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ライフサイエンスシンポジウム2010 ポスター発表演題一覧

【奇数番がポスター発表1(11:10-12:10)、偶数番がポスター発表2(12:40-13:40)でプレゼンをして下さい】
P-1
放線菌Streptomyces hawaiiensisからの新しい抗菌物質の単離
*1小早川文哉, 1小谷真也
1静岡大・農・応生

放線菌は抗生物質生産の生物資源として用いられてきた。現在においても新しい有用物質が発見されており、探索研究が盛んにおこなわれている。本発表においてS. hawaiiensisから新しい抗菌物質を単離したので報告する。S. hawaiiensis寒天培養菌体をアセトン抽出し、抽出液を減圧濃縮後、逆相オープンカラムを用い含水メタノールによって溶媒分画した。活性の見られた画分からODSカラムを用いたHPLC分取によって活性物質を単離した。この成分はポジティブモードのESI-MS測定でm/z 263にイオンピークを与えた。本物質はHPLCで検出された2成分が溶液中で構造的に変換していると考えられた。そのため、アセチル化反応を行い安定な構造に変換した後、NMRおよびMSスペクトルの解析を進め、その部分構造を決定した。


P-2
放線菌Streptomyces aureofaciensからの新しい抗菌物質の単離
*1青木信幸, 1小谷真也
1静岡大・農・応生

放線菌は多種多様な抗生物質を生産し、古くから新奇抗生物質の探索研究が盛んにおこなわれている。本発表においてS. aureofaciensから新しい抗菌物質を単離したので報告する。S. aureofaciens寒天培養菌体をアセトン抽出し、抽出液を減圧濃縮後、逆相オープンカラムを用い含水メタノールによって溶媒分画した。活性の見られた画分からODSカラムを用いたHPLC分取によって活性物質を単離した。本物質はHPLCで検出された4成分が溶液中で構造的に変換していると考えられた。そのため、アセチル化反応を行い安定な構造に変換した後、NMRおよびMSスペクトルの解析を進め、その部分構造を決定した。また六炭糖が結合していることが示唆されたため、加水分解後、誘導体化し、HPLC分析中である。


P-3
茶カテキン類と食品タンパク質との分子間相互作用の解析:食品の機能性改良に向けて
*1市川達也, 1山本彩乃, 1尾登賢一, 1石井剛志, 1中山 勉
1静岡県立大・食品・食品分子工学

 茶カテキン類は多様な生理作用を有し、天然の機能性素材として食品や医薬品への有効活用が期待されている。食品素材として利用する場合、カテキン類はタンパク質や脂質などの食品成分と相互作用し、食品の機能性(栄養機能、感覚機能、生体調節機能)に影響することが予想される。本研究では、分子間相互作用に着目し、茶やカテキン類の添加による食品タンパク質の構造や機能の変化を解析した。
様々な食品からカテキン類と相互作用するタンパク質の探索を行った結果、高い親和性を有するタンパク質として乳カゼインと大豆リポキシゲナーゼを同定した。カテキン類と相互作用することで、カゼインは高分子量化し、リポキシゲナーゼは脂質の酸化活性が低下した。カゼインの高分子量化は食品の物性や成分の安定性に、リポキシゲナーゼの不活化は青臭さの低減に関与する。茶カテキン類は、タンパク質との相互作用を介して食品の機能性を改良する可能性がある。


P-4
レモンマートルのシトラール合成に関わる酵素遺伝子のクローニングと発現酵素の特性解析
*1齋藤瑛介、2伊藤創平、3杉浦瑞枝、4Koltunow.Anna.M、#5酒井坦
静岡県立大・食品・蛋白質工学

レモンマートルはオーストラリア原産のフトモモ科に属する植物で、その葉には強いレモン臭を持つシトラールが多く含まれている。シトラールは、ゲラニアールとその異性体のネラールの混合物で、それぞれゲラニオールとネロールから脱水素酵素によって合成される。Sweet basilではこの反応をCinnamyl alcohol dehydrogenase (CAD)とGeraniol dehydrogenace (GEDH)が触媒するとの報告がある。本研究はレモンマートルにおける、シトラール合成に関与するアルコール脱水素酵素遺伝子のクローニングと発現酵素の特性解析を目的とした。既知のCADとGEDHの配列からデザインした縮重プライマーを用いて、1個のCADと4個のGEDHと予想される遺伝子をクローニングした。そのうちの2つのGEDHを大腸菌で発現し、この発現酵素はゲラニオール、ネロールに対する活性を示した。現在それら酵素の特性解析を行なっている。


P-5
ゲンタミシン耐性変異による放線菌の潜在的抗生物質生産活性化メカニズムの解明
*1藤原達也,2千菊夫,3越智幸三,#4保坂毅
1信州大院・農,2信州大・農,3食総研,4信州大・若手拠点

【目的】我々は,放線菌にゲンタミシン(リボソーム攻撃性アミノグリコシド系抗生物質)耐性を持たせると潜在的な抗生物質生産力が劇的に増大する現象を見出した.本研究では,ゲンタミシン耐性変異による放線菌の潜在能力活性化メカニズムの解明を目指して,抗生物質高生産ゲンタミシン耐性株の特性解析に着手した.
【結果】薬剤耐性選抜法により,通常の培養条件では抗生物質を生産しない土壌分離放線菌Streptomyces sp. 631689 から100 菌株のゲンタミシン耐性株を分離した.驚くべきことに,そのうち13 菌株が631689 株における潜在性抗生物質ピペリダマイシンの生産力を獲得していた.また, ピペリダマイシン高生産ゲンタミシン耐性株の多くが種々のアミノグリコシド系抗生物質に耐性を示すことも判ってきた.現在,この性質をもとに潜在的な抗生物質生産力を活性化するゲンタミシン耐性変異の特定を進めている.


P-6
放線菌から分離した抗生物質高生産エリスロマイシン耐性株の特性解析
*1今井優,2,3田中幸徳,4千菊夫,2越智幸三,#5保坂毅
1信州大院・農,2食総研,3静岡大・農,4信州大・農,5信州大・若手拠点

【背景】 近年,放線菌にリボソーム攻撃性の薬剤に対する耐性を持たせると,潜在的な抗生物質生産力が劇的に増大することが判ってきた.エリスロマイシン (EM) は細菌のリボソーム50S サブユニットに結合し,ペプチド鎖転移反応を阻害するマクロライド系抗生物質である.ごく最近我々は,放線菌へのEM 耐性の付与が抗生物質生産を強力に活性化する現象を見出したので報告する.
【結果】 薬剤耐性選抜法を活用して放線菌Streptomyces coelicolor から259 菌株のEM 耐性株を取得したところ, 青色抗生物質アクチノロージンの高生産株が22.4% という極めて高い頻度で出現することが判明した. 驚くべきことに, 野生株の 100 倍以上のアクチノロージン生産力を獲得したEM 耐性株も存在した.現在,EM 耐性に関わる変異遺伝子を特定するとともに,様々な放線菌での抗生物質生産活性化効果を調べている.


P-7
Effect of LED lights and plant hormones on carotenoid metabolism and its regulation mechanism in citrus fruits
*1張 嵐翠,1,2馬 剛,1沖松明史,1橋野紘幸,1加藤雅也,1山脇和樹,1切岩祥和,3松本 光,3生駒吉識
1静岡大農学部,2岐阜大院連合農学研究科,3農研機構果樹研

Carotenoid metabolism, which has been well documented in various plant species, is a complicated process and influenced by environmental factors and plant hormones. In our study, the effects of LED lights (blue, white and red) and plant hormones (ABA and GA) on carotenoid metabolism and its regulation mechanism in the three citrus cultivars (Satsuma mandarin Valencia orange, and Lisbon lemon) were investigated. The results showed that the carotenoid accumulation was induced by the blue and white lights, while it was not affected by the red light in Satsuma mandarin, Valencia orange and Lisbon lemon. With the treatment of ABA and GA the carotenoid contents decreased significantly in the three citrus cultivars. Gene expression analysis by real-time PCR showed that the modulation of the carotenoid metabolism by the LED lights, ABA and GA was highly regulated at the transcript level.


