災害医学・抄読会 081107

トリア−ジとは 2.トリア−ジと重症度判断

(杉本勝彦、EMERGENCY CARE 2008年夏季増刊 15-24)


 医療におけるトリアージとは、複数以上いる傷病者の中から治療の優先順位を決めるための一種の「選別」過程とされている。一般外来でも災害時でもトリアージの基本的な考え方は原則的に変わらない。また、トリアージとは重症度や緊急度を見極めることであるが、両者の概念は
 重症度…患者の生命予後または機能予後を示す
 緊急度…その重症度を時間的に規定
であり、重症度と緊急度は必ずしも一致しない場合がある。

トリアージのやり方

 1次トリアージ(ふるい分け)
   ⇒2次トリアージ(重症度と緊急度の確認)
   ⇒個別の診療順位の決定

1. ふるい分け

2. 重症度、緊急度の確認

  1. 重症度の見極め

    • バイタルサイン…血圧、脈拍数、呼吸数、体温、意識状態、SpO2

    • 意識状態…大脳を含む中枢神経系の機能を示す。JCS、GCSでの評価が一般的である。また、瞳孔不同、対光反射(直接・間接)も確認する。

    • 循環動態

      a)血圧―通常状態の測定値と比較するのがベスト。通常状態の血圧が不明の場合には、収縮期血圧90mmHg以下をショック状態と判断する。血圧計がない時には触知できる部位で収縮期血圧を類推できる(橈骨動脈―80mmHg、大腿動脈―70mmHg、頸動脈―60mmHg)

      b)Capillary refilling time(毛細血管再充満時間)―強く爪の部分を圧迫し、離して爪の下の色が戻るまでの時間を計測する。2秒以内なら正常。利点は短時間で判断できること。欠点は極端に寒いとできないこと。

      • 脈拍数…極端な頻脈や徐脈は重症化の兆候である。100回/分以上⇒頻脈、60回/分以下⇒徐脈
      • 呼吸状態…25回/分以上または6回/分以下⇒異常
      • 体温…表層体温を測定する。

  2. 緊急度の見極め
     緊急度を判断するには、その患者がショック状態に陥っているかどうかを素早くみわければよい。ショック(末梢循環不全)はショックの5Pに加え、臨床症状で判断する。

    • ショックの5P
      ・周囲に無関心で無欲状態(虚脱:prostration)
      ・皮膚が蒼白(顔面蒼白:pallor)
      ・冷汗をかいている(冷汗:perspiration)
      ・脈が弱く速い(脈拍触知不能:pulselessness)
      ・呼吸不全(pulmonary deficiency)

    • ショックを見分ける臨床症状
      ・血圧低下(収縮期血圧90〜100mmHg以下)
      ・脈圧の減少(収縮期と拡張期圧の差が少なくなる)
      ・静脈虚脱
      ・呼吸促迫
      ・尿量減少(25ml/hr以下)

災害時のトリアージ

 災害時にはその特殊な状況により、短時間で大人数を判断しなければならないので、START(Simple Triage and Rapid Treatment)式トリアージがよく用いられる。

STEP1 呼吸の評価

STEP2 循環の評価

STEP3 意識状態の評価


災害現場での治療

(阿南英明:プレホスピタルMOOK4号 Page 105-113, 2007)


はじめに

 災害発生時、現場の体系的対応はCSCATTTとよく表現される。それぞれ、command and control / safety / communication / assessment / triage / treatment / transport の頭文字であり、この中で災害現場での医療活動を表すのがTTTである。災害現場での治療とは二番目のTを指すが、これら三つのTは独立したものではない。

1. 災害現場の治療の目的と内容

 現場での医療活動の最大の目的は三番目のT:搬送である。重篤な損傷を負った傷病者をきちんとした医療が受けられるように適切な医療機関選定と順位決定の後に搬送することが究極の目的である。この搬送を成功させるために必要となるのが上記の二番目のT:治療である。さらに、数十、数百人といった傷病者を前にして誰に優先的に処置を行い搬送するのかを正しく選別することが成功の秘訣であり、そのために第一のT:トリアージが必要になる。

