治 療 Treatment
EMR内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)、内視鏡的粘膜切除術
ポリペクトミーやEMR(Endoscopic Mucosal Resection: 内視鏡的粘膜切除術)は内視鏡を用いた腫瘍を摘出する治療方法です。切除の必要がある良性腫瘍や切除可能な早期癌を治療対象にしていましたが、最近では食道・胃の早期癌に対してはほとんどESD(Endoscopic Submucosal Dissection: 内視鏡的粘膜下層剥離術)が施行されるようになってきたため、主に大腸ポリープ(腺腫)や早期大腸癌に対して行っています。合併症としては出血や穿孔等があります。また早期大腸癌の場合は切除した病変が粘膜内にとどまっていれば問題ありませんが、粘膜下層へ多く浸潤している場合やリンパ管・静脈に癌が浸潤していた場合は追加で外科的切除を行う場合があります。
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ポリペクトミー
ポリープにスネアをかけてしめつけ、通電して切除します。
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内視鏡的粘膜切除術(EMR)
病変の下(粘膜下層)に局注して盛り上げ、病変周囲にスネアをかけてしめつけ、通電して切除します。
ESD内視鏡的粘膜下層剥離術
内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal Dissection: ESD)は早期胃癌、早期食道癌、早期大腸癌に対して、外科的な手術を行わず内視鏡を用いて治療する方法です。内視鏡治療の適応条件はリンパ節転移の可能性がほとんどなく腫瘍が内視鏡治療にて一括で切除できる大きさと部位にあることです。
食道・胃・大腸のESDに関してはそれぞれガイドラインが作成されており、それを元に治療を行っています。
胃ESDの手技
EUS/EUS-FNA
EUS-FNA
画像所見のみで癌か、癌でないか区別するのは困難な場合が多く、病変を超音波内視鏡で観察しながら生検針で穿刺して組織や細胞を採取する手技を EUS-FNA(超音波内視鏡ガイド下生検)といいます。これにより手術や抗がん剤治療の前に正確な病理診断を得ることが出来、確定診断を行ってから治療方針を決定することが可能となります。病気の正診率は90%近くと高率でありながら偶発症は2%以下と極めて有効性や安全性の高い検査です。
対象は胃粘膜下腫瘍や膵腫瘍などの消化器疾患だけでなく、従来であれば開胸生検が必要とされた消化管周囲、腹腔内、縦隔のリンパ節や通常検査では描出できない微量腹水などに対しても EUS-FNA により診断が行えるようになり、低侵襲な病理検査が出来るようになっています。
EUSガイド下ドレナージ
EUS-FNAだけでなく、EUSを用いた治療(interventional EUS)が近年急速に進歩しています。膵炎後にしばしば合併する膵臓周囲の液体貯留や、通常のERCPでは治療困難な閉塞性黄疸に対して、EUS-FNAの技術を応用することにより内視鏡的にドレナージすることが可能となりました。当院でも積極的にEUSガイド下ドレナージを行っており、良好な治療効果を得ています。
気管支充填術
外科的手術が行えない難治性気胸や有瘻性膿胸に対し、気管支鏡下に空気漏れ部分と交通している気管支をシリコン製充填材で塞ぐことにより空気漏れを止める治療です。
気管支サーモプラスティ
既存の喘息治療ではコントロールできない18歳以上の重症喘息患者に対し気管支鏡下に行う治療です。高周波電流により気管支壁を加熱することで、肥厚した気道平滑筋を減少させ喘息症状を緩和します。
PDT局所遺残再発食道癌に対する光線力学的療法
PDTは、放射線治療(もしくは放射線化学療法)後の再発食道癌に対する新たな内視鏡治療のひとつです。これまで放射線治療後の再発食道癌については、それぞれの進行度に応じて、内視鏡治療(内視鏡的粘膜下層剥離術:ESD)、外科手術(サルベージ手術)、化学療法が行われてきました。しかしながら、内視鏡治療の適応は非常に早期の病変(粘膜内癌)に限られ、外科手術は放射線の影響を受けるため合併症のリスクが非常に高く、化学療法は確立したレジメンがないという状況でした。PDTは、ESDでは切除困難な「粘膜下層あるいは筋層の一部に浸潤した癌」を治療対象とします。したがって、これまで外科手術をせざるを得なかった病変を内視鏡で治療することができるため、低侵襲という点でも非常に期待される治療法です。
PDTは、腫瘍親和性のある光感受性物質を投与した後、腫瘍組織にレーザ光を照射することにより光化学反応を引き起こし、腫瘍組織を変性壊死させる癌の選択的治療法です。レーザで直接焼くのではなく、レーザ光で活性化した薬剤が腫瘍を壊死させるという原理です(図)。新しい治療法であるため長期成績は明らかとなっていませんが、局所制御率は88%と報告されており、十分な治療効果が期待できます。ただし、この治療で患者さんに投与する光感受性物質(レザフィリン®)は全身に光過敏状態を引き起こすため、厳しい遮光制限が必要となります。具体的にはレザフィリン投与後2週間は500ルクス以下の屋内で過ごす必要があります。