P-8
Regulation of ascorbate metabolism by 1-methylcyclopropene and ethylene in post-harvest broccoli and cauliflower
*1,2馬 剛,2張 嵐翠,2加藤雅也,2山脇和樹,2浅井辰夫,3西川芙美恵,3松本 光,3生駒吉識
1岐阜大院連合農学研究科,2静岡大農学部,3農研機構果樹研

The effects of 1-methylcyclopropene (1-MCP) and ethylene on ascorbate metabolism were studied and the possible molecular mechanisms were examined in two cultivars of broccoli, ‘Haitsu’ and ‘Ryokurei’ and two cultivars of cauliflower, ‘Violet Queen’ and ‘Snow Crown’. The results showed that the decrease in AsA content was delayed by treatment with 1-MCP, while it was accelerated by treatment with ethylene in ‘Haitsu’, ‘Ryokurei’, and ‘Violet Queen’ after harvest. However, in ‘Snow Crown’, the AsA content was lower and less sensitive to the 1-MCP and ethylene treatments than that in the other three cultivars. In addition, the AsA metabolism in the four cultivars was highly co-regulated by the cytosolic, mitochondrial, and chloroplastic genes for the enzymes involved in ascorbate-glutathione cycle in response to 1-MCP and ethylene treatment. These results might provide new insights into the mechanisms by which 1-MCP and ethylene delay or accelerate the senescence in plants.


P-9
出芽酵母TORを介したDNA複製の制御機構の解析
*1牧野仁志穂、#1丑丸敬史
1静岡大・院理・生物

DNA複製にはDNAの材料や関係するタンパク質が働く為のエネルギーが必要である。もしDNA複製の途中で飢餓になったら細胞はどうなってしまうのだろうか?DNAの二本鎖はほどかれた状態になり、傷つくリスクが高くなる。そこで、DNA複製を行っても良い状態か感知し、DNA複製を制御する機構が存在するのではないかと我々は考えた。
TORと言うタンパク質は栄養を感知して細胞内で起こる現象を制御するタンパク質であるが、TORがDNA複製も制御しているのではないかと仮説を立て、新たなDNA複製の制御の仕組みを探っている。今回は、この仕組みの大きな枠組みが見えてきたので、それを報告する。


P-10
マウス動脈硬化症発症に対するEGCGおよびカフェインの効果
*高頴,茶山和敏 
静岡大・院農・応生

これまでの研究で、我々はカテキンとカフェインの組み合わせ投与が、強い動脈硬化症抑制作用を有することを明らかにしている。そこで、本研究では、カテキンの主要成分であるエピガロカテキンガレート(EGCG)とカフェインを単独あるいは組み合わせてマウスに投与し、それらの動脈硬化症発症抑制作用を検討した。
その結果、動脈硬化部位の個数は各投与群で差が見られなかった。しかし、動脈硬化部位の面積はEGCG単独およびEGCG+カフェイン投与によって有意に減少した。そのため、EGCGは動脈硬化発症後の悪性進展抑制効果を有し、この効果にカフェインは関係しないことが示唆された。そして、カテキンとカフェインの組み合わせ投与による動脈硬化症の発症抑制作用は、EGCG以外あるいはEGCGを含めた種々のカテキンとカフェインの相乗効果によるものと考えられた。


P-11
分裂酵母の減数分裂前期テロメア集合はSUNファミリー核膜タンパク質と微小管モータータンパク質に依存する
*1吉田昌史, #2山本歩
静岡大・理・化学

減数分裂では多くの真核生物においてテロメアが集合するが、この集合は相同染色体の対合に必要である。近年、様々な生物において、テロメアの集合に核膜と細胞骨格をつなぎ止める働きをしているSUNタンパク質が関与することが明らかとなっている。しかし、テロメア集合機構の詳細は未解明である。我々は分裂酵母のテロメア集合に微小管モーターである細胞質ダイニン、またキネシンモーターが関与することを見いだした。SUNタンパク質であるSad1がテロメア集合の起こる前に一過的にテロメアに集積するが、我々はさらにKASHファミリー核膜タンパク質に属するKms1およびKms2が集積することを見いだした。またこのとき、テロメアが細胞質微小管と共局在することも判明した。我々はテロメアにSUNおよびKASHタンパク質が集積して細胞質微小管の形成を促し、この微小管と微小管モーターによってテロメア集合がおこると考えている。


P-12
妊娠および必乳中のマウス乳腺内におけるCCL25ケモカインの発現
*1竹中正樹,#2茶山和敏
1静岡大・院農・応用生物化学,2静岡大・院農・応用生物化学

乳腺組織内での初乳へのIgA移行に対するケモカインの関与について調べるため、腸管でのIgA分泌に関係しているCCL25に着目し、妊娠及び泌乳中のマウス乳腺組織内での発現を調べた。
12週齢のメスddY系マウスを、処女、妊娠10、18、19日目、出産直後、出産後10日目、離乳後5日目の実験群に分けて、乳腺を摘出した。そして、半定量RT-PCR法によって各群のCCL25のmRNA発現を比較した。また、CCL25抗体を用いて免疫染色を行い、CCL25陽性細胞の割合と染色部位を比較した。その結果、CCL25のmRNA量は出産直前および直後に増加した。CCL25陽性細胞数は妊娠19日目から上昇し、出産直後にピークに達した。CCL25の発現のピークが出産直後で、乳腺組織内のIgA量と相関していたことから、CCL25が初乳IgAの移行に関わっている可能性が示唆された。


P-13
分裂後期セキュリンによるセパラーゼ阻害の解析
端野裕樹
静岡大・院理・生物 丑丸研究室

分裂後期開始時セパラーゼ(出芽酵母ではEsp1)により、コヒーシンが切断され姉妹染色体が分離する。Esp1は、分裂中期まではセキュリン(出芽酵母ではPds1)により阻害されているが、分裂後期開始時にPds1の分解により活性化する。Pds1はAPC/C-Cdh1に認識されるKEN boxも持つため、分裂後期から分裂終期移行期にも分解を受けると考えられる。本研究では、分裂終期への進行にはEsp1の活性が必要であり、Pds1はそれに対して阻害的に働いていることを示す。
WBにおいて、後期から終期移行時にもPds1の分解がみられた。後期でPds1を喪失させると後期からの脱出が起こり、分解を抑制すると脱出が阻害された。一方、ESP1の過剰発現は、後期からの脱出を促進し、喪失は、抑制した。さらにセパラーゼ活性を持たないEsp1を過剰発現させると後期からの脱出が遅延した。切断されないSlk19を発現すると後期からの脱出が抑制された。
分裂終期開始時APC/C-Cdh1が活性化すると正のフィードバックが起こり、残りのPds1が分解されると考えられる。


P-14
複製チェックポイント因子Mrc1は減数分裂特異的なセントロメア制御に関与する
*1大羽辰典, 1鈴木廉, 1日野原裕美, 1松原央達, 2村上浩士, #1山本歩
1静岡大・院理・化学 2名古屋市立大・医・細胞生化

