色素と結晶

(a) 肝疾患によりビリルビン値が上昇している場合、中枢神経系組織に血液脳関門が破壊される病変が存在するとビリルビン沈着がおこる。中枢性橋髄鞘融解症を起こしている症例で、重度肝不全とビリルビン上昇を併発した典型例で、三叉神経レベルの橋底部に緑色調変化を認める。

(b) ビリベルジンは、再発性の巨大出血を伴う病変の周囲に見られ、組織反応により多核巨細胞反応が出現する。この非鉄含有色素は、貪食マクロファージ内で赤血球が破壊されたときに形成される。ヘモグロビン中の鉄は、その後、酸化されて3価の状態になり、メタヘモグロビンが形成される。ヘムとグロビンはその後解離し、鉄はミクロソーム酵素であるヘムオキシゲナーゼによってヘミンから解放され、鉄とビリベルジンが生成される。ビリベルジンはPerlsの鉄反応では染色されない。

(c) マクロファージ内では、ヘモシデリンは褐色調金色の顆粒であるのと対照的に、ビリベルジン色素は黄色がかった金色となる。

(d) コレステロール裂隙(側頭骨コレステロール肉芽腫)は、再発性出血や、剖検で偶発的に見つかる側脳室の脈絡叢黄色肉芽腫などで観察される。脈絡叢の黄色肉芽腫は、通常高齢者に偶発的にみられる。

(e) 粘液による結晶は、コロイド嚢胞やRathke裂隙嚢胞の内容物の中に発生することがあり、ここに見られるようなトゲ状の淡い黄色または非染色の色調を示し、アクチノマイセス感染による硫黄顆粒に類似する。

(f) 粘液による結晶はPASで染色される。(e)と同じケース。

(g) 小脳橋角部腫瘤の類表皮嚢胞(上)と嚢胞内の真珠様白色含有物。この含有物は真の結晶に類似し、無核の扁平上皮細胞集簇を含むことがある。

(h) 細胞内鉄色素を有する退形成性髄膜腫。マクロファージではなく腫瘍細胞内にある場合には、ヘモシデリン色素は、細く、屈折率が低く、メラニン色素を模倣する。

(i) 黒色でドット状のヘマトイジン色素は、新鮮出血領域で発生し、赤血球中のヘモグロビンとホルマリン固定剤との化学反応の結果であり、ヘモグロビンの分解生成物ではない。この色素は偏光下で見ると複屈折して見える。

(j) 歯状核のメラノーシスは、剖検ではまれな所見でる。歯状核の隣接するリポフスチン含有ニューロンと大きさを比較すると、細胞外で、均質な、非屈折性の大きな、丸みを帯びた球状の色素である。これはフォンタナ陽性で、過マンガン酸カリウムで漂白され、硫黄で構成されていると考えられている。この物質はおそらく偶発的なものであり、リポフスチンのメラニン化を表し、小脳の症状とはほとんど関連していない。

(k) ホモゲンチン酸の尿中排泄量の増加を特徴とする常染色体劣性アルカプトン尿症例において、ごくまれにしか生じない硬膜の組織褐変症。黒い色素は通常、関節、循環器系、腎臓、皮膚などに見られ、本症例では硬膜に見られた。