シャーガス病



 Chagas病は、鞭毛虫 Trypanosoma cruzi (T. cruzi; American trypanosomiasis) の感染を原因とする人獣共通感染症。
 米国南部、中南米において多く発生し、日本では、中南米からの入国者にChagas病の報告がある。
 媒介昆虫であるサシガメは、ヒト、イヌ、ネコ、サル、アルマジロなど哺乳類の住処に生息し、日中は壁の隙間などに潜み、夜間、睡眠中の哺乳類から吸血する。吸血後、刺入部位は発赤・腫脹し、灼熱感・掻痒感を伴う。吸血で満腹になったサシガメは脱糞し、糞便中のT. cruziが、結膜など粘膜や皮膚の傷を介して体内に入り感染、血行性に播種する。
 感染症状は、急性期、慢性期、および再活性化期に分けられる。1-2週間の潜伏期間(輸血・臓器移植では4週間)を経て、発熱、倦怠感、頭痛、全身痛、発疹、食欲低下、下痢、嘔吐など急性期症状を呈し、肝脾腫やリンパ節腫脹、感染部位の腫脹(chagoma)、顔面では片側眼瞼浮腫(Romaña's sign)を認める。これらの症状は8-12週間続き、ほとんどは自然寛解するが、稀(1%以下)に心筋炎や髄膜脳炎で死亡する。急性期後、感染者の60-80%は無症状である。無治療の場合、10年から数十年後の慢性期に神経症状(認知症、意識障害、局所神経徴候。心筋障害に伴う脳虚血や塞栓が主で脳炎は稀)、消化管症状(巨大食道、巨大結腸)、心筋障害(拡張型心肥大、心室瘤、不整脈)を呈する6)。病態として、T. cruziによる炎症、小血管障害、T. cruzi と標的組織の交差反応性自己免疫、炎症が波及した腸管Auerbach神経叢や心筋自律神経の脱神経が関与する。HIV感染症や免疫抑制療法による免疫不全症例では、T. cruzi感染の再活性化が起こる。
 T. cruziの形態は、細胞の形、鞭毛の位置・長さ・細胞体との接着状態、基底体・キネトプラスト・核の位置関係により、哺乳類細胞内に存在する アマスチゴート、哺乳類血液中の トリポマスチゴート(錐鞭毛型)、サシガメ体内でのエピマスティゴート(上鞭毛型)に分けられる。鞭毛根本の基底小体の近傍に見られるキネトプラストは、ミトコンドリアDNAを含み、キネトプラスト・ミトコンドリア複合体を形成。鞭毛嚢や細胞口は、エンドサイトーシスや分泌を担っている。細胞内には核の他に、微小管や小胞体、ゴルジ体、アシドカルシゾーム、グリコゾーム、収縮胞、脂質封入体を有する。 アクチン・ミオシンを電顕で確認することは難しいが、分子生物学的には存在する。

substantia nigra