一般的に災害による疾病構造は外傷が主だが、災害の種類によって特徴的な外傷形態があり、それを知る事は早期から的確な治療を行う上で重要なことである。
また、都市型災害と地方型災害にも分類される。各々の特徴は以下の通りである。
都市型災害:多数の被災者が発生し易い、ライフラインの途絶、複雑な建築物
地方型災害:交通の便が悪い、病院が少ない、援助物資や患者の搬送が困難
自然災害の中で最も広い地域に人命と財産にダメージを与える災害の中のひとつ。地震において死亡は、即死(頭胸部外傷、出血等)、早期死(胸部圧迫による窒息、循環血液量減少性ショック等)、遅発死(脱水、クラッシュシンドロームなど)に分類されるが、a)血を伴う頭蓋骨骨折、b)脊椎損傷 、c)気胸などの胸部損傷、d)腹腔内臓器損傷、e)骨盤損傷 f)広範囲熱傷、g)クラッシュシンドロームなどは病院への搬送が必要な重症症例となる。また震災のストレスからの急性心筋梗塞、水分摂取不足による脳血管障害、自家用車の宿泊による深部静脈血栓症なども増加しており注意が必要である。
2)津波
津波による死亡原因は、身体を漂流物やコンクリートや岩に打ち付けたことによる頭部外傷、脊髄損傷、内臓破裂や、溺水による窒息などがある。創の汚染が高度であることが特徴的であり、二次感染予防の為開放創のまま管理することが必要である。
3)風水害(台風・洪水)
気象衛星や気象レーダーの発達、土木建設の発達、河川の整備などにより防災対策が進んでおり、甚大な被害は少くなってきた。台風や竜巻では飛来物や落下物などに当たる事による機械的外傷、洪水では急激な水位の上昇による溺水が多い。しかし最大の問題は水位が低下してからの感染症で、トイレの冠水などによる汚染状態での避難生活は感染症の集団発生を起こしやすい状態にある。また汚染された食物を摂取することによる食物感染にも十分注意が必要である。また気温、湿度が上昇する夏季では細菌も増殖しやすく、一層の注意が必要となる。
4)列車事故
大型の交通事故はひとたび事故が発生すると多数の旅客の命を奪う。比較的に列車は安全な乗り物であるが、2005年まででも65件の列車事故が発生している。列車事故では旅客がシートベルトをしていないため、車体などに体を打ち付け、頭部、胸腹部などを損傷する多発外傷となるケースが多い。また閉じ込め事故となった場合のクラッシュシンドロームへの対応も重要で、救出前より十分な輸液を行う事が大切である。
5)爆発
爆発の過程で発生した高温・高圧ガスにより衝撃波が形成される。また化学工場などの爆発では二次災害の予防も重要である。爆風による管腔臓器(肺、鼓膜など)の損傷、飛来物や破片などによる外傷、転倒による鈍的外傷などが多く、複合的な被害を受ける。特に肺は爆風により爆裂肺となり、肺水腫、肺出血、気胸などをきたすほかに肋骨骨折を伴う場合が多く、また鼓膜や腹部損傷より頻度が高いため注意が必要である。
6)放射線事故
チェルノブイリ原子力発電所放射線被曝事故により有名になった。被害者は13000人を超え、最終的には40000人に到達するとも言われている。放射線事故の最も大きな特徴は汚染の状況がわからないという点であり、骨髄・血液細胞、腸管、皮膚、神経、心血管系に障害をきたす。もっとも症状が出やすいのは消化器系で、全身倦怠感・嘔気といった初期症状は4~36時間で出現するといわれている。消化器の障害や症状は致死量の放射線を浴びた事を意味している。
そのため災害拠点病院には、ハード面では、耐震強化、受水槽の設置、広域災害救急医療情報端末の設置、自家発電装置の設置、医薬品の備蓄が義務づけられた。加えてヘリポートの確保、病院所有の救急車輌の確保も求められた。また阪神・淡路大震災では救護班が大きな役割を果たしたことなどから、災害拠点病院に救護班の派遣を義務づけた。
災害拠点病院指定の根拠となったのは、平成8年5月10日付での厚生労働省健康政策局長通知、災害時における初期救急医療体制の充実強化であった。主な項目は以下のとおりである。
