(いんふぉーむどこんせんと informed consent)
[I]nformed consent can provide a basis for trust provided that those who are to consent are not offered a flood of uncheckable information, but rather information whose accuracy they can check and assess for themselves.
---Onora O'Neill, A Question of Trust
インフォームドコンセントは「説明と同意」とも訳され、今や我が国でも一般 的な概念として定着した。しかし、時と場合によっては首をかしげる事もある。 数年前に比較的早期の乳ガンを見つけて専門施設に紹介した。3ヶ月ほどして、 ひょっこり外来にその患者が現れた。まだ手術をしていないという。驚いて理 由をたずねると、3種類の術式と3種類の麻酔の方法の詳しい説明を受け、どの 組み合わせにしますか? と問われたが、どれにしたらいいかわからず一端(マ マ)退院してきた、との事であった。複数の治療法のメリット、デメリットを 説明し選択を求める場合、選択肢の中に「主治医にまかせる」があってもいい ように常々感じている。
患者の権利を尊重する事に異論はない。しかし、インフォームドコンセントが 優先されるあまり、医学的に必ずしも最善とはいえない治療方法が選択される こともある。
医師として患者におもねる医療だけはしたくないと思う。---本田孝也
ときに「説明と同意」と訳されたりもするが、 「インフォームド・コンセント」 というカタカナ表記が定着してしまったようである。
医療者による説明を十分に理解したうえで(インフォームド)、 患者が検査や治療の実施に自発的に同意する(コンセント)こと。 医療の文脈だけでなく、 新薬の治験など研究参加者(被験者)を用いた医学研究の文脈においても用いられる。
その際、(1) 医療者から十分な説明を受けていること、 (2) 患者が医療者の説明を十分に理解していること、 (3) その上で患者が自発的な同意をすること、 が要求される。 `informed'とは「十分な説明を受けたうえ」ということなので、 患者が理解していなくてもとにかく同意さえ取ればいい、というのではない。 また、インフォームド・コンセントが成り立つための条件として、 患者に判断能力(同意能力)があることが必要となる。
なお、ウェブ上ではインフォームドコンセント法理の形成過程 という文章を読むことができる。
13/May/2000; 27/Jul/2009追記
国立国語研究所が外来語の言い換えを提案しているそうだが、 インフォームドコンセントは「納得診療」だそうだ。 患者の立場からすればこの翻訳がわかりやすいと説明されているが、 どうも気になるのはconsentの部分を表に出さずに、 診療という言葉でごまかしているような感じを受けることだ。 この「ナットクシンリョー」という軽い響きもかなわん。 まあ慣れたら平気なのかもしれないけど。
不動産屋では判子を押す前によく契約の内容を聞くことが当然とされているが、 病気の治療については医者に丸投げすることがこれまで多かった。
この背後にある考えは、 医者も不動産屋も知識量は圧倒的に客のそれを上回るという点で同じだが、 不動産屋は自己利益のために客をだます可能性があるのに対し、 医者は患者のためになることをやってくれるだろうという想定だと 思われる。
今日、医者も不動産屋とそれほど変わることはない、 あるいは医者は患者それぞれの価値観、QOLについての見方を 考慮に入れることができるわけではないことに気付いた賢明な患者は、 医者はいくつかの治療法をわかりやすく提示し、 患者の決めた治療法を実行するのが役目で、 治療法を決定するのはあくまで患者であるという風に考えるように なっている。パターナリズムの項を参照せよ。
25/Jan/2003
[インフォームド・アセント informed assent]
同意能力のない児童に対しても、治療を行なう前に説明をしておくのが望ましい
という立場から、「インフォームド・アセント」(アセントも同意するという意味)
という言葉が使われることがある。
26/Apr/2003
上の引用は以下の著作から。