藤崎和彦
岐阜大学医学教育開発研究センター
藤崎和彦1)、岩隈美穂2)
1)岐阜大学医学教育開発研究センター2)京都大学大学院医学研究科医療コミュニケーション学
灘光洋子
立教大学異文化コミュニケーション学部i
小論は、最近日本でも実践され始めたオートエスノグラフィー(AE)について考え、質的研究の可能性を探ることを目的としている。まず、empathy(共感)という概念の足跡を概観し、AEの特徴について整理する。研究者が当事者としての体験を題材に、自身の感情に向き合い、分析し、書いたものを媒体として読者と「共感」で繋がろうとするのがAEである。研究者の客観性や中立性を所与のものとする従来の実証主義的研究のあり方に異議を唱えるオートエスノグラファーは、研究者の立場性に自覚的であると同時に再帰的に研究対象に向かいあうことを重要視する。自らが属する集団の一員として、感情想起的に自らの体験を書くわけだが、そのプロセスではインサイダーとしての内面的理解と研究者としての分析的視点が求められる。課題として、自己への過度な焦点化(自己耽溺、分析の不十分さ)、自己開示によるリスク(読者からの批判、関係者のプライバシー保護の問題)などが指摘されている。
鬼塚千絵
九州歯科大学 口腔機能学講座 総合診療学分野
従来、わが国における歯科治療は、歯の形態の回復を目的とした「治療中心型」であったが、高齢者の増加といった人口構成の変化や歯科疾患罹患状況の変化に伴い、口腔機能の維持・回復といった「治療・管理・連携型」へとパラダイムシフトがおきている。そのため、急性期の「治療」のみならず慢性期の「管理」が大切だと認識されるようになってきた。口腔機能管理の成功には患者の行動変容を促すことが不可欠であるが、そのためには歯科医療者が医療面接などのコミュニケーションにより患者の背景を深く知ることで、患者からの信頼を獲得する必要がある。また、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるために、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される仕組み作りである「地域包括ケアシステム」の構築が推進されており、その実現にはさまざまな職種の連携がカギになっている。 我々がこれまで行ってきた歯科医学教育研究の量的研究の中から、「歯科医師」と「患者」、「歯科医師」と「歯科医師」、「歯科医師」と「他職種従事者」といった医療現場のコミュニケーションを題材に、その一部を紹介する。
今福輪太郎
岐阜大学医学教育開発研究センター
談話分析は、ある文脈の中で人々がどのように言語を使用しているかを研究するための枠組みとされる。人々の言語を介した「意味」の交渉とその構築過程を検証することは、人文・社会学分野においては長い歴史を持つ研究領域である。医療者教育においても、問題基盤型学習(PBL)、医療コミュニケーション教育、多職種連携教育、シミュレーション教育等での書き言葉や話し言葉を含むインタラクションの詳細な記述は、教育活動の過程を可視化し、より多面的なエビデンスの蓄積を可能にしてくれるであろう。しかしながら、医療者教育研究では、分析的枠組みとして談話分析の可能性は認識されつつも、実際にそれを適用した研究は未だ限定的である。従って、本稿は、これまでの医療者教育における談話分析研究を概観し、談話分析アプローチの有用性や可能性を再検討することを目的とする。特に、1) 社会や権力関係、イデオロギーと言語との関連性に着目した「批判的談話分析」、2) 文脈と言語使用との関連性に着目した「コミュニケーションの民族誌」や「相互行為の社会言語学」、3) 談話構造や機能に着目した「選択体系機能言語理論」や「教室談話分析」、の3つの談話分析アプローチを紹介する。
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