1996年に厚生労働省が各都道府県に災害拠点病院の指定を受けるよう要請して以来、2004年の時点では545の病院が指定を受けている。2003年の時点ではハード面(自家発電装置の設置、受水槽の設置、ヘリポートの確保)はほぼ整備されたのに比べ、ソフト面の整備はまだ十分とはいえない状況だ。全体としては関東、東海で整備が進んでいるのが目立った。
2)今後の課題
平成15年の兵庫県災害医療センター開設までは、神戸大学医学部付属病院が暫定的に基幹災害医療センターに指定された。
2)兵庫県における二次保健医療圏域
災害拠点病院におけるマニュアルの活用、地域防災マニュアルの作成、広域防災訓練の実施、災害医療コーディネーター研修・災害医療従事者研修、災害ボランティア研修などを実施してきた。
交通機関の事故などにおいて、多数の傷病者が発生したような場合で、その地方の医療能力(救急医療サービス、emergency medical service;EMS)で処置可能なもの
大地震などで、その地方の医療能力を超えて国などの大規模な援助(国家的災害医療システム、national disaster medical system;NDMS)を必要とするもの
飢饉、疫病、テロ、戦争、難民などの合併したもので、現在でも発展途上国で起きており、世界的な規模での経済的、政治的な解決などを必要とするもの
多数傷病者発生時におけるpreventable deathは、「その地域で日常に提供されるレベルの医療なら救命できたが、死亡したもの」と定義する。
MCIの規模であれば、死亡例の診療録または死体検案書を1例ずつ検討すべきである。外傷によるpreventable trauma death(PTD)つまり「防ぎえた外傷死」は、JPTECなどでも知られている外傷の予測死亡率(Ps)で判定できる。
(2)prevented deathの概念
prevented deathは、「救助、救援、医療などの介入が行われた結果、救命された生存者である」と定義する。
(3)naked damage(絶対被害)の概念
naked damageは、「すべての介入が行われなければ、つまり被災現場が放置されたならどれだけの死者が発生するか」と定義する。災害や多数傷病者事例で報告される死傷者数は、さまざまな介入が行われた結果であるため、naked damageを用いると、その地域にとってどれだけ重大な事案が発生したかを評価することが出来る。
(4)管理評価への応用(貢献度:contribution ratio)
貢献度は何もしない結果(絶対被害)を0とし、理想的管理の結果を1とすると、
貢献度=prevented death/(prevented death + preventable death)
の式で表される。貢献度の算出によって理想の管理までの距離が分かる。
(5)2004年新潟県中越地震被害への適用
2005年3月15日時点での死亡者40例の内、外傷による死亡16例は日常レベルのEMS対応、医療機関の診察がなされたとしても救命できなかった。
74歳女性が地震から2日後A病院を受診したが、混雑のため自らB病院に移動し受診。急性心筋梗塞で入院加療受けたが同日死亡した事例は、通常なら心カテ施行可能なA病院で治療受けれたものと考えpreventable deathと判定した。
naked damage(絶対被害)は、死者数(実数)+preventable death=40+30=70人。 contribution ratio(貢献度)は、prevented death/(prevented death + preventable death)=30/(30+2)=0.94
(6)問題点
規模の小さい多数傷病者発生の事案で、生存者の転帰を対象として議論できる評価方法が必要である。
