勉強会;lab seminar

 ゼミ活動の一環として論文抄読会を開催しています。 これまでの担当者と紹介論文こちらです。
研究を進めるうえで論文を読むことは必須なのですが、初心者にとっては戸惑うことも多いと思います。

文献検索や論文の読み方などの関連するいくつかを下に記しました。参考ください。
- index -
A. 論文を読むことの意義
B. 抄読発表について
 発表者の心得
 抄読発表用プリントの作り方
C. 論文(バイオメディカル系)の読み方について
 読む手順
 原著論文の構成
 論文等の種類
D. 文献検索について
 日本語による情報の収集・整理
 PubMed検索(英語)



A. 論文を読むことの意義

    研究課題に関する背景の理解 → 課題の先鋭化
    <着眼の例>
  1. 課題:既知→未知の明確、分野・研究者の興味など
  2. 実験系:材料、設定、構築、条件など
  3. 検出系:定番、最新、目的別など   etc.

  4. その他にも諸々ありますが、簡単にいうと研究や論文の"お手本"になり得るということです。
  5. 医学論文・形式の理解
  6. 科学(当該領域)における文章表現(形式)の理解
  7. 科学(当該領域)における図表表現(形式)の理解
  8. 研究方法デザイン設定における着眼(詳細・具体的にも俯瞰的にも)
  9. 医学論文を読み理解する技術の実践
  10. 専門用語(英語)の理解
  11. プレゼンテーションの実践(抄読発表)
  12. 重要論文の選択よる論文に関する目利き力の向上   etc.

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B. 抄読発表について

     研究チームにおける抄読会の開催は一般的です。構成員の人数に応じて、1回の発表人数を決め、当番制で定期的に開催している場合が多いです。 30分/論文(発表者)が目安です。
    <目的>
  1. 課題に関連する最新・重要な情報のチーム内共有
  2. チーム全体への新たな着眼の導入
  3. *近隣分野あるいは全く別分野の論文が選択される場合もあります。
     
  4. 個々人およびチームの生産性の向上
  5. *発表や質疑応答などのコミュニケーションも重要です。           etc.

    【発表者の心得】 *少なくとも次点について留意すべきです。
  6. 発表論文の選択:
  7. 非常に重要です。最初は先輩や指導者に相談しながら決めますが、自身で決定できるように目利き力をつけるように努めます。
     
  8. 論文内容の理解:
  9. 中身の実質的な理解が必要です。単なる英文解釈ではありません。
     
  10. 簡潔・明瞭なプレゼンテーション:
    1. 配布プリントを準備して、適宜、パワーポイントやプロジェクターも活用する。
    2. 原則、主張、結論的内容が先、詳細な内容は後に説明する。
    3. 英語を訳すが如く、あるいは手元原稿の読み上げは厳禁です。
    4. 実質的内容について聴衆に解りやすい表現で時間内に説明をするように努めます。
      例えば「(実験、操作、検出などの)実際の様子が想像できるように」、「どのグラフや写真の、何処の部分が、どんな風なのかが分かるように」ということです。言葉、身振り・手振りなど工夫が必要です。         etc.

    当ラボの抄読発表用プリントの作り方】
  11. A3サイズで1枚(A4×2頁の1面印刷でよい)
    1. 判読できる程度にフォント・サイズや図表の縮小・拡大を調節する。
    2. 詰め過ぎない。短辺(横向きの左端)の綴じしろ、聴衆のメモ・スペースなどに配慮する。
    3. 左上を基点に、見やすく理解しやすいレイアウトに努める。
     
  12. 掲載事項
    1. 発表の日付、担当者氏名
    2. 雑誌名、巻号、頁、発行年
    3. 論文タイトル
    4. 著者(全員)と所属(長い場合は簡略も可)
    5. Abstract
    6. 材料・方法の要点 *必要に応じて適切に表現する。
    7. 図表(番号、タイトル、説明も)
       A3に1枚に収まる限り全部を載せる。納まらない場合は、内容の理解において重要度が低く、支障のないものから省く。適宜、簡潔な記述を補う。
    8.  
    9. 略号・記号など *適宜、適切な位置、形で記載する。
    10.  
    11. 概念図
       背景や当該論文の結果、考察などの理解に役立つ簡単な図があるとよい。発表の最初・最後では威力を発揮する。論文内にない場合は簡単に描く。例えば、手書きの流れ図でもよい。ホワイトボードに描きながら口述をするという高等テクニックもあるが、不慣れや発表時間を考えれば、予め用意しておく方がよい
     
