よく知られているように、サイバースペースにおいては、さまざまな種類 の「性的に露骨なマテリアル」が入手可能である。しかし、そのようなマテリ アルを手に入れたり、自分のウェブサイトで公開したりニューズグループに流 したりする行為は合法なのだろうか、それとも違法なのだろうか? 今回紹介す るCYBERSPACE AND THE LAWの第六章「成人向けのマテリアル: 合法 と違法の境界線を引く」では、まずこれらのマテリアルにどのような種類があ るのかが説明される。次に「わいせつ」と「下品」との重要な区別に関する米 国の基準が詳述され、前者に関係する行為のほとんどが合衆国憲法修正第一条 によって保護されないことが述べられる。そしてさらに、「児童ポルノ」に関 する言及がなされ、連邦政府も州政府も、より厳格な法規制を行なっているこ とが指摘される。
なお、米国では1996年から1997年にかけてCDA(通信品位法)が大問題となっ たが、この本はそれより少し前の1994年に出版されたものであるため、CDAに 関する記述を欠いている。しかしこの本は、しばしば誤解されがちなCDAの意 義を理解するために不可欠な知識--たとえば、「わいせつ」に関するミラー基 準、「わいせつ」と「下品」の区別など--を提供するであろう。CDA以降の動 向については、参考文献・URL一覧を参照されたい。
デジタル画像とは、グラフィックソフトを用いて描かれるか、あるいは写 真などをスキャナーによって取りこむかして作成されたもので、コンピュータ・ ファイルとして保存される (ファイルの拡張子はたいていの場合、.gifか.jpg である)。こうして保存されたファイルは、ビューア viewerと呼ばれるソフトを用いてコンピュータ上で見ることができ る。これらのデジタル画像は必ずしも性的なものとは限らないが、性的なもの に関して言えば、今日BBSや電子メイルやニューズグループなどを通じて、あ りとあらゆる種類の性的嗜好を満足させるデジタル画像を手に入れることがで きるといっても過言ではない。また、写真をスキャナーで取りこんだ画像ファ イルには、二次的な加工がなされているものも少なくない (例. 地球人女性と 異星人との性行為に関する画像など)。
動画は、一続きの画像によって構成されており、非常に短い映画のような ものである。これらはデジタル画像と同様な方法で作成され、ファイルとして 保存される (ファイルの拡張子はたいていの場合、.dlか.glである)。ほとん どの動画ファイルは、デジタル画像と同様にビューアを用いて見ることができ る。しかしなかにはプログラム形式になっているファイルもあり、この場合プ ログラムを実行すれば自動的に見ることができる。動画ファイルの多くは、ポ ルノビデオから切り取ってこられたものである。また、動画はまだデジタル画 像ほどには量や種類がない。
デジタル画像や動画に比べるとあまり人気がないとはいえ、性的に露骨な文書―― たいていの場合は非常に短い性的な物語である――は、BBSのメッセージベー スや、ニューズグループなどで見つけることができる。そのほとんどのファイ ルはASCIIファイルなので、どんなエディターやワープロでも見ることができ、 かつ簡単に修正することができる。
ホットチャットとは――ちょうど電話による性的な会話に似ていて――同 時に (リアルタイムで) やりとりされる性的に露骨な文書のことである。ホッ トチャットは、この「同時である」という特徴によって、性的に露骨な文書と は区別される。こうしたホットチャットは、二人ないしはそれ以上のユーザー によって、通常は他のユーザーには気づかれないように行なわれる。
サイバースペースにおけるほとんどの種類の通信は、合衆国憲法修正第一 条――これは話し言葉や書き言葉だけでなく、映画や写真も保護するものであ る――によって、政府の干渉から守られている。しかし、成人向けのマテリア ルおよび活動の中でも、下品なマテリアルは修正第一条の 保護を受けるが、わいせつなマテリアルはその保護を受け ない。日常的には「下品」と「わいせつ」は交換可能な言葉としてあまり区別 されないが、法律においては、わいせつなマテリアルと下品なマテリアルは厳 密に区別される1。
わいせつさの定義は難しいが、合衆国最高裁によるもっとも最近の定義は、 ミラー対カリフォルニア裁判の判決において見られる (413 US 15, 1973)。この定義によると、ある品物がわいせつとみなされ、したがっ て修正第一条の保護の外に置かれるためには、以下の三つの部分によって構成 されるテストの、すべての条件を満たさねばならない。
以下、このテストの中に現われる、重要な語句に説明を加える。
ミラー判決によると、ある作品がわいせつかどうかを判定するのには、全国的 基準national standardではなく、地域社会の基準が用いられる。ところが、 サイバースペースにおいては、情報の送り手と情報の受け手が異なる地域社会 に住んでいることがしばしばである。するとこういった場合には、ある作品が わいせつかどうかを判定するのに、いったいそのどちらの地域社会の基準が用 いられるのだろうか?
