ご挨拶 Greeting

日本中性子捕捉療法学会 第18回大会開催にあたって

筑波大学医学医療系 陽子線医学利用研究センター

                                                                                      熊田博明

このたび日本中性子捕捉療法学会の第18回学術大会・大会長を拝命致しました筑波大学医学医療系(陽子線医学利用研究センター)の熊田でございます。皆様からのご推挙により若輩ながら大会長を務めることになり、身が引き締まる思いです。本大会はつくば市のつくば国際会議場にて開催させて頂くことになりました。つくばでの大会は、第2回大会(2005年)と第9回大会(2012年、第15回ISNCT学術大会との併催)以来、ちょうど10年ぶり3回目の開催となります。これまで長くBNCT研究に携わっておられる方々にとって、つくばは既にお馴染みの地になっていると思います。

治療に大強度の中性子が必要となるBNCTは、1936年に治療の基本原理が提唱されて以来、21世紀初頭まで研究用原子炉を使って臨床研究が行われてきました。この原子炉を使った臨床研究において、この研究に携わってきた研究者達は、より高い治療効果を得るために様々な工夫や研究開発を行い、これらの積み重ねによっていくつかのブレイク・スルーもありました。私は物理工学分野の人間ですので、この観点から見て私が経験した大きなブレイク・スルーは、熱外中性子ビームの臨床適用です。それまでは照射に熱中性子ビームを用いていたため、病巣部まで熱中性子を送り込むために術中(開頭)での照射が行われていました。これが熱外中性子ビームを使うことで非開頭での照射が可能となり、照射時間も短くなりました。開頭照射では照射の前後で開頭手術、閉頭手術を伴うため、1人の患者への照射も1日がかりでした。しかし熱外中性子ビームでの臨床研究では1人当たりの治療も薬剤投与を含めても数時間で完了できるため、1日に複数人の照射も実施されるようになりました。この熱外中性子ビーム照射の実現は、BNCTに次なるブレイク・スルー:“適用拡大”も呼び起こしました。より深部領域まで治療線量を送り込める熱外中性子ビーム照射によって、それまで(開頭術による)悪性脳腫瘍、悪性黒色腫などの表在性のがんに限定されていた臨床研究が、頭頸部がん、中皮腫、肝がん、直腸がん、といったより深部のがん、体幹部のがんへの臨床研究も試みられようになったのです。

この20世紀末から起きた原子炉時代のブレイク・スルーをはるかに超える大きなブレイク・スルーが2020年におきました。加速器ベースBNCT装置:NeuCureとホウ素薬剤:ステボロニンのそれぞれの薬事登録、そして、これらを組み合わせての再発頭頸部がんに対するBNCTの保険治療の開始です。原理が提唱されてから80年以上の年月を経て、ついにこの治療法が一般の病院で保険治療として受けられるようになったのです。しかし、これはゴールではありません。これからはこの治療法をさらに発展させ、より多くのがんに対して保険適用化、先進医療化が求められます。先行装置であるNeuCureに続いて多くの加速器ベースの治療装置の開発実用化も行われています。新しいホウ素薬剤の研究もさらに加速するでしょう。BNCTは、一般のがん治療として確立、普及するための新たなステージに向けたスタート・ラインに立ったのだと思います。これらの節目を迎えたBNCTの状況を踏まえ、今回の学術大会のテーマは「BNCT2.0 次なるステージへ」とさせて頂きました。これまで幸運にも約10年毎につくばの地でそれぞれのブレイク・スルーの成果が紹介されてきました。第18回大会でも、2020年に起きたブレイク・スルーに伴う成果と、今後の新たなステージに向けた研究や活動を共有できる場になれば良いと思っております。是非、多くの方々にご参加頂ければ幸いです。