減数分裂では第一分裂において相同染色体が分配され、この分配には減数分裂特異的なセントロメア構造の形成が必要であるが、その制御機構の詳細は不明である。Mrc1はDNA複製異常が生じた際に細胞周期の進行を抑制する複製チェックポイント機構の因子の一つであるが、今回我々はMrc1がこの制御に関わる事を見いだした。さらに複製チェックポイントにおいて上流で働くRad3が必要だが、下流で働くCds1、Chk1は必要でないことが判明した。この結果から、Mrc1による制御は複製チェックポイント機構を介さずDNA複製を直接制御することによってキネトコアの方向性あるいはセントロメア間の結合を制御すると考えている。


P-15
分裂酵母のテロメア集合におけるセントロメアの役割の検討
*中村博人,#山本歩
静岡大・院理・化学

減数第一分裂で起こる相同染色体の分配には、相同染色体が対合することが必要である。多くの真核生物で、対合が起こる減数分裂前期に分散していたテロメアが移動してSPB近傍に集合する。このテロメア集合は相同染色体の対合に必要であると考えられているが、このテロメア集合機構の詳細は多くが未解明である。我々は分裂酵母をモデル生物として研究を行っている。分裂酵母では、テロメア集合が起こる前に染色体の中央領域であるセントロメアはSPB近傍に位置している。そのためセントロメアが染色体腕部を介してテロメアをSPBへ集合させている可能性がある。テロメア集合におけるセントロメアの必要性を検討したところ、テロメア集合にセントロメアが必要ないことが判明した。


P-16
マウス動脈硬化症発症における社会的孤立ストレスの影響
*1武市充広,2茶山和敏
1静岡大・院農・応用生物科学,2静岡大・院農・応用生物科学

近年、心理的ストレスが肥満や冠動脈疾患発症に影響を与えることが示唆されている。そこで、本研究では動脈硬化症に対する社会的孤立ストレスの影響を調べた。
動脈硬化症モデルマウスを集団飼育群(1ケージ3匹)と孤立ストレス群(1ケージ1匹)に分けて12週間飼育した。その後、大動脈の動脈硬化部位の数及び面積を分析するとともに、血清・肝臓中の脂質等を測定した。その結果、雌雄共に孤立ストレス群で動脈硬化部位の面積が有意に増加していた。また、血中総コレステロール、トリグリセリド、リン脂質及びHDLコレステロール量は孤立飼育によって変化し、その増減は雌雄で異なっていた。さらに、肝臓脂質量は、雄では孤立ストレス群で増加していたが、雌では逆に減少していた。以上の結果から、動脈硬化症の発症および悪性進展は雌雄ともに社会的孤立ストレスによって促進されるが、その発症促進メカニズムは雌雄で異なる可能性が考えられた。


P-17
カンキツ培養砂じょうにおけるカロテノイド含量ならびに関連遺伝子の発現に及ぼす培地中の糖濃度の影響
*1沖松明史,1橋野紘幸,1,2馬 剛,1張 嵐翠,1加藤雅也,1山脇和樹,1高木敏彦,3松本光,3生駒吉識,3吉岡照高
1静岡大農学部,2岐阜大院連合農学研究科,3農研機構果樹研

カンキツ果実は,多量のカロテノイドを蓄積する。本研究では,カンキツ果実のカロテノイド含量・組成の調節メカニズムを解明するために,5%,10%,15%のスクロースを含むMS培地ならびに0%,3%,6%のマンニトールを含むMS培地にウンシュウミカン,バレンシアオレンジ,リスボンレモンの砂じょうを培養した。カンキツ培養砂じょうのカロテノイド含量ならびに一部のカロテノイド関連遺伝子の発現は,スクロースおよびマンニトールの濃度が高いと増大する傾向を示した。これらの結果から,カンキツ果実の培養砂じょうの一部のカロテノイド関連遺伝子の発現は,糖濃度や水分ストレスにより調節されることが示唆された。


P-18
RNAオリゴマーによる細胞内の転写制御機構の解析
*1齋藤悠,2高濱謙太郎,3丑丸敬司,#4大吉崇文
1,2静岡大・院理・化学,3静岡大・理・生物,4静岡大・理・化学

近年タンパクをコードしないnon-coding RNAが、新しい機構で遺伝子発現を制御しているので注目されている。これらのnon-coding RNAの内、転写因子と直接結合して転写を制御しているという報告があるが、詳しい機構はまだ分かっていない。転写因子であるEWS (Ewing's sarcoma) はRNA結合領域を有しているので、non-coding RNAによってその転写活性を制御できる可能性があるタンパクの1つである。当研究室においてEWSのRNA結合領域とグアニン四重鎖RNAがin vitroで結合する事を見出しているが、EWSの細胞内での転写制御機構は詳しく解明されていないので、グアニン四重鎖RNAによってEWSの転写活性を制御されるか酵母を用いて解析した。
EWSの転写活性を調べる為に、酵母の生育により転写活性を解析できる実験系を構築した。その結果EWSにin vitroで結合するグアニン四重鎖RNAを発現させると、EWSだけの時よりも転写活性が促進された。従って、EWSはグアニン四重鎖RNAの構造を特異的に認識して転写活性を制御していることが示唆された。


P-19
核酸結合タンパク質EWSによるグアニン四重鎖構造認識機構の解析
1高濱謙太朗, 2黒川理樹, 3大吉崇文
1静岡大・院理・化学, 2埼玉医大・ゲノム医セ・遺伝子構造機能, 3静岡大・理・化学

本研究では、ガン化に関係している核酸結合タンパク質EWSによるグアニン四重鎖認識機構の解明を目的としている。これまでにEWSのC末端側核酸結合領域がガン遺伝子の転写因子のDNA結合領域に置換されたタンパク質がガン細胞内で見出されたことから、EWSの核酸結合領域は生物学的に重要だと考えられる。しかし、EWS本来の核酸結合性については未だ不明な点が多く、細胞内における機能も完全に解明されていない。
 最近我々はEWS核酸結合領域内のアルギニン・グリシン・グリシン(RGG)領域がグアニン四重鎖を認識してヒトテロメアDNAに結合することを報告した。更に、RGG領域はグアニン四重鎖構造を特異的に認識している事や、RGG領域が結合することによってグアニン四重鎖が安定化される事も示した。そこで今回我々はゲルシフトアッセイ及び円偏光二色性測定により、RGG領域によるグアニン四重鎖認識機構を詳細に解析した。


P-20
細胞内における核酸結合タンパク質EWSの機能解析
*1渡辺裕美、2茶山和敏、#3大吉崇文
1静岡大・院理・化学、2静岡大・農・応用生物化学、3静岡大・理・化学

本研究では、テロメアRNAの転写に関わるEWSの機能の解析を目的としている。転写因子EWSは核酸結合領域が欠損し、異なる転写因子の核酸結合領域が融合した変異タンパク質としてガン細胞内で見出された為、EWSの機能は生物学的に重要と思われるが未だ不明な点が多い。最近我々は、試験管内でEWSの核酸結合領域中のアルギニン−グリシン−グリシン配列に富んだ領域がグアニン四重鎖構造に結合することを見出している。グアニン四重鎖構造は生体内でテロメア領域に存在していると考えられることから、その生物学的意義が注目されている。特にテロメア領域内にはグアニン四重鎖構造を形成しうるテロメアRNAが含まれており、RNAポリメラーゼク宕「砲茲蠹昭未気譴襪海箸?廼疂鷙陲気譴燭??昭無々修砲弔い堂鯡世気譴討い覆ぁ?修海撚罅垢蓮?NAポリメラーゼク宕「鳩觜腓靴禿昭未魍萓Q修垢訶WSがテロメアRNAの転写に関わっているかを調べた。