  13. その他のヒント
    1. プリント作成と口述発表のバランス
       口述で適切に表現するのであれば、プリント上では省ける場合もあります。逆に、口述中に聴衆がくり返し確認できる記述や図がプリント上にあった方がよい場合もあります。
    2.  
    3. プリントや口述発表と聴衆のバランス
       分野エキスパートを相手に、簡単な口述で理解が得られることも、専門外や初心者が聴衆であればそうはなりません。
    4.  
    5. プリント原稿の手っ取り早い作成方法 *次の3通りに大別できます。各自がやりやすい方法で作成ください。
      1. 印刷物・紙媒体の切り貼り 印刷が明瞭で、その縮小・拡大が適切であれば、非常に早い。切抜きと、白地A3もしくはA4紙で、直観的なレイアウト編集が可能。適宜、手書きも活用すればよい。
      2.  
      3. 電子ファイル作成 論文の電子ファイル(WEB)から見やすい(解像度が確保できる)コピー&ペーストが可能であれば、縮小・拡大、レイアウトなどの調節がしやすい。またワードパワーポイント活用まで含めて考えれば省力が可能です。
      4.  
      5. ハイブリッド 例えば、PubMedなどを活用すれば、明らかに掲載事項の幾つかは、コピー&ペーストによる電子ファイル作成が早い。それらを印刷した、半白地紙に切り貼りをするのも現実的な選択かもしれません。
       
    6. 電子ファイルからのコピー&ペースト時の文字化けや欠落に注意ください。
      1. ギリシャ文字、単位、記号など特殊文字などで起こりやすいです。
      2. 付随してスペースの欠落や挿入なども起こる場合もあります。
      3. 一部の文字だけフォントが変更されることも起こることがあります。

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C. 論文(バイオメディカル系)の読み方について
     *以下は初心学生を想定した概略です。詳細・具体に応じて適宜の対処が必要です。
     *とくに研究や分野への習熟度により異なります。
     *多数あるWEB版(無料)辞書のうち、ライフサイエンス辞書も助けになると思います。
     *使い方によりGoogleも辞書のように使えます。

     *読み進め理解する全般において、実体や実際の操作などを想定することは非常に重要です。この点は表記言語に関わりません。字面で和訳したとしても「実際の様子が想像できていない」のであれば理解不能なはずです。標的、対象、実験操作、計測、検出 etc。

    【読む手順】 原著論文を念頭に以下を記します。 研究論文には他の形式が複数あります(下記参照)。
     
     *適宜、下記の原著論文の構成を参照下さい。

    1. 先ずはTitleAbstractを読み研究・実験の概要を掴んでください。
    2.  
       *次の2と3はどちらが先でもよいです。
       
    3. 次に、その理解した概要の根拠となる主要な結果を、Figurestablesそれに対応するResultsの記述で確認してください。 図表(その説明も含む)を見れば結果の概略が分かるように配慮されていることが多いです。
       
       ここで概略的な理解に加えて、観測・検出の方法と対象も確認ください
      例えば、「マウス・ヒラメ筋のミオシン遺伝子の発現をリアルタイムPCR法で検出した」といった感じです。
       
      *適宜、Material & Methodsの対応する箇所を確認してください。
      *検出法や分子などの専門的なことも、最近はWEB検索で情報を得ることができます。
       
      この段階で、実験デザインの要点も理解できると思います。対象(ヒト、マウス、ラット、取り出した組織、培養細胞など)、実験群や実験操作など。
    4.  
    5. その上で、Introduction の最終付近、つまりMaterial & Methodsの直前付近で、研究目的、結果、意義のエッセンスが記されている部分、Discussionの最終付近に記述されたConclusion(結論)を順に確認します。  前段階がそれなりに進められていれば、ここは文字通り確認になると思います。
    6.  
    7. 上記2で飛ばしたFigurestablesそれに対応するResultsの記述を読み、それらの要点を理解します。さらに、主要な結果との関係論文(研究)中での意義なども理解します。
       
      *適宜、Material & Methodsの対応する箇所を確認してください。
    8.  
    9. Introduction を頭から通読し理解します。最終段落の研究目的が論理的に理解できるように、関連する既知のことが内容ごとに段落を変えて記されています。仮説が記されていることもあります。
       
