わ。書類審査に合格してしまった。めでたい。
しかしまだこれから面接があるのだ。 これに合格し(て、かつ修論が合格し)ないと、 特別研究員にはなれないのだ。
というわけで、おれの面接は1998年12月1日、 東京は千代田区麹町にある弘済会館というところで午後2時10分から10分間。 交通費は自腹、という金のない人間には厳しい制度。 おれなんかまだ京都だからいいけど、北海道から来る人とか、九州、沖縄から来 る人なんか大変だろうなあ。
それで10分間で何をするんだろうか、というと、 面接の通知とともに次のような書類が郵送されてきた。
特別研究員の面接における注意事項
- 名前を呼ばれたら、1人ずつ面接会場にお入りください。 その際、荷物は持って入室し、 入口近くの台の上に置いてください。
- 面接時間は、1人につき10分間です。
- 面接会場に入られたら、自席のテーブルの前で氏名を名乗ってください。
- 説明
次の事項について4分以内で説明してください。
なお、4分が経過した時点でアラームが鳴りますので、 出来るだけ速やかに説明を終えてください。
- これまでの研究業績
- 今後の研究計画 研究目的及び研究の特色を具体的に述べてください。
- 研究内容の説明に当たっては、 自分自身が行った研究の範囲を明確にしてください。
- 共同研究の場合は、 自分の分担を明らかにしてください。
- 質疑応答
審査委員の質問には、要領よく簡明に答えるようにしてください。
(面接時間の9分が経過した時点でアラームが鳴ります。)
注 「DC1」への申請者に対しては、 採用申請書提出後の研究進捗状況や研究業績、 修士論文の作成状況などについても、質問されることがあります。- 面接終了後は、適宜お帰りください。
なるほど。 ではおれとしては、事前に、
それにしても、4分でいろいろしゃべるというのは大変だな。 時間を計ってみると、大体1分350字から400字前後という感じなので、 1400字から1600字、原稿用紙で3枚半から4枚ぐらいか。 余裕をみて、原稿用紙3枚ぐらいに留めておいた方がよかろう。
まず、これまでの研究業績についてですが、 わたしはこれまで、 ジェレミー・ベンタムという哲学者の思想を中心に研究してきました。 ご存知かとは思いますが、ベンタムまたはベンサムは、 18世紀後半から19世紀前半にかけて活躍したイギリスの功利主義者であり、 日本でも、「最大多数の最大幸福」というスローガンでよく知られております。
それで、卒業論文の題目は、 「ベンタムにおける法と道徳の区別について」というもので、 ベンタムの主著である『道徳と立法の諸原理序説』 という本を原典にて精読し、法と道徳の区別に関する、 彼の一貫して功利主義的な議論を詳しく検討しました。
修士課程に進んでからは、 ベンタムの思想の基礎である功利主義を、 より一層理解することに努めてきました。 具体的には、ベンタムの著書や二次文献を読み進める一方で、 自然法思想や義務論、権利論や徳論などの、 功利主義以外の主要な倫理学説について、 英米圏の論文を広く読み進めてきました。 これを通して、功利主義と他の倫理学説とを比較検討し、 現代の倫理学において功利主義がどのような地位を占めているのかということや、 功利主義に関して主にどのような批判がなされているのか、 ということを考察してきました。
次に今後の研究計画ですが、 本研究は、 ベンタムの倫理学と法哲学にまたがる思想の理論的検討を行ない、 さらにその成果を現代の実践的な問題に活かすことが目的です。
60年代以降、イギリスではベンタム全集があらたに刊行されつつあります。 これに伴ない、英米圏ではベンタムの思想に関する幅広い研究が活発化しており、 さながらベンタム・ルネッサンスとでも呼ぶべき状況を呈しています。 しかし日本では、 残念ながら、ベンタム研究はまだそれほど活発化していません。 とくに倫理学的な視点からのベンタム研究は、 あったとしても散発的にしかなされていない、という状況が長く続いています。 そこで、英米圏での新たな研究を踏まえつつ、 ベンタムの倫理学および法哲学思想の理論的検討を行なうことが、 本研究の第一目標です。
さらに本研究では、 ベンタムの思想史的研究にとどまることなく、 いわゆる応用倫理学と呼ばれる研究領域に関して、 ベンタム流の功利主義の立場からの提言を試みたいと考えております。 今日、応用倫理に関する研究がさかんですが、 そこでなされる主張の多くは、 体系的な理論に基づかず、 いきあたりばったりなものであったりすることがしばしばのように思われます。 そこで本研究では、ベンタム流の功利主義の立場から、 とくに情報倫理と呼ばれる領域における諸問題 に関して、 道徳的側面と法的側面の双方から分析を加え、 一つの一貫した明確な立場を確立したいと考えています。
最後に、本研究の特色ですが、 さきほども述べましたように、 新しいベンタム全集の刊行に伴なって、 英米圏ではベンタムの研究が盛んになりつつありますが、 日本におけるベンタム研究はまだ停滞気味です。 けれども、 とりわけ信頼のおける全集が新たに刊行されつつある現在においては、 功利主義と法実証主義の確立者であるベンタムの原典を精読し、 そしてベンタムの思想を、 彼と同時代の思想家たちや、 現代の思想家たちと突き合わせつつ、 詳しく検討することには大きな価値があると思われます。 さらに、ベンタムの思想を「生きたもの」として、 彼の倫理学および法哲学的思考を今日の倫理問題に適用するという試みは、 単にその解決の一助となりうるだけでなく、 彼の思想のさらなる理解につながることになると考えています。
とりあえずこれで1400字ぐらいになったが、ほとんど以前の書類のまんまである。 「である」を「です」に変えたぐらいであるです。時間を計ってみないとな。
さらにいろいろ書き足していると、1600字近くになってしまった。 とりあえず4分以内にしゃべれそうだが、早口になってる可能性が高い。 試しにMDで録音してみるか。
あ、書いてます書いてます(笑)。 実は、今回の申請書を書いていた段階では、 ベンタムの自然法思想の批判を検討しようと考えていたのですが、 その後、いろいろな文献を読み、 また中間発表などで先生や先輩方からいろいろな意見をお聴きしたところ、 先にもう少し功利の原理を掘り下げて検討した方がよい、 という結論に至りました。 そこで、現在は、 ベンタムの人間本性についての利己主義的な見方と、 「最大多数の最大幸福」というスローガンで知られる彼の倫理規範とを、 どのように解釈すれば両立しうるのか、ということを論じようと考えています。