の等しさは、光線が等しい距離を等しい時間で移動する、すなわち光の速度は 一定となるという仕方で定義された。われわれの想定に従えば、光-幾何学は これらの諸系の各々においてユークリッドのそれであるので、光の伝播は次の 関係(1)によって与えられる。Δは二つの端点の対応する座標のあい だの違いを示している。もしわれわれがct(これは時間の単位の便宜的な表記 にすぎない)の代わりにx4を書き、x4の自乗を左辺に持っ てくると、等式は(2a)のようになる。運動する系K'ににおいては、光の伝播は これに対応する同一の形式の等式(2b)によって与えられなくてはならない。そ れゆえ、必要とされる変換は、それが(2a)を(2b)へと変換するという条件によっ て特徴づけられる。
28. この問題の解決法は、数学者にはよく知られている。この条件は線型 変換(3a)によって満たされる。この場合の係数は次の条件(3b)を満たし、また、 加法は上付き記号を繰り返すことによってなされる。これらの変換は、定数 k--これはまもなく議論される--を除いて、ローレンツ変換と同一で ある。上の条件を満たすもう一つの変換は、(4)の形式によって与えられる。 これらの関係は類似変換と呼ばれる。もし(2a)を満たす一つの座標系が与えら れるならば、集合S''は、その与えられた系から変換(3)と(4)によって導出さ れうる諸系の全体として限定される。
29. (光-幾何学では集合S''までしか絞り込めず、何か別の物理的手段を 用いなければ慣性系Iは特定できない) それゆえ集合S''は一般的すぎるのであり、というのも慣性系の集合 Iはローレンツ変換のみによって結びつけられるのであり、一方、変 換(4)はこの集合をはみだしてしまうからである。集合S''は光-幾何学による 運動状態の限定の限界を構成している。S''の下位集合である集合 Iの限定は、光信号以外のなんらかの物理的な手段を用いることがで きなければ、不可能である。ただ一つの議論が、光-幾何学のみによって集合 Iを定義することを支持するために提示されうる; S''に属 するがIには属しない系Tは、物理的な特異性を持っている ことが示されうる。系Tは無限を通過し、しかも有限の時間間隔のう ちに戻ってくるような光信号を含んでいる; またそれは、光信号によって、戻っ てくる信号がそれぞれの目的地に到達しない間だけ、一方 向に結びつけられうるような、有限に位置づけられた諸点を含む。もしわれわ れが有限と無限との違いを第12節の意味において物理的に認識しうるものとし て考えるならば、集合Iはしたがって光-幾何学によって定義するこ とができる。しかし、光-公理は、われわれが後に論じるように、限定された 空間領域においてのみ合てはまるので、そしてまた、いかなる無限定の空間も 決定のためには利用することができないので、この方法は成功しない。われわ れが集合Iの諸系から逸脱する諸系Tを記述することができ るのは、常に、われわれの手の届く空間の外においてのみである。
30. したがってわれわれは変換(4)を除外し、それゆえ種類Tの 諸系を除外する別の方法を探さなくてはならない。もしわれわれが系 Kから、変換(4)を使って系K'へ行くなら、後者の諸点は Kの諸点に相対的に静止してはおらず、そしてその空間軸はたえず Kに相対的に 膨張している。それゆえ、K'は異なる時間の 尺度を持つ。
31. (剛体または自然時計の導入。それらが果たす役割に注意)
したがってわれわれは、物質的物体を導入することによって、これらの変換を
除外することができる。系Iの諸点は常に剛体によって結びつけるこ
とができるが、これは系Tにおいては不可能である。そこでわれわれ
は慣性系の定義を得たことになる。さらに、系Iの時間は、自然時計
の時間に対応するが、それは系Tには合てはまらない。時計へのこの
言及も、慣性系の集合の定義として用いることができる。物質的物体の導入に
より、諸系Tをこのように排除することが可能である。この方法は物
質的物体の最も重要な機能を利用すらしていない、ということに注意すべきで
ある。剛体は系内の空間的合同の定義のために用いられて
いるわけではなく、一つの--そして実にただ一つの--距離を、固定したものと
して限定するためにのみ、すなわち、空間的距離の時間的合同
の定義にのみ、用いられているのである。この理由から、自然時計
