外眼筋と支配神経:外眼筋の麻痺により障害されている脳神経・神経核がわかり、脳幹の機能を推測できる。
内側直筋・上直筋・下直筋・下斜筋 ⇒ 動眼神経
上斜筋 ⇒ 滑車神経
外側直筋 ⇒ 外転神経
外眼筋の作用(左眼)は、正中視での各外眼筋の単独の作用を示している(解剖学の教科書には以下の様に図示される)
内眼筋と支配神経
瞳孔括約筋 ⇒ 動眼神経
瞳孔散大筋 ⇒ 交感神経
毛様体筋 ⇒ 動眼神経
眼瞼と支配神経
上眼瞼挙筋 ⇒ 動眼神経
ミュラー筋 ⇒ 交感神経
眼輪筋 ⇒ 顔面神経
外眼筋の麻痺の診察: 意識がある場合、複視の有無を確認する
ベッドサイドでの診察では、正中視の位置から右方視で右外側直筋と左内側直筋の動きを診る。右方視の位置から上方に視線を移動させ右上直筋と左下斜筋の動きを診る。右方視の位置から下方に視線を移動させ右下直筋と左上斜筋の動きを診る。次に正中視の位置から左方視で右内側直筋の動きを診る。左方視の位置から上方に視線を移動させ右下斜筋と左上直筋の動きを診る。左方視の位置から下方に視線を移動させ右上斜筋と左下直筋の動きを診る。
解剖学の教科書によく記載してある外眼筋(外側直筋と内側直筋以外)の作用と矛盾しているようであるが、この図は、眼球の外転位での上下の眼球運動、内転位での上下の運動を診ており、神経診断学の教科書に記載されている。外転位あるいは内転位にすることで、垂直方向の眼球運動に関与する外眼筋を単独化させ、各外眼筋の麻痺の有無を診る(下の滑車神経の項目の右図上斜筋を参照)。なお、軽い麻痺の場合、眼球麻痺の観察は難しい。意識がある場合は、複視があるかどうかを聞き、複視のズレが最大になる注視方向を同定し、下記のカバーテストを行い麻痺している外眼筋を同定する。
右方視眼位からの上転 ⇒ 右上直筋と左下斜筋(右下斜筋は外旋、左上直筋は内旋の作用)
右方視眼位からの下転 ⇒ 右下直筋と左上斜筋(右上斜筋は内旋、左下直筋は外旋の作用)
左方視眼位からの上転 ⇒ 右下斜筋と左上直筋(右上直筋は内旋、左下斜筋は外旋の作用)
左方視眼位からの下転 ⇒ 右上斜筋と左下直筋(右下直筋は外旋、左上斜筋は内旋の作用)
複視を生じるメカニズムとカバーテスト
図上段:麻痺のない場合 眼球の位置と脳が考える眼球の位置は一致し複視は生じない
図左下:左内直筋麻痺の場合 左眼球は内転せず、像は黄斑部より外側に投射する 脳は左眼球が内転していると考え、黄斑部の外側に投射する像を虚像として認識し、実像の外側に像が存在するように見え複視となる。麻痺筋のある目をカバーすると外側にある虚像が消える
図右下:右外直筋麻痺の場合 右眼球は外転せず、像は黄斑部より内側に投射する 脳は右眼球が外転していると考え、黄斑部の内側に投射する像を虚像として認識し、実像の外側に像が存在するように見え複視となる。麻痺筋のある目をカバーすると外側にある虚像が消える
軽い外眼筋麻痺の場合、複視が一番強い方向を見ている状態で、それぞれの目をカバーした時に、外側の像(虚像)が消えた眼が麻痺側であり、麻痺のある外眼筋を同定できる。
外眼筋の麻痺の診察: 意識がない場合、眼球前庭反射やカロリックテストで外眼筋の麻痺の有無を判断できる
動眼神経
動眼神経核は中脳吻側の中脳水道灰白質腹側正中部(図右のIII)に存在する。動眼神経核内における個々の外眼筋支配神経細胞の局在があり、上眼瞼挙筋を支配する尾側中心核は尾背側正中部に、上直筋を支配する核は尾側傍正中部に位置し、これらの核は同側及び一部反対側の筋を支配している。副交感神経核(Edinger-Westphal核)は吻側から背側の正中部に位置している。中枢内病変では、反対側の外眼筋や上眼瞼挙筋に麻痺が出現することから、末梢性の動眼神経麻痺との鑑別に有用である。
滑車神経