P-21
分裂酵母の減数分裂特異的なAPC活性化因子Fzr1の機能解析
*日原大輔、#山本歩
静岡大・院理・化学

体細胞分裂とは異なり減数分裂では二回の染色体分配が起こる。染色体分配はAPCによって制御され、その活性はAPC活性化因子によって制御されている。我々は分裂酵母の減数分裂において、体細胞分裂時に働くSlp1とSte9に加え、Ste9とアミノ酸配列が類似しているFzr1がAPCを制御することを見出しているが(Yamamoto et al, 2008)、その機能はよく分かっていない。本研究ではFzr1の機能を解明するためにSte9との機能互換性、および基質認識機構の差異を解析した。その結果、Ste9はFzr1の機能を代替できるが、Fzr1はSte9を代替できないことが分かり、基質認識機構も全く同じではないことが分かった。これらのことから、Fzr1は減数分裂特異的なAPC制御を担っていることが考えられる。


P-22
グアニン四重鎖に結合するペプチドの解析
*1田出朋也, 2高濱謙太朗, 3杉本知恵莉, 4道羅英夫, #5大吉崇文
1静岡大・院理・化学, 2静岡大・遺伝子実験施設, 3静岡大・理・化学

 グアニン豊富な核酸配列d(GGGTTA)nは生理学的なイオン条件下でグアニン四重鎖構造という高次構造を形成する。私たちはこれまでに、核酸結合タンパク質EWS (Ewing's sarcoma)やTLS (Translocated in liposarcoma) の核酸結合領域のRGG(Arginine-Glycine-Glycine)配列に富んだRGG領域がグアニン四重鎖を形成するd{AGGG(TTAGGG)3}に特異的に結合し、安定化することを見出してきた。本研究ではグアニン四重鎖DNAに結合できるEWSやTLSのRGG領域の最小領域を報告する。
 EWS, TLSのRGG領域の両末端から一部を欠損させたペプチドを複数設計した。このペプチド存在下でグアニン四重鎖を形成するd{AGGG(TTAGGG)3}を含む一本鎖テンプレートDNAをDNA Polymeraseが伸長できるかどうか調べることで安定性を判断できるDNA Polymerase stop assayを用いて解析した。


P-23
マウス自己免疫病発症に対するブラジル産プロポリスの効果
*1小松紘大,2熊澤茂則,2幡野愛,#1茶山和敏
1静岡大・農・応用生物化学,2静岡県立大・院・生活健康

プロポリスはミツバチが樹木の新芽、蕾、樹皮などから採取した樹液や植物色素系物質などにミツバチ自身の分泌物を混ぜて出来た巣材で、抗酸化作用、抗炎症作用などを有することが知られている。そこで、本研究では、自己免疫病発症に対するブラジル産プロポリスの経口投与の影響を調べた。ブラジル産プロポリスのエタノール抽出物を1%及び2%混合した飼料を、オスのMRL-lprcg/lprcgマウスに生後4週齢から12週間経口投与し、投与終了後、各種臓器重量の測定及び腎臓の病理組織検査を行った。その結果、プロポリス投与群のリンパ節肥大が有意に抑制されると共に、糸球体腎炎の顕著な改善が観察された。また、血清学的検査では、2%プロポリス投与群の抗DNA抗体、免疫複合体、尿素窒素、TNF-α、IFN-γ、IL-10量に有意な減少が見られた。以上の結果から、ブラジル産プロポリスの経口投与によって、自己免疫病の発症が抑制されることが明らかになった。


P-24
生息環境が隣接した地域におけるカラス2種の行動生態学的比較
*1秋田さおり,♯2竹内浩昭
静岡大・院理・生物

一般的に日本で見られるカラスの種類は、ハシブトガラスとハシボソガラスの2種類であり、様々な場所で見ることができる。静岡市内は農耕地と山林、海辺が隣接しており、異なった環境条件下での調査が可能であることから、それぞれの地域における2種の営巣状況や繁殖状況などを比較した。結果、沿岸部は、両種とも営巣場所として選択していたが、山林はハシブトガラス、農耕地などのひらけた場所はハシボソガラスの占有地域であった。また、ハシブトガラスは樹木が連続した隠蔽度の高い場所や、人の接近が少ない場所を営巣場所として選択し、ハシボソガラスは、人の影響はあまり問題にしておらず、民家の近くでも営巣していた。さらに、樹木が連続した場所だけでなく、一本木にも営巣していた。これは、営巣環境に対する2種間の選択性が異なっていることを示唆している。


P-25
複数データベースを用いたmiRNAターゲットに関する網羅的解析
*太田慈人,#大椙弘順
静岡理工科大・総合情報

 miRNAの役割の傾向を知る目的で、複数のデータベースを利用して、miRNAの予想ターゲットタンパク質に関する網羅的解析を行った。特に、ヒトのmiRNAについてその予想ターゲットタンパク質が有するドメイン傾向を知るために、EBIのMicro Cosm Targetsに2009年12月時点で登録のある、ヒトmiRNA 851種、そのターゲットタンパク質 34788種を基にし、それらのInterProIDの網羅的調査・解析を行った。また、それらドメインの情報を元に、ターゲットタンパク質の機能傾向を調べるために、GOカテゴリーデータベースを用いた解析を行った。このような解析から、制御系のタンパク質がmiRNAによるさらなる制御を受けているという図式が強く予想される傾向が見られた。また、ヒトの発癌遺伝子とmiRNAターゲットの関係についても網羅的に解析を行った。


P-26
ショウジョウバエのβ3-オクトパミン受容体遺伝子は変態期における形態形成に必須である.
*1大原裕也,2萱嶋泰成,3林良樹,3小林悟,#2小林公子
1静県大・大学院・生活健康科学,2静県大・食品栄養科学,3基生研・岡崎統合バイオ

無脊椎動物におけるオクトパミンは,脊椎動物のアドレナリン・ノルアドレナリンと相同な興奮性の伝達物質であることは知られているが,オクトパミンの受容体とされる β-オクトパミン受容体(β1,2,および3)の生体での役割は不明な点が多い.
ショウジョウバエを用い,β3-オクトパミン受容体遺伝子の発現解析を行ったところ,変態期において発現量が増加することがわかった.また,遺伝子の発現組織を調べたところ,β3-オクトパミン受容体遺伝子は,成虫原基,唾腺などの変態に関わる組織において高発現していることがわかった.また,RNAiによりβ3-オクトパミン受容体遺伝子の発現を低下させると,変態期における形態形成が正常に行われず,E74,E75などの変態に関わる転写因子の遺伝子発現が低下することがわかった.これらのことから,β3-オクトパミン受容体遺伝子は,変態期における形態形成に必須であることが示唆された.


P-27
ショウジョウバエを用いたローヤルゼリーの生理活性成分の検出と探索
*1山梨敬子, 2宇野真未, 3森大気, 3石井剛志, 2熊澤茂則, 1小林公子, #1萱嶋泰成
静岡県立大・食品・1人類遺伝学・2食品分析化学・3食品分子工学

 ローヤルゼリー(RJ)は、健康食品として広く利用されているが、その効果について科学的には未解明な部分が多い。そこで、遺伝子の70%がヒトと相同性を持ち、遺伝学的な解析に優れたショウジョウバエを用いてRJが生体にもたらす効果を遺伝子レベルで検証した。餌にRJを含ませることでハエに投与したところ、外形的な変化は見られなかったが、発生促進、産卵促進、寿命延長、TOR経路遺伝子発現量の変動、などの作用を及ぼす事が判明した。また、RJの発生促進作用を指標として生理活性成分のスクリーニングを行ったところ、RJによる発生促進作用は水溶性画分に含まれていることが判明した。この水溶性画分を細分し、それぞれをハエに投与して発生促進活性を持つ分画を調べるとともに、各分画にどのようなタンパク質・ペプチド・多糖類が含まれているか解析を行うことで、RJに含まれる活性成分の同定を実行中である。