を固定性(距離が時間に対して不変であること)の定義のために用いることがで
きる。ある空間点における時間の計量体系を特定すること
で十分なのである。そうすれば、系全体の固定性が、また諸系の集合の固定性
が、その運動状態さえもが、光信号によって限定される。この限定は諸系の
内的な状態にのみ言及するものだが、それにより
空間における諸系の運動状態を確立するのである。このことは、光-
幾何学がかなり強い制限を導入してすべての可能な運動状態を対応する内的計
量体系でもって結びつけるが故にのみ可能なのである。
32. (変換(3)をローレンツ変換に換える方法、運動する線分の静止-長の比較)
最後にわれわれは変換(3)をローレンツ変換に換える方法を検討する。変換(3)
は、一般定数kのために、またローレンツ変換と同一ではない。われ
われは、欲する変換に対して、それらの変換が式(2)を不変にしておくことを
要求した; この要求は、「光-幾何学が各々の系において完遂される」という
条件に対応するが、それはまだ、異なる運動状態にある諸系の間での単位の比
較を限定しない。まだ特定されていないのは、運動する線分の静止長
の比較、運動学における長さの第一比較である(第25節を見よ)。も
し剛体がKにおける単位として用いられるならば、運動する系K'へと
持ち運ばれた物差しの静止長を、新しい系においても等しい長さであると呼ぶ
のが都合がよい。しかしながら、この手続きは光-幾何学においては不可能で
ある。というのも、持ち運ぶべきものが何もないからである。その結果、単位
の別の比較が見つけ出されなくてはならない; それは運動学における長さの第
二比較の助けによって達成される。もしわれわれがKとK'
における任意の長さの単位をそれぞれ考慮するならば、Kにおける単
位は、運動する線分の長さという概念の助けを借りて、
K'において測定することができ、そして逆も真である。単位を恣意
的に選択したが故に、われわれはこれら両方の場合において同一の収縮または
膨張係数を得ることはないであろう。しかしながら、もしこの係数の同一性が
定義によって要求されれば、一方の静止-単位の選択は他方の選択に依存し、
そしてわれわれはかくして運動学における長さの第一比較のための規則を与え
たのである。
33. これらの条件がk=1に設定するのと同一であることは、容易 に示されうる。対応付け定義は任意のものであるから、われわれは k=1に設定できる。この付加的な規則を用いると、(3)はローレンツ 変換と同一になり、それは今や次の形式(5a, 5b)のように書くことができる。
34. ここからこの変換のよりよく知られた形式へ行くためには、われわれ はいくつかの単純にするための特定化を必要とするのみであり、それらはまた しても定義の性質のものである。われわれは二つの系に同一の起源を与え、そ れらの空間軸を平行に選び、そして一つの系の運動方向を他方のx1 軸の方向にあるものとして特定する。これによってローレンツ変換のよく知ら れた形式(6)がもたらされる: この式において"ct"と"ct'" は、それぞれ"x4"と"x'4"に置換されている。変換(5)の20 個の定数はこれらの特別な条件によって単一の定数vに還元されてい る。
これらの特別な条件の正確な提示は、Aの第17節において与えられており、 そこではそれらの条件はaik(akのi乗)を制限する等式によって表現 されている。単純な計算によって、それらから、(6)において現われる aikの特別な値が生じる。(2)の不変式から(6)の等式を導出すること は、相対性理論の多くの書において見出されうるが、定義と経験的言明との区 別は通常、明確には述べられていない。
35. (物差しや時計による幾何学の構築--物質公理)
慣性系の集合とその計量体系との限定するという目的は、かくして成し遂げら
れ、空間と時間の理論に関する本章は終了したものとみなされるかもしれない。
しかしながら、光以外にも、物差しや時計といった測定道具(手段)があるので、
そしてまた、これらはここまでのわれわれの構築において従属的な役割しか果
してこなかったので、これらの対象が光-幾何学との関連でどのように振舞う
のかと尋ねることは重要である。われわれはやろうと思えばこれらの測量道具
から出発し、光を同時性の定義にのみ用いることもできた。その場合でも、わ
