【 メッセージ 】
エコノミークラス症候群の予防対策と水分補給について
長い時間飛行機に乗って同じ姿勢で椅子に座り続けた時にエコノミークラス症候群が生じます。被災地で心配なのは車の中で寝起きする人がこの症候群に陥ることです。同じ姿勢で座り続けていると、大腿部(ふともも)の重さで体の内部にある静脈が押し付けられます。この状態になると、静脈の流れが滞るようになってしまいます。流れが滞った時に血管の壁に血栓という血液の塊が出来てしまいます。そこについているだけなら大きな問題にならないのですが、立ち上がって歩いたとたんに血液の塊が血管の壁から離れて静脈の流れに乗って移動します。この塊が肺動脈の毛細血管に行き着いた時、毛細血管が詰まってしまいます。このことが急性肺動脈血栓塞栓症を引き起こします。血液の塊が脳の血管を詰まらせれば、脳血栓に、心臓で詰まってしまえば、急性心筋梗塞になります。実際に、2004年10月23日に発生した新潟中越地震の後、3日以上車中で避難生活をしていた被災者が急性肺動脈血栓塞栓症で亡くなりました。被災地における避難生活において、いわゆるエコノミークラス症候群が発生する可能性があります。これまでの本学会などの知見から、その予防対策として体を動かすことをお勧めします。ストレッチングをしたり、簡単な体操など手足を動かすだけでも予防対策になります。
次のような人達は特に気をつけて下さい。下肢静脈瘤のある人達、下肢の手術を受けたことのある人達、肥満の人達、高齢者の人達、喫煙者の人達、糖尿病・高血圧症など生活習慣病の人達などです。
同じ姿勢をしなければ、エコノミークラス症候群が予防出来るわけではありません。どうしても水分が不足するとエコノミークラス症候群に陥りやすいことが分かっています。汗をかかなくても水分不足(脱水)になります。私達は体温を一定に保つ為に熱を作ったり(シバリング)、熱を皮膚から放出(不感蒸泄)したりしています。この時に、水を使っているのです。意識にのぼらない、感じない汗が出ます。じっとしているだけでも水分がなくなってしまいます。これらの水は、血液の水分(血漿)から出ています。このことによって血液が濃くなってしまいます。水分不足は、血栓が出来やすい状態です。
私達の体の60%は水分です。1日の必要量は成人で約2.5ℓぐらいです。飲料として1.2ℓ、食物として1.0ℓ、代謝水として0.3ℓ、合計2.5ℓが通常の生活の目安です。1日の水分損出量もおよそ2.5ℓです。尿(おしっこ)で1.5ℓ、糞便(ウンコ)で0.1ℓ、不感蒸泄で0.9ℓです。この状態がバランスよく保たれていればエコノミークラス症候群のリスクも低下します。
特に注意が必要な人達は、次のような人達です。発熱している場合、下痢・嘔吐の場合、被災地で一日中作業している人達などは要注意です。熱中症ではないのですが、脱水になります。十分な水分、できればスポーツ飲料水などミネラルの含んだ水をとるようにして下さい。また、高齢者、乳幼児など環境変化への適応に素早く対応出来にくい人達も脱水の危険性があります。このような人達については周りの人達が注意を持って接してあげて下さい(乳幼児には飲料水をあげることをお勧めしますが,もしもスポーツ飲料水などをあげる場合は,事前に医師等にご相談ください)。