日本医学教育学会認定医学教育専門家資格制度の概要と制度発足に向けた
実施要項(案)、およびパブリックコメント募集について

日本医学教育学会医学教育専門家制度委員会

【認定専門家資格制度の趣旨と目的】

 日本医学教育学会によって1974年に医学教育者のためのワークショップ(富士研)が実施されて以降40年近くの間に、臨床研修指導医養成講習会や各大学主催の医学教育のワークショップを通じてワークショップ形式による医学教育の指導者・教員養成が定着した。この間に医学教育への関心をもち医学教育学に対する基本的な知識を有する教員や指導医などが数多く生まれてきた。しかし、近年の医学教育のグローバル化の大きな広がりの中で20世紀末には世界に7校にしかなかった医学(医療者)教育大学院修士課程が近年では80校近くにまで増えるなど国際的な潮流は大きく変化している。わが国でもさらに水準の高い医学教育専門家養成が求められる状況となってきている。

 本学会では、第15期のマスターコース検討委員会、第16期の医学教育専門家育成委員会と議論を重ね、第16期末には「学会認定医学教育専門家資格制度創設への提言」(医学教育Vol.43(3),221-231,2012)が理事会に報告された。現在の第17期では、こうした従来の成果をシステムとして具体化する形で医学教育専門家制度委員会が準備作業を進めてきた。このたび資格制度の具体的な概要がまとまったので、今年の学会総会での制度発足を決議することを提案する。

 認定専門家資格は、従来のカリキュラムプランニングを中心とした医学教育ワークショップの普及の成果を踏まえたうえで、今後のわが国の医学教育と本学会の発展に大きく寄与することを目指して、医学教育のグロ-バル化にも対応できるような従来より一歩進んだ高度な医学教育学の専門的人材の養成を目的に創設するものである。

 総会に向けて、本制度に対する意見を広く会員に対して求めるためパブリックコメントを
5月1日〜5月31日の期間に募集
を行います。是非、積極的なご意見を学会事務局の方までメールでお寄せください。

【認定専門家資格制度の概要】

 認定医学教育専門家の位置づけは、富士研ワークショップや臨床研修指導医養成講習会の修了者クラスの対象者に対して一定のコースワークや教育ポートフォリオ等の課題を課したうえで、医学教育大学院修士課程の一つ手前のレベルでの医学教育学の専門家を学会認定資格として創設するものである。
 認定専門家資格制度の概要及び認定へのスケジュールは別図1の通りである。

【コースワーク履修登録申請】

  1. 認定医学教育専門家申請資格
     認定医学教育専門家の申請資格は下記1)2)をみたす者とする。
    1) 日本医学教育学会員であること (申請年を含めて連続した過去3年間)
    2) 富士研ワークショップ、臨床研修指導医養成講習会、臨床研修カリキュラム作成責任者講習会や16時間以上の時間数で内容としてカリキュラムプランニングが含まれているような各大学での医学教育者のためのワークショップの受講者(具体的なプログラムの中身の提出が必要)
     ※一般教育や基礎医学系教員は上記2)に該当するワークショップの受講機会が少ないので、FD委員会の協力の下に受講機会を確保する方策を実施する
  2. 認定申請希望者の履修登録申請(初回の申請は2014年8月末までの予定:正式には総会後の公告を参照)
     認定申請を希望する者は、履歴書・教育業績・所属機関からの推薦書をつけて履修登録を申し込む。
     資格制度発足当初は、コースワークの実施体制や認定審査の体制が弱いことを考え、コースワーク受講前の履修登録の段階でゲートコントロールを行い、スムースなコースワークの履修や認定審査が実施できるように努める。そして、認定を進めながら認定制度の企画・運営に携われる人材も養成し、早期に認定システムの拡大・発展を目指す。
     当面の履修登録者選抜のアドミッションポリシーは下記の通りである。
    1. 医学教育、その他の医療系職種の卒前・卒後教育・生涯教育の管理・計画・運営に現在携わっており、コースワークや教育実践・振り返りレポートを記載する上での実践の経験を得る状況にいる者(教育フィールドを持つ者)。
    2. 予定されたコースワークに出席し、期限内に受講後のコースワークレポートを提出できる者。
    3. 認定専門家資格制度自体は医学教育以外の医療者教育に携わる学会員の履修申請を排除するものではないが、あくまでも「医学教育学会」の認定制度であるので、当面は卒前卒後の「医学教育」に携わる教員・指導者を中心に履修登録を行い、それ以外の医療者養成に関わる教員の割合を一定程度制限することもありうる。
    4. また、医学教育に携わる教員・指導者の中でも、当面は認定専門家資格取得のニーズの高い卒前の医学教育ユニットのスタッフや卒後の臨床研修センターのスタッフなどを優先して選抜を行う。
    5. 同様に、認定資格取得後に各教育部門でその成果が発揮できる立場にいる者、この資格制度の企画・運営にスタッフとして協力してもらえる者を優先して、履修申請時の書類の記載に基づいて履修登録者の選抜は行われる。

