もやもや病は、内頚動脈という脳血管の終末部が原因不明で進行性に細くなってしまう病気です。
人口10万人あたり6-10人程度いると考えられています。
細くなった脳血管によって酸素と栄養が供給されている脳の領域では、
最初は特に症状が出ませんが、進行するにつれて脳の血流がだんだん足りなくなり、
症状を出すようになります。足りない血流を補うために、
周囲の小さく細い血管が代わりに異常に拡張しもやもや血管を形成します。
これが脳血管撮影でたばこの煙のように”もやもや”見えるため、もやもや病と名付けられました。
もやもや病は家族でかかることもあり(10-12%)、患児の診断をきっかけとして
ご両親や兄弟姉妹のもやもや病がみつかることもあります。
家族に同じような症状がないかどうか気をつける必要があります。
18歳未満のもやもや病患者さんは、「小児慢性特定疾病医療費制度」の適応となり、
医療費の自己負担額を少なくできる制度を利用できます。まだ申請していない場合には、
積極的に病院の相談窓口に行くようにしてください。
もやもや病(ウイリス動脈輪閉塞症)は両側内頚動脈終末部に慢性進行性の狭窄を生じ、
側副血行路として脳底部に異常血管網(もやもや血管)が形成される疾患です。
進行すると、両側内頚動脈の閉塞とともに、内頚動脈からの脳底部もやもや血管も消失し、
外頚動脈系および椎骨脳底動脈系が脳全体を灌流するようになります。
本疾患では後大脳動脈は最後まで保たれることが多いですが、
小児患者の場合には26-59.8%で後大脳動脈の狭窄を合併すると報告されています。
また、原因不明ですが、感受性遺伝子としてRNF213が同定されており、
わが国のもやもや病患者は74-90%にこの変異を有しています。
もやもや病は、わが国をはじめアジアに多発する疾患で、
人口10万人あたり3-10.5人程度いると考えられており、女性に多い(1:1.8-2.5)疾患です。
また、10-12%に家族歴を認め、長期観察により、非発症者から進行する事例も報告されています。
何らかの基礎疾患(神経線維腫症・ダウン症候群・甲状腺機能亢進症など)
に合併して内頚動脈終末部、前大脳動脈および中大脳動脈の近位部に狭窄または閉塞がみられ、
異常血管網を伴う場合には類もやもや病と定義されています。
【参考文献】
もやもや病では、脳血管の狭窄・閉塞のために脳の血流が悪くなり脳虚血症状を引き起こすとともに、
弱いもやもや血管が破れて脳出血を起こすこともあります。
こどもでは、脳虚血がほとんどであり、脳出血はまれです。
脳虚血症状には、手足の力が入りにくくなる、言葉が上手に話せなくなる、
手足が勝手に動く(不随意運動)、けいれん発作などがあります。
典型的ではありませんが、症状が朝起きた時の頭痛や吐き気のみのこともあります。
泣いたり、フーフーと風車をふいたりするなどの過換気(息を何度も吸ったり吐いたりする)
や脱水により誘発されやすいことが特徴的です。
症状が一過性で治ってしまうものは一過性脳虚血発作と呼ばれ、これはあくまで発作であり元に戻りますが、
脳虚血の程度が強い場合には、脳の細胞が壊れてそのまま脳梗塞になってしまいます。
脳梗塞になった場合には、症状が後遺症として残ることもあります。
小さいこども(乳幼児)ほど進行が早く、脳梗塞の危険が高いためより注意が必要です。
脳出血がおこると、出血の部位に応じて、意識が悪くなったり、
手足の脱力やけいれん発作、何度も吐いたりなどの症状がでることが多いです。
脳出血は命に関わることもあり、早急な対応が求められます。
本疾患の発症年齢は、二峰性分布を示し5-10歳を中心とする高い山と30-40歳代を中心とする低い山を認めます。
発症形式は、小児では激しい運動や啼泣、ハーモニカ演奏、熱いものを食べるときなどの過換気後に、
大脳の虚血症状で始まるものが多く、一過性脳虚血発作(TIA)や脳梗塞となります。
そのほかには、不随意運動やてんかん発作,脳出血をきたすこともありますが、
特に5歳未満での脳出血はきわめてまれです。
近年MRIの普及により、頭痛のみを呈する例も多く診断されるようになってきています。
その実態・機序は不明な点も多いですが、血行再建術により頭痛が改善するとの報告があり、
もやもや病による脳循環不全が頭痛の原因となっている可能性が示唆されています。
【参考文献】
症状からもやもや病が疑われる場合には、MRIを撮影します。
MRIでは脳梗塞や脳出血の有無、もやもや血管の有無を評価します。
また、MRAという撮影を同時に行うことで、脳の血管を大まかに調べることができます(図1A, C)。
1) 内頚動脈の終末部が左右2本とも細くなっているもしくは閉塞している場合、かつ