P-28
簡易型BMI端末を用いた鉄道模型、ラジコンロボット、エレメカゲームの操作
*酒井亮太,橋本竜一朗,村松孝亮,#奥村哲
静岡理工科大・理工・情報システム

近年、脳波や筋電などの信号をもちいて手足を使わずに車椅子やリモコンを操作する技術が注目されている。本研究では安価で簡便な市販の脳波マウスデバイス(米国OCZ社製)を用いて、脳波や筋電情報などをどのように活用することが有効を検討した。額の3点から導出可能な電気信号としては、前頭部の脳波、筋電位、眼球運動電位があるが、脳波の信号は解析処理に時間がかかった。そこで筋電位と眼球運動電位を用いて、鉄道模型の発車と停止を操作するシステムを作り、システムの応答時間を計測した(酒井)。結果、閉口筋を用いた噛みしめ運動によって生じる筋電情報を用いた応答時間は平均579 msであり、眼球運動による応答時間は800 msであった。また筋電信号を自在に操作するのには訓練が必要なことがわかった。その訓練を楽しくできるように、筋電情報で操作するラジコンロボット(橋本)とエレメカゲーム(村松)を開発したので報告する。


P-29
小鳥の歌文法解析と歌神経核の細胞外モノアミンレベルの連続測定
*1遠藤高史,2岡ノ谷一夫,#1奥村哲
1静岡理工科大・理工・情報システム,2理研・BSI・生物言語

ジュウシマツという小鳥のオスは文法構造をもつ歌をメスに囀る。歌を生成する歌神経核のうち主に文法学習に関わるとされるAreaXと感覚運動中枢への聴覚フィードバックに関わるNIfにマイクロダイアリシスプローベを留置し、各神経核の細胞外モノアミンレベルの変化を自由行動下で15分毎に連続測定した。またプローベ内をムシモール(GABAアゴニスト)とカルバコール(Achアゴニスト)で灌流し、両核を薬理学的に刺激した。歌文法は解析ソフトEUREKAを用いてN-Gram解析しオートマトンを描画した。NIf核のムシモール刺激によりNE,DAおよびその代謝物の上昇、歌の終端部配列(チャンク)の欠落と途中の歌要素(音素)の繰り返し数の増加などが認められた。またNIfのカルバコール刺激ではDAおよびその代謝物濃度の上昇と、文法上、途中分岐構造の減少、終端部を形成するチャンクの繰り返し数の増加などが認められた。


P-30
TORはCdc42を介して出芽を制御する
*1杉野史朗,1水口万裕美,1田澤理沙,2大吉崇文,2山本歩,2瓜谷眞裕,#1丑丸敬史
1静岡大・理・生物科学,2静岡大・理・化学

出芽酵母の出芽はRhoファミリーGTP結合タンパク質であるCdc42によるセプチンの形成で開始する。Cdc42はGAP(Cdc24)とGEF(Bem2/3, Rga1/2)により制御される。プロテインキナーゼTORは栄養源に応答して細胞成長や増殖を制御する。栄養源飢餓でTORが不活性化すると、S期細胞の出芽が阻害されることを我々は見出した。本研究は、TORがCdc42を介して出芽を制御することを報告する。TORを不活性化させると、セプチンリングの形成とともに出芽が著しく抑制された。それに伴って、Cdc42-GEF, -GAPを含むCdc42の制御因子のほとんどが減少した。Bem3とRga1はTOR不活性化で分解が促進された。CDC42の過剰発現はTOR不活性化による出芽抑制を解除した。以上の結果は、TORがCdc42の機能を介して出芽を制御していることを示している。


P-31
分裂酵母tor2ラパマイシン感受性株の解析
*1伊藤健悟, 1一杉篤, 1石川優, 1磯村寿郎, 2丑丸敬史, 3登田隆, #1瓜谷眞裕
1静岡大・理・化学, 2静岡大・理・生物, 3Cancer Research UK

TORは進化的に保存されたプロテインキナーゼで、複合体TORC1とTORC2をとる。ラパマイシンでTORC1が阻害されると、細胞は増殖をG1期で停止する。分裂酵母はラパマイシン添加での増殖阻害を示さないが、TORの遺伝子は2つ(tor1+とtor2+)存在する。そのうちTor2はTORC1として機能すると考えられている。
 我々はラパマイシン感受性tor2+変異株を取得、解析してきた。この変異株はラパマイシン添加後に増殖をG1期で停止し、窒素源飢餓特異的な現象や遺伝子発現を示した。以上の結果は、この株がラパマイシン添加で窒素源飢餓応答と似た挙動をすることを示す。そこでTor2の機能とシグナル経路を知る目的で、この株を用いて、ラパマイシン感受性を抑圧するマルチコピーサプレッサー遺伝子の取得を試みた。いくつか候補が得られているが、現在、アミノ酸トランスポーターと転写因子について詳しく調べている。今後、Tor2の窒素源飢餓応答への機能とこれらタンパク質との関連についてさらに検討を行う。


P-32
tor2ラパマイシン感受性株のマルチコピーサプレッサーの取得と解析
*溝口 怜, #瓜谷眞裕
静岡大・理・化学

TOR (Target of rapamycin)とは免疫抑制剤ラパマイシンの標的タンパク質である。TORは生物の生育に必須な栄養素である窒素源を感知して成長・増殖を制御しており、ヒトなどの多くの生物に存在し、老化・癌化・肥満にも関与することが知られている。
 分裂酵母はTOR研究に優れたモデル生物で、Tor1とTor2の2つのTORを持つ。なかでもTor2は生育に必須で、窒素源を感知して成長・増殖を制御している。しかし、Tor2の経路は未解明なため、Tor2の下流タンパク質を明らかにすることを目指す。本研究では、tor2に変異を入れたtor2ラパマイシン感受性株(tor2rs)を用いている。tor2rsは、ラパマイシン存在下においてTor2の機能が低下するため、窒素源があるにも関わらず窒素源飢餓応答に似た挙動を示す。このときのtor2rsにゲノムDNAライブラリーを導入し、ラパマイシンの感受性を抑圧するマルチコピーサプレッサー遺伝子を取得し、解析する。
 現在、ラパマイシン存在下でも増殖できるものを84コロニー取得し、解析を行っている。


P-33
CAM法による血管新生抑制活性に関する研究
*1岡村直樹、1太田敏郎、2宇都義浩、2中田栄司、2堀均、1熊澤茂則
1静岡県立大・院生活健・食品分析化学、2徳島大・院ソシオテクノサイエンス

【目的】血管新生とは、既存の血管から新たに血管網が形成される現象であり、様々な疾病に関与していることが明らかとなっている。本研究では安価で、操作が簡便であり、短期間で結果の得られるin vivo試験として鶏胚漿尿膜 (Chorioallantoic Membrane : CAM)法を、フラボノイド類を用いて確立し、血管新生抑制活性を評価した。【方法・結果】CAM法とは、有精鶏卵のCAM上に試料を添加し、血管新生抑制活性を評価する方法である。具体的には、試料添加後3日目における血管新生抑制を観察し、活性の強さを目視により5段階で評価した。その評価を基に、血管新生抑制率を算出することで定量化を行った。CAM法による評価では、各試料いずれにおいても、濃度依存的な血管新生抑制活性が観察された。よって、CAM法がin vitro試験およびマウスを用いたin vivo試験の代替法として、有用であることが示唆された。


