全循研_20周年記念講演会



「やれば、できる」を聞いて

開催日: 平成18年4月7日(金) 15:30 〜 17:00
開催場所: 横浜市健康福祉センター 4階ホール

 今回の研究会は第20回を記念しての開催でした.その一番のイベントは小柴昌俊先生よりご講演を頂いたことです.さて,会員の皆さんにどんなお話をして下さるか…….胸が弾んでの当日でした.
 先生からは「やれば,できる」という,言わば,当たり前のようで,本当に難しい事柄について,私達に理解ができる数々の表現を用いて頂き,詳細なご教授を頂きました.私には“桜が咲く”ようなお話となりました。先生の思考、行動、そして導かれている結果、…おのおのに学ぶものを感じたわけです。さて、皆さんにはどんな効能が齎されるか?…これからの皆さんの軌跡にさぞ反映されることを祈念致します.
 ところで,先生の巨大実験施設“スーパーカミオカンデ”(岐阜県飛騨市)が復旧されたそうです.この施設はご存知のように,宇宙から飛来する素粒子ニュートリノを観測する目的のもので,その概要は地下1000メートルに設置された直径39メートル,高さ42メートルの巨大水槽にてニュートリノをキャッチして分析するというものです.その復旧工事の規模は,センサーの役割を果たす光電子増倍管,約1万1000個のうちの約7000個破損に対して,昨年10月から約6000個を付け直す作業でした.施設を管理する東京大学宇宙線研究所によれば4月中旬に5万トンの純水の注入を開始し,6月末ごろ本格的な観測を再開するそうです.
 今後の引き続きの小柴昌俊先生のご活躍,ご健勝を心よりお祈り申し上げます.

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 「今日の講演は放射線技師の方々に話しますから、放射線の話をします」との言葉から始まった記念講演でした。不勉強のためか理解できる話は少なかったものの、カミオカンデが検出する放射線の話から先生が設立された基礎科学分野のための財団の話まで「やればできる」のテーマに沿って、話をしていただきました。

 写真はカミオカンデの心臓部を成す光電子増倍管を作成した浜松ホトニクスと先生との関係について、話されているところです。スライド上の表記でも浜松ホトニックスとなっておりますが、先生は終始浜松テレビと仰っていました。カミオカンデが出来上がるまでの歴史の深さをこんな言葉使いからも感じとることができました.



 神岡の町とカミオカンデのつながりについて、話されている場面です。町ぐるみで実験施設との付き合いがあるようです。


 スライド右の画像は、素粒子の飛跡検出器である原子核乾板を現像した画像です。



 カミオカンデにおいて収集した画像が示されています。円筒形の水槽の中を一目で見渡せるような画像の構成になっています。写真はミュー粒子が水槽内で反応した時の様子を示しています。

 上記スライドから、さらに一億分の1秒後の画像です。中央の扇形がさらに広がり、底面部も反応を検出していることが分かります。

 ニュートリノ天体物理学は、日本で産まれた基礎科学分野だそうです。この講演を通して先生は、「日本人はもっと誇りを持つべきである」と、われわれに繰り返し語られました。

 ニュートリノを検出する施設は、カミオカンデに始まって、第2世代がスーパーカミオカンデ、第三世代がスライドにあるように、KamLANDと名称されています。このKamLANDは、地球の断層像を撮影することが可能なようです。


 「話し出すと長くなるから、、、」と恐縮されながらも1時間を越える講演は、世界に通じる物理学の一端を、平易かつエキサイティングなモノへと変換して話していただきました。


 予定時間を超えた講演にも関わらず、幾つかの質問を先生に投げかけるチャンスがありました。「カミオカンデの巨大な水槽は、どのようにして清潔を作り出すのでしょうか?」や、「浜松ホトニクスがカミオカンデ用の大口径光電子増倍管を導入するにいたった経緯」についての質問がありました。
 写真は質問している会員の姿です。


全循研会長と循研会長のスリーショット。
 1時間を超える講演で先生は、ご自身の体験を踏まえながら、われわれ聴衆に「やれば、できる」というメッセージを発しつづけました。一般的に新しい何かやり始めるためには、周囲を納得させる実績が無いと難しいという、新参者には厳しい矛盾を孕んでいます。実際、講演に取り上げられた話題のひとつであった基礎科学のための財団設立は、先生の専門分野ではないことは明らかです。しかし「できた」成果を積み上げたからこそ、次なる一歩が踏み出せたという事実の羅列を目にすることができました。
 難解な物理学の話や途方も無い金額を要する財団設立の話を夢中で聞いた理由には、先生の巧妙でウィットに富んだ話術が関与していることはもちろんですが、「腹の底から思い込んで、物事を成し遂げる」という言外のメッセージに酔ったのではないかと思います。その酔いがうたかたの夢で終わらぬ様にするには、当たり前のことを当たり前にする、とんでもない努力の継続にあるように思います。
御 略 歴
1926年 9月19日 愛知県生まれ 78歳
1951年 3月 東京大学理学部物理学科卒業
1955年 6月 ロチェスター大学大学院修了(Doctor philosophy)
1958年 5月 東京大学助教授(原子核研究所)
1963年11月 東京大学助教授(理学部)
1967年 6月 東京大学理学博士取得
1970年 3月 東京大学教授(理学部)
1974年 6月 東京大学理学部附属高エネルギー物理学実験施設長
1977年 4月 東京大学理学部附属素粒子物理国際協力施設長
1984年 4月 東京大学理学部附属素粒子物理国際センター長
1987年 3月31日 停年退官
1987年 5月 東京大学名誉教授
1987年 8月〜1997年3月 東海大学理学部教授
1994年 6月 東京大学素粒子物理国際研究センター参与
2002年12月 日本学士会会員
2003年10月 財団法人平成基礎科学財団設立 理事長就任
2005年 1月 東京大学特別栄誉教授
現在に至る

【受賞】ドイツ連邦共和国功労勲章大功労十字章(1985)、仁科記念賞(1987)、朝日賞(1988)、文化功労者(1988)、 日本学士院賞(1989)、藤原賞(1997)、文化勲章(1997)、Wolf 賞(2000)、ノーベル物理学賞(2002)、 ベンジャミンフランクリンメダル(2003)、勲一等旭日大綬章(2003)など

【著書】
・ようこそニュートリノ天体物理学へ 海鳴社 2002.11.11
・ニュートリノ天体物理学入門 講談社ブルーバックス 2002.11.20
・心に夢のタマゴを持とう 講談社文庫 2002.11.25
・物理屋になりたかったんだよ 朝日新聞社朝日選書 2002.12.25
・やれば、できる。 新潮社 2003.1.30

専 門
素粒子物理学、宇宙線物理学
研究業績
宇宙線分野
宇宙線の超新星起源を初めて指摘
宇宙線による素粒子相互作用の解明を進めたこと
ミュー中間子束に関する初めての組織的研究
素粒子物理学分野
新粒子 Pc の発見、グルーオンの発見など 統一ゲージ理論の精密な検証
大型水チェレンコフ検出器による地下実験 Kamiokande を提案(昭和53 年)
岐阜県神岡鉱山において同実験を開始(昭和58 年)

Kamiokande 装置により、16 万光年のかなたにある超新星 SN1987A からのニュートリノを捉え、世界で初めて超 新星爆発からのニュートリノの観測に成功、 太陽ニュートリノの観測によりニュートリノ天文学という新しい学問 を切り開く Super-Kamiokande 実験(Kamiokande の次期計画)においてニュートリノに質量があることを世界で初 めて発見