ベンタムの死刑論 (翻訳--未完)

from the chapeter XII of Book II of the Principles of Penal Law in Works of Jeremy Bentham (pp. 444-50).


死刑制度の検討

この検討は以下のやり方で行なう。死刑制度の利点をまず考察する。 次に、死刑制度の欠点を検討する。 最後に、この刑罰から生じる付帯的な悪影響 --直接的で顕著な影響に比べて離れており明らかでもないが、 ときにより重要な影響--を考察する。

以上のやり方で行なわれる仕事は、 もしもこの検討の末に、この刑罰の仕方と他の刑罰の仕方との比較を行ない、 いずれを選択すべきかを決めないとしたら、 はなはだしく報われない、不毛な仕事となるであろう。 この点に関しては、刑罰の問題においても、 税金の問題と同じ規則が守られるべきである。 ある特定の税金についてそれを不公平だと不平を言うことは、 不満の種をまくだけであり、それ以上ではない。 これ自体は有害な発見なのだから、 真に有用であるためには、不平を言うだけでなく、 等しく生産的でより都合のよいことが証明されるような別の税金を提示すべきである。

第1章 死刑制度の利点

1. 死刑制度におけるもっとも際立った特徴で、 かつ死刑制度がその点に関しては完璧さを誇る特徴は、 犯罪者からさらなる不正行為をなす力を取り去るという特徴である。 犯罪者の力あるいはずる賢さから生じるいかなる心配も、 いっぺんに消えさってしまう。 即座にしかも完全にあらゆる心配が社会から消え去るのである。

2. 犯罪が殺人の場合は、犯罪と類似している。 しかし類似しているのは[殺人も死刑も人を殺すという]その点だけである。

3. 犯罪が殺人の場合、そしてその場合に限り、 民衆に支持されている(popular)。

4. おそらく他のどの刑罰よりも、 大きなみせしめの力を持つ(exemplary)。 そして、この刑罰が控えめに用いられている国においては、 死刑の執行は長く続く深い印象を与える。

ある特定の刑罰によって与えられる印象は、その強さではなくその長さに比例する と主張したのはベッカリーアであった。 彼によれば、「われわれの感受性は、 激しいがつかのまの感情よりも、 弱いが繰り返し行なわれる攻撃によってよりたやすく、 そしてより長きにわたって影響される。 この理由からして、 犯罪者を死刑にするよりもむしろ、 社会になした不正に対する償いをいくらかでもするために 監禁され重労働に従事する犯罪者の姿の方が、 犯罪行為に対する効果的な抑制になる」とされる。

[ベッカリーアは]かくも尊敬すべき権威ではあるが、 わたしにはまったく逆だと思われる。 わたしのこの意見は二つの所見に基づいている。 (1) 一般に死はたいていの人によってすべての害悪のなかで最悪のものと 考えられており、これを避けるためにはどんな苦難でも受ける気になる。 (2) 死は、刑罰として考えられた場合、もっとも厳格なものとほぼ普遍的に みなされており、人々は、情けを乞うとき、 死刑の代わりなら他のいかなる刑罰でも受けると言う。 刑の長さに関して言うならば、苦痛はないに等しい。 したがって、思うに、死の観念をこれほど恐ろしいものにしているのは、 死の苦痛、 とくに暴力[事故]による死の苦痛の強さについての混乱し誇張された考えが あるせいに違いない。 とはいえ、極悪な犯罪者に関しては、 労働の刑の方が --その程度はほどほどのものと考えたとしても-- 考えうるかぎりのいかなる残酷な死よりも強い印象を与えると ベッカリーア氏が考えたのは理由のないことではない。 しかし、 名誉や愛情や享楽や希望によって生につながれている一般の人々について言えば、 死刑は他のいかなる刑罰よりもみせしめの力を持つと思われる。

5. 死刑における一見したところの苦しみは もっとも強いように思われるが、 その真の苦しみは、おそらく苦痛を与える種類の刑罰の大半に比べて より小さいだろう。 それらの刑罰はその長さに加えて、その後にも、 刑罰を受けた者の健康を損なわせ、 残りの人生を困難なものするような一連の害悪を与える。 死刑の場合は、苦しみはつかのまである。それはあらゆる感覚の無化である。

最後の瞬間だけを考えるのであれば、 刑罰による死は自然な死より穏やかなことが多く、 それゆえ、害悪であるどころか、差し引き勘定すれば善である。 [死刑によって]こうむる苦痛は それより前の期間において探し求められる必要がある。 苦痛は不安(apprehension)にある。 この不安は犯罪者が犯罪を犯した瞬間に始まり、 彼が捕まったときに倍加する。 彼の死刑宣告をより確実なものとするあらゆる段階ごとに 不安はいや増し、宣告と執行の間にその頂点に達する。

死刑制度を支持するしっかりした議論は、 以上の考慮点を組み合わせた力から生じる。 死刑制度は、一方では、一般の人々にとって、 すべての刑罰の中で、一見してもっとも重く、 もっとも印象的で、もっとも大きいみせしめの力を持つ。 他方、もっとも残酷な犯罪者を提供する悪質な種類の人間にとっては、 それは見た目ほど厳しいものではない。 死刑は、あらゆる真の価値を奪われた不快で不幸で不名誉な存在を 素早く終わらせてしまうのである。 Heu! Heu! quam male est extra legem viventibus.

第2章 死刑制度に欠けている望ましい刑罰の性質

第3章 死刑制度の要約と、その代わりになりうる刑罰との比較

第4章 死刑制度のひんぱんな使用に伴なう付帯的な悪影響


KODAMA Satoshi <kodama@ethics.bun.kyoto-u.ac.jp>
Last modified: Mon May 29 00:07:12 2000