れわれはある幾何学を得たであろう。われわれは今、この幾何学が光-幾何学
とどのように関係するかを尋ねてもよかろう。この関係についての言明は、こ
れまで全面的に用いられてきた光-公理と対比させて、
物質-公理として定式化される。
36. これらの言明の定式化は、ある付加的な考察を必要とする。そこに含 まれる定義の故に、構築される光-幾何学は恣意的である。定義の選択によっ て、相対的な光-幾何学か古典的な光-幾何学のいずれが得られるかが決定され る。光-公理は両者にとって同じでありうる。それゆえ、われわれが上で展開 した光-幾何学が古典的理論と異なっているのは、定義の選択においてのみで ある。そこで、ローレンツ変換の代わりに、ガリレオ変換が定義されうる。こ の目的のために、系ごとに異なる空間的合同が定義されねばならないだろう。 そうすると、等しい時間に光が移動する距離は、一般的に等しくなくなる。と いうのも、ガリレオ変換によれば、光の速度は運動する系の方向に依存するか らである。さらに、運動する線分の静止-長のもう一つの比較ともう一つの同 時性--それらに関して、式(1)における係数eは方向に依存する--が 定義されなくてはならないだろう。古典的光-幾何学は可能 である。というのも、相対論における光-公理は、光の速度の制限的性質の主 張を除いて、古典的理論における光-公理と変わらないからである。しかし、 たとえこの公理が合てはまるとしても、ガリレオ変換が定義されうる。その違 いは、光より遅く運動している諸系のみが物質的事物によって実現されうる、 という事実にのみ存する。
37. 物質-公理(公理VI-X)の事情contextは、次のように要約されうる: 物質的事物は、相対論的光-幾何学に従う。もし光-幾何学 的に等しい距離が剛体によって測定されるなら、それらもまた等しいというこ とがわかるであろう。もし光-幾何学的に一様と定義された時間の流れが、自 然時計の時間の流れと比較されるなら、それらは一致することが見出されるで あろう。類似の結果が、時計と物差しを運動する諸系へ持ち運ぶことに関する 主張についても成り立つ。それらが、光-幾何学的に運動する系へと移動され た単位と比較される場合、われわれは一致を見出す。これらの移動に対して、 われわれは古典的な定義ではなく、相対論的な光-幾何学の定義を使わなくて はならない。アインシュタインの主張は、「物質的事物は古典的では なく相対論的な光-幾何学に適合する」と述べることによって表現されうる 。
38. この主張は、相対論における物理学の視点からの新しい知見を構成す る。光-公理はすべて、古典的光学において成り立ち、古典的光学に対して相 対論が加えるのは「光の速度は信号の速度の上限である」という主張だけであ るのに対し、物質-公理は古典的理論からの逸脱を意味している。それらの公 理は、「ローレンツ変換--それは、光-幾何学においては、ガリレオ変換と 定義によってのみ異なる--は、同時に物差しと時計に対す る変換でもある」という主張を含む。それゆえ、この主張は、空間と時間の相 対性理論の中で経験的に検証されなくてはならない部分なのである。
39. われわれは今や、空間と時間の相対性理論の物理学的主張とその認識 論的基礎とを区別することに成功した。この認識論的基礎は、対応付け定義が 空間と時間の古典的理論において信じられていたよりもはるかに頻繁に必要と される--とりわけ、異なる位置における長さや異なる運動状態にある系におけ る長さの比較のため、そして同時性のために必要とされる--という発見によっ て与えられた。しかしながら、この理論の物理的核心は、「自然の測定道具は 古典的理論において想定されていた対応付け定義とは異なる対応付け定義に従 う」という仮定にある。この言明は、もちろん、経験的である。この言明の真 偽に依存しているのは、相対性の物理的理論のみである。 しかしながら、相対性の哲学的理論、すなわち、計量がそ のすべての詳細において定義的な性格を持つということの発見は、経験とは独 立に成り立つ。たしかにそれは物理的実験との関連で発展したが、それは個々 の科学に対する批判を受けつけないような哲学的結果である。
40. 以下でわれわれは、光-公理と物質-公理の内容が、いかにしてミンコ フスキーの世界幾何学によって幾何学的に視覚化されうるかを例証する。