滑車神経核は中脳尾側の中脳水道灰白質傍正中部(図左のIV)に存在し、線維は同側の背側に走り、下丘交連を交差し下丘の尾側でクモ膜下へ出る。小脳テント内側縁に沿って前方へ向かい、海綿静脈洞外側壁内では動眼神経の下、三叉神経第1枝の上、上眼窩裂を通り上斜筋を支配する。上斜筋は、眼球最内転位では眼球を下転させ、眼球最外転位では眼球を内旋させる。
外転神経(尾側橋)
外転神経核は橋尾側の被蓋傍正中部(顔面神経丘の中、図のVI)から腹側に走りクモ膜下へ出る。脳幹腹側を前方へ走り海綿静脈洞、上眼窩裂を通って外転筋を支配する。脳神経の中では、クモ膜下を走行する距離が最も長く、髄膜炎や頭蓋内圧亢進の影響を受けやすい。中枢性病変では、内側縦束(medial longitudinal fasciculus: MLF)や傍正中部橋網様体(paramedian pontine reticular formation: PPRF)に近い位置に存在するので、これらと一緒に侵されることが多い。外転神経核とPPRFが障害されれば病側への水平共同視麻痺を、外転神経核とMLFが障害されれば病側の眼球は内転も外転も出来なくなる。
5つの眼球運動とそれらの核上性コントロール
⑴ 衝動性眼球運動(Saccades)
急速な注視運動は、前頭葉注視中枢や上丘を上位ニューロンとするPPRF(水平方向)のオムニポーズニューロン (omnipouse neuron: OPN)や内側縦束吻側間質核(rostral interstitial nucleus of medial longitudinal fasciculus: riMLF)(垂直方向)を中枢とする。両眼の同一方向への衝動性眼球運動は、眼球運動の方向とは反対側の大脳皮質(Area 8)にある前頭葉注視中枢からの指令による。この領域から後頭頭頂領域(Area 19)へ投射し、注視方向を調整している。水平方向の衝動性眼球運動は、下行性に内包前脚、内包膝部、皮質球路に沿い大脳脚から橋上部で交差し反対側のPPRPへ投射し、近傍の外転神経核を刺激し反対側眼球を外転し、同側MLF(PPRFの近傍で交差し中脳へ上行する)を介し同側動眼神経を刺激し同側眼球を内転させる(下図①)。垂直方向の衝動性眼球運動は、前頭眼運動野(frontal eye fields: A)(大脳基底核を経由?)から中脳上丘を経由後、riMLFとカハール間質核(rostral interstitial nucleus of Cajal: RIC)を介し、動眼神経と滑車神経へ入力し垂直方向の眼球運動を制御している(下図①③)。
⑵ 滑動性眼球運動(Pursuit)
目標物をゆっくり追う眼球運動は、前頭葉注視中枢や後頭頭頂領域、橋核、小脳を上位ニューロンとする前庭核を中枢とする。中心窩誘発性眼球運動は、視覚刺激に対する反応としておこる。網膜、視神経、視索、外側膝状体を介し一次視覚野(Area 17)から後頭頭頂領域(Area 19)より同側皮質視蓋路を下行し、橋下部で交差し前庭核(小脳の修飾を受け滑動性眼球運動を調整)へ入り、近傍の外転神経核を刺激し反対側眼球を外転し、同側の動眼神経を刺激し同側眼球を内転させる(下図②)。
⑶ 前庭動眼反射(Vestibuloocular reflex)
頭位変換時の両眼の協調運動は、三半規管からの情報を受ける前庭核が中枢である(下図④)
⑷ 視運動性眼振(Optokinetic nystagmus)
周囲が動くときに対応する両眼の協調運動は、後頭頭頂領域からの情報を受ける前庭核が中枢である
⑸ 輻輳(Vergence)
近くを見る時は輻輳(収束)、遠くを見る時は開散。動眼神経系を取り囲む中脳網様体の輻輳神経が関与しているが、それより上位の制御機構については不明の部分が多い。
前庭系と小脳は密接に関連し、小脳の眼球運動への関与は大きいがその詳細は不明である。