近年、本邦では特に阪神大震災以来、災害に対応する迅速な行動や、それを統括する機関が切望されている。また防災訓練や災害教育では、より実戦的なものが求められ、災害医療・災害医学の充実が望まれている。
日本における災害教育・管理の理想的な普及啓発法の模索のため、災害医療先進地の米国で、マサチューセッツ州立大学附属病院 (University of Massachusetts Medical Center;UMMC)の災害医療への取り組みについて文献的考察を加え報告する。
防災訓練は院内災害、院外災害を想定して年1回ずつ行われ、対象が毎回異なり、管理者だけの筆記試験を含んだものから航空機事故を想定した院外での救助訓練まで多様である。
2)災害医療支援隊(DMATs)
DMATsは、医師、看護婦、呼吸療法士、警備員や事務員など幅広い人材からなる救援隊であり、被災地域の医療的資源がその対応能力を超えたときに系統だった医療支援を速やかに行うため自己完結型に組織されている。
3)災害・救急医学協会(IDEM)
この協会は、他国を対象に、その国の文化・経済状況を考慮した効果的な災害・救急医療システムやレジデンシープログラムの発達を目的として設立された。このプログラムは災害・救急医学に関する講義とフィールドトレーニングが中心であるが、その国の実情に合わせ、その期間や内容を決めている。
UMMCにおける防災訓練は、周辺地域の関係機関との連係、患者の家族やマスコミなどをも想定した対処などについて ワ計画されているが、これは日本の病院内の患者や地域住民の避難を主体に想定されたものと比べ対照的である。またその内容も、被訓練者が主体的に動くことを想定した米国とあらかじめ想定された訓練行動計画をより完全に消化することを目的とした日本との違いも対照的である。これらについて、本邦が参考にすべき点は多いと思われる。
2)災害医療支援の組織
UMMCがある地域では、全国を視野に入れた包括的な災害対策が職種を超えて日常的に話し合われ、より一歩進んだ防災対策の実施に役立っている。日本においても各部署、各機関の壁を超え、平時の活動に裏打ちされた横割りの関係を持った組織を築くことが必要と考えられる。
3)災害医学教育
日本・世界各地で起こる災害のために専門家を多数養成することが必要で、医学生教育・生涯教育の一環として災害医学プログラムの構築などが必要である。
UMMCにおけるような災害医療・災害医学への取り組みは様々な角度から災害に対する理解を深める助けとなり、災害医療の専門家を生む土壌ともなっている。また、平素からのこのような取り組みが人々の意識を高め、災害時効果的に働くと考えられる。
災害とは人と環境との生態学的な広範な破壊の結果であり、被災社会がそれと対応するのに非常な努力を必要とし、他からの援助をも必要とするほどの規模で生じた深刻かつ急激な出来事であると定義することができる。
救護所の設営にあたっては医療チームの安全の確保や撤退路の確保、混乱を避けられるような広い場所、傾斜面ではなく平坦な場所、上水が確保できる、物資補給路が確保できるなどの条件を備えていることが望ましい。
□災害という人的物的医療資源の制限された状況で、最大多数の傷病者を重症度と緊急度により選別し、搬送優先順位や治療優先順位を決めること。
□つまりトリアージモデルとは、医療対処能力の圧倒的不均衡のもとに救命優先のために開発されてきた災害の急性期用医療モデル。
多くの人を救うことが最も人道的な結果をもたらす状況下とはいえ、効率を考えざるを得ないトリアージモデルは、被災者個々の心理社会的側面を考慮に入れることは自ずと困難なモデルとなる。
□ここでは災害精神保健(災害時のメンタルヘルス)の視点から、従来のトリアージモデルでは漏れてしまう対象や活動に目を向け、それらを補うモデルを考える。
災害という状況下では有効な精神保健活動を行うためには、精神医学的なハイリスクグループをできる限り早期に同定し、介入することが望ましい。
早期介入については、早期ほど被災者への介入が容易で、心理社会的な困難を未然に防ぐには有効であることが、多くの研究で証明されている。
□精神医学的なハイリスクグループの同定を容易なものとするために、被災者を類型化する方法論がある。類型化することにより各被災者グループへの対応の指針を得ようとする方法論のひとつである。
例として
被災者の経時的に追った研究により、どのような被災者グループが精神医学的に危険なグループであるかが知られるようになってきている。
□古典的なトリアージモデルの対象の大半は1次被災者であるが、さらに重要なのは4次被災者(近親者、友人から災害救援従事者まで含む)と上のグループがかなりの割合で重なることである。
災害救援者自身が災害精神保健の対象となることはすでによく知られつつあることで、予防として災害医療従事者は災害の準備つまりシミュレーションなどの訓練によって日頃から災害医療に関する技術を高め、専門性に裏付けされた行動をとることによってトリアージという非常にストレスフルな業務に対しても耐えうる。
□しかし限られた時間と人的物的資源の中で、精神保健的観念をも考慮に入れたトリアージをいったい誰が行うのかという問題が生じる。
精神保健専門家が有効な活動を行うためには、トリアージ専門家との円滑な連携や、ハイリスクグループが集まる拠点となる病院への精神保健専門家の傾斜配置・派遣が望ましい。
また災害が起こり、身体的に何のダメージもなく全員が生存していれば医療救援は提供されないが、心理的な極限を体験している場合もある。
□トリアージの感受性を高め、緊急性のないケースをトリアージシステムがいかに含まずにすむかという特異性を上げる課題に答えるのは、身体的な災害医療とは異なって非常に困難なことかもしれない。
しかしハイリスクグループの同定が徐々に確かなものになるにつれて、精神保健関係者の間でもトリアージの概念が重要視されつつある。