P-34
ニワトリ胚前腸門領域におけるカドヘリン接着分子の発現解析
*1櫻井みなみ,2塩尻信義,#2小池亨
1静大・院理・生物,2静大・理・生物

 細胞接着分子は、その発現を変化させ細胞の動態制御を行う。特にCa2+依存性の細胞接着分子であるカドヘリンは動物胚発生中の形態形成過程において重要な役割を担う。しかしながらニワトリ胚肝臓発生過程におけるそれらの発現はほとんど明らかにされていない。そこで私たちはニワトリ胚初期肝臓発生過程におけるE-、N-カドヘリンの発現パターンに着目し、免疫染色でその発現を解析した。その結果、E-カドヘリンは肝芽細胞で恒常的に強く発現していた。またN-カドヘリンは腹側内胚葉の前腸門が閉じる部位、及び肝外胆道系で強く発現していたが、肝芽細胞では弱い発現しか観察されなかった。さらに、ニワトリ胚腹側前腸の一部でN-カドヘリンが特に強く発現している部位が存在した。現在、漿尿膜移植培養を用いた前腸腹側領域におけるN-カドヘリン強陽性部位の細胞系譜解析を行っており、その結果も合わせて報告する。


P-35
減数分裂における新規な染色体分配異常変異株の取得と解析
*松原央達,#山本歩
静岡大・院理・化学

減数分裂は配偶子形成過程で見られる特殊な細胞分裂であり、第一分裂において相同染色体の分配が起こる。相同染色体の分配機構はまだ解明されておらず、この機構を理解するためには関与する因子の変異株を探索し解析する必要がある。分裂酵母は減数分裂を行うことで胞子を形成するが、分配に異常が生じると胞子生存率が低下すると考えられる。そこで胞子生存率を指標とし、スクリーニングを行った。変異を導入した12000株から胞子生存率の低下した500株を単離し、この500株の染色体を観察して、減数分裂での染色体の形状あるいは分配異常を示す59株の変異株を選抜した。59株の変異株から胞子生存率の特に低下している22株を減数分裂における染色体分配異常株として取得した。この22株には、フィラメント状の染色体が観察される核の変形や核の断片化など、これまでに報告例のない表現型を示す株も含まれており、未知の因子に変異が存在している可能性を示唆している。


P-36
環境ホルモン暴露による衝動性・刺激馴化・短期記憶への影響
*1高橋啓輔,2陰山亜矢,2横越英彦,3村山美穂,3阿部秀明,#1竹内浩昭
1静岡大・院理・生物,2京大・野生動物研C,3静岡県立大・院生活健康科学・食品栄養科学

胎児や幼児は環境ホルモン(EDCs)暴露による脳神経系への影響を受けやすく、注意欠陥多動性障害(ADHD)などの脳機能障害とEDCsの関連性が示唆されている。特にビスフェノールA(BPA)は一部の哺乳瓶や食器類等の原料であり、食物を通じて体内に入り汚染されることが危惧されている。本研究ではこのBPAに焦点を当て、脳発達障害と関連の高いモノアミン神経伝達物質の解析と、衝動性・刺激馴化・短期記憶などの行動測定を行い、脳神経系・行動への影響について検証した。また、ADHDと関連の深い遺伝子多型が発見され、この遺伝子多型を調べることで遺伝子と性格・行動の関連性を推察した。その結果、BPA 5ppb群と50ppb群で刺激馴化力・短期記憶力はより低下した。また衝動性の実験でも、低濃度BPA、特に5ppb群で高衝動性の個体が多く見られた。また500ppb群ではモノアミン濃度に最も影響を受けた。このように濃度によってモノアミンや行動に受ける影響が異なる結果となった。


P-37
核酸結合タンパク質TLSによる翻訳制御機構の解明
*1内山裕美子, 2高田麻美, 3高濱謙太朗, #4大吉崇文
1静岡大・院理・化, 2静岡大・理・化, 3静岡大・院理・化, 4静岡大・理・化

これまでに、当研究室では、核酸結合タンパク質EWS (Ewing’s sarcoma) の核酸結合領域中にあるArg-Gly-Glyを多く含む領域 (RGG領域) がmRNA中のグアニン四重鎖RNAに結合することで翻訳を抑制することを報告した。そこで、本研究では、EWSと同じファミリーのタンパク質で、RGG領域をもつTLS (Translocated in liposacroma)の核酸結合領域による翻訳制御機構を、翻訳領域中にグアニン四重鎖構造を形成する配列を有するmRNAを用いて、in vitro translation によって解析した。その結果、TLSの核酸結合領域存在下で、mRNAからの翻訳量が減少した。また、グアニン四重鎖構造を不安定化する変異を加えた配列を有するmRNAからの翻訳は、TLS存在下であっても、阻害されなかった。このことから、TLSの核酸結合領域はグアニン四重鎖構造に結合し、構造を安定化することでmRNAからの翻訳を阻害していることが考えられる。


P-38
テロメア領域における核酸結合タンパク質TLSの機能解明
*1多田将太, 2茶山和敏, #3大吉崇文
静岡大・理・化学, 2静岡大・農・応用生物化学, 3静岡大・理・化学

本研究では、核酸結合タンパク質TLS (Translocated in liposarcoma) のテロメアRNAの転写に関する機能を解析する。近年テロメア領域でテロメアRNAがRNAポリメラーゼUによって転写されていることが報告されており、テロメアRNAはヒストンのメチル化による転写抑制やテロメラーゼ中のRNAと二本鎖を形成することによってテロメア伸長を阻害し細胞の老化やガン化に関わっていると予想されている。近年網羅的解析によりテロメア領域内にTLSが存在していることが報告された。TLSの機能として細胞周期に関わる因子のプロモーター領域でヒストンアセチル化酵素の抑制に関与していることから、テロメアにおいてもテロメアRNAの転写制御に関わっているのではないかと考えられる。そこで我々はTLSがテロメアRNAの転写制御に関与しているかをHeLa細胞を用いて解析した。


P-39
核酸結合タンパク質TLSの核酸結合性の解析
*1高田麻美, 2高濱謙太朗, #3大吉崇文
1静岡大・理・化学, 2静岡大・院理・構造化学, 3静岡大・理・化学

本研究では核酸結合タンパク質TLS (Translocated in liposarcoma) のテロメアへの結合性を解析した。これまでにHeLa細胞のテロメア複合体内にTLSが含まれている事が報告された。このことからTLSはテロメア維持に関わる働きをしていると予想されるが、TLSがテロメアDNA及びその他のテロメア結合タンパク質のいずれに結合してテロメアに局在しているのかは明らかにされていない。グアニン豊富な一本鎖のテロメア配列は試験管内においてグアニン四重鎖構造を形成することが示されているため、本研究ではTLSの核酸結合性を二本鎖ヒトテロメアDNAとグアニン四重鎖構造を形成させたヒトテロメアDNAを用いたゲルシフトアッセイによって調べた。その結果TLSはテロメア配列とは異なる一本鎖DNAや二本鎖ヒトテロメアDNAには結合せずヒトテロメアが形成するグアニン四重鎖DNAに結合することが示された。


P-40
TORシグナルはツメガエル胚の前後の位置価を制御する
1森山侑輝, 1丑丸敬史, 2黒田裕樹
1静岡大・院理・生物, 2静岡大・院教育・生物

TOR(Target of Rapamycin)シグナルは、全真核生物が共有するTORキナーゼ分子を働きの中心としたシグナルである。我々は、TORシグナルの中でも研究が遅れている初期発生における役割について、ツメガエル胚を用いて研究に取り組んだ。まず、TORキナーゼやその上流分子として働くRas様蛋白質であるRhebが、初期胚において発現していることを確認した。続けて、Rhebの機能獲得型変異と機能欠失型変異を作成し、そのmRNAを胚に注入した。その結果、変異を加えていないRheb分子や機能獲得型変異を加えたRheb分子が存在する状態では後方構造の欠損が、逆に機能欠失型変異の場合には前方構造の欠損が確認された。同じく、Rhebの翻訳を阻害するモルフォリノオリゴを注入した場合にも、前方構造の欠損が表れた。これらの結果より、TORキナーゼが胚の前後の位置価を決定すると結論づけた。


