テーマ
このたび、第44回アルコール医学生物学研究会学術集会を2025年(令和7年)1月31日(金)・2月1日(土)に新潟グランドホテル(新潟市)で開催することになりました。歴史と伝統のある本学術集会を担当させて頂くことを大変光栄に存じます。テーマは「Science & Culture」とさせて頂きました。
“酒飲微醺”という言葉があります。適度なアルコール飲酒を通じて、如何に健康寿命を延ばしていくかは重要な問題です。酒(アルコール)は人類が生み出した“Culture”であり、酒の造り、また飲酒に際して、如何に健康被害をさけ、飲酒するかは、“Science”かと考えます。厚生労働省は、2024年2月19日に、「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を作成し、公表しました。このガイドラインは、アルコールによる健康障害の発生を防止するために作成されており、国民一人ひとりが適切な飲酒量と飲酒行動を判断できるようにすることを目的としています。健康に配慮した飲酒を心がけ、適切な飲酒量を守りながら、お酒を楽しむことも重要です。
アルコール医学生物学研究会(JASBRA)は、1981年に「アルコール代謝と肝」研究会を前身として発足した伝統ある学術団体です。内科学、精神医学、法医学、薬理学など多数の分野の研究者が一同に参加し、アルコールに関する多方面の臓器障害について活発な議論と討論を行いアルコール医学の発展に貢献してきました。
“休肝日”という言葉は、肝臓に負担をかけるアルコールを適度に摂取することを目的に、”アルコール飲酒を休む日“のことを指します。この言葉は、当教室の初代教授の故市田文弘先生によって提唱されました。「休刊日」や「休館日」をもじって作った造語であり、アルコールを摂取する総量を抑えつつ、肝機能が回復するための時間を確保する役割があると提唱されました。
新潟県は、日本酒の銘醸地として有名です。日本一多くの酒蔵があり、多様な日本酒が造られています。2018年4月に新潟大学日本酒学センターが設置され、日本酒に係る文化的・科学的な幅広い分野を網羅する学問分野「日本酒学」の構築に取り組んでいる国際的な拠点になっています。このセンターは、新潟県、新潟県酒造組合、新潟大学の3者が連携協定を締結して設立されました。日本酒学センターは、日本酒についての文化的側面から科学的な研究まで幅広くカバーしています。その目的は、日本酒に関する知識や技術を深め、国内外に発信できる国際的な人材育成を目的にしています。このような、酒(アルコール)に関する、多様な歴史、文化、産業のある新潟の地において、第44回アルコール医学生物学研究会学術集会を開催します。
アルコール性疾患は、肝臓、膵臓、神経系、癌の発生などに影響を及ぼす疾患群です。アルコールの過剰摂取は、肝硬変、アルコール性脂肪肝、アルコール性膵炎などを引き起こします。日本の2023年に行われた肝硬変の成因調査では、アルコールの成因による肝硬変が1位になっており肝疾患におけるアルコールの重要性が認識されています。また、肝細胞癌の発生にもアルコール摂取が関与します。実際、ウイルス性肝疾患にアルコール摂取が加わることで、病態が悪化します。一方で、2023年に疾患名としてMASLD, MetALDが提唱され、その診断法の確立、治療も大きな問題です。また、ACLFの悪化にはアルコール飲酒が契機になることが多いです。アルコール依存症は、身体的・精神的な健康に大きな影響を及ぼす社会的な問題です。その管理も重要であり、嫌酒薬も保険収載されています。長年、アルコール医学生物学研究会学術集会において、アルコール性疾患についての重要な議題が取り上げられてきました。私たちは、アルコールの健康への影響や治療法の開発、アルコール代謝のメカニズムについての最新の研究成果を共有し、知識を深めることを目指しています。腸内細菌、免疫、さらに細胞外小胞(エクソソーム)の変化などの知見も集約しており、科学の進歩を通じて、今後さらに様々な病態解析、治療法の開発を学際的に推進していくことは重要ですし、患者一人一人の健康維持には、社会的な介入も必要になってきます。そのような中、本集会での皆さまの議論は、今後ますます重要度が大きくなると考えています。
「Science & Culture」を踏まえた総合的なアルコール対策の確立をめざし、アルコール性疾患の予防、診断、治療法の確立に向けて、さまざまなアプローチを模索したいと考えています。多くの皆さまに、本集会にご参加頂き、未来のアルコール医学、未来社会について多方面から議論して頂きたいと考えています。