成人向けのマテリアル: 合法と違法の境界線を引く

"Adult Material: Drawing the Line between the Legal and Illegal"

from CYBERSPACE AND THE LAW by Cavanzos and Morin, pp. 89-104.

M2 児玉聡

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よく知られているように、サイバースペースにおいては、さまざまな種類の 「性的に露骨なマテリアル」が入手可能である。しかし、そのようなマテリア ルを手に入れたり、ウェブで公開したりニューズグループに流したりする行為 は合法なのだろうか、それとも違法なのだろうか? 今回紹介するCYBERSPACE AND THE LAWの第六章「成人向けのマテリアル: 合法と違法の境界線を引く」 では、まずこれらのマテリアルにどのような種類があるのかが説明される。次 に「わいせつ」と「下品」とを区別する米国の基準が詳述されて、前者に関係 する行為のほとんどが修正第一条によって保護されないことが述べられる。そ してさらに、「児童ポルノ」に関する言及がなされ、連邦政府も州政府も、よ り厳格な法規制を行なっていることが指摘される。

1. サイバースペースにおいて利用可能な成人向けのマテリアルと活動の概観

デジタル画像

デジタル画像とは、いわゆるお絵かきソフトによって描かれるか、あるいは写 真などをスキャナーによって取りこむかして作成されたもので、コンピュータ・ ファイルとして保存される (ファイルの拡張子はたいていの場合、.gifか.jpg である)。こうして保存されたファイルは、ビューア viewerと呼ばれるソフトを用いてコンピュータ上で見ることができ る。これらのデジタル画像は必ずしも性的なものとは限らないが、性的なもの に関して言えば、今日BBSや電子メイルやニューズグループなどを通じて、あ りとあらゆる種類の性的嗜好を満足させるデジタル画像を手に入れることがで きるといっても過言ではない。また、写真をスキャナーで取りこんだ画像ファ イルには、二次的な加工がなされているものも少なくない (例. 地球人女性と 異星人との性行為に関する画像など)。

動画

動画は、一続きの画像によって構成されており、非常に短い映画のようなもの である。これらはデジタル画像と同様な方法で作成され、ファイルとして保存 される (ファイルの拡張子はたいていの場合、.dlか.glである)。ほとんどの 動画ファイルは、デジタル画像と同様にビューアを用いて見ることができる。 しかしなかにはプログラム形式になっているファイルもあり、この場合プログ ラムを実行すれば自動的に見ることができる。動画ファイルの多くは、ポルノ ビデオから切り取ってこられたものである。また、動画はまだデジタル画像ほ どには量や種類がない。

性的に露骨な文書

デジタル画像や動画に比べるとあまり人気がないとはいえ、性的に露骨な文書―― たいていの場合は非常に短い性的な物語である――は、BBSのメッセージベー スや、ニューズグループなどで見つけることができる。そのほとんどのファイ ルはASCIIファイルなので、どんなエディターやワープロでも見ることができ、 かつ簡単に修正することができる。

ホットチャット

ホットチャットとは――ちょうど電話による湯気の出るような会話に似ていて―― 同時に (リアルタイムで) やりとりされる性的に露骨な文書のことである。ホッ トチャットは、この「同時である」という特徴によって、性的に露骨な文書と は区別される。こうしたホットチャットは、二人ないしはそれ以上のユーザー によって、通常は他のユーザーには気づかれないように行なわれる。


2. 下品対わいせつ: オンラインの成人向けのマテリアルおよび活動を分類する

サイバースペースにおけるほとんどの種類の通信は、合衆国憲法修正第一条―― これは話し言葉や書き言葉だけでなく、映画や写真も保護するものである―― によって、政府の干渉から守られている。しかし、成人向けのマテリアルおよ び活動の中でも、下品なマテリアルは修正第一条の保護を 受けるが、わいせつなマテリアルはその保護を受けない。 日常的には「下品」と「わいせつ」は交換可能な言葉としてあまり区別されな いが、法律においては、わいせつなマテリアルと下品なマテリアルは厳密に区 別される。

