何か提案があれば(こういう文献があるよ、など)、メイルを送るまで。
卒業論文「ベンタムにおける法と道徳の区別について(副題:法の規制すべ き個人の行動とは)」では、イギリスの思想家ジェレミー・ベンタム (1748-1832)がどのように法と道徳の区別を行っていたのかを考察するととも に、功利原理を政治理論として用いたとき、個人の行動はどの程度規制される べきだと言えるのか、あるいは個人はどの程度自由であるべきだと言えるのか、 ということに関する彼の見解をまとめた。これは、「功利主義によれば、多数 者の利益ばかりが尊重されるため、個人の自由が保証されえない」という人権 論者の浅薄な批判に対する功利主義の擁護のために書かれたものであったと言 える。
続く修士課程では、引き続きベンタムの功利主義思想を中心に研究を進め る予定である。そして特に力点を置いて研究するつもりであるのは、ロック流 自然法思想に対するベンタムの行なった批判に関してである。
そもそもベンタムの功利主義は、自然法思想との批判的対話の中で生み出 されたものであり、政治理論・道徳理論としての自然法思想に取って代わるも のとして意図されたものであるから、自然法思想との対比の中でその姿が最も 良く浮かび上がるであろう、というのが現在のわたしの考えである。
そこで、自然法思想と功利主義を対比させて考察するために、まず修士一 年度ではこれまであまり詳しく研究を進めて来なかった自然法思想およびベン タムの法実証主義的な自然法思想批判についての理解を深めたい。
具体的には、ベンタムの著作(ロック流自然法論者であるウィリアム・ブ ラックストンの著作を批判した『政府論断片』やフランス人権宣言をこき下ろ した「無政府主義的誤謬論」などを中心に読み進めるつもりである)及び自然 法思想や法実証主義に関するさまざまな文献を読む一方で、文学部の授業のみ ならず、法学部の講義などにも参加するつもりである。また、ロックやホッブ ズ等の著作を、読書会を行って原典で読むことも検討中である。
このようにしてベンタムの自然法思想に対する批判に関して研究をする予 定であるが、もしもわたしがそれ以上の研究を行わずに、自然法思想に取って 代わる理論としてベンタムが用いた功利主義に対して無批判のままで修士論文 を書くとすれば、それは片手落ちと言えるであろう。というのも、ベンタムの 功利主義をより明確な形で理解することがわたしの主要な目的であるのだから、 わたしのすべきことは、ベンタムの自然法思想批判の考察にとどまらず、自然 法思想との対比に置いて照らし出された功利主義を再検討することをも含むは ずである。
そこで修士二年度では、とりわけてベンタムの功利主義思想の「功罪」を 検討しようと思う。具体的な計画はまだはっきりとはしていないが、例えば元 オックスフォード大学の法理学の教授であり、またベンタム全集の編集にも関 わっていたH. L. A. Hartのベンタムの法実証主義と功利主義に関する諸論文 などを通して、自然法思想に対峙するとしての功利主義についての理解を深め、 現代における功利主義批判をも視野に入れた修士論文となるように心がけたい。 (しかし、現代の議論に深く立ち入ることはおそらく時間の制限により不可能 であると思われるので、ロールズやセンやドゥオーキンなどといった現代的な 思想家に対する批判的な考察は次の機会に譲ることになるであろう)
最後に、参考に使う文献の内、主なものを以下に示しておく。