木尾哲朗1) 、 野呂幾久子2)
1)九州歯科大学総合診療学分野 、 2) 東京慈恵会医科大学人間科学教室
髙井理人1)2)
1) 医療法人稲生会 生涯医療クリニックさっぽろ
2) 北海道大学大学院歯学研究院 口腔機能学分野 小児・障害者歯科学教室
医学の進歩を背景として、経管栄養や人工呼吸器を日常的に必要とする「医療的ケア児」が増加している。医療的 ケア児 には定型発達児と異なる口腔の問題がある。また、呼吸や嚥下機能に障害があるため、口腔の問題が全身のリ スクにもなり得る。医療的ケア児は 歯科疾患の予防のために早期から継続した口腔管理を受けることが望ましい。 2018年には小児在宅患者訪問口腔リハビリテーション指導管理料が保険診療に新設され、小児が歯科訪問診療の対 象として明記された。小児の歯科訪問診療での主な診療内容は口腔ケアと摂食指導である。小児在宅歯科医療では 患 児および家族の生活状況を把握したうえで 多職種と連携することが求められ、分野横断的な関わりが必要になること もある。医療的ケア児の増加に伴い、小児在宅歯科医療のニーズは拡大していくと予想されるが、現時点では まだ十 分に普及していない。 医療的ケア児に歯科ができる具体的な支援策として、小児在宅歯科医療の提供体制を充実させ ることが求められている。
濱嵜朋子
九州女子大学
私は、歯科臨床場面におけるコミュニケーションについて、調査研究を行ってきた。1つは、歯科医事訴訟判例の 分析である。わが国の歯科医事訴訟では 、歯科医師の法的責任が認められた判例中 、約6割に歯科医師の説明義務違 反が認められた 。また、説明義務違反に関連する歯科医師の説明態様について明らかにした。さらに、説明の目的に 着目し、歯科医師は患者の承諾のみならず、 「療養指導」をはじめとした説明にも十分注意を払うべきであり 、不適切 な説明が重大な過誤に関連することを報告した。もう1つは、臨床現場におけるコミュニケーション調査である。分析の結果、歯科医師と歯科衛生士のコミュニケ ーション程度が一致していた場合に、最も患者満足度が高くなっていた。また、説明行動が、歯科医療従事者間にお けるコミュニケーションにおいて、重要な要素になっていた。このように、歯科医療においても、医療従事者間の良 好なコミュニケーションが、患者満足度に影響を与える可能性が示唆された。
鈴木一吉
愛知学院大学短期大学部 歯科衛生学科
歯科医学教育において、初診患者の医療面接に関わる医療コミュニケーション教育は共用試験 OSCE実施をきっかけに、全国の歯学部・歯科大学で実施されるようになった。一方、初診以外の医療コミュニケーション教育の普及 は十分とはいえない。つまり、初診時以外の再診時の医療面接に関わる教育の充実が必要である。そこで、治療方針の説明や治療前後の説明など、再診時の医療面接に関わる進め方や内容についての授業を行った。学生の感想文から は 、 患者視点やコミュニケーションの重要性を理解した様子が伺えた。これらの学びは講義だけでなく、動画視聴、 ロールプレイ、デモンストレーションなどを活用した学習から得られたものと思われる。患者と 良好な関係を築く能 力は医療者に必須であり、医療コミュニケーションはこれに密接に関わる。医療コミュニケーション教育は臨床の 様々な場面の想定が可能である。歯科医学教育において医療コミュニケーション教育の対象場面を再診時や説明場面 に拡充していくことは、学生にとって、患者の存在する臨床をより身近に感じ、そして、患者中心の医療の視点を学 ぶことができる学習機会が増えることになる。
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