P-41
BCNEセンターの役割:脳形成と軸形成の両方に関わる
*1松村典子, #1黒田裕樹
1静岡大・院教育・生物

初期発生に関する両生類を用いた近百年以上の歴史の中で、(分子生物学的知見の集積不足のために、)21世紀になるまで発見が遅れたシグナルセンターが胞胚期の背側動物極側に存在するBCNE (Blastula Chordin- and Noggin-Expressing)センターである。我々はツメガエル胚を用いて、この領域の働きを調べることにした。まず、BCNEセンターのマスター遺伝子として働くSiamoisTwinについて、その働きをモルフォリノオリゴで阻害したところ、特に脳構造の誘導が完全に阻害され、頭部構造が欠損することが判明した。また、中胚葉誘導への影響を調べたところ、中軸中胚葉に分化することが判明した。以上の結果より、BCNEセンターが中胚葉誘導の非存在下では脳に、存在下では中軸中胚葉に主に分化すると判断した。


P-42
RGGタンパク質が結合したグアニン四重鎖構造の解析
*1杉本知恵莉, 2高濱謙太郎, 3大吉嵩文
1静岡大・理・化学, 2静岡大・院理・化学, 3静岡大・理・化学

テロメアは通常、細胞分裂する度に短くなり細胞死を迎える。一方、がん細胞では細胞分裂が起こりながらもテロメアは伸張し続け、細胞の不死化を引き起こす。このように生物学的に重要なテロメアはグアニン塩基豊富であり試験管内でグアニン四重鎖を形成しテロメア伸長を阻害する。更に試験管内でグアニン四重鎖に結合し構造を不安定化するタンパク質のhnRNP A1は、テロメアに局在し生体内でテロメア伸長を促進する。近年、アルギニン-グリシン-グリシンアミノ酸配列豊富なRGG領域を有するTLSのHeLa細胞のテロメア局在が明らかになった。更に当研究室ではRGGタンパク質のEWSがグアニン四重鎖構造特異的に結合し、安定化することを報告した。そこでhnRNP A1及び、EWS又はTLS存在下におけるグアニン四重鎖構造解析を目指し、各タンパク質存在下におけるグアニン四重鎖構造をCDスペクトルによって解析した。


P-43
LC-MS/MSを用いたトマト果実プラスチドのショットガンプロテオミクス
*1鈴木美穂、1高橋祥子、2道羅英夫、1切岩祥和、3藤原正幸、3深尾陽一郎、#1本橋令子
1静岡大・農、2静岡大・遺伝子実験施設、3奈良先端大・バイオ・植物ユニット

本研究は急速に技術が発達しているプロテオーム解析とトマトゲノミックリソースを利用することにより、成熟段階の異なる緑、黄、橙、赤のトマト果実を用いてクロモプラストに特異的なタンパク質を多数同定し、クロモプラストのプロテオームデータベース作りを行う。葉緑体からクロモプラストの分化に関与するタンパク質を網羅的に解析し、クロモプラスト分化の鍵遺伝子の候補の特定、分化メカニズムの解析を目的としている。成熟段階の異なるマイクロトム果実(緑、黄、橙、赤)を用いてNycodenz密度勾配遠心分離によりプラスチドを単離し、LC-MS/MSを用いて607のプラスチドタンパク質を推定した。4ステージの成熟段階のうち橙ステージで最も多くのタンパク質を検出し、橙ステージのプラスチドは葉緑体とクロモプラストの両方の機能を持ち、光合成タンパク質とカロテノイドを含む代謝生産に関わるタンパク質が最も活発に発現していると考えられる。検出したタンパク質をトウガラシのクロモプラストプロテオームデータと比較したところ、共通しているタンパク質はわずか12個であり、トマトのクロモプラスト特異的なタンパク質を多数同定することができた。GOをもとに本研究で検出したクロモプラストタンパク質の40%が代謝プロセスに関わっていることが分かり、クロモプラストは様々な代謝産物の生産と蓄積を行っていると考えられる。


P-44
ヒトMad2高結合型ペプチドの創製と機能解析
*杉本佳乃子,神谷拓摩,河原崎泰昌
静岡県立大・生活研・食品栄養

【背景と目的】Mad2はG2/M期スピンドルチェックポイント蛋白質であり、Mad1との相互作用は重要な役割を担う。我々はMad1-Mad2間の相互作用を阻害するペプチド断片が医療やプロテオミクスに寄与すると考え、Mad2高結合型Mad1変異体配列の取得を試みた。
【方法と結果】Mad1のMad2結合サイトをランダム化し、分泌性β-ガラクトシダーゼを指標とする酵母2ハイブリッド系を用いて野生型Mad1配列よりも高いレポーター活性を与える配列をスクリーニングした。さらに配列を最適化したところ、野生型配列の20倍以上のレポーター活性を与えるクローンを得た。現在、取得した最適化配列とGFPの融合蛋白質の発現系を構築し、精製を行っている。今後、Mad2と高結合型変異体の動力学的解析を行う予定である。


P-45
分裂酵母tor1温度感受性変異株の取得と解析
*1盛山啓史、1石川優、1南千明、2丑丸敬史、#1瓜谷眞裕
1静岡大・理・化学, 2静岡大・理・生物

TORは進化的に保存されたプロテインキナーゼである。分裂酵母にはTORの遺伝子は2つ(tor1+tor2+)存在する。tor1破壊株は普通の条件では正常に生育するが、ストレス環境下で生育できないうえ、窒素源飢餓応答もできない。以上から、Tor1はストレス下での生育や窒素源飢餓応答に働くことが示唆される。しかし、ストレス時にその機能が要求されるのか、または、それ以前の段階にTor1が必要であるのかは不明であった。
 今回、tor1温度感受性株を作成した。この株は通常、25℃でも34℃でも正常に生育できるが、ストレス環境下では、25℃では生育でき、34℃では生育できなくなる。この株で窒素源飢餓応答を調べた。34℃で培養した細胞を25℃で窒素源飢餓に置くと正常に応答したが、25℃で培養した細胞を34℃で窒素源飢餓に置くと正常な応答ができなかった。このことから、Tor1は窒素源飢餓応答そのものに働くことが示唆された。さらに、この株のマルチコピーサプレッサー遺伝子の探索を行った。


P-46
シロイヌナズナのタグラインを用いたD)A/R)A 結合モチーフを持つ新規葉緑体タンパク質の解析
*1 原美由紀, 1 松浦匡輔, 1 後藤実薫子, 2 明賀史純, 3 庄野百合子, 3 永田典
子, 2 篠崎一雄, 1 本橋令子
1 静岡大・院農・共生バイオ, 2 理化学研究所PSC, 3 日本女子大・院理

核コードの新規葉緑体タンパク質の機能を明らかにするため、シロイヌナズナのタグラインから単離された色素異常変異体のうち、原因遺伝子が葉緑体タンパク質をコードし、DNA またはRNA 結合モチーフを持つapg9・14・15(albino or palegreen mutant 9, 14, 15の解析を進めている。APG9・APG14 はプラスチド転写活性染色体タンパク質(pTAC)と報告されており、プラスチドの遺伝子発現に関与している可能性が示唆されている。APG9 は核酸結合ドメインであるSAP(afterSAF-A/B, Acinus and PIAS)ドメインを持ち、APG14 はRNA 結合ドメインであるS1(Ribosomal protein S1)を持っている。またオルガネラ遺伝子の転写後調節に関与すると報告されている、PPR(Pentaticopeptide repeat)タンパク質ファミリーに保存されたPPR モチーフをAPG9・APG15 は有している。上記のようなタンパク質の配列情報より、これらのタンパク質が葉緑体遺伝子の転写調節に関与していると考えられたことから、多くの葉緑体遺伝子の転写産物についてRNA ブロット解析を行った。