2) もやもや血管が認められる場合には確定診断となります。
2本ある内頚動脈のうち、左右のどちらか1本の終末部が細くなっている場合には、
脳血管撮影というカテーテル検査が勧められますが、小さいこどもの場合には全身麻酔で行う必要があることも多く、
体への負担を考えてMRI/MRAのみで診断することもあります。
MRIや脳血管撮影によってもやもや病と診断もしくは疑われた場合には、
治療の必要性を判断するために、脳血流検査(スペクトやペットなど)を行い、
脳の血流が悪くなっていないかどうかを調べます(図1B, D)。
A:術前MRA画像、両側の内頚動脈の終末部に狭窄が認められる。
B:術前 IMP-SPECTにて両側前方の脳血流低下を認める。
C:術後MRA画像.間接血行(脳の外側からの血管)が育ちはじめている。
D:術後IMP-SPECTでは脳血流の改善を認める。
MRAで以下の所見を認めた場合には確定診断となります。
1) | MRAで頭蓋内内頚動脈終末部あるいは、前大脳動脈および中大脳動脈近位部に狭窄また は閉塞がみられる。 |
2) | MRAで大脳基底核部に異常血管網がみられる。 |
3) | 1)と2)の所見が両側性にある。 |
【参考文献】
脳虚血症状がある場合に治療を行う必要があります。こどもの場合には、
症状を捉えるのが難しいこと、また、進行するのが早いことを考慮して、
症状が明らかでなくても脳の血流が悪い場合には、予防的に治療介入することもあります。
治療は、脳血流の悪い部分に血流を補うための対症療法として、
血行再建術を行います(図2)。
血行再建術のやり方には大きく2つあり、
1)間接血行再建術と
2)直接血行再建術です。
大人のもやもや病の手術としては、直接血行再建術のみ、
もしくは間接と直接を組み合わせた複合血行再建術が行われていますが、
こどものもやもや病の手術としては、間接血行再建術のみ、
もしくは複合血行再建術が行われます。
間接血行再建術とは、脳の表面に骨膜や硬膜、もしくは筋膜・血管などの血流豊富な組織を貼り付けて、
そこから血管が脳に向かって生えていき、血流を補ってくれるシステムを作ることです。
傷を大きくすれば広い範囲に血流を補えるというメリットがある一方で、
血流が補われはじめるまでに数週間という時間がかかるというデメリットがあります。
直接血行再建術とは、皮膚の血管(浅側頭動脈など)を脳の血管に直接つなげる手術です。
血管をつないだ瞬間から脳の血流が増えるので、すぐに血流が増えるというメリットがある一方で、
1本もしくは2本しかつなげないこと、こどもの血管は細くて弱いため技術的に難しいというデメリットがあります。
脳虚血症状を呈するもやもや病に対しては、頭蓋外内血行再建術が勧められます。
血行再建術により、TIAの改善、脳梗塞リスク軽減、術後ADL(activities of daily living)の改善、
長期的高次脳機能予後の改善が得られることが報告されています。
脳出血発症例に対する頭蓋外内血行再建術の有効性に関しては、
小児例でのエビデンスは確立していません。
血行再建術の方法としては、浅側頭動脈-中大脳動脈(STA-MCA)
吻合術を代表とする直接血行再建術と筋膜・動脈・硬膜を用いた間接血行再建術が用いられます。
小児例では、直接間接複合血行再建術および間接血行再建術単独の予後改善効果がそれぞれ報告されています。
周術期は非手術側も含めた虚血性合併症に留意し、血圧維持、normocapnia、
十分な水分補給に加え,必要に応じて抗血小板薬の使用を考慮します。
【参考文献】
脳虚血に関しては、脳の血流が増えることによって、
新しい脳梗塞ができる可能性や一過性脳虚血発作はぐっと減り、
長い目でみると知能の改善も期待できます。
しかしながら、治療前にできた古い脳梗塞や脳出血による症状が完全になくなることはまれで、
リハビリなどにより改善を促すことになります。
脳出血に関しては、大人の患者さんについては、
血行再建術により脳出血の可能性を減らすことができますが、
こどもの患者さんに関しては、脳出血予防効果は分かっておらず、
今後の研究が待たれるところです。
脳血行再建術の効果を検証したrandomized controlled trial(RCT)は存在しませんが、
その術式にかかわらずTIAは消失あるいは減少し、脳梗塞の再発はきわめてまれで、
自然歴と比較すると機能予後は良好であると考えられています。
また、脳血行再建術は知能予後を改善させるとされています。
【参考文献】
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