 また、災害現場での医療行為は自ずと限界があり根治的治療は困難である。現場では人的・物的資源を有効活用する必要があり、最低限医療機関へ搬送できるように生理学的不安定(バイタルサインの異常)の是正に専念することになる。これはJATECのPrimary Surveyに準じており、A(気道)B(呼吸)C(循環)の安定化と考えられる。

2. 災害現場における診療

 現場での医療活動は、災害現場近くに設営されるであろう現場救護所の中で行うこととなる。想定される傷病は外傷であり、その診療手順として外傷初期診療ガイドラインJATECの手順に沿って行うことが理にかなっている。ただし、病院で行う診療とは異なり、災害現場に投入できる人的資源と医療資機材には限りがある。例えば、X線は使用できないので、視診・聴診・打診・触診など、より一層五感を働かせた診療で判断する必要があったり、酸素はルーチンに10l/min投与せず5l/minの投与に抑える必要がある。また、現場での患者安定化処置後の搬送トリアージを適切に行うために、現場周辺の地理や医療機関情報を把握しておく必要がある。

 ここで、災害現場救護所で行われる実際の医療、すなわち資器材の制限によってJATECがどのようにアレンジされるかを紹介する。

結論

 災害現場における治療は、通常救急外傷診療における外傷初期診療ガイドラインJATECのPrimary Surveyに準じて行う。特に災害現場から医療機関へ傷病者を安全に搬送することが最大の目的である。そのために行う治療内容がABCの安定化である。注意すべきは、現場ではX線検査や血液検査はできないので、五感を十分に活用した判断と処置になることと、酸素・輸液など限られた医療資源を無用に浪費せず有効活用に努めることである。


災害時における情報収集と伝達

(中田敬司.救急医療ジャーナル16巻5号 Page 45-51, 2008)


【はじめに】

 今回は情報とコミュニケーションの基本的考え方と、特に災害現場における情報収集とその伝達について考えていくことにする。

【災害時の情報、コミュニケーション】

 情報には2つの種類がある。客観的事実、データ、エビデンスである材料情報(インフォメーション)と、それに基づいて判断、評価、予測した判断、評価情報(インテリジェンス)である。工夫と配慮がなされたコミュニケーションの機会と手段、そしてその目的の明確化が重要となる。

【災害時の情報収集と判断】

 災害医療支援チームは災害時にいかに情報を収集するのか。

【災害援助活動時の通信、伝達手段】

【災害現場活動におけるコミュニケーション手段としての無線活動】

 各種無線のシステムについて

【終わりに】

 DMATのような発災から48時間以内という混乱の中で活動するためには、隊員の派遣方法と共に、通信手段の構築は大きな課題となっている。災害医療支援活動の基本といえるCSCATTT (Command & Control ・ Safety Communication Assessment Triage Treatment Transportation。つまり 災害時にはC(Command:指揮命令系統)、S(Safety:安全)、C(Communication:情報伝達)、 A(Assessment:評価)、T(Triage:トリアージ)、T(Treatment:治療)、T(Transport:搬送)の順番に従って実施していくこと。) においてもコミュニケーションは災害医療支援活動の重要な位置づけであり、被災地での活動を迅速かつ円滑に実施するためにも、災害医療支援チームの専有の周波数の確保と通信機器の整備、実施、評価してきたる実災害に備える必要がある。


避難所における健康管理と医療班派遣

(内藤万砂文.救急医学 32: 227-230, 2008)


【はじめに】

 近年、自然災害が多発した新潟県中越地域の赤十字病院として、3年間で6回の国内救護活動に参加する機会を得た。この経験を通し、避難所における健康管理と医療班派遣について私見を述べる。

【当院が経験した救護活動】

1.新潟・福島豪雨災害(2004年7月13日)

 長岡市内の水没した避難所に発災当日の深夜に出動した。別の被災地である中島町には県からの要請を受け、4日目に出動した。足を踏み入れて初めて大変な災害であることに気づいた。ここでの救護活動からは被災地に足を運んで始めて医療ニーズがわかること、そして行政の対応を待っての救護班出動では手遅れになるということであった。

2.新潟県中越地震(2004年10月23日)