【コースワーク履修とその後の教育実践】

 上記アドミッションポリシーの下に履修登録の認められたものは、まずは履修登録者事前説明会に参加した後に、コースワークを受講する。

  1. 履修登録者事前説明会
     履修登録者を対象に履修登録者事前説明会を実施し(初回の説明会は2014年11月21日の予定:正式には総会後の公告を参照)、認定専門家資格制度全体の概要やコースワークの受け方、コースワークレポートの書き方、認定申請用ポートフォリオの書き方などについて説明を受ける。
  2. コースワークの受講
     履修登録者はTeaching & Learning(T & L)、Assessment(A)、Curriculum Development(CD)の3コースを概ね1〜2年の間に受講し、提出期間内にコースワークレポートの提出を行う(初回のコースワークはT & L :2014年11月22・23日、A:2015年2月28・3月1日、 CD:2015年5月16・17日、の予定:正式には総会後の公告を参照)。各コースワークで学ぶべき内容の概要は医学教育誌44巻2号から連載されている「シリーズ:医学教育学ベーシック」にまとめられている。
  3. コースワーク後の教育実践
     コースワーク履修者はコースワークレポートが合格した後に、コースワークで学んだ視点をもとに新たな教育実践を行い、それに基づいた形で各領域毎の教育実践・振り返りレポートを完了させる。
    概ねコースワーク終了後に、教育実践・振り返りレポート完了までを1〜3年程度とする。

【専門家認定申請用ポートフォリオの提出】

 認定申請時に求められる認定申請用ポートフォリオ(あくまでもポートフォリオは全体を指す)の中身は、

  1. コースワークレポート(3コース分)
  2. 教育実践・振り返りレポート(以下の4項目中3項目について要提出)
    1) Teaching & Learning
    2) Assessment
    3) Curriculum development
    4) Others(本人の自由、得意分野、例示など)
  3. 学術活動の成果(学会発表や学術論文、著書・翻訳書、研究報告書、その他)1編
  4. 教育履歴:教育経験に関する業績リストとキャリアヒストリー(教育者として歩みをプロフェッショナリズムの視点から振り返り)

 認定申請用ポートフォリオの作成は作成ガイドを準備するので、その作成ガイドに基づいて完了させる。(認定申請の日程については後日アナウンスする)

【認定審査】

 上記、認定申請用ポートフォリオを提出し、その書類審査は各文書ごとに複数の審査者により認定審査用のルーブリックに基づいた独立した審査によって行われる。
 さらに、書類審査だけでは十分ではないアカウンタビリティーを確保するために認定審査会で面接を行い、作文だけではない実践の部分についての信頼性も確保する(認定審査会の日程については後日アナウンスする)。
 書類審査および審査会での面接結果をもとに審査判定委員会を行い、その結果を理事会で承認することで認定資格の取得ということになる。

【暫定認定資格】

 従来から学会活動に積極的に関わり日本の医学教育学の進展に大きく貢献されてきた本学会員や海外で医学教育の専門的な認定を受けてきた本学会員に対して、コースワークの受講なしで一定の資格審査のうえでの暫定認定資格を作り、本認定資格制度を発展させるうえでの人的・財政的基盤を確立することに資するものとする。暫定認定資格の申請は、制度発足後、平成29年5月末日まで資格申請を受け付ける。
 認定専門家資格制度の概要及び認定へのスケジュールは別図2の通りである。

  1. 暫定認定医学教育専門家申請資格
    暫定認定の有資格者は以下のいずれかのものである.
    1. 申請時点で10年以上の会員歴があり、医学教育を先導した実績のある日本医学教育学会会員
    2. 海外の大学院で医学教育や医療者教育に関する修士号ないしはそれと同等の認定資格を習得していると審査判定委員会に認められた日本医学教育学会会員(具体的な認定プログラムの資料の提出が必要)
  2. 暫定認定資格申請者向け事前説明会
     暫定申請を検討している本学会員を対象に事前説明会を実施し(初回の説明会は2014年11月22日の予定:正式には総会後の公告を参照)、暫定認定専門家資格制度の概要や認定申請用ポートフォリオの書き方などについて説明を受ける。
  3. 暫定専門家認定申請用ポートフォリオの提出
     暫定資格の認定申請用ポートフォリオ(あくまでもポートフォリオは全体を指す)の中身は、本認定の申請用ポートフォリオからコースワークレポート(3コース分)を抜いた、
    1. 教育実践・振り返りレポート(以下の4項目中3項目について要提出)
      1. Teaching & Learning
      2. Assessment
      3. Curriculum Development
      4. Others(本人の自由、得意分野、例示など)
    2. 学術活動の成果(学会発表や学術論文、著書・翻訳書、研究報告書、その他)1編
    3. 教育履歴:教育経験に関する業績リストとキャリアヒストリー(教育者として歩みをプロフェッショナリズムから振り返り)で、本認定に準じて作成ガイドに基づいて暫定資格の認定申請用ポートフォリオを完了させ提出する。
    4. 暫定資格の認定審査
      暫定資格の認定審査についても、認定審査会は不要とし、書類審査のみで認定作業を行う。

【今後の取り組み】

専門家制度委員会で考える認定資格制度スタートまでの今後の取り組みは以下のとおりである。

  1. 2014年総会で専門家制度発足を決定、総会後に暫定認定資格申請も含めて公告
  2. 暫定資格申請者の認定作業を平成29年5月末日までの期限で申請書類提出期間を別に定めて1〜2回/年のペースで開始(2014年11月22日に初回説明会を予定)
  3. 履修登録者の申請と選抜を行い第1回説明会を実施(2014年11月21日に予定)
  4. 本認定第1期コースワークの開始(2014年11月22日〜)
  5. 本認定の申請を申請書類提出期間を別に定めて実施(認定申請用ポートフォリオの提出)