      *とくに馴染みのない内容については、WEB検索や書籍などを活用して理解するとよいです。文献検索の項目も参考ください。
    10.  
    11. Discussion を頭から通読し、要点を理解します。最終段落の Conclusion(結論)に向けて、得られた結果の解釈や考察が論理的に展開されています。
    12.  
    13. 実験操作観測検出などの技術や詳細について詰めます。 Figures, tablesMaterial & Methods の対応する箇所を中心に確認することになると思います。
       
      *適宜、引用されている参考文献も確認します。
      *WEB検索や書籍などを活用しましょう。
    14.  
    15. Discussion の詳細について詰めます。
       
      *適宜、引用されている参考文献も確認します。
      理解度、必要に応じて、くり返し読み込んでください
      *ここまでの段階で、概ね内容が理解できているはずです。
    16.  
    17. ここからは論文を批判的に見直します。これより前段階では、記述内容を理解することに主眼が置かれています。一方、今度は「それ、本当だろうか?」という眼差しで読み進めるということです。
       
      とくに実験デザイン、観測数、観測や検出の結果の質、結論の導出、導出可能な範囲の限界、結論の妥当性について中心に全体にわたりです。結果につて別の解釈ができることもよくあります。当該領域における位置づけという視点も重要と考えます。
       
      このようにすることで、過不足なく相応に理解するように努めます。理解の過不足は自身の研究をミスリードするかもしれません。

    【原著論文の一般的な構成】 *雑誌により少し異なる場合があります。
    Title   著者の主張であり、論文内容が連想でき、かつ多くの研究者の興味をそそることを狙うことが多いです。
     
    Author   著者とその所属機関で、とくに責任著者も明示されています。最近は著者・貢献度の明示も増えました。 cf. affiliations, corresponding author, contributions
     
    Abstract   論文内容の要旨です。
     
    Introduction   関連する既知、未知のについて記した上で、目的、研究や結果、意義のエッセンスが記されています。
     
    Material & Methods   実験材料、対象、条件、測定、検出などについて、他者が再現できるくらい詳細に記されています。倫理事項なども記されています。 cf. subject, ingredient, procedure
     
    Results   結果が、内容ごとに小見出しを付けた段落で記述されています。論理展開、読者の理解、読者へのインパクトなどを勘案した順で記されています。実際の実験等の実施順と異なる場合もあります。
     
    Discussion   考察です。結果に関する解釈が、適宜、他者の論文を引用しながら展開されています。最後に段落を変えて、例えば "In Conclusion" の書き出しで、 結論がとくに簡潔に記されています。
     
    Acknowledgment   謝辞です。この研究遂行に貢献したけれど、著者に入らない研究者、機関等への謝辞、研究費支援への謝辞など。
     
    References   参考文献が、番号を付して整然と記されています。順番は、雑誌により異なります。第1著者のアルファベット順、本文中での引用順などがよく見ます。
     

    <論文等の種類>
    原著 original articles   いわゆる研究論文の基本です。 cf. regular papers etc.
     
    短報(速報) brief report   新しい発見などの速報性を重視して、原著形式もしくは簡略化した形式で、少頁数にとくに簡潔に記述されている。 cf. letter article, letters, communications etc.
     
    手紙 letters to the editor   既に掲載された論文に関連したデータや情報、あるいは反論とそれに対する返答などです。いわゆる論文のような形式より率直な記述が多いと思います。
     
    症例報告(事例研究)
     case reports  
    文字通りです。新しい、珍しい症例、治療例などの少数対象に関する記述です。

     
    技術ノート/研究ノート
     methods/research notes  
    実験の技術的要点あるいは新たな発見のうち、速報・重要性が短報ほどでないもの。
     
    総説 Review   2種類に大別されます。 (1) 執筆時点における当該領域の進捗・成果を体系的に概説したもの。著者の考察が記されていることも多いです。その時点の動向やトピックスが手っ取り早く分かります。
     