P-47
シロイヌナズナのタグラインを用いたR)A 結合モチーフを持つ葉緑体タンパク質の機能解析
*1 後藤実薫子、1 原美由紀、1 松浦匡輔、2 明賀史純、3 庄野由里子、3 永田典子、
2 篠崎一雄、#1 本橋令子
1 静岡大・農、2 理化学研究所PSC、3 日本女子大学・院・理

葉緑体を構成・機能に要求されるタンパク質の多くは核にコードされており、この核ゲノムコードのタンパク質による転写後調節によって葉緑体遺伝子が機能を持つRNA 分子に成熟する。核コードの新規葉緑体タンパク質の機能を明らかにするため、我々はシロイヌナズナのタグラインから単離された色素異常変異体のうち、原因遺伝子がRNA 結合モチーフを持つ葉緑体タンパク質をコードするapg14,15(albino or pale green mutant14,15)の解析を進めている。本研究では、APG14、15 タンパク質がRNA 結合モチーフを持つため、ノースウェスタン法、共免疫沈降解析によりターゲットとなるRNA 配列を同定し、機能を明らかにすることを目的としている。APG14、15 遺伝子をGST (Glutathione S-transferase)タグのついたベクターに挿入したコンストラクトを作成し、タンパク質発現実験を行った。


P-48
シロイヌナズナのタグラインを用いたリボソーム結合因子RBFA のホモログAPG4とその関連タンパク質の機能解析
*1 一瀬瑞穂, 1 加藤智子, 1 岡田恵里, 2,3 黒田浩文, 3 松井南, 3 篠崎一雄, #1 本橋令子
1 静岡大・農・共生バイオサイエンス, 2 Inplanta Innovation Inc., 3 理研PSC

葉緑体の機能や形成に関与するタンパク質の多くは核にコードされている。新規核コード葉緑体タンパク質の機能を解明するため、我々はシロイヌナズナのトラン スポゾンタグラインから単離されたアルビノ変異体apg4 (albino orpale-green 4)を用いて解析を行っている。APG4 遺伝子はリボソーム結合因子RBFA のホモログタン パク質をコードしており、apg4 変異体は子葉がアルビノ、本葉が黄色と緑色の斑入りの表現型を示す。我々は RNA ブロット解析からAPG4 が23S rRNA と4.5S rRNA の間のプロセシング、16S rRNA 転写産物の蓄積に関与することを明らかにした。また、大腸菌において30S リボソームの成熟に関与するRimM (21-kDa protein formerly called 21K)とEra (E. coliRas-like)がRBFA を類似の機能を担い、互いに機能を相補することが報告されている。apg4 変異体の表現型が成長するに連れ回復することから、我々はシロイヌナズナにおいてもRimM とEra のホモログタンパク質がAPG4 と類似の機能を担い、機能を相補しているのではないかと予測し、関係性を調べたので報告する。


P-49
草刈り強度を弱めると水田畦畔植生の多様性は高まるか?‐伝統的棚田と大規模水田の比較‐
*1 丹野夕輝, 1 市原実, 1 山下雅幸, 1 澤田均, 2 稲垣栄洋
1 静岡大・農, 2 静岡農林研

水田畦畔は草原性草本種の重要な生育地の一つであり、畦畔植生の多様性を保全する必要がある。草刈り強度の違いは畦畔植生の多様性に大きく影響すると予想されるが、十分に解明されていない。本研究では静岡県内の伝統的棚田および大規模水田の畦畔にて草刈り強度の操作実験を行い、植生への影響を調査した。棚田では草刈り高0cm 区、10cm 区および無刈取り区を設置し、大規模水田では草刈り高0cm 区および10cm 区を設置した。コドラート法により出現草種の被度および草高を測定した。棚田畦畔のコドラート(100cm×50cm)あたり平均種数は、無刈取り区(16.1 種)> 10cm 区(15.3 種)>0cm 区(13.8 種)であった(p<0.05)。一方、大規模水田では0cm区(14.0種)と10cm区(12.3種)の間に有意差がなかった(p>0.05)。本研究より圃場の履歴や環境条件によって、水田畦畔植生の多様性と草刈り強度の関係が異なることが示唆された。


P-50
植物のトゲの役割 〜植物−植食性昆虫−天敵昆虫の三者系における最適な毛茸の形態〜
*1 勝山祐子, 2 杉山恵太郎, 1 西東力, #1 田上陽介
1 静岡大・農・共生バイオサイエンス, 2 静岡防除所

植物葉の表面にあるトゲを毛茸という。毛茸は水分量の調節、日光の反射のほかに、植食者を防ぐ働きも重要である。しかし、群集の中では植物にとって植食者の天敵も重要な存在である。したがって、植物にとって最適な戦略は、植食者は防いで、味方である天敵には影響がない毛茸を持つことにある。本研究では、インゲン−ハモグリバエ−ハモグリバエ寄生蜂の三者系を用い、毛茸が三者系の中で機能的に働いているのかを検証した。その結果、ハモグリバエは多くの個体がインゲン葉に付着し死亡していたが、寄生蜂ではほとんど見られなかった。また電子顕微鏡観察により、ハモグリバエより体サイズの小さい寄生蜂には毛茸の影響がないことが明らかとなった。したがって、インゲンの毛茸は、植食性昆虫のみを捕らえる最適なサイズ・形状になっていると考えられる。


P-51
静岡県安倍川流域における外来植物ネズミムギ集団のエンドファイト感染率および垂直伝播効率
*1 戸村和貴,1 丸山啓輔,1 山下雅幸,1 澤田 均
1 静岡大・農

ネズミムギは牧草、緑化資材として導入・利用される反面、しばしば野生化、一部は雑草化している。静岡県安倍川流域でも堤防を主体に中下流域に広く分布している。ネズミムギにはNeotyphodium エンドファイト (以下、エンドファイト) と呼ばれる内生菌の感染が確認されており、耐乾性、耐虫性などに寄与、競争力を高める可能性がある。エンドファイトは感染個体からの種子による垂直伝播でのみ維持・拡大することが知られているが、効率は不完全で、水分条件、特に冠水条件にて感染個体から非感染種子が発生することが報告されはじめた(Gundel2008)。本試験では、安倍川の中流~下流域にかけ、冠水頻度の異なる立地条件でネズミムギを採取、集団あたりの感染率および垂直伝播効率を調査した。


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コムギ畑に生息する種子食昆虫はエンドファイトに感染した外来雑草ネズミムギの種子を忌避する
*1 丸山啓輔,1 戸村和貴,1 市原 実,1 山下雅幸,1 澤田 均
1 静岡大・農

本州以南のコムギ畑ではネズミムギの雑草化が問題となっており,その防除手段の一つとして、コオロギ類、ゴミムシ類など地走性昆虫類による散布後種子捕食が注目されている。一方、ネズミムギにはエンドファイトと呼ばれる微生物が共生し、宿主に様々なストレス耐性を付与することが知られている。そこでネズミムギのエンドファイト感染が,種子食性昆虫の種子捕食に及ぼす影響を調査した。実験の結果、種子食性昆虫はいずれもエンドファイト感染種子を忌避しエンドファイト非感染種子を多く採食する傾向が認められた。よってネズミムギのエンドファイト感染は,種子食昆虫による捕食リスクを低下させることが示唆された。