AED:企業戦士の立場からひとこと

日本メドトロニック株式会社 フィジオコントロール事業部
松尾 英樹


 目 次

AED(Automated External Defibrillator)
PAD(Public Access Defibrillation)
米国での普及状況と現場の苦労
Automatic と Automated
解析精度の話
メンテナンスフリーとローメンテナンス


AED(Automated External Defibrillator)

 「AED(Automated External Defibrillator)は、完全自動の特殊な除細動器だ。」と思っている方はいらっしゃいませんか? AEDはもっと広い概念で、体外式除細動器の内、心電図の解析やエネルギ充電等々の部分が自動化されている物すべてが相当します。現在国内で流通しているAEDは、心電図解析からエネルギ充電迄は自動で行い、最後の通電だけは人手で行うことから、AEDの中でも“半自動除細動器”と分類されます。実は世界中のAEDも殆どはこのタイプなのですが、最近は米国に端を発するPAD(Public Access Defibrillation)に対応し、通電後のCPR音声指示や、装置の定期的な自己診断など各種の機能が自動化(Automated)された物も出ており、その取り扱いの簡便性から、国内でも今後は様々な場所で使用されてくるのではと期待されます。


Public Access Defibrillation(PAD)

 Public Access Defibrillation(PAD)と言うと、いかにも「一般市民がAEDを使って早期除細動を・・・・」という感じがします。AHAの PAD論議の中でも、Lay person(一般人)とでてきますが、ここでは最低限の心肺蘇生法訓練を受けた非医療従事者と捉えるべきでしょう。 PAD先進国の米国でも、駅員、ガードマン、警官、消防士など、SCA(Sudden Cardiac Arrest)の現場に居合わせる確率の高い、医師以外のプロフェッショナルが、BLSの訓練を受けた上でAEDを使用しています。又、院内でもナースや臨床工学技師などがファーストレスポンダーとして、AEDを使うこともあるようです。英国でもこの4月から200万ポンドの政府予算で700台の AED配備を始めました。日本にもこういう環境がいつかは整って来るのでしょうか?


米国での普及状況と現場の苦労

 Public Access Defibrillationは米国で既にスタートしていますが、何の障害もなくどこにでも簡単にAEDが配置されるのかというと、そうでもないようです。多くの州で、BLSの一部として AEDの使用が認められていますが、PADを現実化するためには、その地域ごとに予算付けの仕組みや、法的バックアップ、メディカルコントロールの体制づくりなどが必要となってきます。当然、地域社会の様々な組織が関与する為、それらの了解も得る必要があります。米国では PADを推進させるために、このような問題をどうやって克服するかに関するノウハウ集等も出版され、この中には地元の議会の動かし方、ラジオなどのメディアを使った広報戦略等が事細かに記されています。そのおかげなのか、既に数万台のレベルで PAD用の AEDが各地に配備されているようです。


Automatic と Automated

 ”It’s automatic …” と言うと宇多田ヒカルさんのヒット曲を思い出しますが、AEDのAは、Automatic?それともAutomated?と、あまりはっきりしません。市販されている殆どの装置は日本で言うところの半自動除細動器なのでSemi-Automaticとも言えます。

 最近米国で爆発的に普及し始めたPAD(Public Access Defibrillation)に用いられるAEDは、通電操作こそ人手が介入する(だから半自動)ものの、その後は自動的に心電図を再解析し、必要に応じて脈拍の確認やCPRの開始などを“自動的”に指示してきます。電源を切っていても定期的に自動起動し、装置の自己診断を“自動的に”行います。自動化(Automated)が高度に進化しているのは、滅多に使用しないけれどもいざというときに専門家でなくても使えることを目指しているからです。


解析精度の話

 「AEDの解析精度など信用できないから日本の救急救命士は除細動前に医師の指示を必要とするのだ」と言うわけでもないのでしょうが、日本では半自動除細動器(AED)を使っていても、除細動には医師の具体的指示が必要とされています。ではAEDの精度はどの程度なのでしょうか?

 米国では、1980年代からこの種の研究が盛んに行われて来ました。多くの研究が認めるところでは、現在市販されているAEDの解析精度は充分信頼に足る物であり、臨床応用に耐えるとされています。AHA は PAD(Public Access Defibrillation)を目指したAEDが具備すべき解析精度の要求レベルを呈示しました。これは AHAの WEBサイトから簡単に入手できます(http://circ.ahajournals.org/cgi/content/full/95/6/1677)。又、それぞれのメーカが自社の解析精度については公表できる値を持っていますので、ご興味のある方は問い合わせをされると良いでしょう。


メンテナンスフリーとローメンテナンス

 PAD(Public Access Defibrillation)向けに開発された AEDはメンテナンスの手間をなるべく少なくする各種の工夫が盛り込まれています。例えば、自己放電率が非常に少なく、長時間保管の後でも使用に耐える大容量バッテリや、装置電源をオフにしていても定期的に自動自己診断を行う機能などがその代表です。では、これらの装置はメンテナンス不要なのでしょうか? そうではありません。いざというときに緊急心肺蘇生の一部として使用する装置ですから、やはり日頃の点検確認作業が必要です。電極も時間が経てば交換が必要です。バッテリの予備を持つことも重要です。危機管理体制の一部と言うと大げさでしょうか? 装置の状態は簡単な操作で故障の有無、その状況などが判りますので、やはり全体的にはメンテナンスの手間は極少で済むように設計されています。


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