わいせつさの定義は難しいが、合衆国最高裁によるもっとも最近の定義は、 ミラー対カリフォルニア裁判の判決において見られる (413 US 15, 1975)。この定義によると、ある品物がわいせつとみなされ、したがっ て修正第一条の保護の外に置かれるためには、以下の三つの部分によって構成 されるテストの、すべての条件を満たさねばならない。

  1. その作品は、「平均的な人が、今日の地域社会の基準を用いて考えた場合、」 全体的に見て、好色な興味に訴えるものであろうか。
  2. その作品は、当該の州法によって具体的に定義された性的行為を、 明白に不快な仕方で、描写あるいは記述しているものであろうか。
  3. その作品は、全体的に見て、重要な文学的、芸術的、政治的、 あるいは科学的な価値を欠くものであろうか。

以下、このテストの中に現われる、重要な語句に説明を加える。

地域社会の基準(地元共同体の規範)

ミラー判決によると、ある作品がわいせつかどうかを判定するのには、全国的 基準national standardではなく、地域社会の基準が用いられる。ところが、 サイバースペースにおいては、情報の送り手と情報の受け手が異なる地域社会 に住んでいることがしばしばである。するとこういった場合には、ある作品が わいせつかどうかを判定するのに、いったいそのどちらの地域社会の基準が用 いられるのだろうか?

答えは、政府はどちらでも好きな方を選べる、である。したがって、あなたの 住む地域社会の基準ではわいせつでないマテリアルを、それをわいせつと見な す地域社会にあるコンピュータにアップロードした場合、あなたは法を犯す可 能性がある。また、あなたの住む地域社会の基準ではわいせつでないマテリア ルを自分のシステムで利用可能にしておき、それをわいせつと見なす地域社会 に住む人がのちにそれをダウンロードした場合、あなたは法を犯すことになる 可能性がある。

好色な興味

好色とは、最高裁の定義によれば、「みだらな考えをひき起こす傾向を持って いること」であり、好色な興味は、「セックスに対する、恥ずべき、病的な、 堕落した、不健康な、あるいは不健全な興味をひき起こす」。ただし、この定 義によると、「通常の健康的な性的欲求だけ」しかひき起こさないマテリアル はわいせつではないとされる。

あるマテリアルが好色な興味をひき起こすものであるかどうかは、それによっ て標準的な人がどのように影響されるかによって決められる。ただし、問題の マテリアルが特定の種類の倒錯者たちを対象として意図している場合は例外で あり、その場合は、当の対象となっている人がそれによってどのような影響を 受けるかが問題になる。また、そのマテリアルの宣伝のされ方や、成人向けの 画像ファイルや動画ファイルにしばしば付いてくる短い説明書きも、そのマテ リアルが好色な興味をひき起こすものであるかどうかを決める際の一つの要因 になる。

明白に不快な

「明白に不快」というのは明確に定義されていないが、最高裁はハードコア・ ポルノだけが明白に不快となりうるとしている。したがって、ハードコアでな いデジタル画像は、わいせつとみなされることはないと言える1

作品の価値

政府は、問題の作品がわいせつであることを示すためには、その作品が「重要 な文学的、芸術的、政治的、あるいは科学的な価値」のいずれをも欠くことを 立証しなくてはならない。また、その作品の価値を判断する際には、作品のあ る一部ではなく、全体を考慮しなくてはならない。さらに、この点に関する基 準は、地域社会の基準ではなく、全国的な基準であるとされる。


3. わいせつと見なされることの意味

わいせつなマテリアルは修正第一条の保護を受けないので、州政府も連邦政府 も自由にそれらをまったく禁止してしまうことができる。しかし、単に下品な だけのマテリアルに関しては、政府は規制することはできても禁止することは できない。


4. 成人向けのマテリアルを律する法律

州法

ほとんどの州では、わいせつなマテリアルを促進することは法的に禁じられて いる。「促進すること」とは、広い意味に解され、製造すること、販売するこ と、運搬すること、配付すること、郵送すること、譲渡すること、貸与するこ と、展示すること、そして宣伝することがそこに含まれる。こうした法は通常、 成人向けの本屋や覗き見小屋に対して適用されるが、それがオンラインの活動 に適用されることは十分に考えられる。