 中越地域の基幹病院として傷病者の受け入れを行うと共に、長岡市民と山古志村民の避難所での救護活動を行った。発災翌日の未明に長岡市内の主な避難所8箇所を巡回した。山古志村は壊滅的な被害であったため約1500名の住民が長岡市内に避難し、仮設住宅に移り住むまでの2ヶ月間当院が医療救護活動を行うことになった。最初の仕事は行政が準備した昼食を配布することと処方可能な薬の処方をサポートすることであった。次の仕事は避難所8箇所を連日巡回することであった。地震の恐怖体験を話すことで気持ちが楽になる人も多く、診療の合間に話に耳を傾け、こころのケアにも努めた。その一方で統括する組織がはっきりしなかったために問題も起きた。同じ被災地に複数の救護班が訪れたり、ダブルスタンダードの医療が行われることによる弊害などである。この点に関しては保健師を通さないと救護を行えないシステムにすることで解決された。この災害を契機に新潟県は災害時のマニュアルの改訂を行い、「地域の保健所長が災害医療コーディネーターを務める」ことと、「県内の災害拠点病院は要請がなくとも、自主的判断で救護班を派遣すべし」という行政としては画期的ともいえる文言を盛り込んだ。

3.新潟県梅雨前線豪雨(2005年6月28日)

 避難準備情報が発令された初めての災害であった。被害情報が出てこなかったため自ら先遣隊として出動し、救護活動の必要がないことを確認できたため先遣は有意義な活動であると考えられた。

4.新潟県豪雪(2006年1月10日)

 豪雪による雪崩により道路が封鎖された孤立した集落に対する救護活動で県保健部の担当者に出動の必要性を訴えた結果の出動であった。訪問診療などを行い住民からは歓迎された。行政や地域との連携が功を奏した救護活動であった。

5.能登半島地震(2007年3月25日)

 発災当日の被災地は混乱を極め、道路状況は悪く、ライフラインは断たれ、支援も届いていなかった。この時期に救護活動をするのには相当の準備と覚悟が必要であることを学んだ。

6.新潟県中越沖地震(2007年7月16日)

 この災害で特徴的であったは 1)多数のDMATが参集し、トリアージ、病院支援、救急車・ヘリ搬送や医療の窓口の立ち上げや避難所支援に尽力を尽くしてくれたこと、2)地域の保健所長と医師会長を核とする「災害時医療コーディネートチーム」が機能したこと、の2点である。このおかげでトラブルはほとんどなく、行政が災害医療の最前線に参画したことで大学病院や公立病院など多くの救護班が参加した。今後、「災害時医療コーディネートチーム」は災害医療のスタンダードになっていくと思われる。

【災害維持に求められる医療】

 突然の災害に対し、特に就業時間外の場合スタッフも少なく連絡も取りにくい。十分な情報も得られず目の前の対応に追われることとなる。しかしこのような混乱も24時間までに落ち着きをみせ様々な支援物資も届くようになるため発災後24時間をいかにスムーズに対応できるかが重要である。

【医療班の派遣】

 災害発生時は被災者は最も不安を感じ支援を必要としている。要請を待っての出動では間に合わないこともあるため自ら情報を集め行動する積極性が重要である。

【避難所での活動】

1. 発生当日〜翌日

 洋式トイレになれた現代人にとってトイレの問題があるが、最近は仮設トイレの設置は速やかにおこなわれている。また常備薬などの処方が難しいため病院などの復興が重要となる。

2.発災後数日〜1週間

 ボランティアや保健師により避難所の環境が改善されるが救護班の重複によるダブルスタンダード医療による弊害などが問題として挙げられる。

3.発災後1週間以降

 復興が進み、病院などが再開し医療機能回復が回復し、救護班の役割を終える時期であるが撤退のタイミングが重要である。早すぎると被災者から見捨てられたと受け取られかねず、遅いと医療機関とトラブルにもなりえる。また高齢者の生活不活発病を引き起こし住民の自立低下の意欲を失わせる恐れもある。「救護班の撤退は出動よりも難しい」といわれるゆえんである。

【おわりに】

 最近は発災当日に多数のDMATが参集し救命医療への取り組みが可能となってきた。また「災害時医療コーディネートチーム」の調整下に組織的な救護活動が行われるようになってきた。今後、DMATが全国的に普及し認知が進むにつれて、より迅速な災害救護活動の展開が期待されるだろう。


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