現在医療の分野ではトリアージの概念が広く導入されてきているが、大きく二つに分けることができる。ひとつは夜間の救急外来などで少数の医師に対し、多数の患者が順番待ちをしているような状態の時に軽症、重症にわけ重症者から治療していくといったものである。もうひとつが地震などの災害時に短時間のうちに訪れる多数の患者に対し、「緊急治療群」「準緊急群」「軽症群」に分けて治療を進めていくといったものである。
このどちらの場合も診療の対象となる患者数(=医療の需要)が、医師や看護師などの医療を担当する要因、医療品や医療設備などを総合した患者対応能力全体(=医療の供給能力)を上回った状態で行われる、という点では共通している。
平時の救急外来のトリアージと災害時のトリアージの大きな違いは、地域の救急医療システムやそのシステム運用上の問題として対処することが可能か不可能かという点である。たとえば、平時の救急外来で担当医の処理能力以上の患者がいたとしても、地域全体の医療供給能力が低下しているわけではない。よって院内や待機中の同僚を呼ぶ、重症者を他の病院へ搬送する、病院の当直システムや地域の医療システムを変える、といった方法である程度対処可能である。しかし、災害時には平時の対応能力をはるかに超える事態が生じているため、自施設の応援要員も期待できず、近隣の病院も混乱をきたしているため地域全体の医療の供給が著しく低下している。これはシステム上の問題ではない。一般に、医療の現場でおおむね20名以上の死傷者の同時発生の報が入れば災害発生と考える。
これより災害時のトリアージでは、結果として最も究明の可能性が高いと考えられる患者から治療の優先順位をつけていくことが必要である。いいかえれば必ずしも緊急度の高い順番に治療を開始するわけではないということである。なぜならば災害医療の目的は物的人的な余裕がないため、限られた医療資源のもとで最大多数の患者にできる限りの医療を行い、防ぎ得る災害死を最小限にすることが目的であるからである。
また、災害時トリアージにおいては誰がトリアージを担当するかということが重要になる。トリアージの担当者をトリアージオフィサーというが、日本では災害現場などでトリアージを行う際の資格は法律的には特に定められていない。一般には救急隊員、看護師、医師が行うのが望ましいとされる。しかし、トリアージはある程度の経験がないと実際の災害現場などで実施することは困難であるため、災害現場に居合わせたマンパワーの中でトリアージの概念や手法を最も深く心得ていると思われる者が担当すべきである。
有効なトリアージをするための担当者としての心得を以下に挙げる。
最後に、災害時に最も効果的なトリアージを行うには、個人個人のトリアージに対する知識と技術のあるなしもさることながら、災害対応責任者がトリアージオフィサーのみならず、指揮命令系統、トリアージ以外の各種の役割分担の確立をスムーズに行うことができるかどうかにかかっている。
1.医療チームの活動
ガジャマダ大学医学部附属病院に収容された症例は、ほとんどが整形外科領域の外傷であった。この災害に対して、神戸大学より医療チームと工学・理学系チームを派遣した。第1陣は医療チームであったが、被災後6日目ですでに海外からの医療班が対応しており、医療面で寄与する部分は残っていなかった。第2陣の工学系チームによる建物被害の調査から、郊外では家屋の倒壊が甚だしいが収束しており、一部では再建も始まっているとの情報が得られた。以上2チームの調査より、
これらより、第3陣では小児科医、理学療法士が派遣された。ガジャマダ大学との話し合いから、
1) 阪神・淡路大震災の経験から作成された心のケアのための小冊子の翻訳
2) ガジャマダ大学・Puskesmasと共同で心のケアのためのプログラム作成
3) Puskesmas職員や教員の復帰および再教育
などに関して、神戸大学が協力していくことが決定された。
2.理・工学系チームの活動
第4陣はライフラインについての調査を行った。上水道・電力を調べたが、システムの損傷は少なく復興への影響は小さかった。
第5,6陣は建物被害について調査した。一般家庭は無補強のレンガ造りで倒壊により多くの死者が発生したことが分かった。一方、竹造りの家では建物被害が少なく、死者はなかった。
第8,9陣はシェルターに関する調査を行った。本来シェルターであるはずの小学校やモスクはレンガ造りであるため被害が大きく、住民は避難場所が確保できなかったためテント暮らしを強いられた。一方、仮設住宅の建設は多額の費用がかかり、郊外の農村部では負担できない。工学系チームは材料としてすぐに入手でき、安価な竹を用いた緊急シェルターの建築法を提案し、現地行政機関に採用された。
3.多機関連携
今回の大規模災害派遣では、神戸大学本部指揮下に医学部、都市安全研究センター、工学部、理学部が連携をとりながら情報交換し、それぞれの専門分野における活動に活かし、逆に入手した情報を多分野に提供した。被災者に対する医・食・住の提供といった多角的な災害支援を行うことによって地域の安定化に貢献し、地元機関からの信頼を獲得した。
第1陣は第2陣の助言をもとに地図上から予測される断層を中心として、Puskesmasの被害を調査した。その結果、Puskesmasはこの断層を中心として被害が大きいことが判明した。工学系チームからの情報の共有ができたので闇雲に調査をすることなく、それぞれの専門分野による利点が生かせた。
ジョグジャカルタには旧王制の名残があるため、かつての王宮をまねた一般家屋(ジョグロ)が作られる傾向にあった。特に郊外では、建築基準が守られずに焼き物の瓦などを石灰で固めた鉄筋のない不安定なジョグロが建てられ、これは地震で簡単に倒壊した。このような建築チームからの情報は、被災者が多数発生した理由が脆弱な家屋の下敷きになったためということを示唆した。また、整形外科領域の外傷が多かったことと合致した。
被災者の発生メカニズムを理解し、背景を知ることは災害医学にとって有益であり、このような多分野の情報交換によって今後の被災国の建築、社会的背景、地形的特徴を捉えることができるので、被災地ごとにあわせた必要な医療を可能にする。
2.今回の災害支援の特徴と問題点
今回の救援の特徴として、以前の災害より多くの救援機関が継続して活動していたため地震に対しての急性期の対応が迅速に行えたこと、道路網が確保されており、救援がスムースで物資輸送に支障が比較的少なかったことが挙げられる。このため、被災後6日目に到着した我々には急性期の具体的な活動を行う機会が少なかった。
日本出発が遅れた原因として、大学内での派遣資金調達に時間がかかったこと、全学を通した災害などの緊急時における対応マニュアルがなかったことが挙げられる。今回の経験から、費用をストックし、突発的な派遣にも即座に対応できるよう整備されることとなった。
海外広域災害においては、医学的な支援だけでなく、多方面からの綿密な情報交換を行い、援助を行うことによって地元の要望に沿う活動が可能となる。