このようにPDTは、治療適応がやや限定的で、遮光制限が必要などデメリットもありますが、これまで治療の選択肢が限られていた食道癌再発の患者さんにとっては大きな光明となります。対象となるような病状の患者さんがいらっしゃいましたら是非、ご相談いただければと思います。
※下記図Yano T, et al.: Oncotarget. 2017;8(13):22135-22144より転載
POEM食道アカラシアに対する内視鏡治療(per-oral endoscopic myotomy)
当院で行っている内視鏡治療のPOEMについて紹介致します。POEMは主に食道アカラシアに対して行われる内視鏡治療になります。食道アカラシアは原因不明の病気ですが、食道の正常な蠕動運動と下部食道括約筋の弛緩反応がなくなる病気です。数万人に1人という稀な疾患ですが、特に食事のつかえ感が目立ち、のどへの逆流や胸痛などの症状により非常に苦しい思いをされる方が多い病気です。バリウム検査でも食道から胃にバリウムが流れない状態が確認できます(図1)。今までは風船によるバルーン拡張を行われることが多く、バルーン拡張の効果が不十分な方や食道の拡張が強い進行した患者さんに外科手術が行われてきました。2008年、日本においてPOEMが世界で初めて行われ、効果は外科手術に劣らず、外科手術より安全で体への負担は少ないことが報告されています。現在は、世界中でその有効性が認められ、日本では2016年4月より保険診療の適応となりました。
POEMの方法は、手術室で全身麻酔を行い、検査に使用する内視鏡と同じ太さの内視鏡を口から挿入します。内視鏡で観察しながら、内視鏡の中に器具を通して、食道の粘膜を切開し食道を取り囲む筋肉を露出させ(図2A)、原因と推測される筋肉を切開します(図2B)。最後に粘膜切開部を閉じて終了になります(図2C)。治療時間は2時間程度で、内視鏡を用いて治療を行うため、体の表面には傷が出来ず、体への負担が少ない治療になります。手術翌日からお水が飲め、術後2-3日から食事が可能で、術後4-7日で退院となります。治療後2週間は食事や運動に多少の制限が必要ですが、それ以後は元通りの生活が可能です。
九州大学病院では、開発者である井上晴洋先生の元で1年半POEMを学んだ医師が、2017年2月よりPOEMを開始し、現在まで90例の患者さんに治療を行い、多くの患者さんにご満足いただいております。現在、POEMは日本を含め世界中で食道アカラシアに対する第一の治療となっており、当院でもPOEMの治療を行うことが多いですが、患者さんに全ての治療選択肢を提示した上で、患者さんのご希望により他の治療を行うこともあります。
原因不明の食事のつかえ感などありましたら、かかりつけ医などで当院へのご紹介をご依頼頂ければと思います。
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図1.バリウム造影検査
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図2.POEMの概要
EVL/EIS食道静脈瘤内視鏡治療
食道や胃の静脈瘤は門脈圧亢進症(主に肝硬変が原因)の一徴候であり、静脈瘤がひとたび破裂し、出血をきたすと致命的となりうる合併症です。食道静脈瘤の場合、出血する確率は10年で約60%であり、出血した場合は出血しなかった場合に比べ生存率が明らかに低下することが知られています。このため我々は、食道・胃静脈瘤が破裂した際の緊急治療はもちろん、内視鏡による予防的治療を行っております。予防的治療には主に2種類の方法があります。1つはEVL(内視鏡的静脈瘤結紮術)、もう1つはEIS(内視鏡的硬化療法)です。EVLはゴムバンドを用いて食道静脈瘤を結紮することにより、EISは静脈瘤内に直接硬化剤を注入することにより、静脈瘤の血流を消失させる治療方法になります。一般的にEISの方が根治性は高いものの、EVLの方が安全であり、その他の治療(アルゴンプラズマ凝固法などによる字固め法)を組み合わせることにより同程度の治療成績が得られると報告されています。一言で食道・胃静脈瘤といっても、患者さんによってその程度は様々です。当診療部では、患者さんにとって最良の治療法を選択し、治療を行っております。
LECS腹腔鏡・内視鏡合同手術
LECS(Laparoscopy and Endoscopy Cooperative Surgery)とは、内視鏡(胃カメラ)治療と腹腔鏡手術を同時に行って、胃や十二指腸などの腫瘍を切除する新しい治療法です。全身麻酔下に、内視鏡医による腫瘍切除(内視鏡的粘膜下層剥離術:ESDなど)と、外科医による腹腔鏡下手術(局所切除術、縫合閉鎖術など)を行います。それにより、従来の方法よりも患者さんの体への負担を減らしながら(低侵襲)、腫瘍を切除することが可能になりました。当院では、日本でLECSが始まった当初からこの治療に取り組んでおり、良好な成績を上げています。
対象疾患
胃粘膜下腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)、十二指腸腺腫、神経内分泌腫瘍(NET)など