会長ご挨拶
会長ご挨拶
第67回
日本聴覚医学会
総会・学術講演会
会長 欠畑 誠治
山形大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座
第67回日本聴覚医学会総会・学術講演会を10月5日(水)~7日(金)の会期でやまぎん県民ホールと山形テルサで開催いたします。山形大学が総会・学術講演会を担当しますのは2006年の第51回に青柳優会長が担当して以来16年ぶりになります。
今回、一般演題は198題という多くの会員の皆様からの登録をいただきました。ありがとうございます。特別企画は7セッション、共催セミナーは6セッション開催いたします。聴覚医学会では発表するだけではなく、議論を深めて頂くための十分な討論時間をとっているのが特徴です。今回より故鈴鹿有子会員のご寄付を原資として、若手会員のための参加費全額助成も新たに導入しました。ぜひ現地で活発な討論をし内容を深めるという貴重な体験をしていただければと思います。
今回は主題1として「音響性聴覚障害の新たな病態像と治療戦略」、 主題2として「Cochlear Synaptopathyと聴覚情報処理障害」を取り上げました。WHO(世界保健機構)は、2050年までに、世界の人口のうち少なくとも7億人(10人に1人)が耳と聴覚のケアが必要になり、特に若者は騒音性の難聴になるリスクが高いと、警笛を鳴らしています。社会的損失の大きいこの課題に、どう立ち向かうかを考える機会になると考えています。
音はちゃんと聞こえるのに、騒がしい場所では言葉が聞き取りにくかったり、早口の人の声が聞き取りにくかったりなど、「隠れ難聴」に悩む人が増えています。通常の聴力検査では問題がないため、患者さんは耳鼻科を受診しても「問題ありません」と言われることが多かったと思います。近年、隠れ難聴はcochlear synaptopathyという内有毛細胞―蝸牛神経シナプスの異常が成因の一つであることがわかってきました。この病態は音響性難聴の研究で発見され、現在では誰もが避けることのできない年齢とともに進行する加齢性難聴の成因とも考えられるようになってきました。加齢性難聴をはじめとするほとんどの感音難聴には現在も有効な治療法はありません。
このcochlear synaptopathyに対して、神経・シナプスの再生・保護効果について世界中で研究が進められており、聴覚機能の改善が報告されています。現在、欧米を中心に新規治療薬の臨床研究も進んでおり新たな展望が期待されています。 特別講演は、cochlear synaptopathyを発見しその研究をリードされているハーバード大学のSharon Kujawa教授にお願いいたしました。山形にお越しいただきご講演頂く予定です。
また、「 聞こえるけど聞き取れない」「雑音の中ではことばが聞こえづらい」と訴える患者さんの中には、聴覚情報処理障害(APD)または聞き取り困難(Listening Difficulty:LiD)といわれる病態の方もいることがわかってきました。聴力検査は正常ですが、日常生活のいろんな場面で聞き取りにくさが生ずる病態です。この病態に対してはまだ明確な診断法が確立していませんし、対処方法も確立していません。
Cochlear synaptopathyやAPD(LiD)のいずれの病態も、従来の聴覚検査では明らかな異常を指摘できないことが多く、患者さんの訴えに関連する所見を認めないため対応に苦慮する場面を経験します。これらの病態を第2主題に据え、経験を共有し、新たな検査法や治療方針の確立について議論します。さらに、それぞれの病態に対する教育セミナーやパネルディスカッションで会員の皆様と現状と将来展望を共有したいと思います。
さらに、特別企画として、ヒアリングフレイル予防と対策のパネルを企画しました。難聴は認知症の最大のリスク因子であり、その対策は急務です。今、聞き取る機能の衰えが引き起こすヒアリングフレイルという概念が注目を集めています。 聞こえにくさから会話することや外出することが億劫になり、それが人とのつながりの低下につながりフレイルの状態になり、さらには認知症の原因となると考えられています。
国立長寿医療研究センターの報告では、難聴の有病率は65歳から急激に増加しており、男性では44%女性では28%、70歳をこえると男性で50%以上、女性で40%以上の有病率であることがわかっています。一方で、難聴者の補聴器装用率は13.5%程度にとどまっていることが大きな問題となっています。
本企画には「難聴対策推進議員連盟」事務局長で医師の自見はなこ先生や、アプリを活用したヒアリングフレイルチェックの導入を進めている豊島区の担当者、アプリの開発者などの専門家にご参加をいただき、ヒアリングフレイルの普及啓発活動や早期発見、早期対応の現状と今後の展望を議論して頂きます。
「音楽を楽しむ」ということは生きる上での大きな喜びです。初日のイブニングの企画では「人工内耳のジャズマン」の海外とむすんだセッションが予定されています。そして、2日目山形テルサホールでの閉会式直後には、山形聾学校の小学部・中学部の児童・生徒とプロミュージシャンとの共演が企画されています。聴覚障害を持つ子供たちの活き活きとした演奏をお楽しみ下さい。
また、翌日の8日には山形テルサを会場として、市民公開講座「聞こえと脳の深い関係」を開催いたします。補聴器装用者である歌手でタレントの井上順さんと小川郁先生にご対談頂きますのでご期待下さい。
10月の山形は紅葉が美しい、とても気持ちのいい季節です。メインの会場となるやまぎん県民ホールは、山形が世界に誇る技術と伝統の技を用いて新設された、オーケストラピットも有するすばらしいホールです。そこでの学会を楽しんで頂き、さらに美味しい山形の魅力を味わっていただけたらと思っております。多くの皆様のご参加を教室員一同、心よりお待ちしております。