外耳道に注水することによって半規管に生じた温度差による対流が、半規管とその求心路を刺激する。
水の注入を行う前に、外耳道が開通しており、鼓膜が正常であることを確認する。
健常者に施行する場合は冷水(30℃)あるいは温水(44℃)を0.2mL注入する。
検査のための体位:背臥位では、頚部を30°前屈。座位では、頚部を60°伸展。
健常者では、冷水刺激で約20秒の潜時の後、反対側へ向かう眼振が90-120秒生じ、同側へゆっくり眼位が偏倚する。この現象は、鼓膜に最も近い外側半規管内のリンパ液が冷され比重が重くなり下向きに流れる結果、前方(検査頭位では、上)にある膨大部より遠ざかる内リンパ流となり、冷水注入側方向に眼球を緩徐に動かす眼球運動が生じ、反対側方向への急速眼球運動(眼振)が起こる。
記憶法
眼振の向き。COWS: Cold Opposite, Warm Same.
ゆっくりした眼球偏倚の向き。恋愛の駆け引き:冷たくすると寄ってきて、暖かくする(過度の思わせぶり)と遠ざかる。
左外耳道に冷水刺激
左外耳道に温水刺激:温水では逆の方向になる。
(参考)三半規管と眼球運動との関連
頭部を動かした場合、内リンパ流の方向に眼球は動く。
Ewald’s 3 Laws (J.R. Ewald (2/14/1855-7/22/1921): German physiologist
半規管に生じる内リンパ流動とこれにより生じる眼球運動(眼振)の方向に関する法則。
①眼球と頭部の運動は、半規管の平面で起こる。眼球運動(眼振)の軸は半規管の解剖学的軸と内リンパ流動の向きに一致する。
②外側半規管では向膨大部の内リンパ流動は刺激として、反膨大部流は抑制として働く。
③垂直半規管ではその逆となる。
Flourensの内リンパ流動説 Marie Jean Pierre Flourens (13 April 1794 – 6 December 1867): French physiologist 各半規管が興奮あるいは抑制された場合に生じる眼球運動の方向に関する法則
①外側半規管が刺激され興奮した場合、同側眼の内直筋と対側眼の外直筋が収縮し、眼球は反対側に偏倚する(緩徐相)。その後眼球は反対方向に急速に動き(急速相)、正中眼位に復帰する。
②左後半規管が刺激され興奮した場合、同側眼の上斜筋と対側眼の下直筋が収縮する結果、眼球は反時計方向に回旋し、下方に偏倚する(緩徐相)。その後眼球は急速に時計方向および上方に動き(急速相)、正中眼位に復帰する。
③左前半規管が刺激され興奮した場合、同側眼の上直筋と反対眼の下斜筋が収縮する結果、眼球は上方に偏倚し、反時計方向に回旋する(緩徐相)。その後眼球は急速に時計方向および下方に動き(急速相)、正中眼位に復帰する。
カロリックテスト
A:健常人あるいは脳幹機能正常な代謝性脳症:両側の外耳道に、冷水を注入すると両眼球は下転し、温水では両眼球上転する。
B:右外側橋病変:右外耳道冷水注入で、右眼球外転と左眼球内転が出来ない。左外耳道冷水注入で、左方視は両眼球とも保持。両側外耳道冷水注入では、機能が相対的に保持されている左側に眼球は偏倚。
C:両側内側縦束(MLF)病変:左あるいは右外耳道冷水刺激で、両側眼球の内転が出来ない。
D:right one and half syndrome:右傍正中部橋網様体(PPRF)、右外転神経核、両側MLFの病変により、左外耳道冷水注入では左眼球の外転は可能であるが、右眼球の内転は出来ない。右外耳道冷水注入では右眼球の外転および左眼球の内転も出来ない。
E:中脳梗塞:両側の動眼神経核と滑車神経核が障害され、両側の眼球外転運動のみ保持。C:両側MLF病変と同じ外眼筋麻痺を呈している。中脳梗塞では対光反射が障害されているが、両側MLF病変では対光反射は保持されている。