・胃癌には様々な形のものがありますが、はっきりとした潰瘍やその周りの盛り上がりがなく、胃の壁が硬く、厚くなるタイプの進行胃癌を4型胃癌(スキルス胃癌)といいます。
・他のタイプの胃癌と比較して、若い方や女性に多く、腹膜への転移(
腹膜播種)を起こしやすいという特徴があります。
・腹膜播種がなく、手術で切除できた場合でも、腹膜に再発する危険が高いことが知られています。
内視鏡検査(左)やバリウム検査(中)では、胃の膨らみが悪く、胃の表面のひだが太くなっています。CT検査では胃の壁が厚くなっています(右)。※カーソルを合わせると画像が拡大されます。
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腹膜播種を抑えることが特に重要です。しかし、スキルス胃癌のための特別な治療法は確立されていないため、他のタイプの胃癌と同じように治療されています。
・既に腹膜播種がある場合は、胃の切除は行わず、化学療法を行います。
・腹膜播種がなく、腹腔洗浄細胞診陰性*の場合は、まず胃を切除し、術後に化学療法を行う方法が一般的です。
・腹膜播種がなく、腹腔洗浄細胞診陽性*の場合は、①胃を切除して術後に化学療法を行う方法、②初めに化学療法を行い、その後に胃を切除する方法、③化学療法のみを行う方法があります。
(*お腹の中を生理食塩水で洗い、回収した液を顕微鏡で調べる検査を腹腔洗浄細胞診といい、癌細胞が見付かった場合を細胞診陽性、見付からなかった場合を細胞診陰性といいます。)
抗癌剤をお腹の中に直接注入する腹腔内化学療法により腹膜播種を強力に抑えることが可能となり、スキルス胃癌の治癒につながることが期待されます。2020年7月よりスキルス胃癌に対する腹腔内化学療法の効果を確認するための治験を開始しました。
4型進行胃癌に対する術後または周術期補助化学療法としての全身・腹腔内併用化学療法と全身化学療法の無作為化比較第Ⅲ相試験
 
目的
手術後の腹膜播種の危険性が高いスキルス胃癌の患者さんを対象として、術後または術前術後に化学療法を行い、全身・腹腔内併用化学療法が標準的な全身化学療法より再発を抑える効果が高いかどうかを調べることを目的としています。
評価項目
胃癌が再発するまでの期間、生存期間、腹膜に再発するまでの期間、副作用などを評価します。
対象患者
腹膜播種や肝転移などの転移がなく、胃の切除が可能な75歳以下のスキルス胃癌の患者さんを対象としています。腹腔洗浄細胞診の結果は問いません。
試験の方法
患者さんを標準的な全身化学療法と新しい全身・腹腔内併用化学療法に無作為(ランダム)に振り分け、治療の効果と副作用を比較します。
3年間で300名の患者さんにご参加いただき、3年間経過を観察した後に結果を解析します。
 
 
・まず審査腹腔鏡を行い、腹膜播種がなかった場合にこの治験の対象となります。(審査腹腔鏡とは、全身麻酔下に腹部に穴を開け、腹腔鏡というカメラでお腹の中を観察する検査です。)
・審査腹腔鏡の最中に腹腔洗浄細胞診を実施し、細胞診陰性の場合は胃切除術を行い、取りきれた後に治療法を決定します。細胞診陽性の場合は胃切除術は行わず、治療法を決定します。
・患者さんに全身化学療法または全身・腹腔内併用化学療法のどちらを受けていただくかは無作為に決定され、患者さんも担当医も選ぶことはできません。
・腹腔洗浄細胞診陰性の場合は胃切除術 → 化学療法(21週間)、腹腔洗浄細胞診陽性の場合は化学療法(9週間)→ 胃切除術 → 化学療法(21週間)の順に治療を進めます。
・定期的にCT検査等を実施し、胃癌の再発の有無を調べます。
研究代表者:石神 浩徳(東京大学医学部附属病院 外来化学療法部)
予定期間:2020年7月~2029年6月
実施施設:全国42施設
参加人数:262名
この治験は、東京大学医学部附属病院の研究費とクラウドファンディングにより広く法人や個人から集めた寄付金により実施します。腹腔内投与に使用するパクリタキセルは日本化薬株式会社より提供されます。