ヒト・クローン胚

(ひとくろーんはい cloned human embryo)


核を取り除いた卵子に、患者本人の皮膚などの体細胞に由来する核を移植して 作成されたヒト胚のこと。そこから万能細胞とよばれるES細胞(胚性幹細胞) を取り出して用いれば、例えば脊髄損傷の患者の神経を再生させるなど、拒絶 反応のない移植医療(再生医療)を行うことができると期待されている。

2005(平成17)年5月、韓国のソウル大学の黄禹錫(ファン・ウソク)教授を中心 とするグループが、患者の体細胞を用いたヒト・クローン胚からES細胞を取 り出すことに成功したと論文で発表し、ノーベル賞級の研究として大きな話題 をよんだ。しかし、まもなくデータの捏造疑惑が生じ、2006年1月にはソウル大 学の調査委員会が黄教授らの成果を捏造と断定。黄教授はソウル大学教授職を 辞任し、『サイエンス』誌に掲載された論文も撤回された。また、クローン胚 の作成には多くの卵子が必要とされるが、卵子提供者へ金銭提供がなされたり、 黄教授の共同研究者の女性から卵子提供が行われたりしていたことがわかり、 この点も問題になった。

このように一大スキャンダルとなった韓国の事件は日本の研究にも影響を及ぼ した。黄教授の研究成果を前提に進められていた国内のES細胞研究は見直し を図らざるをえなくなった。また、2004年に総合科学技術会議の生命倫理専門調 査会がヒト・クローン胚研究を条件付きで認めたことを受け、文部科学省の作 業部会が、現在のところクローン胚の作成を禁止している特定胚指針の改正へ 向けた作業を行っていたが、韓国のスキャンダル後の2006年6月に出された中間 とりまとめによると、研究に使う卵子は、当面はボランティアからの提供を認 めず、不妊治療で受精しなかった卵子や余っている凍結卵子などに限定されて いる。しかし、ボランティアを認めなければ研究が進まないのではないかとの 懸念があり、研究の推進と卵子提供者の保護とのバランスがうまくとれるかど うか、今後の審議が注目される。

15/Jun/2007


本項目の元の出典は以下。ただし、一部加筆修正あり。


KODAMA Satoshi
Last modified: Fri Jun 15 11:56:14 JST 2007