厚生労働省 地域におけるかかりつけ医等を中心とした心不全の診療提供体制構築のための研究

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研究成果

  • 2020.06.23
    かかりつけ医のための心不全診療の適切性基準 (AUC) の開発
    研究者:庄司 聡、香坂 俊
    専門家パネル:磯部光章、大石醒悟、加藤真帆人、塩田繁人、高田弥寿子、水野篤、横山広行、渡辺徳、弓野大 (五十音順)

かかりつけ医のための心不全診療の適切性基準 (AUC) の開発

心不全診療に携わる医療従事者は、診療ガイドラインに記載されている標準診療に則って原則的に診療を行っています。しかし、実際の臨床現場では、高齢の方や腎機能障害を持つ患者さんに対する薬物療法等、エビデンスが乏しく標準診療の適応に迷う場面に多く遭遇します。既存の「診療ガイドライン」では、こうした診療パターン毎に具体的な推奨度を設定する事が困難であり、その厳密な解釈に関して曖昧な点が残されています。

こうした背景の中で、AUC(Appropriate Use Criteria; 適切性基準)という、現場の医療従事者がより実践的な判断をすることを後押しするための診療指標が開発されました。AUCでは、議論が分かれる可能性がある診療行為の適切性を、複数の多職種専門家からの意見を系統的に集約し、パターン別に3段階(適切である、どちらともいえない、適切とはいえない)で提示します。

米国での冠動脈カテーテル診療に関しては広く活用されているAUCですが、これまで心不全診療に関するものは存在しませんでした。本研究は、平成 30 年度 厚生労働科学研究「地域におけるかかりつけ医等を中心とした心不全の診療提供体制構築のための研究」(H30-循環器等-一般-002)(研究代表者:磯部光章)の一貫として、心不全診療におけるAUCの策定を世界ではじめて試みました(図)。

本研究による要旨は以下の通りです。

  • アドバンスト・ケア・プラニング(終末期医療)の議論を開始するタイミング:
    ステージC以上の心不全であれば、年齢に関わらず開始することが「適切である」
  • フレイル評価のタイミング:
    75歳以上の高齢者であれば、心不全のステージに関わらず開始することが「適切である」
  • 75歳以上の収縮力の落ちた心不全患者で、心拍数50以下の方へのβ遮断薬の投与:「適切とはいえない」
  • 75歳以上の収縮力の落ちた心不全患者で、高度腎機能障害(eGFR < 30 mL/min/1.73 m2)を持つ方へのミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の投与:「適切とはいえない」

本AUCが少しでも心不全診療の現場で働く医療従事者の治療方針決定の支援になれば幸いと考えております。今後も、エビデンスの乏しい心不全診療に関しての治療方針決定の支援になるような研究を継続してまいります。


図 心不全診療に関する適切性基準