答えは、政府はどちらでも好きな方を選べる、である。したがって、あなたの 住む地域社会の基準ではわいせつでないマテリアルを、それをわいせつと見な す地域社会にあるコンピュータにアップロードした場合、あなたは法を犯す可 能性がある。また、あなたの住む地域社会の基準ではわいせつでないマテリア ルを自分のシステムで利用可能にしておき、それをわいせつと見なす地域社会 に住む人がのちにそれをダウンロードした場合、あなたは法を犯すことになる 可能性がある。
好色とは、最高裁の定義によれば、「みだらな考えをひき起こす傾向を持って いること」であり、好色な興味は、「セックスに対する、恥ずべき、病的な、 堕落した、不健康な、あるいは不健全な興味をひき起こす」。ただし、この定 義によると、「通常の健康的な性的欲求だけ」しかひき起こさないマテリアル はわいせつではないとされる。
あるマテリアルが好色な興味をひき起こすものであるかどうかは、それによっ て標準的な人がどのように影響されるかによって決められる。ただし、問題の マテリアルが特定の種類の倒錯者たちを対象として意図している場合は例外で あり、その場合は、当の対象となっている人がそれによってどのような影響を 受けるかが問題になる。また、そのマテリアルの宣伝のされ方や、成人向けの 画像ファイルや動画ファイルにしばしば付いてくる短い説明書きも、そのマテ リアルが好色な興味をひき起こすものであるかどうかを決める際の一つの要因 になる。
「明白に不快」というのは明確に定義されていないが、最高裁はハードコ ア・ポルノだけが明白に不快となりうるとしている。したがって、ハードコア でないデジタル画像は、わいせつとみなされることはないと言える2。
政府は、問題の作品がわいせつであることを示すためには、その作品が「重要 な文学的、芸術的、政治的、あるいは科学的な価値」のいずれをも欠くことを 立証しなくてはならない。また、その作品の価値を判断する際には、作品のあ る一部ではなく、全体を考慮しなくてはならない。さらに、この点に関する基 準は、地域社会の基準ではなく、全国的な基準であるとされる。
わいせつなマテリアルは修正第一条の保護を受けないので、州政府も連邦政府 も自由にそれらをまったく禁止してしまうことができる。しかし、単に下品な だけのマテリアルに関しては、政府は規制することはできても禁止することは できない。
ほとんどの州では、わいせつなマテリアルを促進することは法的に禁じら れている。「促進することpromoting」とは、広い意味に解され、製造するこ と、販売すること、運搬すること、配付すること、郵送すること、譲渡するこ と、貸与すること、展示すること、そして宣伝することがそこに含まれる。こ うした法は通常、成人向けの本屋や覗き見小屋に対して適用されるが、それが オンラインの活動に適用されることは十分に考えられる。
また、わいせつでない成人向けのマテリアルは、普通、未成年に対する配 付や展示を禁じる法によって規制されており、こうしたマテリアルは 未成年に対して有害なマテリアルと呼ばれることもある。そこで、 オンラインの活動が違法行為にならないようにするためには、わいせつではな い性的に露骨なファイルが未成年の手に渡ることのないように配慮すべきであ り、また、未成年が成人向けのメッセージ・ベースに参加することを禁じるべ きである。
サイバースペースに関係のある連邦法は二つあり、その一つは販売あるい は配付のためにわいせつなマテリアルを州間で輸送するこ とを禁じる法である (18 USC § 1465)。もう一つは、電話回線を通じてわい せつな通信を行なうことを禁じる法である (47 USC § 223)。この二つ目の法 によって、ホットチャットを行なった者が訴追されたことはまだないが、今後 もそうであるとは言いきれない。
わいせつなマテリアルを自分の家で所持することは、個人の自由であるこ とが最高裁によって認められている。「もし修正第一条がなんらかの意味を持 つとすれば、その意味とは、自分の家で独りで座っている人に対して、その人 がどんな本を読むか、あるいはその人がどんな映画を見るかについて、国家は いっさい口を挟む立場にないということである」(394 US 557, 1969)。しかし、 わいせつなマテリアルに関しては、それ以外のいかなる行為も修正第一条によっ て保護を受けることはないことを十分に自覚すべきであろう。
児童ポルノとは、未成年を性的に露骨な仕方で描写しているマテリアルの ことである。また、連邦法による児童ポルノ法では、18歳未満の人間はすべて 未成年とされる。児童が関わっている性的行為がたとえ法的にわいせつとはみ なされないとしても、その行為を描写したマテリアルは児童ポルノとして分類 されうる。ただし、マテリアルは児童の視覚的な描写を含んでいる必要があり、 文書だけでは不十分である。このため、サイバースペースにおいて児童ポルノ に分類される可能性があるのはデジタル画像と動画だけである。この背景にあ る理由付けは、性的行為を行なう児童の写真を撮ることは、その活動に参加す る児童に害を与えるが、児童とセックスについての文書を記述することには、 それによって害されるいかなる参加者も存在しない、ということである。
技術の進歩に伴い、児童を含まない性的行為を撮った写真をスキャナで取 り込み、その画像ファイルをグラフィックソフトを用いて加工することによっ て、本物の児童ポルノと見分けがつかないような画像を作成することが可能に なってきた。検察側は、訴訟の際に問題のマテリアルが本当に児童ポルノであ ること (実際に児童が関わっていること) を立証しなくてはならないが、この ことを立証することはますます困難になりつつある。
わいせつなマテリアルとは異なり、児童ポルノを所有することに関しては いかなる権利も存在しない。たとえそれが私的で個人的な目的のためだけに用 いられるとしてもである。ハードディスクに児童ポルノが記録されていれば、 州法を犯していることになりうるし、また、児童ポルノを四部以上所有してい れば、連邦法を犯していることになる。
児童ポルノを禁じる連邦法には、児童ポルノを送信するためにコンピュータを 使用することを禁じる法 (18 USC § 2252) と、児童ポルノの販売、交換、再 生産、あるいは配付を宣伝することを違法とする法 (18 USC §2251) がある。 また一般に、米国は児童ポルノに関しては厳格であり、一方で警察などによる 非常に厳しい取り締まりが行なわれており、また他方で最高裁の判決も、児童 ポルノに関する裁判においては、検察側を支持するものが多い。