また、わいせつでない成人向けのマテリアルは、普通、未成年に対する配付や 展示を禁じる法によって規制されており、こうしたマテリアルは未成 年に対して有害なマテリアルと呼ばれることもある。そこで、オン ラインの活動が違法行為にならないようにするためには、わいせつではない性 的に露骨なファイルが未成年の手に渡ることのないように配慮すべきであり、 また、未成年が成人向けのメッセージ・ベースに参加することを禁じるべきで ある。

連邦法

サイバースペースに関係のある連邦法は二つあり、その一つは販売あるいは配 付のためにわいせつなマテリアルを州間で輸送することを 禁じる法である (18 USC § 1465)。もう一つは、電話回線を通じてわいせつ な通信を行なうことを禁じる法である (47 USC § 223)。この二つ目の法によっ て、ホットチャットを行なった者が訴追されたことはまだないが、今後もそう であるとは言いきれない。


5. わいせつなマテリアルの所有

わいせつなマテリアルを自分の家で所持することは、個人の自由であることが 最高裁によって認められている。「もし修正第一条がなんらかの意味を持つと すれば、その意味とは、自分の家で独りで座っている人に対して、その人がど んな本を読むか、あるいはその人がどんな映画を見るかについて、国家はいっ さい口を挟む立場にないということである」(394 US 557, 1969)。しかし、わ いせつなマテリアルに関しては、それ以外のいかなる行為も修正第一条によっ て保護を受けることはないことを十分に自覚すべきであろう。


6. 児童ポルノ

児童ポルノとは、未成年を性的に露骨な仕方で描写しているマテリアルのこと である。また、連邦法による児童ポルノ法では、18歳未満の人間はすべて未成 年とされる。児童が関わっている性的行為がたとえ法的にわいせつとはみなさ れないとしても、その行為を描写したマテリアルは児童ポルノとして分類され うる。ただし、マテリアルは児童の視覚的な描写を含んでいる必要があり、文 書だけでは不十分である。このため、サイバースペースにおいて児童ポルノに 分類される可能性があるのはデジタル画像と動画だけである。この背景にある 理由付けは、性的行為を行なう児童の写真を撮ることは、その活動に参加する 児童に害を与えるが、児童とセックスについての文書を記述することには、そ れによって害されるいかなる参加者も存在しない、ということである。

児童のいない児童ポルノ?

技術の進歩に伴い、児童を含まない性的行為を撮った写真をスキャナで取り込 み、その画像ファイルをお絵かきソフトを用いて加工することによって、本物 の児童ポルノと見分けがつかないような画像を作成することが可能になってき た。検察側は、訴訟の際に問題のマテリアルが本当に児童ポルノであること (実際に児童が関わっていること) を立証しなくてはならないが、このことを 立証することはますます困難になりつつある。

児童ポルノの所有

わいせつなマテリアルとは異なり、児童ポルノを所有することに関してはいか なる権利も存在しない。たとえそれが私的で個人的な目的のためだけに用いら れるとしてもである。ハードディスクに児童ポルノが記録されていれば、州法 を犯していることになりうるし、また、児童ポルノを四部以上所有していれば、 連邦法を犯していることになる。

児童ポルノ法

児童ポルノを禁じる連邦法には、児童ポルノを送信するためにコンピュータを 使用することを禁じる法 (18 USC § 2252) と、児童ポルノの販売、交換、再 生産、あるいは配付を宣伝することを違法とする法 (18 USC §2251) がある。 また一般に、米国は児童ポルノに関しては厳格であり、一方で警察などによる 非常に厳しい取り締まりが行なわれており、また他方で最高裁の判決も、児童 ポルノに関する裁判においては、検察側を支持するものが多い。


  1. 本章では「ハードコア・ポルノ」の定義がなされていない。 ただし本章の最後の方で、 『プレイボーイ』や『ペントハウス』に見られるような画像は 「ソフト・ポルノ」であり、 これらがわいせつと見なされることはまずありえない、 と述べられてはいる (p. 102)。

KODAMA Satoshi <kodama@ethics.bun.kyoto-u.ac.jp>
Last modified: Thu Sep 3 13:21:55 JST 1998