舩後が取り上げられた新聞記事
2004年4月共同通信社全国配信記事

前向きの姿、小3に示す
ALS患者の舩後さん
意志伝達装置が活躍

全身の筋肉がまひし、既に自分で呼吸もできない筋委縮性側索硬化症(ALS)患者、舩後(ふなご)靖彦さん(46)が、このほど千葉県市川市の鬼高小学校で大勢の児童を前に30分を超える“スピーチ”をした。テーマは「ひとりぼっちじゃないから、どんなときにも楽しさいっぱい!」。講堂には、舩後さんの日常生活を支える最先端のパソコン装置から発せられた合成言語が流れ、児童は熱心に耳を傾けた。


 


 ▽メールも自在
 舩後さんは5年前、原因不明の難病ALSを発病。病気は手のまひから始まって全身へ。現在は千葉市の療護施設に入所中で、人工呼吸器を付け、胃に通した管から栄養を取っている。
 「ALSの告知を受けたときには、絶望で死を望む気持ちしかなかった」と舩後さん。
 だが、どんなに体が不自由になっても前向きに生きる姿勢を失わず、絶望を乗り越えた。意志伝達ソフトを組み込んだパソコンにも習熟し、現在は意志の伝達や電子メールも自由自在。初めてALSの告知を受けた患者のアドバイスをしているほか、趣味の音楽活動も“再開”、作詞もしている。
 そんな中、「福祉」の時間に車いす体験や盲導犬の役割などを学んできた鬼高小の3年生から講演依頼があり、「何かを感じてもらえば」と即座に引き受けた。

 ▽額のしわで操作
 舩後さんが今、わずかに動かせるのは右足親指と額のしわだけ。これがパソコンを操作する唯一の方法だ。そこには反射式光電センサースイッチが取り付けられている。
 光ファイバーから出る赤外線が0・5−1mmほどの微細な動きをとらえ、スイッチが入る。
 「意志伝達装置はスイッチが生命。患者さんの障害に合わせてさまざまなものを用意している」と同装置「伝の心(でんのしん)」を開発した日立製作所の技術者ら。
 パソコンの初期画面には「会話」「文書」「機器操作」「呼び出し」などと書かれた“ボタン”が並び、1秒前後でボタンの文字が反転しながら次へ動く(スキャンしている)。
 会話したければ、「会話」が反転しているときに、しわを動かし、スイッチをオンにすると文字盤が現れ、会話が作れる。定型文も多い。「機器操作」を選べば、テレビやビデオ、ページめくりなどが可能になる仕組み。

スピーチが始まると、児童たちは、音声と講堂正面に映った文字で、ALSがどういう病気かを理解し、「自分らしく、今やれることをやり抜く」という舩後さん生き方や底抜けの明るさに驚いた様子だった。

 ▽生きる気力
 スピーチが始まると、児童たちは、音声と講堂正面に映った文字で、ALSがどういう病気かを理解し、「自分らしく、今やれることをやり抜く」という舩後さん生き方や底抜けの明るさに驚いた様子だった。
 さらに舩後さんは「どんなにつらく悲しいことがあっても、必ず乗り越えられる。皆さんもひとりで悩まず、先生やお父さん、お母さんに相談しよう」と逆に励ましのメッセージを送った。
 講堂に入った瞬間、舩後さんは「失敗した」と思ったそうだ。「子供たちが予想以上に幼い。内容が難しすぎたかも」。だが、心配無用だった。
 前向きに生きる気力を持つと、病状や病気の進行にも関係するようだ。「絶望時、病気の進行は猛スピードだった。今は極めてなだらか。ただ、私より大変な人はたくさんいる。こうして生きられるのも周りの皆さんのおかげ」と舩後さん。
 舩後さんの主治医だった今井尚志・国立療養所西多賀病院(仙台市)神経内科医長は「ALS患者の生活は今やパソコン抜きには語れない。舩後さんは特殊なケースではない。もちろん、周りの支援が大事だが、医師などのかかわり方によっては、半数は生きがいを持って生きられるのではないか」と話している。

「ALS患者の生活は今やパソコン抜きには語れない。舩後さんは特殊なケースではない。もちろん、周りの支援が大事だが、医師などのかかわり方によっては、半数は生きがいを持って生きられるのではないか」