実際に地域住民の生活環境の中では、被災地震以前は政府機関の支援の下、Lady Health Worker(LHW)が基礎保健を支えていた。LHWは、各村出身で、1名ずつ、隣接する小集落を持つ大きな村では2名が家族と共に生活しながら活動する。LHWは、BHUなどから医薬品・衛生材料の供給を受け、住民のために使用する。現地で新生児死亡の大きな原因とされる破傷風については、LHWらの関わりもあり、妊娠中に予防接種をすることが受け入れられており、BHUに接種に来る妊婦が多かった。LHWは管轄の妊婦について直接家を訪問して情報を収集し、妊娠中の生活について指導したり、分娩が開始すると立会い、さらに産後6ヶ月~1年間は家庭を訪問することによって育児を支援していた。
筆者らが到着したのは、発災から4ヶ月が経過したころであるが、復興は進んでおらず、交通は遮断されて近隣の村からの食料や燃料の供給も途絶えることが多かった。また、基礎保健の支援スタッフが死亡したり、LHWの住居が被害を受け、委託された医薬品や衛生材料も使用できなくなったり使い切ってしまい、LHWの活動は満足に機能していなかった。
筆者らは、到着時の状況をアセスメントした上で、パキスタン政府がうたった「単に被災前に戻るだけでなく、旧前より、よりよいものを目指す」を意味する「Build Back Better」に倣い、活動方針を今まで活動していた第1班~第4班の管理的支援から、地元スタッフの自立を支援する方向に方向転換を行った。従来通りにBHUのスタッフに対する教育、支援、夜間・時間外を含む診療は引き継ぎ、それに加えて基礎保健の充足を図るために、基礎保健活動の協働者をLHWとした。主な活動の内容は、ワークショップ等でのLHWとの情報交換や、村訪問で、ICRCの基礎保健計画の調査票と独自に作成した質問紙を使用、基礎保健調査を行った。その情報から3つのデータベースを作成し、後続班にLHWへの医薬品供給等を依頼する等、今後の継続的かつ効果的な援助のための基盤作りを行った。
身体障害者を始めとする生育の異常に対するインフラの脆弱な地域では、小児期の死亡や、障害を減少させるためにも予防的な視点での周産期の関わりは重要である。LHWの職務の職責はそのほとんどが母子保健に関わるもので、装備された医薬品もその目的に準じている。地震後、増加した外傷等で、装備品も損壊・消費され、補給がない状態は、LHWの活動に支障をきたしていた。
筆者らの到着時は、すでに時間的には更生医療の範疇にあったが、全くといっていいほど復旧が進んでいなかった。医療の面では、発災直後からICRCがイニシアチブをとって全ての資材と人員を提供し診療を開始したことで、地域の住民の保健衛生の欠落をある程度埋めることができた。しかし、その恩恵を受けられるのは、数時間の徒歩の後でようやくBHUにたどり着くことができる住民である。日本と大きく医療レベルが違うとはいえ、被災後早期から地元に根付いたシステムを支援することは、地震で被災した住民により受け入れられやすく、さらなる費用対効果を産むことができると考える。
今回、LHWというパキスタン独自の基礎保健のための要員がおり、特にそれが被災前からカシミール地方ではよく機能しているという情報を得て支援の基礎作りを行った。また活動で得られた村の情報からも、基礎保険の充足が重要であることが裏づけされた。
今までの緊急支援では、活動の当初から地域の医療面での人的資源を活用したという報告は少ない。同様の資源は、インドネシアの簡易な診療所で、プスケスマスやプストが挙げられる。既存の人的資源の職責や背景、実際の能力を確認しながら適切に支援していくことで救援チームが撤退した後、本来の中央からの支援が回復するまでの継続性につなげられると考える。
また、災害後の支援に際し、その対象や方法を考えるために、アセスメントをすることは重要である。筆者らはすでに救援活動をしていた中でICRCのOutreach Health Programに沿って調査を行った。災害時に行われるアセスメントはその目的や、災害種別、タイミングによって様々なものがある。
筆者らの行った調査は、時期的には発災早期に支援内容や場所を選定するイニシャルアセスメントとは言えず、リハビリテーション期での継続的な支援プログラムに向けて行うスルースアセスメントの精度には及ばない。しかし対象をLHWを中心とした、基礎保健の範囲に絞ったことで今後のICRCを含めた継続的な支援活動のために役立つ情報となった。