     (2) 当該の課題に関する多くの論文のデータや結果について、総括的に分析して一定の結論を導き出しているもの。とくに臨床研究で多いです。
     


D. 文献検索について
     *以下、“初めての日本人学生”を想定して記します。
     *研究、分野、あるいは文献検索への習熟度に応じて、適宜の調節と対処をしてください。
     
  1. 先ずは研究課題や分野に関する日本語の情報を簡単に収集・整理しましょう。
    1. 例えば、Google等のWEB検索をベースに信用度の高い情報をもとに、トピックスやキーワードなど整理します。
    2.  
    3. 次に、それらの内容に関して和文書籍で"裏取り"します。
    4.  
    5. 適宜、WEB情報⇔和文書籍のサイクルを繰り返しながら、情報の質を高めかつ体系的に整理します。
    6. *授業やセミナーなどで既習事項があれば、手掛かりになるはずです。
       
      *適宜、同様の手順を英語版に移行すると情報が得やすく、論文検索に役立ちます。
       
      *和文・論文は、最近はGoogle検索でもヒットし、全文が無料・有料で閲覧できる場合もあります。
       
      *和文・論文の検索には次も有用です。
      メディカルオンライン: 医学文献検索サービス: 検索は無料で、全文閲覧は有料
      CiNii Articles - 日本の論文をさがす: 検索は無料で、そのまま全文閲覧可能なものが多い。
      ・有料検索サービスとして医中誌JDreamVもあります。

  2.  
  3. 次に英語で PubMed 検索しましょう。 適切な総説の数編+最近5年くらいの研究論文(総説でない)の情報で、分野の背景や動向がわかることが多いと思います。
     
    1. 整理した情報をもとにキーワードを絞り、適切な英語に変換検索しよう。
    2.  
      英訳はWEB検索やWEB版辞書を活用すれば簡単にできて、数回くり返せば適切な英語にたどりつけると思います。 PubMedの詳細な使い方も、日本語WEB検索で情報が得られます。多くの方が解説してくれています。
       
      ⇒ “PubMed使用方法のマニュアル本の例”
      図解PubMedの使い方―インターネットで医学文献を探す 第6版, 岩下 愛ほか著; 日本医学図書館協会; ISBN 978-4931222199
       
    3. 検索のポイントは、キーワード適切さその語数です。
    4.  
      語数が少ないと、ヒット数が膨大で、意図しない情報が多く混入し、語数を増やし過ぎると、その逆です。何回かの試行錯誤をしてみてください。
       
    5. 一方、PubMedにはフィルター機能があります。
    6. 検索結果画面の左側 「Show additional filters」 の下で、クリック選択で当該フィルタリングを実行してくれます。
       
    7. ある程度、適切なキーワードが絞れている場合の検索手順の例は次の通りです。
    8.  
      • 通常にキーワード検索
      • フィルター機能「Review」を選択
      • 内容が適切で最近の総説(review)を探す。複数の著者などの観点も考慮して数編を選ぶ。
      「Display Settings」の活用 「Show additional filters」の直ぐ右の同ボタン。
       ソート機能設定メニュー「Sort by」の「Pub Date」選択で、発行年(新→古)でソートされる。
       他に、1件の情報表示形式や1ページの表示件数なども設定できる。
       選択した設定は、ボタン「Apply」クリックで適用される。
       
      *原則、新しいモノほど古いモノを包含している場合が多い。
       
      *ただし世間や著者の関心により着眼が変遷し得るので、新しさのみによる判断が不十分な場合もある
       
    9. 総説を読み、それまでに得た情報をアップデートする。
    10.  
       総説内の引用論文が、分野や目的に関するマイルストーン的研究であるかもしれません。
       
       総説の著者や、引用論文の著者をたどることで、研究者やチームに関する情報もある程度は得られます。
       
    11. その上で、それらの総説よりも後発行かつ研究論文(総説ではない)について、改めて検索結果を確認します。
    12.  
      発行の日付は、少なくとも実験等の実施、執筆の日時より半〜1年程度遅れることを考慮しましょう。
       
      *上記のフィルター機能や表示設定を活用すれば、さらに効率的です。
       
      *分野における主要な研究者・チームの動向を基軸に検索結果を眺めるのもよいかも知れません。
       ただし、そこに含まれない重要、面白い論文を見落とさないように気をつけましょう。
       
      *また一般に、「優れた論文ほど多くそして永く引用される」といわれています。
       この目安として Google Scholar が活用できます。
       論文タイトルを入れ検索すると、その論文の被引用回数が表示されます。
       
      *それから"優れた研究論文"のイントロダクションに、要領よい"ミニ総説"が記されていることもあります。